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退廃世界のパラドックス  作者: アマテル
退廃世界2章∶あくる日の戦士達
24/35

6.試験前夜

 俺達は、射撃演習所での一件を終えると変異者コロニーの一角に移動した。

 防衛地点に戻らなかったのは、ノアが見張っていることを懸念しての事だ。


「それで、ノアが使いそうな狙撃地点は何処?」


 ユーの質問に、ルファンは地図を取り出す。

 地図と言っても正確な代物ではなく、大雑把に街の位置と周辺施設をまとめただけのメモに近かった。

 聞く話によると、書店や授業、スマホにある様な正確な寸法の地図は基本的に手に入らないらしい。

 というのも、変異獣の中にはまるでジャマーの様に通信を阻害したり、逆に電気機器や電波に寄ってくる個体が居るため、測量が難航しているらしい。

 ならば上空から見れば良いという話なのだが、それをすると厄介な変異獣に見つかるリスクがあるとのこと。実際、飛行能力のある変異者もコロニー周辺くらいでしか飛ばない様だ。

 なので、今正確な地図を持っているのは異星人関連のみ。所持している者は数少ない。


「一つ目は林。木々に覆われていて、身を隠すのにもってこいだ。二つ目は、その近くにある変異獣の遺体山。昔、リュウゲンと戦闘した大型の変異獣の遺体で、全身を鉱山のような甲殻で覆っていたせいか、何年も前のものだが今も残っている」


 二番目に説明されたのは、体高六十メートル近い大怪獣クラスの遺体らしい。そんなモノが闊歩していたら、地形なんて容易に変わってしまうだろう。


「三つ目は廃墟。たまに旅人が居るが、今は誰も居なかった。四つ目は土砂の瓦礫。大きな岩が点在していて、最低限身を隠せる。それに、浮石があるから接近してきた奴を音で察知出来る」


 浮石とは、不安定な状態で地面に落ちている石の事だ。バランスが悪いので人が歩いた際にはコロコロと転がることもあるし、一目見て判らない時には天然のトラップみたいに足元を掬われる。


「五つ目は高原。変異者コロニーの近くにあって、遮蔽は無いが、高低差の影響で上から一方的に撃てる。確か、ノアも以前訪れていたらしい。六つ目は蛇の洞窟。ここの周りには、この前討伐された異形兵のような大蛇が居る。それが通った縦穴で、地下で繋がってるから好きな穴から出入り可能。内部は迷路みたいに成っているが、索敵出来るノアなら問題はないだろう」


 高原は有名なスポットらしく、リュウゲン達が永久の都を襲撃した際、見物人達が陣取っていたのがその場所だった。

 辺りを一望出来る場所は少ない。可能性としては大いにある。


「最後、七つ目はデブリ地帯。宇宙そらから振ってきた宇宙船の破片の捨場。即席武器の調達にも使える素材もある。戦闘が長引けば、ここに来るだろう」


 デブリとはいえ、異星人由来の素材が手に入る場所は限られている。宇宙船の素材ならば、人間の物より性能も保証されている様なものだ。鉄板でも即席のナイフには十分なるし、棒状の素材なら矢の材料に成る。

 武器を補充する為に一々コロニーへ足を運んだのでは、相手を見失いかねない。となると、コチラを監視しながら武器の補充が出来る場所は要注意だ。


「綺麗に東西南北囲まれてるね」


 地図を眺めながらカトウがそういう。

 たしかに狙撃地点は、北から時計回りに林、高原、遺体山、土砂の瓦礫、蛇の洞窟、デブリ地帯、廃墟という形で、拠点をぐるりと一周するように配置されている。

 拠点との距離にばらつきがあるため、包囲網とは言わないが、何処かを注視すれば他がお留守になる様な位置関係だ。


「故意にこの場を試験場にしているだろう。以前、ここに砂上艇なんて無かった」

「この砂上艇は、試験の為にこの地点に移動させたんだろうね」


 ルファンの言葉にモリアが頷いて言った。

 立地的に、あたりにも防衛側が不利過ぎる試験だ。

 そもそも、こっちの場所だけ一方的に相手に割れているのがフェアじゃない。


「これ程の逆境くらい覆せという意味か」


 ガンダスがそう言う。

 実際、相手の攻撃を耐えるというシュチエーション状、完全にフェアというのは現実的ではない。ということなのだろう。

 カトウが手を挙げる。


「試験開始場所って、各々好きな場所から初めて良いんだっけ?」

「ああ。ヴィヴィを渡す際に確認はした。極端な話、ノアを囲んだ状態で開始しても良いとのことだ」


 パッと見千手観音よりも手が多い彼を包囲して意味が有るのかは謎だ。死角なんてないだろう。

 とはいえ、彼を視認出来る位置に着くのは合理的だ。

 俺は提案する。


「なら、気になる狙撃地点に索敵部隊を前もって配置するのは?」


 索敵部隊は二ペア、合計で四人。全員バラけさせるなら四箇所、ペア毎に別れたとしてと二箇所は潰せる。

 警戒すべき狙撃地点は七箇所なので、それが減るのは防衛側に取って有利な情報だ。

 俺の言葉に、ルファンは悩みながら応える。


「賭けではある。大抵の狙撃地点は高所、バレたら一発でアウト。それに、防衛拠点から支援することも出来ない」

「ただ、取られたくない場所を抑えておけるのはメリットだね」


 ハスキの言葉に、ルファンは静かに頷いた。

 メリットとデメリットの両方があるからルファンは悩んでいるのだろう。

 今回の試験は三日。長期間の試験で開幕一人か二人脱落するのは後々の行動力が低下するし、リスク分散等も出来なくなる。

 リーダーである彼からすれば、開幕と同時に持ち味も活かせずに脱落する可能性があるのが気がかりなのだろう。

 それに、試験の展開次第では三日間狙撃地点から動けなくなるかも知れない。

 雪による変異は試験だろうと実戦だろうと変わらない。なので、確かに命を張る必要のない試験でそこまで賭けるかと言われれば疑問だ。しかし、それ故に相手の考えから抜け落ち易い作戦でもある。

