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退廃世界のパラドックス  作者: アマテル
退廃世界2章∶あくる日の戦士達
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4.調査

 俺達は、ヴィヴィを保護したという連絡を受け、拠点で他の皆と合流した。

 既に説明は済んでいるらしく、ヴィヴィは小さく頷いている。


「で、私が巻き込まれるかもしれないと」


 ヴィヴィの言葉に、ルファンは頭を下げながら返す。


「一応運営にも掛け合うから、それまですまない」

「まぁ、しゃあないとは思うが……」


 仕方がないとは理解しているが、納得は出来ないと言いたいのだろう。

 試験と直接関係ないにも関わらず巻き込まえるのは、ハッキリ言って可哀想だ。

 遠巻きで話を聞いていたザスティーが訪ねる。


「で、どうするんだ?ここで匿うか、一緒に行動するか」

「匿ってる間、情報収集しに行ける人員が減るっていうのは痛いよね」


 ザスティーとモリアの会話にヴィヴィが割り込む。


「言っとくが、私はチクるぞ」

「だよね……」


 問題はそこだ。

 現状、ヴィヴィは一方的に巻き込まれた側であり、試験官を務めるノアの恋人でもある。俺達を助ける筋合いはない。

 ピアッソとアルソードの二人から守っているとはいえ、それは二人を御せなかったコチラ側の問題でもあるし、ヴィヴィ目線は俺達の自作自演だって有るだろう。

 そうなると、俺達を信用することなんて出来ない。

 ヴィヴィは高らかに言う。


「おう、もうチクチクのチクよ!」 

「チクチクは意味が変わってないか?」


 俺は思わずツッコんでいた。

 ルファンは悩みながら言う。


「恐らく、明日には運営側に保護してもらうなり、条件追加するなりしてくれるだろう。それまでは、戦闘配置とかは決めれないな」


 確かに、ノアに告げ口をする可能性があるヴィヴィが居る状態で本格的な作戦会議は出来ない。

 ヴィヴィの安全が確保出来るまでのんびりする暇はない。出来ることは情報収集くらいだ。


「一応、調査したい所はある」

「ほう、それは何処だ?」


 ルファンに促され、俺は応える。


「昨日、永久の都に出た異形兵の遺体。多分、ノアが倒してると思うから見ておきたい」


 異形兵の調査なら、ヴィヴィに知られたとしても問題はない。

 俺の言葉に、ルバガンテが首を傾げる。


「彼が現場に居たと?」

「変異者コロニーから狙撃してるのを見た。ただ、遠すぎて当たってるかは判らない」


 彼本人が当てたと言っていたのだが、当時の状況を上手く伝えられないので、一同は半信半疑といった面持ちだった。

 俺の発言の言葉切れが悪かったからか、あるいは皆の表情からか、ヴィヴィが声を張り上げる。


「ノアが外す訳無いだろ。リュウゲンと同じで気配読めるしさ。異形兵ぶち抜いてやったぜ!!とか自分で言ってたんだぞ」

「「え?」」


 ヴィヴィの発言に、俺達は一斉に彼女の方を向いた。

 ノアがヴィヴィにそう伝えたかどうかで、俺の発言の信憑性は上がる。

 彼女は、俺達の視線に気が付くと慌てて目を反らした。


「あ、やば……」

「やばいのは彼なんだが」


 ガンダスは変異者コロニーと永久の都を交互に見た。

 近場の永久の都はともかく、変異者コロニーは目視できない程小さい。

 仮に狙う的が中にいる異形兵ではなくコロニーでも、当てれる者はそう居ない。


「どんな技量だ」


 もはや生き物の技量ではない。

 一同が困惑する中、ヴィヴィが口を開く。


「アレか?えっと、言うはヤスシ行うは……タケシ?」


 何やら、言い間違いのせいで大変な事に成ってしまっている。

 言うは易しの部分は正解なのだが、問題は何処から現れたかも判らないタケシ。彼のせいで易しもヤスシという人名にしか聞こえない。


