表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退廃世界のパラドックス  作者: アマテル
退廃裏世界2章:いずれ来る戦士達
34/35

4.拉致

 ハスキ達に拉致され、私は試験に使われる防衛拠点こと砂上艇まで連行された。

 用件を聞くと、どうやらピアッソとアルソードの二人が私を狙っているかもしれないので、襲われる前に身柄を確保したかったらしい。

 ピアッソ達は名の通った傭兵であり、良い意味でも悪い意味でもやるべきことはやるタイプ。だから、私が狙われかねないと考えてのことだ。

 話を聞いている間も続々と受験者が集まり、説明が終わるととほぼ当時にピアッソとアルソードの二人を除く全員が集まっていた。


「で、私が巻き込まれるかもしれないと」


 私は納得したふりをする。

 本当は、ピアッソは受験者の中に潜入した試験官なのだから、私が狙われる事はない。しかし、当然それは受験者側には秘密。変に冷静な態度だと悟られ兼ねないので、慎重に行動するひつようがありそうだ。

 私の言葉に、ポニーテールの男が頭を下げながら返す。名前は確かルファンだったか。眼と頭が良いで有名な変異者であり、受験者のリーダーはこの男の様だ。


「一応運営にも掛け合うから、それまですまない」

「まぁ、しゃあないとは思うが……」


 どうしたものか、と私は悩む。

 試験官であるピアッソにもやりたい動きはあるだろう。それを注意して制限すれば、本来見てみたい受験者達の動きを誘発出来なくなる訳で、こちらとしてはデメリットしかない。

 が、ルファン達の話も判る。何より、ピアッソ達が信用できないのだ。爆弾や狂犬といった、いつ爆発するか判らない危険物。それがピアッソとアルソードの評価。

 事実、私だって彼らが試験官だから別に危険だと思っていないだけであり、その情報がなかったらパニックに成っていても不思議はない。

 遠巻きで話を聞いていたザスティーとか言う鱗の変異者が訊ねる。


「で、どうするんだ?ここで匿うか、一緒に行動するか」


 どっちも嫌なんですが、何て言葉を口に出せる筈もない。ここに居ても、受験者達の監視下に置かれても、私にやることはない。絶対に暇な時間を過ごすだけ。それは嫌だ。

 そう思っていると、私を捉えた中年――モリアが会話に参加する。


「匿ってる間、情報収集しに行ける人員が減るっていうのは痛いよね」


 この会話は利用できると思い、私はザスティーとモリアの会話に割り込む。


「言っとくが、私はチクるぞ」


 こう宣言すれば、遅かれ早かれ私は解放される。こんな窮屈な状況からはおさらばだ。

 私が捕まったせいで試験に影響が出るなんてことに成ったら、不可抗力とはいえ目覚めが悪い。立ち去るのが早いに越したことはない。


「だよね……」

「おう、もうチクチクのチクよ!」 


 最早、自分でも何を言ってるか判らないがゴリ押し有るのみ。ノリと勢いで行くしかない。


「チクチクは意味が変わってないか?」


 私は、呆れた様子のテセウスにツッコまれる。

 正直、テセウスはノアとの関係性もあって触れにくい。無視するのは不本意だが、ノーコメントを貫くしかない。誰か早く私の事を解放して欲しい。

 ルファンは悩みながら言う。


「恐らく、明日には運営側に保護してもらうなり、条件追加するなりしてくれるだろう。それまでは、戦闘配置とかは決めれないな」


 ルファンは私をヒラリと見た。

 マジでスマン、貴重な時間を消費させる様なつもりは無かったんだ。と、私は心の中で謝罪する。

 無意味に貴重な時間が流れていくのが判る。しかも、チクると公言した手前、好きに作戦会議しても秘密にしとくよなんて言えない。全部が全部から回っている。

 一同が黙り込む中、テセウスが口を開く。


「一応、調査したい所はある」

「ほう、それは何処だ?」

「昨日、永久の都に出た異形兵の遺体。多分、ノアが倒してると思うから見ておきたい」


 何の話をしているかと思っていたが、どうやら昨日ノアが言っていた異形兵を狙撃した一件の様だ。

 噂程度には広まっていると思っていたが、どうやらノアが狙撃したという事を知るのは当時医務室にいた人達と私、後は話を聞いていたギョクロだけらしく、ルファンが怪訝な面持ちで訊ねる。