 ルファンが全員に訊ねる。


「気になる地点はあるか?」

「二つ目に出てきた変異獣の遺体は、甲殻とか骨とか採取出来そうな状態か?」


 質問したのはフィオルトだった。

 武器に成り得る材料を調達する観点からの言葉だろう。


「それが困難だから、現在も残っている訳だが……。ノアが出来ないかは不明だ。確かに、素材を採取出来ればデブリに足を運ぶ必要がないのか」


 現状、武器及びその材料を調達出来るのは三箇所。デブリ地帯、永久の都、変異者コロニーだ。もし、そこに遺体山が加われば四箇所になる。

 開始から索敵部隊に居座らせるなら、その四箇所が妥当だろう。


「俺が思うに、高原は別に無視して良さそうだ」


 ザスティーがそう言い出し、一同が彼の方を向いた。


「というと?」

「試験中、試験官のテントを建設する場所がそこなんだと。他の見物人も集まりつつあるし、屋台の準備をしている奴も居る。何て言うか、暗黙の了解でセーフエリアになりそうな雰囲気がある」


 なるほど、と俺は頷いた。

 実際、運動会や何かだと運営用のテントが広がっているものだし、そういった施設を巻き込む事は基本的にバッドマナーだ。


「飯の予約したし、お前らもどうだ?」


 ザスティーの提案に、俺を含めた全員が顔を見合わせる。表情から、皆が同じ考えをしているのが判った。


「辺りを一望出来るし、それはアリだね」


 ユーの言葉にガンダスが続く。


「それに、これから三日は携帯食確定な訳だ、しっかりとした食事を取り入れたい所ではある」


 最も、決定権を持つのはリーダーであるルファンだ。

 ルファンは皆の表情を見ると、少し考えた後に結論を出す。


「そうだな、特に反対意見も無いし問題無いだろう」



 ・・・



 高原に赴くと、そこはまるでお祭りやイベントの様だった。

 出店の他にも簡易的な机や椅子、テントなんかが並んでいて、まるで学校や地域の行事みたいな印象を受ける。

 この景色を見て取り乱している様な人が居ないあたり、試験を見物することは今回だけではないのだろう。


「出店、結構あるね」

「近隣でも彼の実力は一二を争う。その彼が戦うのだから、興味があるのだろう」


 ユーとルファンの会話を他所に、ルバガンテは浮かない表情だ。


「俺達の防衛力を見る為の試験なんだが……」


 見世物にされるのが嫌なのだろう。その気持ちは判る。とはいえ、各々の戦闘力をアピール出来るので、変な小者に絡まれなくなるというメリットも理解できる。

 俺達はザスティーの案内に従い席に付いた。

 すると、先に居た見物人がコチラを見る。


「お?もしかして、君達がノアと戦う人達?」

「はい、そうですが……」


 いきなり声を掛けられたので、ハスキも心なしか困惑した様子だ。そんな彼女の気も気にせず、見物人達は声を張り上げる。


「応援してるぞ!頑張って!!」

「負けんじゃねぇぞ!!」

「これ、ウチの商品だ。好きに使いな」


 声援の中に紛れ、俺達の居る席に武器が放り込まれる。布に包まれた刀だった。

 刀は白粉を塗られた様な白一色。恐らく、雪による視認性を考慮してのものだろう。


「え、良いの?」


 俺が訊ねると、武器を投げ込んだ変異者は出店を指差した。あれが彼の出店なのだろう。


「ノアに一太刀浴びせたってなれば、商品に箔が付くからな!」

「そういう……」


 つまり、商品ディスプレイの一貫に試験を利用したいのだ。こういうところはキッチリしているのが、如何にも現代を生きる商人らしい。

 その後も、何人か同様の意図を持つ商人が物資を渡しに来た。

 自分の利益を鑑みての行動なのだろうが、どういう形であれ支援されるのは嬉しい限りだ。

 ザスティーが喜々として語る。


「思わぬ臨時収入だな」

「刀が二振りに銃が四つ、携帯バリケードが八つ。特にタレット二機は大きいな」


 物資を確認するルファンの傍らから、刀を一振り拝借して実際に手にとって見る、

 最初見た時は白い日本刀なのかと思っていたが、そうではなかった。刀身や柄には、青い蛍光色の筋が引かれている。刀に何か機械が組み込まれているのだ。

 刀に詳しいルバガンテに聞くと、電磁障壁を精製する機械が組み込まれているらしく、電磁障壁の種類を切り替える事で物が切れない模擬戦仕様と、物を斬りやすくした実戦仕様に切り替える事が出来るらしい。

 また、電磁障壁に馴染めないなら普通に斬る事も出来るし、刃に熱を伝える事で物を焼き切る事も出来るとのこと。タダで手に入るにしては、余りにもオーバースペックに思えたが、逆を言えば近接武器はコレくらいの性能が無いと役にたたないのだろう。


「通信機の貸出までしてくれるなんてね」


 モリアは、机に置かれたイヤホン型の通信機を拾い上げた。ここに居る大半が何らかの通信端末を所持こそしているが、小型の通信機は割と貴重なので所持している人は少ない。

 ちなみに、この通信機に関してはあくまで貸し出しであり試験後に返却、状態と本人の意思によっては買い取りと成っている。

 試験中ずっと装着している装備なのだから、自然と愛着も湧くだろう。商売上手とはこの事だ。


「理由がどうであれ、応援してくれるのは助かるね」


 獲得した物資の確認も終え、俺達はザスティーが注文していた軽食をつまみながら辺りを見渡す。

 ここから確認出来る狙撃地点は、林と遺体山、それと遠くに小さく見える廃墟。他は離れていて目視出来なかったり、土砂の地帯は吹きさらしになっている影響で地面の雪が舞い上がっていて良く見えない。