「タケシ君可愛そうだね」

「ヤスシも口じゃなくて手を動かせ」


 モリアとザスティーが立て続けにツッコミを入れる。

 不思議なものでヴィヴィの発言の後、凝り固まった雰囲気が和らぐ気がした。

 雰囲気を変える事を狙っての発言であれば、天才の部類なのだが、周りの反応に身悶えしている辺りただのポンコツなのだろう。


「ちなみに正しくは、言うは易し行うは難し」


 見かねたユーが答えを教えると、ヴィヴィは答えを出せなかったのを悔いる様に床をペチペチと叩く。

 それを見ていたカトウは、ヴィヴィの顔を覗き込んだ。


「ヴィヴィちゃんや、ノアは他に何か言っていたかい?」

「ナニモイッテナイヨ」


 反応からして、何かしら弱点は知っているのだろう。

 モリアが苦笑いを浮かべながら言う。


「まぁ裏が取れた事だし、調査はしていいんじゃない?」

「そうだなぁ……。ヴィヴィの護衛と遺体の調査、二手に分かれるか」


 ルファンがそうつぶやくと、ルバガンテが手を挙げた。


「なら、私から提案が」


 ルバガンテの提案は、遺体を調査を名指しするものだった。指定されたメンバーは俺、ハスキ、フィオルト、ルバガンテの四名。

 個人的には、殆どいつもの顔ぶれなので気兼ねする必要がない。が、偏りがあるように思える。


「何でこの分かれ方?」

「分析力のある異星人、狙撃を見ていた者、その二人と意思疎通が取りやすい仲間、実際に戦闘した私。彼女の前で情報精査出来ない以上、現場で考察や推理をするならこの面子だろう」


 口振りからして、意図的に偏るようにしたらしい。

 普段とは違うメンバーの方が、一人一人別々の視点で物事を考えることが出来る分、視野が広くて好みではある。

 とはいえ、フィオルトが居るなら問題は無い気も確かにする。


「こちらとしては異議なし」


 フィオルトがそう応え、俺達は調査に赴いた。



・・・



 俺達は、永久の都の側にある異形兵二体の遺体の場に足を運んだ。

 昔、ニュースで見た海岸に打ち上げられた鯨の遺体のように、二体の遺体が並んでいる。

 体躯はまるで電車や新幹線のようで、身体の幅が人間の身長よりもある。こんな化け物を相手に戦ったら、俺なんて一口で終わりだろう。


「どう見る?」


 俺が聞くと、ルバガンテは身体を強張らせながら応える。


「急所を一発。凄まじいな」


 彼は表情の読み取れない虫型の変異者ではあるが、顔を引き攣らせているのが判る。

 フィオルトは、脇に置いてあった物に目をやる。見るに異形兵の遺体周辺で見つかった武器や破壊された道具、建物のパーツらしい。

 それが、刑事ドラマの証拠品のように並べられていた。


「……なるほど」

「何か判ったのかい?」


 ハスキが聞くと、フィオルトは証拠品の中にある細長い棒を指差した。

 確かにその棒は、他の証拠よりも大量の血が付着している。


「使用されたのは、これで間違いない。変わった事に矢じりが無い。そして、三種類の細胞が付着している」


 フィオルトの言葉に俺は首を傾げる。


「三種類。三体射抜いた……のか?」


 ノアが射抜いた異形兵は二体だった筈だ。それは、永久の都に向かう道中、御者から話を聞いたので間違いない。

 となると、もう一体が判らない。

 射線上に偶然別の生き物が居たようには見えなかったし、生き物を貫通させるのは弾道が変わる危険性が有るので違和感がある。

 そんな事を考えていると、フィオルトは俺の問いに対して首を横に振る。


「恐らく、二種類は異形兵の者。もう一種類は彼自身のものだろう。彼は、肉体の一部を硬化させて自切させる。矢じりの代わりに、それを使ったのだろう」 


 俺は納得した。

 ノアは自切と硬化の両方が出来るし、発見された矢に矢じりがない。

 身体の一部を硬化させて自切、矢じりとして使用して射出。その後、時間経過により矢じりに使用した身体の硬化が解除され、矢じりが消えたと考えるのなら今の状況と合致する。