「彼が現場に居たと?」

「変異者コロニーから狙撃してるのを見た。ただ、遠すぎて当たってるかは判らない」


 一同の反応を見るに、ノアがやったと聞いても半信半疑と言った具合で、納得できていないのが見て取れる。

 現場に居合わせたテセウスもノアがやったと確信を持っている感じはしない。

 それもそうだ。ノアが居た変異者コロニーから異形兵が居た永久の都は直接目視出来ない。だから、異形兵の存在に気が付けないし、目視出来ない故に射線が通っていないと思っているのだろう。がしかし、ノアは索敵能力持ちであり、得意な武器は弓。大柄な異形兵なら位置を割り出すのはそれほど難しくないだろうし、弓矢は銃のような直線的な弾道ではなく弧を描く弾道、角度を調整すれば見えずとも当てれる。ノア以外には出来ない芸当だ。

 私は自信満々に言う。


「ノアが外す訳無いだろ。リュウゲンと同じで気配読めるしさ。異形兵ぶち抜いてやったぜ!!とか自分で言ってたんだぞ」

「「え?」」


 私がそう言うと一斉に全員の照準が狙いを定めるのが判った。

 またやってしまった。この流れ、ギョクロの前でやったばかりだ。調査や推理で得た情報ならまだ確定ではないが、私が言っては確定情報になってしまう。こう言うのが嫌だから私はここから立ち去りたかったのに。

 私は慌てて視線をを反らす。


「あ、やば……」

「やばいのは彼なんだが」


 ガンダスが変異者コロニーと永久の都を交互に見る。

 そう言えば、コイツは一度ノアと闘っていた。それも近距離戦であり、彼からすれば遠距離戦も出来るのかという話にはなる。


「どんな技量だ」


 一同が困惑する。

 これはこれで不味い。私が関わったことで全員の士気が下がるのは話が違う。このまま全員が黙り込まれては困ると思い、私は取り敢えず話に乗る。


「アレか?えっと、言うはヤスシ行うは……タケシ?」


 あ、絶対言い間違えた。そんな確信があるが、何が正しいのか判らない。答えが喉元まで出掛けている分、歯痒さを覚える。時間さえ掛ければ答えが判る気がするが、集中を集めている手前、上手く頭が回らない。

 

「タケシ君可愛そうだね」

「ヤスシも口じゃなくて手を動かせ」


 モリアとザスティーが悪魔のような笑みを浮かべて立て続けにツッコミを入れる。空気を和ませようとしたのはたしかだが、こんなポンは狙っていない。

 私が身悶えをしていると、ユーが私の肩を叩く。


「ちなみに正しくは、言うは易し行うは難し」


 タケシではなく難しが正解だった。余りにもタケシの主張が強すぎて、難しが完全に息を潜めてしまった。せめてタケシではなくタカシだったなら、順番を間違えたと言う言い訳も効いのだが、タケシでは無理だ。何だタケシって。何処の誰だ。