 防衛拠点に一番近いのは廃墟だろうか。ただ、その廃墟も拠点とは少なくとも二キロ程は離れている。

 俺達がどの場所を警戒すべきか話していると、遠くから歓声に似た声が響いた。


「おい、ノアが来たぞ!」


 その言葉に、全員びくッと背筋を伸ばした。

 鉢合わせるのは計算外だったのだが、改めて考えれば彼がここに来ても不思議はない。

 何せ、ノアの恋人は彼を最強と疑わないヴィヴィなのだ。ノア本人がここに来る性格で無くとも、ヴィヴィが誘う可能性はあった。

 俺達は、ノア達に見つからない様に顔をそむけながら聞き耳を立てる。


「へぇ。装備を新調したって聞いたが、マジだったんだな」


 俺達はノアの武装を見て硬直した。

 感情が表に出ることがあまりないルバガンテも、冷静なルファンも例外なく驚いている。それもその筈だ。

 ノアの武装は両脇にガトリングが二門、双肩に光線銃が二門、背中にミサイルが二機とレールガンが一門。腰には、太刀と大剣が一振りずつ帯刀されている。

 近づく訳にもいかないので良くは見えないが、シルエットだけでどんな武器なのか想像がつく。それ故に恐ろしい。

 弓使いと言う話は、何処かに消し飛んでしまった。

 今、装備していないだけで持っているのだろうが、その弓の出番が来る様に見えない。

 そう言えば、ノアとの戦闘では近接戦が有効という話に落ち着いたが、足の生えた戦艦みたいな装備をした彼に、どうやったら近づけるのか。

 カトウが顔を引き攣らせて言う。


「何?あれ」

「戦車か何かか?」


 最早、比喩できる生き物が思い浮かばない。

 移動要塞だとか、殺戮兵器だとか、そういった軍事兵器にしか見えないのだ。

 何なら、ここから人型兵器に変形しそうですら有る。


「あんなん近くに歩いてたら、コロニーの戦闘員全員驚いて出てくるわ」


 ザスティーの発言には謎の説得力があった。

 コロニーの戦力を総動員しても勝てる確証がない。砂上艇なんて、三匹の子豚よろしく軽く吹き飛ばされそうな雰囲気がある。

 モリアは、やつれた様子で言う。


「試験に見せかけた公開処刑みたいになってるね……」


 モリアは、徹夜で防衛拠点に塀を作っていた。その努力が泡に成らない事を祈るばかりだ。

 トホホといった表情のモリアの傍らで、フィオルトが黙ってノアを観察している。上体を僅かに傾けている姿勢からして、何か興味があるのだろう。


「フィオルト、何か判った?」


 俺が訊ねると、フィオルトは浮かない様子で言う。


「右脇のガトリングと左肩のミサイル、腰の太刀から生体反応が」


 武器から生体反応。その意味が俺には判らない。しかし、ルファンやルバガンテは大きく反応を示した。


「ブソウだ」

「ブソウ?」


 聞き馴染みの無い単語に、俺は思わず聞き返していた。


「武器の武に葬儀の葬で『武葬』。変異者の血肉を素材にして作る武器だよ。何でも、その変異者と同じ性能を持つ武器に成るみたい。生体反応が有るのは初めて聞いたけど……」


 変異者の身体を使う製造方法であり、尚且生体反応がするのは倫理的に問題が有る。

 俺は思わず眉をひそめる。


「生体反応ある武器って、大丈夫なのか?」


 ルファン達に代わり、フィオルトが応える。


「休眠状態と同じ反応だから、意識は無いだろう。だから大丈夫、という結論には成らないが」


 休眠状態の反応ということは、裏を返せば覚醒状態になる場合もあるのだろう。

 目を覚ましたら、身体が武器に成っていたなんてゾッとしない話だ。それが、生き物を殺傷するのが目的である武器ならば尚の事。

 食欲も無くなり、俺は料理を遠ざける。ユーやカトウ、ハスキ達女性組も同様の反応。逆にルファンやザスティー、ガンダスなんかは気にせず食事を進めている。

 一息つくと、ガンダスが会話に参加した。


「ガトリングとミサイルには覚えがある」

「へぇ、性能とかも?」


 モリアの問いに、ガンダスは頷くでもなく語り始める。


「ガトリングの方はベルセルク。肉食獣化の変異者を素材にした武器で、栄養を補給すると弾丸状の骨を生成、それを打ち出す武葬で空気や体内で蓄積されたガスなんかで弾丸を射出する」


 まるで、素材にした変異者を最も有効活用できる様に加工したかのような性能だ。

 武器の性能からして、元の変異者は手足、あるいは尻尾の先端の骨を弾丸のようにして飛ばしていたのだろう。


「ミサイルの方はエーデルワイス。種子を飛ばす植物化の変異者を素材にしている。こっちの性能は知らないが、見た目通りの性能だろう」


 つまり、ミサイルの様に種子を飛ばす武葬。

 植物化の変異者自体が少ないので、詳しい性能は判らない。が、種子を飛ばす植物は幾つか思い当たる。種子に綿毛が付いていたり、羽が生えていたり、種子が爆ぜる植物たちだ。そのうちどれか、もしくは全てを使い分けるというのは有り得る気がする。