「確かに、それなら細長いものさえあれば何でも矢に出来るのか」


 それに、矢じり程の大きさに自切する部位を抑えれるのは、身体の負担を軽減するという利点がある。

 元自切能力を持っていた俺は身に沁みて知っているが、自切は消費する血肉が多ければ多いほど負担に成る。

 なので、如何に自切する部位を極力少なく抑えるかが鍵となる。


「彼の硬化の度合いは、肉体を鋼鉄と同等の耐久力まで引き上げる事が出来る。矢尻としては申し分ないだろう」


 実際に戦ったルバガンテがそういうのなら、間違いはないのだろう。

 変異者だった頃の俺の硬化強度より性能は間違いなく高い。やはり、レベル差を感じてしまう。

 話を聞いていたハスキが、ハッした表情を浮かべた後に一本の矢を取り出した、


「矢で思い出したんだけど……これ」


 それは、矢じりに赤い爪を使用した矢だった。


「それは、リュウゲン殿の爪か?」


 ルバガンテの言葉にハスキは頷く。

 この爪を見た時に戦闘していたマスターが『まさか、リュウゲン』と口にしていたのだから、間違いはないだろう。


「永久の都での戦闘に私も参加していたんだけど、その時に飛んできたのがこれだった」

「あぁ、理解した」

「心当たりがあるのかい?」


 ルバガンテは、物思いに耽る様に永久の都を眺めながら言う。


「リュウゲン殿とノアが戦闘している際、一時的に戦闘を中止した時があった。何をしているのかと見ていたら、永久の都に赤い閃光の様なものが放たれたのを目視している」


 今、ハスキが見せている矢は放った瞬間に赤い鱗粉のような物がはためき、赤い軌跡を残すらしい。表現に差異は有るが、同様の物と見ていいだろう。


「それを撃ったのは?」

「ノアだった筈だ。そもそも、リュウゲン殿は矢を使わない」


 気になるのは、どちらが先に手を止めたのか。


「戦闘の手を止めたのは、どっちが先だった?」

「両方同時と記憶している。ヴィヴィの発言の通りだするとリュウゲン殿とノアの二人共、高い索敵能力を保有している。恐らく、二人とも何かに気がついて戦闘を中止したのだろう」

「だとしたら、私が相手していたマスターかな?変異外殻と言うのを使用して、不気味な気配を出していた」


 状況的に、マスターを狙撃したのはノアで間違いない。その事を確認し、ルバガンテは改めて視線を異形兵の遺体に戻す。


「なら、やはりコレを狙撃したのも彼で間違いないだろう」


 俺達は遺体を観察する。

 異形兵の内一体は頭部を、もう一体は胸部を貫かれている。

 穴の大きさは全く同じ。なので、一本の矢で二体を貫通させたのも本当らしい。

 フィオルトの分析力を用いて、念入りに遺体を調べる。


「こっちは脳幹を、もう一つは心臓の右心室を射抜いている。目視出来ず、姿形も判らない相手の弱点を正確に狙撃。索敵という次元ではないな。透視に近い」


 さっきから索敵と言う単語が出るが、改めて考えるとそれがどういった代物なのかイマイチ判らない。

 もちろん、変異の内容によって個人差は有るのだろうが、隠れている相手の場所を正確に狙えるものなのだろうか。


「索敵能力というものがあれば、この様な芸当が出来るものなのかい?」


 ハスキの問いにルバガンテは首を横に振る。


「索敵能力の系統次第だが、基本的には無理だ。足音を聞けば、大体の人はその音が何処からしたのか判るだろう?だが、普通はそこまでだ。彼がやっているのは、足音だけで人を正確に、それも内蔵の位置まで判る解剖図を描く様なものだ」