 私は答えを出せなかったのを悔いり、床を叩く。

 それを見ていたカトウは、私の顔を覗き込んだ。


「ヴィヴィちゃんや、ノアは他に何か言っていたかい?」

「ナニモイッテナイヨ」


 このまま追求されたら、ピアッソやルバガンテが試験官側である事までぽろりしてしまいそうだ。頼む、流石にこれ以上は試験に関わるから止めてくれ。

 そう思っていると、モリアが苦笑いを浮かべながら言う。


「まぁ裏が取れた事だし、調査はしていいんじゃない?」

「そうだなぁ……。ヴィヴィの護衛と遺体の調査、二手に分かれるか」


 やった。これで全方位からの集中砲火は止む。モリアオジサンや、これで私を拉致したのは不問にしてやろう。

 そんなことを考えていると、ルファンの言葉に対してルバガンテが手を挙げていた。


「なら、私から提案が」


 ルバガンテの提案は、遺体を調査を名指しするものだった。指定されたメンバーは俺、ハスキ、フィオルト、ルバガンテの四名。

 ノア関連の面々を連れて外に行ってくれるのは個人的に動きやすい。ルバガンテが狙ってこの人選をしたかは知らないがナイスだ。


「何でこの分かれ方?」

「分析力のある異星人、狙撃を見ていた者、その二人と意思疎通が取りやすい仲間、実際に戦闘した私。彼女の前で情報精査出来ない以上、現場で考察や推理をするならこの面子だろう」


 いっそのこと全員で調査に向かっても良いぞ、とは流石に言えない。まぁ、その三人がここから消えるのなら及第点と言えるだろう。


「こちらとしては異議なし」


 フィオルトがそう答えると、調査組の四人は足早に防衛拠点から去っていき、少し間を置いて運営と連絡するためにカトウが外に出る。


「ふぅ、行ったか……」


 ザスティーが額を拭い安堵する。

 ザスティーとハスキ達は同じ受験者という仲間同士の筈だ。本来、そんなに緊張するような関係性ではない。

 どうやら、彼の反応が気になったのは私だけでは無いらしいく、モリアが質問する。

 

「どうかしたのかな?」

「いや、あの三人組……妙に怪しいというか。裏があるよな。それも、普通じゃなさそうだ」


 どうやら、ハスキ達が普通ではないと感じ取っている様だ。私は、ノアから説明されるまで違和感すら覚えなかったが、判るヤツには判るらしい。

 戦闘職、つまるところ命の危険と隣り合わせな仕事を生業としているだけあって、流石にアンテナは鋭いらしい。


「悪い人達じゃなさそうだしさ、詮索はやめとこ?」


 ユーが三人を庇うようにそう言う。

 私は疑問に思った。

 ユーはルバガンテの弟子だと聞く。そして、ルバガンテは改名する前のノアに逢っているので、ノアとテセウスの関係は知っているか、あるいは気が付いている。なので、ルバガンテから二人の関係を聞いていても不思議はない。だが、それはテセウス関連についてだけであり、ハスキやフィオルトについては知らない筈だ。

 ザスティーの発言に対し、ユーは三人に裏がある事自体は否定していない。恐らく、彼女はハスキが異星人だと気が付いている。それも、高貴な存在だと。気付いた上で、それ以上踏み込むなと遠巻きに言っているのだ。

 そうとは知らずか、ザスティーの追求は止まらない。


「面倒事を持って来られても困る。ルファン、ユー、お前らは何か訳知り顔だな」


 ザスティーは疑うような視線を二人に向ける。

 するとユーとルファンは一度見交わすとあっけらかんと応える。


「まぁね」

「一応言っておくと、ちょっかいは出さない方がいいよ」

「だろうな」


 ルファンの忠告はもっともだ。

 異星人は、この星を退廃させた張本人と言っても過言ではない。そんな異星人と好き好んで関係を持つ者は少ない。異星人と言うだけで一定のヘイトを買うのだ。その身内や友人、仲間だと言うだけでも闇討ちやら村八分のリスクになりえる。

 実際、今回のキャラバンの目的地とされている都市は異星人が統治していると言う噂だが、そんな連中の手を借りたくはないと貿易拒否や敵対的姿勢を見せるコロニーは珍しくない。

 私はちょっかいをかける。


「ギスギスか?」

「なに。あの異星人の装備、傷んではいるが装備自体は新しい。普通の異星人じゃないのは明白。それとつるんでるってことは、あの二人も何されてるか判らないって話だ。案外、異星人と人間の混血とか?」