 話を聞いていたモリアが関心したように頷きながら言う。


「君、意外と詳しいんだね」


 それに関しては俺も同感だった。

 ガンダスと言えば筋肉に勝る武具無しとでも言いそうな雰囲気があり、武葬なんて軟弱な者が使うなんて発言するのが勝手に脳内再生される。

 そんな彼が、武葬に関して詳しく精通しているのが意外だった。彼の性分からして、叩くために知識を集めているということも無いだろう。

 ガンダスは、力強く胸を張る。


「肉体のことだからな!」

「そういう判定なんだ」


 モリアが不思議そうな面持ちでそう言うと、ガンダスは強い口調で語る。


「何を言う。私達変異者は、どんな姿に成ろうとも人間である事に変わりない。であるならば、仮に武器に加工されようと、生体兵器に改造されようと、等しく人間である。故に、肉体と解釈しても問題無い。違うかな?」


 なるほど、と一同は目を丸くして頷く。

 退廃以前の時代なら、生殖機能の有無等から武葬は人間ではないと判断されそうではあるが、ピアッソやアルソードの様な半機械化をした者も居る今となっては、その考えも何時かは廃れる考えなのだろう。

 そう考えると、意外とガンダスの発言は的を射ている気がする。

 彼の発言を聞き、モリアは頭を下げる。


「いや、君の言う通りだ。すまなかった」

「なに、謝る事ではない。これは、あくまで個人の考えに過ぎないからな。皆が違った判断を持つのは不思議なことではない」


 会話が一段落つく。

 俺は、武葬についての価値観を確認するために切り出す。


「武葬って、皆持ってるモノ?」


 その言葉に、ルファンとユーが応える。 


「生まれ方が生まれ方な上、波長が合わないと機能しないからな……。使ってる奴は少ない、複数なら尚の事だ」

「神話とか伝説の登場人物だって、エクスカリバーとかデュランダルみたいな聖剣を皆持ってる訳じゃないでしょ?そんな感じ」


 ということは、ノアは日本神話で言うヤマトタケルか何かなのだろう。

 製法に倫理的な問題があるため希少。かつ、波長が会う者、つまり選ばれし者にしか扱えない。

 そんな代物を複数所持している時点でおかしいのだろう。最も、ノアの場合は武葬が無い素の状態で尋常の存在では無いのだが。

 ルバガンテがポツリと呟く。


「以前はあんな装備をしていなかったが……」


 彼からしたら計算外の事態に近いのだろう。

 対策を練る話し合いの時に、太刀の武葬があるなんて話は欠片も出なかった。だから、ノアは比較的近接戦が苦手であり、一番勝率が高いと踏んでいた。

 とはいえ、結果的にその作戦が変わることも無い様に思える。理由は単純。ノアの様な正確無比の射撃力を持つ人を相手に、射撃勝負で勝つ方が現実離れしているからだ。


「というか、何処からあんな装備を?」


 モリアがそう疑問を投げ掛けた。

 確かに、あの武葬の出処は謎だ。話からして、相当貴重品なのだから、それが同時に三つも集まるのはおかしい。

 有るとしたら、集めていた人物が居た。あるいは、作った人物が居る可能性。

 ザスティーが少し考えて言う。


「変異者相手に人体実験する奴って言われると、この辺りで思い付くのは一人だな」

「なるほど。マスターの所からの掘り出し物か」

「まぁ、ベルセルクとエーデルワイスは永久の都の外で知ったから、この二つはマスター製ではない。が、もう一つの品は可能性がある」


 それに、マスターが作った訳では無くても確保していたという事は考えられる。

 変異者を武器に加工した一つの完成品、研究者なら参考程度に集めていても不思議はない。


「刀剣なら、ユーやルバガンテに思う所は?」


 ルファンが訊ねると、二人はチラリと互いを見た。


「刀剣の武葬なら幾つか記憶にあるが、アレは記憶にない」

「同じく」


 そう答えた後、ユーは少し考えながら続ける。


「でも、あの中の最低でも一つは瓦商会が上げたものだと思うよ」

「そんな気はする」


 ルファンが同意すると、モリアは首を傾げた。


「へぇ、それは何で」

「武葬の試運転とか様子見をしたいんだと思って。武葬とはいえ、言ったら初めて握る武器でしょ?それを最初から実戦で使うとは思えない。つまり、この試験は彼の武葬の適正を見る為のテストでもあるんじゃないかと思ってね」


 ユーの言葉に頷き、ルファンが続ける。


「それに、瓦商会がこういった試験を無償で依頼するとは思えない。試験官になって貰う、その報酬として武葬を渡した。というのが考えられる流れだろう」


 ルファンの指摘はとても真っ当に聞こえた。

 瓦商会は商いをする都合、信頼を大事にしている。都合、何かしら手助けをした人に対して報酬を支払うのが自然。

 今回の試験は襲撃者側をノア一人に一任するのだから、相対的に報酬もかなりの物だろう。

 そんな事を考えている時だった。誰かがじっと空を眺めて居るのが目に入り、何の気無しに俺も空を見上げた。

 そこに見えたのは一筋の赤い光だった。長い尾を引き、煌々と光る赤い星。


「流れ星?」


 俺が呟くと、ルバガンテが首を横に振る。


「いや……」


 彗星は高原の上空を一周すると、ゆっくりと舞い降りた。

 それはまるで、赤い鱗で全身を包んだ巨大な竜だった。全身から溢れる赤い鱗粉のせいか、辺りが熱気にみちる。鋭い黄金の眼は、まるで光を通した宝石のように輝いていた。

 季節柄冷え込む時期だというのに竜が現れた途端、まるでサウナみたいに熱くなる。

 見物人の内、誰かが言う。


「リュウゲン様だ!」

「今回の試験を見学するという話は本当だったのか」


 その名前は、ここで過ごしている間何度も聞いた。

 確か、ここら一帯では最強と言われる変異者であり、数多くの仲間を引き連れて永久の都を攻め落したのだとか。そして、ノアと一騎打ち引き分けたと。コレに関しては何だかノアの方がおかしい気がしてきた。

