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退廃世界のパラドックス  作者: アマテル
退廃世界2章∶あくる日の戦士達
21/35

3.ノアの弱点

 試験官に渡された地図に従い、俺達は防衛拠点に赴く。

 試験の性質上、防衛拠点で三日過ごす事となるのだから、どんな場所なのかと緊張を覚えた。塹壕か、防空壕か、はたまた廃墟、林。そんな風景を予想していたが、そうではなかった。

 平原。何の遮蔽も無い平地にポツンと砂上艇が鎮座している。

 砂上艇と呼ばれているが、船舶の形をしている訳では無い。宇宙用の輸送艇を陸上用に改造したもので、縦に伸ばした凸の字に近い形をしている。

 今回試験用に使う砂上体は履帯もホバー用のスラスターも外されており、移動が出来ない様にされている。ただ、まるっきり廃車同然というわけではない。

 装甲は現在で、歩兵が持つ武装では傷一つ付かないくらいには頑丈だ。屋根の上には機関砲が二門設置されている。

 虫の剣士がいの一番に砂上艇に乗り込み呟く。


「これが防衛拠点か。思ったより狭いな……」


 船内は共同用のスペースが一つ、長い通路に分けられた部屋が二つ。コックピットは開かないように細工されており、立ち入り不可となっている。

 扉は共同スペースの左右に一つずつと、長い通路の先に一つの合計三箇所。

 女性の剣士が顎に指を当てながら言う。


「船内が防衛範囲だから、地中に埋めるのは無しなのか」


 ルールを改めるなら、船内のブラックボックスを守る試験。

 船体自体が遮蔽となっているので、長距離射撃で直接射抜いてくる様な自体には成らないだろう。ただ、何発まで耐えることが出来るのかまでは判らない。


「砲塔は使えそうだな」


 黒髪の男が天井を杖で指しながら口にした。

 共同スペースの中央と通路の端には梯子が設置されており、梯子を通して機関砲の銃座に着く形だ。

 電源自体は生きているらしく、電気も付けば電気系の武器を充電する機器も設置してある。しかし、無制限に使える訳では無い様で、共同スペースの角には樽型のバッテリーが三つ並んでいる。

 梯子を登り、銃座に付いてみれば弾薬が無いし、火薬の匂いも一切しない。機関砲は電気銃のようだ。となると、機関砲と武器を充電する為のバッテリーは共通のものらしい。

 残る二部屋は、コレと言って目立つものはない。武器庫なり寝床なり好きに使えと言われている様に思える。

 一通りの設備を確認すると、女性の剣士が提案する。


「この試験、連携は必須なのだから自己紹介でもしない?」


 それに関しては、ここに居る誰一人として異議は無いらしく、全員が頷いた。が、気になる事もある。ここに来たのが受験者全員ではないのだ。


「二人居ないみたいだけど、良いのかい?」


 ハスキの言う二人とは、仮試験で他の受験者を盾にしていた二人組の事だ。彼らは、試験の説明を聞くなりすぐに何処かへ消えてしまった。

 黒髪の男が質問に答える。


「ピアッソとアルソードの事なら放置で良い。アイツらなら勝手に仕事してくれる」


 実績のある二人なのだろう。黒髪の男同様、他の受験者は彼らの事を気にもしていなかった。

 反対意見が無いのを確認すると、女性の剣士が一歩前に出て言う。


「じゃあ、言い出しっぺの私から。私はユー。近接戦を得意としている。次は……ルバ兄で良いかな?」


 女性の剣士――ユーはそう言いながら、隣に居た虫の剣士を悪戯っぽく指差した。それに対し、虫の剣士は面倒そうに頭を掻いた後、自己紹介を始める。


「ルバガンテという。以後お見知り置きを」


 虫の剣士――ルバガンテとユーは親しげに見える。それに、持つ武器も二人共同じく刀だ。赤の他人には見えない。


「ルバ兄って……二人は兄妹か何か?」


 俺が聞くと、ユーが腕を組みながら答える。


「ただの愛称だね。私に戦闘術を教えてくれたからそう呼んでる」


 ということは、俺達と同じくユーとルバガンテは、明確に意思疎通が出来ると見ていいだろう。この状況で、連携が取れる組み合わせが他にも有るのは有り難い。

 自己紹介は、ユーが隣のルバガンテを使命したことにより、自然と時計回りにする流れになった。

 ルバガンテの隣にいるのは、スキンヘッドが特徴的な筋骨隆々の大男だ。

 身長は恐らく二メートル半手前だろう。肉体は人間のままだが、コウモリの様な翼が生えておりまるで悪魔のように見える。翼のせいで服が着れないのか、上半身裸の野生児みたいだ。