 フィオルトの装備から割り出せるのか、と私はザスティーの考察に感心した。

 考察の内容自体はまるで二人がフィオルトの付き人みたいで違和感があるが、フィオルトが普通の異星人とは違うと言う点は正しい、それに、クローンのテセウスはさておき、異星人から人間になっているハスキに関しては答えだけ見れば間違いとは言い切れない。

 算数や何かのテストで、途中式は間違ってるが回答は合っているのに近い印象を受ける。


「モリアとガンダスは?気にならんのか?」


 ザスティーが二人に聞くとモリアは肩をすくめ、ガンダスは座禅を組んで微動だにしない。


「そう言うのには突っ込まないのが長生きの秘訣だよ」

「今気を練っている最中だ。話しかけるな」


 ガンダス、お前嘘だろ。という言葉を私は飲み込む。こんなの意志疎通出来るだけの変異獣と何ら変わらない。一応、話の内容はメンバーに関わる大切なものだ。私が受験者側なら、ちゃんと話は聞く。

 私は困惑するが、他の皆は彼の扱いと言うか性格に慣れているのか、何の反応を示さずに会話を続けている。

 不意に外で連絡を取っていたカトウが戻ってくる。


「連絡取れたよ。連れてきて欲しいって」 

「了解」


 軽い受け答えを済ませると、一同は話題を切り替え私の方を見る。戦闘職が一斉にこっちを向くは、流石にビビる。


「で、どうする?全員で連れてく?」


 全員に囲まれて運ばれる私の身にもなって欲しいものだ。まるで私が迷子の子供みたいではないか。それに、頭脳派かつ分析力に秀でていると噂されるルファンと長い間一緒に居たくなかった。ルバガンテのヤツ、ついでにルファンも連れてって欲しかった。

 私が視線を向けていると、ルファンは悩みながら仲間達を見比べる。


「そうだな……」


 悩む彼をよそに、私はカトウとユーの間に移動する。

 正直な話、ここに居る連中に面識はない以上、同性で行動した方が気兼ねが無くて色々と楽だ。

 それにユーは、ハスキ達のについて知っていて黙っていそうな雰囲気がある。何かしら私がミスして彼らの情報をポロリしたとて、知らぬ存ぜぬを突き通し追及しないだろう。

 一方カトウは、永久の都で産まれたクローン。コロニーの外についての知識は浅いので、私の言動に疑問を覚えたとしてもユーが反応しなければ、そんなものなのかと思い自己完結しそうだ。


「悩むくらいなら、女の子三人で行っても良いぞ」


 私の言葉にザスティーは眉をひそめる。

 

「……子?」


 はい、それライン越え。と、私は心の中で呟く。

 ザスティーの一言に、私達はムッとする。ザスティーだってオジサン呼びされたらムカッとするだろうに、女子に対してそこまで気が回らないとは、浅はかなり。

 私達の反応を見て、ザスティーは動揺するがもう手遅れだ。他の男性陣はやれやれと眺めている。


「あ、いや……!」


 弁明するまもなく、ユーが刀の鞘でザスティーの頭を叩く。流石に幾らか手加減はしているだろうが、身体能力に秀でた変異者でも反応しきれない速度での一本。無傷で済む筈もなく、ザスティーは頭を抑えて転がり回る。


「まぁ、そうなるよな」


 私は鼻で笑っていると近くから視線を感じた。反射的に振り返る。そこでは、ルファンが目を丸くして私の顔を見つめていた。

 

「ヴィヴィ。君、今……」


 暴力を見て鼻で笑ったのが気になった、と言うわけではなさそうだ。とすると、私の何かに引っ掛かったのだろう。何か凡ミスをしたとは思えない。

 ルファンは、頭が良い変異者として知られている。頭の回転の速さは下手したらリュウウゲンよりも上。

 

「ん?どうかしたか?」

「うーん……」


 私が訊ねるとルファンは口に拳をあて、酷く悩みだした。なにか悟られたと言うのは私の杞憂だったようだが、変に受け答えをして情報を漏らしてしまうというのは、彼相手には十分ありえる。速やかに退散するのが無難だろう。

 