 超長距離の狙撃を平然とやってのけ、最強と謳われるリュウゲンと一騎打ちで引き分ける。お前は一体何なんだ。


「あ!」


 唐突にハスキが声を発したので、俺は驚きを堪える様にビクッと背中を弾ませた。

 ハスキを見てみれば、例の赤い矢を手に取りリュウゲンと見比べていた。確かに、矢尻に使用されているのはリュウゲンの爪と見て間違いなさそうだ。


「やっぱり同じ」


 赤い矢は松明のように灯りを帯びている。

 目立ち易いこともあってか、リュウゲンはくるりとコチラの方を振り向く。


「人の爪をリンゴ飴みたいにしないで欲しいんだけどね」


 その一言に、ハスキは矢をしまい頭を下げた。


「すいません。でも、おかげで助かりました」

「今日は応援をしに来たんだ。ご健闘をお祈りするよ」

「ありがとうございます」


 一連の会話の後、リュウゲンはノアの方を見る。


「にしても、彼とんでもない事に成っているね。正直驚いたよ」


 リュウゲンの表情は、普通なら表情の読み取りにくい、それも初見の変異者でありながら引きつっているのが見て取れた。流石にやり過ぎなのでは、と思っているのだろう。

 俺も同様の意見だ。もし、試験参加者でなく見物人でもこの考えは変わらないだろう。

 ノアの姿を見て、俺は呟く。


「何か、魔王みたい」


 彼のことを邪悪だと言いたいのではない。ただ、ひと目見た時の存在感というか、力強さにより、そんな感想に思い至ったのだ。


「魔王、魔王か……。懐かしいな」


 感慨深そうな口調でリュウゲンはそう口にした。

 驚いた。他の人達から、識別名という二つ名や通りなの様なものがあるのは聞いているし、実際幾つか聞いた。が、その中には名前を付けられた相手に対して悪い印象を与える様なものは無かった様に思える。


「そんな物騒な名前の人が居たんですか?」


 俺が聞くとリュウゲンは一瞬目を丸くしたが、すぐに納得した様子で短く頷いた。


「そうか、君達は魔王の事を知らないのか。魔王というのはね、この地がまだ日本と呼ばれている頃、変異者の国を作ろうとした男の呼び名だよ」


 日本という懐かしい響きに、俺は鳥肌を立てると共に感銘を受けた。

 冷静に考えれば、魔王が退廃以前から居る人間、俗に言う当事者の一人である事はその識別名が物語っている。

 何故なら、名前がシンプルであり、当て字ではないからだ。

 例を挙げるならルバガンテが良いだろう。ルバガンテの識別名は『蟲者』とかいて『ムシャ』と読ませている。つまり、『武者』に該当する識別名を持つ者が居たので、それと差別化するために彼の虫化の変異を当て字に使用したと考えるのが自然。

 であるならば、シンプルかつ直接的表現として『賢者』や『勇者』の様な名で呼ばれている者程古参ということになる。

 『魔王』に関しても、条件に一致している。

 この地が日本と呼ばれている頃ということは、未だ変異者について詳しくない時代の話だ。そんな時、変異者達が差別の標的になったのは想像に難くない。

 そんな人々を守る為に一人の男が立ち上がり、変異者達を集める。

 その姿は、変異について詳しくない第三者からしてみれば、得体の知れない異形の怪物たちを束ねる王、『魔王』に他ならない。


「その魔王とは知り合いだったのかい?」 


 ハスキが質問すると、リュウゲンは首を傾げながら応える。


「まぁ……そんなところだね」


 余りの歯切れの悪さに俺とハスキは互いを見る。

 追求すると、リュウゲンに精神的ダメージを与えるかも知れないと思ったからだろう。

 ただ、それにしては反応が軽い。元変異者の俺からすると、変異の記憶障害により薄れた記憶をぼんやりと思い出そうとしている様に見えた。少なくとも、思い出の古傷という訳ではなさそうだったので、彼女に代わって俺が聞く。