 つまり、人間業ではない。

 人が直接目視で生き物を見たとしても、生物学者や医師でもない限り解剖図なんて描けない。

 要するに、俺達が直接目視するよりも彼の索敵能力の方が正確なのだ。

 ハスキが考えながら言う。


「予知みたいな能力を持っている可能性は?」


 俺は、医務室での場面を思い出した。


「確かに、現場から聞こえたアラームより早くに察知していたから、野生の感みたいなのが鋭いのかもしれない」


 その話にルバガンテは乗ってくる。


「予知で言うなら、今回キャラバンを行う瓦商会のローシは予知夢を見ると聞く。それによく当たる。だから、その様な能力が有っても不思議はない」


 索敵、再生、硬化に加えて予知の可能性。幾ら何でも、対処すべき能力が多すぎる。

 神話の怪物だって、もう少し控えめのスペックをしている。

 ノアの性能を頭の中でまとめ、俺はボヤいた。


「弱点を探す筈が長所しか出てこないな」


 現状、弱点と呼べるものが思い浮かばない。

 ノアが持つ能力からして、仮に背後を取ったとしても倒せるイメージが湧かない。

 そんな中、ハスキはふと口を開いた。


「憶測なら有るけど……」

「何かあった?」


 俺が訪ねると、ハスキは小さく頷きルバガンテを見る。


「ルバガンテ。もしかしてだけど、ノアってリュウゲンと戦う際に正確な狙撃を主体に戦ってないんじゃないのかい?」


 その問い掛けに、ルバガンテは記憶を探るような仕草をしながら聞き返す。


「何が言いたい?」

「マスターを狙撃する際に放った一矢、それ以降に彼は狙撃をしてないのではと思ってね」

「言われてみれば、確かにそうだな」


 ルバガンテの言葉にハスキは再度頷く。


「私が思うに、この様な高次元の狙撃をするのには相当な集中力が必要だと思うんだ。だから、その後に集中力が切れるタイミングがあるんじゃないのかなと」


 そう言えば、医務室で衛生管理の人が現れた際、俺とノアは二人して驚いていた。何キロも先の生き物を索敵出来たのに壁一枚挟んだ人を察知出来ないのは、今思えば確かにおかしい。


「医務室でゴタゴタに巻き込まれたのは、外の人に気が付かなかったからか……」

「辻褄は合うわけか」


 となると、一度狙撃を誘発させる。もしくは、狙撃するのに必要な集中を阻害すれば、近接戦闘を行うことは出来る。

 そこでハスキは訪ねる。


「ルバガンテ、実際に手合わせした君の意見を聞きたいが、ノアを倒すことは可能だと思うか?」


 ルバガンテは考えながら応える。


「近接戦なら可能と考える。傷こそ与えられなかったが、私でも勝負にはなっていた。複数名ならば、あるいは」


 ノアの恐ろしいところは、単体で数十人の足を止める乱射と狙撃。誰か一人でも張り付けば、この二つとも封じ込める事が出来る。


「問題は、どうやって距離を詰めるか」


 候補としては閃光弾に煙幕、囮作戦。

 コレばかりは、話し合う他にない。皆の意見を聞き、適した手段を講じる。これに尽きる。


「全員の意見が欲しい所だね。自己紹介くらいしかしてない訳だし、得手不得手まで知らない以上、ここで作戦は決められない」 


 どうやら、ハスキも同じことを考えていたらしい。

 俺は、ハスキの言葉に頷く。


「一度戻るしかないか」


 俺がそう言うと、ルバガンテは俺の肩を抑えた。


「時間も時間だ。私がルファンに報告をしてくる。先に帰っていいぞ」


 気が付けば、辺りは夕日に染まっていた。

 コロニー周辺とはいえ、夜は変異獣が活発化する。これ以上調査は出来ないし、無理をしたら部屋で休む時間も無くなる。

 俺達は、ルバガンテの言葉に甘えて今日の行動を終えた。

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