「んじゃ、もう行って良いのか?どうなんだ?」


 私はルファンの思考を中断させるため、意図的に急かす。すると、彼はハッとなって考え込むのを止めた。

 

「あぁ、すまない。護衛のメンバーは好きに選んでどうぞ」

「んじゃ、護衛は女の子三人にすっか!」


 私がそう言うとユーは首を傾げ、カトウは怪訝な面持ちをした。男性陣を見てみれば、ルファンは目をパチクリとさせ、モリアは笑いをこらえている。

 私が頭に疑問符を浮かべていると、カトウは私に目線を合わせる為にしゃがみながら言う。

 

「ヴィヴィ?」

「ん、何だ?」

「護衛三人って誰よ」


 そんなの決まってる。目の前のカトウにユー、これで二人。それに私を合わせて三人。何度数えても間違いない。カトウにユー、私。私の護衛はこれで三人。

 私が指差し指折り数えていると、瞑想しているガンダスと、一周回って驚いているルファンを除き全員がまだ気付かないのかとでも言いたげに笑いを堪えている。

 全くもって失礼な話だ。私が二人を選んだのだから、間違いない。

 

「……あれぇ?」


 私はようやく気が付く。私の護衛なら、私自身をカウントするのはどう考えてもおかしい。何で私は自分をカウントしていたのだろう。

 しかも、護衛は女の子三人と口にしてしまった手前、誤魔化すことも出来ない。

 ルファンは苦笑いを浮かべている。

 

「ヴィヴィ、まさか……」

「そんな訳……ねぇ?茶目っ気よぉ」

 

 ルファンからしたら普通はあり得ないミスなのだろう。それか、変異で頭がおかしくなったと思われたか。

 ルファンに言いたい。変異してなくても私はこうなんですと。



 ・・・



 その後、私はユーとカトウに連れられ瓦商会の試験用テントに向かった。

 道中では当然、ピアッソとアルソードの二人に襲われる事もなく、それどころか野生の変異獣にすら遇わなかった。試験中、意図せず変異獣が乱入するのを避けるために裏で処理しているからだろう。

 なので、護送という名前から連想される様な緊張感はなく、雰囲気は三人で肝試しでもするようなものだった。

 テントの前にはノアが待ち構えている。暗黙の了解なのか、流石にこれから闘う人と接触するのは困るのか、彼を見てユーとカトウは足を止めた。送るのはここまでと言うことだろう。


「ありがとよ。お陰で助かった」

「いやいや、巻き込んだのはこっちだから」

 

 軽い会釈をして判れると、私は足早にノアの元に駆け寄る。

 

「迎えにきてくれれば良かったのに」

「俺が行ったら、警戒して当分作戦会議どころじゃなくなるからね」


 それはに関しては今更なのでは、とも思ったが口にはしなかった。私が居ただけで作戦会議が行えなかったのだから、別にノアが居ても同じことの様な気はする。

 しかし、改めて考えてみればノアが防衛拠点に接触するのが不味いと言うのも何となく判る。これから攻める人がちょっと見物しますよ、なんて事を言い出したらちょっと待てよ、となる。

 私はそう言えばと思い、ノアを見た。

 今回の試験官を担う報酬が気になったからだ。

 

「で、何か受け取ったのか?」

「色々とね」


 ノアがそう言いながらテントの中に入るので、私もその後を追う。見ると、布に包まれた物資の中一つだけ妙に目立つものがあった。

 パッと見は矢筒の様に見えたが、どうやらそう言うわけではない。複数の銃身を持つ重火器であり、その銃身は骨で形成されている。ガトリングと言う物をモチーフにした武葬の様だ。