「どうかしたの?」

「いや、言われてみれば確かに似ていると思ってね」


 似ている、というのはノアに対してだろう。


「見た目が?それとも性格が?」

「性格だね。彼は、ノア程殺傷能力高い見た目をしてなかったから。見た目は、どちらかと言えば……いや、よそう」


 何やらお茶を濁す様な反応をされたが、直感的に踏み込むのは不味そうだと思い、俺は追求を断念する。

 話を聞いていたユーがイタズラっぽく訊ねる。


「へぇ。リュウゲンさんから見ても、ノアって危なく見えるんだ」


 すると、リュウゲンは意外なことに視線を背けた。


「まさか、あぁなるとは思わなかったから」


 カトウが驚いたように問いただす。


「もしかして、武葬の一つを渡しました?!」

「エーデルワイスをね。私は見ての通り全身が高温だから、そもそも彼女を身に着ける事が出来なかったから、結婚祝いとして渡した」


 確かに、リュウゲンの様な超が付く高温の変異者に植物系統の武葬を装備することは出来ないだろう。燃えてしまう。

 それで、当人は武葬を一つだけ渡した筈が瓦商会辺りが別の武葬を渡し、結果としてフルアーマーノアが完成してしまった。

 反応と流れ共に納得がいく。


「ここって、結婚祝いとして武器を渡すものなの?」


 モリアの質問にリュウゲンは首を横に振った。


「いや、餞別としての意図もあってね。彼ら、どうやら近いうちにここから出立する予定だったらしくて、身を護る物を何かしら渡したかった」


 そう言えば、フィオルトが同行を頼んだ時も拒否はしなかった。元々、ここに用が無くて別の場所に移動する頃合いだったのならば頷ける。


「で、あぁ成ったと」

「多分ヴィヴィの趣味だろうね。彼は、全身の触手を器用に使ってたから、あぁいう装備は動きが制限されそうで彼の趣味には思えない」


 実際に戦ったリュウゲンの発言だから、素直に信用しても構わない。が、ノアの容体を鑑みると、個人的にはノア本人の意志が強いような気がする。

 ノアは本気で戦えば、三日で寿命を迎えるとされている。その理由は、彼が硬化と自切を併用するため、肉体に過度な負荷が掛かる影響らしい。

 つまり、自切や硬化を使用せずに装備だけて戦えるのであれば、その三日を突破出来るということだ。

 試験期間が三日間なのは、それを確認するためだろう。

 仮に装備頼りの戦闘でも身体に負担が掛かり、体調不良を起こしたとしても、ここなら近くに医師も居る。手遅れに成ることはなさそうだ。


「個人的には、ノアがこの装備にする理由も判るけど」

「そうなんだ、それは意外だ。ただ、君の読みの方が正しい様に思えるね」


 俺の一言で、リュウゲンが考えを改めるのは予想外だった。リュウゲンと俺は初見であり、信用されている筈はない。


「それは、何で?」

「感だよ」


 また、お茶を濁されてしまった。

 リュウゲンは人知を超えた感覚の持ち主だ。だから、本当に直感の説は確かにある。が、それで相手が信用できるとも、話している相手の考えが読めるとも思えない。

 しかし、それに対して問いただしたとしても軽く躱されるのは容易に想像がつく。

 追求せず断念するしかない。


「そういうものなのか……」


 話も落ち着くと、辺りに居た変異者が申し訳無さそうにリュウゲンに、ここに長居されては困ると伝えた。

 曰く、リュウゲンが居ると緊張する者も居るし、出店からは料理の焼き加減が代わって火入れに困るだとか、冷たい飲み物や氷菓子が提供出来ないとのこと。

 普段、リュウゲンが人前に姿を現さないのは、こういった理由があるからなのだろう。

 それを聞くとリュウゲンは、申し訳なさそうに謝ると俺達に向き直る。


「さて、私がここにずっと居ては気が休まらないだろう。それじゃ、失礼するよ」

「さようなら」


 背中を向けて去るリュウゲンに、一同は別れを告げる。

 赤い竜の背中を見ながらハスキは呟く。


「優しそうな雰囲気の人だね」

「そうだな。他の所の連中から危険人物扱いされてるのが有り得ない程、優しい人だ」


 ルバガンテはコップのストローを咥える。

 虫化の変異者は、コップを使って飲むのが苦手らしい。その代わり、蝶が蜜を吸うような器官があるのだが、人間で言うと舌を突っ込む行為に等しく、人前では基本的に使わない。

 リュウゲンの評判で悪い物を聞いた記憶はない。なので、リュウゲンの事を危険人物扱いしているのは、このコロニー以外の者達、つまり外の情報だ。

 情報収集の一環で俺は聞く。


「危険人物……。それは、強いから?」

「竜化の変異は曰く付きだ。評判が良くない。知らないのか?竜鱗事件」


 俺は皆の方を見た。

 ルファンとザスティー、ガンダスは話し込んでいて聞いていない様で、ユーは少し席を外している。

 カトウとモリアは目が合うと同時に首を横に振った。


「全く」

「私も」

「オジサンも知らないよ。ただ、竜が良くないって話は聞いた事ある」

「あぁ、当時生きてる人も少ないから、そこだけ独り歩きしているのか」


 ルバガンテは一人、納得したように頷く。

 話に興味を持ったのか、フィオルトも参加する。


「どういった事件だ?」


 ルバガンテは視線が集まっているのに気がつくと、飲み物を置いて手を組み話し始めた。


「昔、ある所に竜の鱗を生やした青年が居た。その青年の鱗は美しく、金品と交換出来る程だった。ある日、青年から鱗を受け取った子供が鱗を食べてしまう。するとどうだろう、子供が悩んでいた変異が収まったではないか。その噂を聞きつけた大人達は青年を捕らえようとした。その騒動で、青年の恋人は命を落としてしまう。青年は激昂し、何時の日か必ず復讐を果たすと告げて何処かに消えてしまった。……という話」


 何とも救いのない話だ。

 青年は愛する存在を失い、残ったのは自身を狙い恋人の命を奪った敵だけ。

 青年の気持ちを考えると、胸に穴が開いた様な空虚な気分に成る。


「実話?」

「諸説こそ有るけど、実話とされている。諸説というのはバリエーションの差だ。今伝えた話だと、『変異を抑える』というのが青年の変異して得た力だった。だが、別の場合だと『変異させる』ものだったというものも有る。その場合は、少年は超人だとか、鳥になるのが夢だったとか少しずつ変わる」


 話を聞いていたハスキは、何かに気が付いたみたいで目を丸くして口に手を当てた。


「ハスキ?」

「いや、心当たりが」


 俺個人の記憶の限りでは、該当する物がパッと思い付かない。となると、俺が居ない時。永久の都で見た物に何か有るのだろう。

 ハスキの反応を見て、ルバガンテが語る。


「気付いたか?『変異を抑える』物も『変異させる』物も実在する」

「変異抑制剤と変異外殻?」


 ハスキが訊ねると、何処かで話を聞いていたらしいユーが食べ物を乗せたお盆を机に置き、話に割り込む。


「そう。それってね、日本が昔……それこそ異星人とバチバチだった頃に作られた代物でね。変異者による人体実験で生まれたらしいんだ。で、具体的に誰を素材にしたかとかは残って無いんだよ」