「そのガトリングがそうか?」

「これ以外もあるんだけど、一番判りやすそうだから試運転してた」


 ノアは触手を絡める様にしてガトリングを持ち上げる。四足獣が重火器を背負ったシルエット。何だか昔見たことがある様な気がするが、口にするのを思い止まる。


「それ、どんな感じ?」

「見せた方が早いかな。また試射しても?」

「どうぞ」


 ノアは、その場に居た瓦商会のスピンドラから了承を得るとすぐ近くにある空き地に移動する。空き地にはスクラップで作られた的やらマネキンが設置されていた。

 ノアはガトリングの照準を鉄壁の的に向ける。武葬は神経を接続して使う武器だ。だからだろう、私にはノアが引き金を引く様な動作は見えなかった。突然的が凹み、砕け、削ぎ落とされていく。銃を放った時に発する火花は無く、発射音も通常の銃に比べると小さい。

 ノアは撃ち終えるとガトリングをゆっくりと下ろした。


「こんな感じで、これの中で精製した骨とか補食した石を射出できる。射撃性能はガトリングと同じで、中距離の制圧が得意。ただ、補食能力はやろうと思えば近接戦闘でも使えるし、酸素ボンベの代わりにもなるから見た目以上に万能」


 なるほど、と私は感心しながら説明を聞いた。

 強力な変異獣ともなれば、銃弾を回避出来るものも少なくない。が、弾幕を無傷で突破出来る個体はかなり限られる。まず腐らない性能。

 弱点は取り回しの悪さだが、ノアなら別に苦にもならない。一人で矢の雨を降らせるノアなら、これを使わずに弾幕を張れる気もするが、本人が喜んでいるなら私から言うことはなさそうだ。

 取り敢えず、性能としては武葬の中でも上位に位置する。


「めちゃくちゃ強くないか?」


 私はガトリングをつついてみる。

 近くで見ると、思いの外生き物っぽい。銃身の根本には筋繊維のようなものが見えるし、かすかに全体が膨張と収縮を繰り返している。まるで呼吸でもしているみたいだ。

 ノアは子供からオモチャを取り上げる見たいにガトリングをひょいと持ち上げると、自分の背中に乗せてテントに戻る。


「結構気に入ったよ」


 ノアは満足げにガトリングを立て掛ける。


「名前は?オリエナみたいにあるんだろ?」

「ベルセルクだって」

「強そうな名前なこと」


 名は体を表すとはこの事だろう。名前が既に強そうだ。私のフワフワモコモコとした識別名とは雲泥の差。こう言う厳つい名前を私の方まで回して欲しい。

 ノアがベルセルクをしまっている最中、捲れた布に何やら蔦に覆われた箱が見えた。その他にも、ベルセルクとは別のガトリングを初めとした重火器がある。

 ノアのために用意されたであろう装備なのだから当然ではあるが、拳銃は愚かアサルトライフルも無いのが脳筋感があるチョイスだ。

 私は蔦に覆われた箱を指差す。ここにあるのが武器と言うことは、この箱は武葬の類いだろう。


「こっちにあるのは?」

「エーデルワイスっていう武葬。その子は、ちょっと癖があるのと狙った場所に撃つのが難しいから、一旦様子見で置いてある。それ以外の武器は普通の武器だよ。どれ使おうか考えてる」


 何でベルセルクがあるのに普通のガトリングがあるんだろうと思ったが、理由はすぐに判った。エーデルワイスの様に簡単に扱えなかった時の為に通常武器が用意されている。

 そのせいか、用意されている武器は二つずつとなっている。つまり、ガトリングを両肩に二門構えることも可能。全部装備すれば、最終決戦仕様に出来る訳だ。


「なぁ、全部装備するのは無しか?」

「……本気?」


 ノアが眼を丸くする。

 リュウゲンだって戦闘時にはフルアーマー感ある見た目になるんだ。ノアがフルアーマーになったって構わない。


「フルアーマーノア。アリだと思うよ」

「フルアーマーって人間に使う言葉なんだ……」


 ノアは、呆れた様子でそう言いながら顔を左右に振った。



 ・・・



 その日の夜。私とノアは夜に試験区域の探索を始めた。肌寒くはあるが、ノアの背に乗っていれば何ら問題はない。

 私はノアの触手を三つ編みにして遊び、それにくるまる。何て快適なんだ、この背中は。


「それで、何でわざわざ夜に散歩してんだ?」

「受験者側は試験まで体力使いたくないだろうからね。夜は余り動かないとみた」


 夜は変異獣の討伐部隊は派遣されない。そのため、変異獣にであった際に助けを求めても救援は来ず、日中に活動するより体力を消費する。試験前に頑張って、本番で体力が残ってなかったら本末転倒だ。


「だからって……」


 私が不服だと伝えようとするも、ノアは遠くを見ている。


「どした?」

「俺達が通った跡で突っ立ってる人が……。気配からして多分ピアッソだ。一回離脱するよ」


 そう言うと、ノアは雪原を疾走してコロニーから距離を取る。コロニー周辺は変異獣が狩られ追跡しやすいから、離れる事でピアッソが追跡してきた場合、彼が変異獣と鉢合わせる様に仕向けているのだろう。

 ピアッソの武器は電気系統。光を発する手前、夜間では目立ちやすく、光に誘われて新たに変異獣が近付いて来やすい。今はリスクを負う状況でもないので、これで追跡は止めるだろう。

 それから暫く散策していると、不意にノアは足を止める。


「ノア?」 

「降りて」

「え~!もうちょっとくらいヌクヌク――」

「早く!!」

 

 鬼気迫るノアの言葉により、私は直ぐ様彼の背から飛び降りた。私と入れ替わる様に、ノアは背中の触手を地面に突き刺し、アンカーのようにして背筋を伸ばす。四足獣型の骨格を持つノアは立つのが苦手なので、それを補助する為のものだ。

 ノアは、直立して弓を構えると限界まで引き絞り、闇夜に狙いを定める。視線の先を見ても、私には何かが居る様には見えない。あるものと言えば、月明かりに照らされた林くらいだ。

 スゥゥと言う鋭く息を吸う音がしたと思うと、ノアは矢を放ち、暫く彼方を見つめていた。そして、独りでに頷き、触手を背中に納めて姿勢を戻す。


「間に合った……」

「何?」


 私は、ノアの顔を覗く。その表情は落ち着いており、安心したみたいだった。

 

「もう乗っていいよ。驚かせてごめん」

「あ、うん」


 ノアの背中に乗ると、私はいつもより小さくなって座った。ノアがさっきみたいに突然臨戦態勢になるかもしれないと思いながら、私は触手を抱える。

 そして、ノアは矢を放った方向に跳躍した。

 強靭なバネを持つノアが林に到着するのに時間は、さして掛からなかった。

 先ず、目を引いたのは赤いクレーターだった。地面が抉れ、肉が飛び散り、凹みの中心には血の水溜まりがある。クレーター内は雪が吹き飛んでおり、土が見える。この時代には、物事を観察する際に真っ先に見るポイントがある。それは、雪が積もってるか否か。動物の死体や何かを見つけた時、その死体に積もっている雪の量で何分経過したのか見て取れる訳だ。今回で言えば、雪の下の土が見えているので、小一時間も経っていない。

 大方、ノアが放った矢でこうなったのだろう。

 ノアは現場に到着すると、物音を立てない様に慎重な足取りで歩む。その先に居たのは、一人の女性だった。

 暗がりで顔まではよく判らないが、白髪なのは月明かりで判る。雪や血、泥なんかで身体が斑模様みたいになって汚れていて、衣服はぼろぼろ。漂う汗の香りからして、相当長い距離を移動してきたのだろう。


「大丈夫?」


 ノアが触手を差し出すと、彼女はノアの顔と手を交互に見つめた。

 

「……良く、私を見つけましたね」


 これ、不味いやつでは。このままだとラブコメ始まるぞ。と思うが、目の前の女性は体力が限界と言った様子。変に中断させ、それが最期の言葉になったら目覚めが悪い。

 

「助けを呼ばれた気がしたから」


 ノアもノアで何を言い出すんだ。私は心の中で叫ぶ。実際にノアには助けを呼ぶ彼女が判ったのだろうが、こんなのもうOKと言ってる様にしか聞こえない。

 