 異星人と戦っていた時代なんて、世界が退廃する初期も初期の話だ。

 突如飛来した異星人が人間を誘拐した事により、人間対異星人の戦争が勃発。同時期に発生するようになった雪により、人間は継戦能力を失い事実上敗北した。

 この時の話は、俺が今の身体になる際に情報共有の一環で教えてもらった。

 飛来してきたのはハスキ達穏健派側であり、人間達を保護する為に現れた。が、同じ異星人の過激派である『方舟分離主義勢力』が同時期に雪による環境汚染を決行。

 それを同一勢力による侵略行為だと判断した人類は異星人に攻撃、そして敗北。

 人類に戦闘力が無くなった事により、過激派が本格的な侵略行為を行うとされ、穏健派が過激派に攻撃開始。そして、雪だけが降るように成って現在に至る。

 そう考えると、竜鱗事件はさっき話に出た魔王と殆ど同時期の様に思える。竜鱗事件の方は、異星人と戦ってた時なので若干前なのかも知れないがタッチの差だ。

 退廃初期の記録はあまり残っていない。

 今まで人間が昔使っていたインターネット等を始めとする機能が使用不可となり、データベースにアクセス出来なくなってしまい、事実上そこで情報が遮断されている。

 なので、当時どんな実験を行っていたのかも今となっては判らない。


「だから、その青年が素材に成ってるかも知れないと」

「そういう事。最も、こういった話ってのは少なからず歪曲して伝わるものだし、何ていうかな……史実であって事実じゃない?みたいな感じでは有ると思うよ」


 確かに、そんな気はする。というのも、竜鱗事件の話を聞いただけでは何故竜化の変異者が危険とされるか判らないからだ。

 青年が復讐を誓ったから、というだけで竜化の変異者全体を危険視するにしては、余りにも差別的過ぎる。

 俺が考え込んでいると、ハスキが口を開く。


「でも、この話って『変異を抑える』のも『変異させる』両立するよね」

「それだと矛盾しない?」

「しないよ。だって、青年の恋人が『変異を抑える』力があって、青年が『変異させる』力があるとか、あるいはその逆なら辻褄が合うから」


 ハスキの考えは頷ける。

 もし、変異抑制剤と変異外殻のルーツを提示出来る事象や話が他に無いのなら、その線がより濃くなる。

 竜鱗事件に出てくる『噂を聞きつけた大人達』は、現状の噂から判断するに変異体の実験を行う組織であり、実際に薬を精製したり量産出来ていた事からして、規模は割と有る様に思える。当然、機材や財力は揃っている筈。なら、二人を襲ったのは日本政府辺りだと考えられる。

 カトウが考え込みながら言う。


「こういうのって良く判んないけど、変異者が変異抑える力を持ってたりするものなの?」


 その言葉にモリアが即答する。


「それに関しては全然するね。だってこれ、言い換えれば免疫とか抗体を分泌する変異者って事だから」


 ウイルスや病気が流行った際、その抗体を持って産まれる動物が居る。となれば、変異により人間がそれを獲得しても不思議はない。明るみに成っていないだけで、抗体を精製する変異者だって居るだろう。

 俺達が話していると、ザスティーが呆れて言う。


「何の話してるんだ?日の出と同時に試験が始まりなんだぞ。どの狙撃ポイントを潰すか決めたのか?」

「そうだった」


 本格的に話し込んで居たので、当初の予定をスッカリ忘れてしまっていた。しかし、ハスキは既に当たりを付けていたらしい。


「私は何となく」


 ザスティーは口笛を吹く。


「へぇ。何処だ?」

「いや、見張らなくて良い場所の見当が付いただけで見張る場所を決めた訳じゃ無いんだ」

「じゃあ、その警戒しなくて良い場所は?」

「土砂の瓦礫、蛇の洞窟、デブリ地帯の三つだね。この三つは、こことは正反対の方角にある。しかも、蛇の洞窟は変異獣の巣で、残り二つはそれに隣接している場所。って考えると、今ここに彼が居る時点で確率は低い」


 確かに、ノアがここに居るので反対側の三箇所は候補として弱くなる。ハスキの提示した三箇所は、ここから目視出来なかった場所だ。

 ノアの索敵能力なら、ここからでも状況が判るのかも知れないが、以前の話の通りであれば索敵能力も万能ではない。使える時間には限度がある。試験前に下手に集中力を使いたくはないだろう。


「確かに、それは言えてる。万が一そっち方向に移動しようものなら変異獣との戦闘になるだろうし、そうなれば夜目が効くルファンが気付くか」

「試験前に体力は消費したくないだろうし、武器の規格も試験用だしね」


 ハスキがサラッと口にした武器の規格は盲点だった。

 ノアは武葬を装備しているとは言え、武葬以外は試験様の規格。そんな装備で変異獣と戦闘するのはリスクが大きい。

 ハスキの指摘で驚いたのはカトウも同じだった。


「あ、そっか。気にしてなかったけど、殺傷能力の低い模擬戦用の武器だと変異獣とは戦いにくいか」


 ノアなら模擬刀でも変異獣を倒せそうな気がするが、ノアは無事でも武器はそうではない。変異獣との交戦で俺達が漁夫の利を狙おうとする事も視野に入れると、下手に戦闘を起こしたくはない筈だ。