「一目惚れ、というやつでしょうか……」


 この女、何を言い出すんだ。と思うまもなく、彼女は言葉を紡ぐ。


「この生命、この心。私の持つあらゆるものを、忠誠と共にアナタに捧げます」


 彼女は、ノアが差し出した触手を手に取ると、そっと口付けをした。予想外の行動に、私は思わず声を張り上げる。


「その誓い、ちょっと待った!」


 人の男に何をしてるんだ。そう思いながら、私は一気呵成にノアの背から飛び出す。それと同時に、彼女はノアに身体を預けた。

 軽く身体を揺すっても反応はない。呼吸をしているので死んでいる訳ではなさそうだ。


「気を失ったみたい」

「言い逃げじゃん……」


 私は、ため息を混じらせそう言うと、彼女の顔にライトを当てた。雪のような白髪に整った顔立ち。きめ細やかな肌。変異対策のマスクはしていない。頭髪も染めている感じはしない。

 彼女を見て、私の脳裏にはハスキの姿が過る。

 顔立ちがそっくりとかではない。ただ、漠然と似た気配を感じる。全く顔立ちが異なるアジア人の写真を見せられ、理由を言語化こそ出来ないままが、写真の人物が日本人なのか中国人なのか韓国人なのか判るように、彼女の顔を見た瞬間理解する。


「なぁ、この女……」

「あぁ。間違いない」


 私が結論を言う前に、ノアは同意する。

 ハスキと長い間共に活動していたノアの判断なら間違いはない。

 

「「異星人だ」」

 ルファンが試験官側の受験者がいると気が付いたタイミングについて


 ルファンは、この回のヴィヴィとの会話で試験に監視役が居ることを把握し、その人物まで的中させている。(具体的に言うと、「ヴィヴィ、君は今……」の直後に閃いている)

 先ず、ルファンが「この中に監視役がいるのでは?」と思った切っ掛けはヴィヴィの反応。ヴィヴィはもしかしたらピアッソ達に狙われるかも、という話の元で連れてこられた。

 ピアッソはやれることは何でもやる。つまり、ヴィヴィを誘拐する可能性は大いにある。が、ヴィヴィは試験運営のところまで連れていく面々について「女の子三人でも(・・)良い」と発言していた。戦闘経験や戦闘力ではなく、同じ女性という人選。この時、ルファンはヴィヴィがピアッソの事を警戒していないと気が付く。

 ヴィヴィはノアの恋人、試験の内容を知っていても不思議ではない。その為、ヴィヴィはピアッソが襲ってこない事を知っていたと推理。となると、自然とピアッソは試験官側と繋がっているということになる。

 この時、ルファンの頭には別の問題が浮かぶ。

 ピアッソは、受験者として今回の試験に参加した。だが、そのピアッソは孤立している。普通、こう言った試験では受験者達の様子を内部から伺う人を入れるのが良くある手であるが、ピアッソはそれをしなかった。何故か。

 その疑問は、すぐに解消される。

 ピアッソとは別に、監視役がこちら側にいる。そう考えた瞬間、容疑者は一人に絞られた。

 ルバガンテである。

 今回、受験者達は数度二手に別れた。その際、ルバガンテとユーはそれに合わせて行動し、両方の動きを確認出来る状況を作っている。(例:ノアの情報捜索ではユーが情報収集組に飛び入り参加。異形兵の遺体調査の班分けはルバガンテ主導)

 他のメンバーは面識がある人が居ないか、あるいは共に行動していて別行動組の動向を調べることが出来ない。

 そんな中、ルバガンテはユーと仲が良く、裏で情報共有していると予測出来る。ユーの参加理由はルバガンテ切っ掛けであり、ルバガンテが参加しなければユーも参加しなかった。

 なので、二人の内監視役を勤めるならルバガンテと推理した。

 余談だが、監視役を当てた後に「うーん……」と唸っていたのは、わざと防衛拠点を空けた方がピアッソが動きやすいので試験運営的にはそっちの方が助かるのでは?と悩んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