 それに、ピアッソとアルソードの事もある。

 ノア目線だと、ここに居ない二人が反対側の三箇所に移動しているとも考えられる訳だ。

 ザスティーは納得した様子で頷く。


「何だ、試験の事もちゃんと考えてたのか。お前らの関係からして、てっきり関係ない話してるのかと思った」


 会話自体は試験に関係がなかったので、責められて当然だった。むしろ、その関係のない話をしていた筈のハスキが当たりを付けていたのがおかしいとも言える。

 そんな考えのもと俺はハスキを見る。意外なことに、彼女は僅かに頬を赤らめていた。


「私達の関係は、判りやすいだろうか」

「索敵部隊のペア分けの反応で確定したかな?」 

「まぁ、あの異星人が居るとは言え男女で旅をしてる訳だし」

「オジサンは何となく察してたかな?何か、クラスに付き合ってない事をバレない様にする学生カップルみたいだった」


 全員が口々に言う。それに対し、ハスキは顔を背けた。


「そうかぁ……」

「ハスキが恥ずかしがるの、何か意外」

「私も予想外だよ。というか、私だけこんな反応を晒すのは不公平じゃないのかい?」

「特に恥ずかしがる理由もないし」


 ハスキと俺は、熱烈なカップルのような接し方はしていなかった。だから、全員に、それもバラバラの理由で関係が発覚していたのは正直驚いた。が、特に隠そうともしていなかったのは事実だ。

 個人的には、バレたとしても何ら恥ずかしくはない。誰が好きとかの話で盛り上がる時世でも無い。


「あ、オジサンが良いの教えてあげるよ」

「何かな?」


 モリアがハスキに手招きし、何かを耳打ちする。

 嫌な予感がする。

 モリアは年長者なこともあり、変な所で頭が回りそうなのだ。

 一分も経たずに、モリアからの告げ口は終わる。するとハスキは咳払いを着き、単刀直入に切り出す。


「テセウス。ピザって十回言ってくれないかい?」

「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」


 俺が言い終えるのを確認すると、ハスキは意気揚々と肘を指差す。


「ここは?」

「肘」

「駄目じゃん……」


 ハスキはジトっとモリアを見やる。彼は苦笑いを浮かべて頭を搔きながら謝った。


「古典的だったかな?ごめんね」


 前情報さえ無ければ膝とでも答えたのだろうが、生憎当事者である俺は一度流行った時期を経験している。

 不貞腐れながら、ハスキは俺に言い放つ。


「じゃあ、今度は機種って十回言ってよ」

「機種機種機しゅきしゅきしゅき……」


 俺の口は十回言い終えるより早く減速し、静止した。

 コレは俺に『しゅき』と言わせる為のものだ。わざわざ好きを崩した言い回しにしている分、恥ずかしい。

 周りの皆はそれを面白そうに眺めていた。

 事の現況であるモリアは茶化す様に言う。


「十回言え無かったか」

「だってこれ……」


 やり口がセコい。

 一回目は俺を油断させるための撒き餌であり、本命が二回目の機種という二段構え。しかも、撒き餌の方でも相手を引っ掛ける事が出来る。

 俺は高揚した顔を服の襟で隠し、顔を背ける。

 そんな俺に対し、ハスキは冷静な声色で言う。


「テセウス、私のことは?」


 やはりセコい。

 確かに、このお題を十回言うゲームはその後の質問とセットで行われるのがお約束だ。その最後の質問にコレを入れるのは、最早敗北確定演出でしかない。

 言っても言わなくても敗北する。ただ、言わないで負けるのだけは避けたかったので、俺は覚悟を決める。


「……好き」


 覚悟を決めた筈なのに、俺の言葉は腰が抜けたみたいな力無い言葉だった。

 俺の言葉を聞き、ハスキはクスッと笑うと俺に向けて言い放つ。


「私は君が大好きだよ」


 負けた。色々と。

 好きと言わさせられたのもそうだし、大好きという言葉が頭に浮かばなかったのもそうだ。完全にしてやられた感が拭えない。

 俺が気恥ずかしさからへたり込むと、近くからユーとカトウの声が響く。


「おめでとう!」

「え、これってそういう勝負だっけ?」


 事の顛末に、ザスティーは少し追いつけていない様子だ。出来る事なら、自分も彼のような傍観者の側でゲームを見届けたかった。

 それなら、今みたいに赤面する様な自体には成らなかった。

 俺がため息を零すと、モリアが笑いながら俺の肩を叩く。


「いやぁ、ごめんね。これ、オジサンが学生時代に流行ったやつなんだ。知らないと引っ掛かるよね」


 俺の知っている流行っていた時とやり口が違う。俺が知ってるのは、こんな誘導尋問みたいな手口ではなく、シンプルに引っ掛かるかどうかを見る為のちょっかいでしかなかった。

 俺は思わず叫ぶ。


「インチキ!」


 言葉は木霊こだまになり、幾重にも重なって辺りに響き渡った。

 魔王ホロウノレス(故人)

 魔王と呼ばれる存在。世界で唯一異星人の王族に変異した男。男ではあるが、異星人の姫と同様に意中の相手と同族となるという性質を持ち、その結果人間に戻った(外見は白髪に虹色の瞳をしている)。

 彼が危険な行動を取った訳ではなく、異星人由来の武器を使える理由が当時は不明だった点、雪の中を人間の姿で自由に行動できた点から、方舟分離主義目線では『人間と婚約した王族か騎士』として攻撃対象に、方舟平和主義目線では『方舟分離主義者が人間という種族に托卵しようとしている』と判断され、複数勢力から襲われた。

 最終的な死因は自死に近く、自分個人が狙われていると気が付いたホロウノレスが仲間に自身の殺害を依頼、自らを悪役とする物語を描き切り幕を閉じた。



 魔王軍

 名前に軍と有るが軍隊ではなく、コミニティーの名前であり一般人の変異者の集まり。

 ホロウノレスと名乗る変異者を筆頭にした組織。

 人々が変異に怯える退廃初期に生まれた。

 変異により迫害を受けたものを保護するための組織であったが、変異者の団結を嫌った人間達と戦闘になる。

 その後、複数勢力から狙われ、ホロウノレスが死亡し組織は解体。事実上、敗北することとなった。

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