「次は俺かな?俺はガンダス。肉弾戦を得意とする」


 彼は、テセウスが放った矢の雨を迎撃するでも回避するでもなく、その肉体で受け切った変異者だ。あの矢を全て受け切り倒れなかったのは、フィオルトと大男―ユーガンダスのみ。

 生身でスーツを着た異星人並の高耐久。性能としては、割とおかしい部分に片足を突っ込んでいる。

 ユーはガンダスの翼を指しながら聞く。


「その翼、飛行能力はあるのかな?」

「背筋だが?」


 即答だった。

 先ず言えるのは、どう考えても背中から生えているのは翼だ。背筋では無い、絶対に。

 聞き間違いか確認するためか、ユーが再度訪ねる。


「ごめん。聞き逃してた。もう一回いいかな?」

「背筋だ」

「翼だろ?」


 ガンダスの言葉にしびれを切らし、鱗の変異者がそう言い放っていた。

 他の受験者の態度が気に入らないのか、ガンダスは呆れたように頭を悩ませながら言う。


「ある日、雪が降りしきる地獄の中、鍛錬を積んでいる際に背筋が限界を突破し、肥大化したのだ」


 どう考えても雪を過剰摂取したことによる変異でしか無い。悲しい事に、おかしいのは雪で変異した背筋より、頭の方だった様だ。


「……なら背筋か」


 誰かが折れると、ガンダスは自慢げに羽撃いて見せる。


「見よ、この力強い羽撃きを。コレこそが我が背筋の為せる技!」


 ガンダスの翼が宙を仰ぐ度、彼の体臭の乗った温風が部屋に充満する。変異のせいか、妙に華やかな香りなのが腹立たしい。


「まぁ、飛行能力のある背筋も探せば有るだろう。次」


 指示に従い、中年の変異者が前に出る。


「オジサンはモリア。銃撃戦も近接戦もそこそこかな?にしても、皆強そうで安心したよ。オジサン、ルバガンテさんの後ろに隠れてただけだったし」


 中年の変異者――モリアは、確かに仮試験時にルバガンテの背後に隠れていた。しかし、まるっきり弱いとは思えない。何故なら、ノアの攻撃にビビっていなかったからだ。

 恐らく、彼がルバガンテの背後に隠れたのは、冷静な判断力と分析力から来た選択だろう。

 モリアの自信ない発言に、ルバガンテは首を傾げる。


「戦闘経験が無いのか?」

「得意では無いかな?路銀が浮くから、たまに護衛をしてる程度さ」


 戦闘が得意では無いにしては、肉体が仕上がっている。惜しむ所が有るのなら年齢だろう。戦士としてのピークは確実に過ぎている。

 護衛をたまにしかしないのは、そういった理由からに思える。


「普段は何を?」

「人の夢を代行して叶えてるのさ」

「代行?」


 聞き慣れない仕事内容に、俺は思わず聞き返していた。ユーや黒髪の男に目をやると、知らないとでも言うように首を横に振る。

 モリアが単独で行っている仕事なのだろう。

 周りの様子を見てか、モリアは乾いた笑いを溢して言う。


「ほら、富士山を登ってみたいとか、娘に会いたいとか、そういうのを本人の代わりに行って、写真とか土産話を持って帰るんだ。オジサン、特にやりたい事が無いから、やりたい事は有るけど出来ないって人の代わりにね」


 言い換えるなら便利屋や万屋に該当するのだろう。

 言われてみれば、確かにこの時代の富士山がどうなってるかは気になるし、知り合いが別のコロニーに居たら連絡も取りたい。内容的に、心温まる仕事のようだ。


「次は、お姉さんどうぞ」


 モリアは軽くお辞儀をしながら隣の女性に手を差し出した。

 前髪が切り揃えられた長い茶髪が特徴的な女性で、変異の様子は一切見られない。マスクも所持していないので、クローンかレベル0かⅠの適合者だろう。

 背には布で覆った何かを所持している。大きさは彼女自身の背丈と同じくらいで、非常に重そうに見える。


「私はカトウ・エイト。一応、射撃担当かな?」


 リュウゲンによる襲撃事件から、クローンの頬に刻まれていた数字は無くなった、カトウも例外ではない。

 名前からして、間違いなく彼女はクローンだ。それも八回目の命となれば、クローンで最も危険とされた戦闘員と予測できる。

 クローンは、誕生の瞬間から武器の知識をインプットされる。感覚を言語化するのであれば、自転車に久しぶりに乗っても以前と大差なく乗れるのに近い。武器の扱いを身体に刻まれている為、その武器の知識があれば問題なく扱える。

 身体能力の差は有るだろうが、武器の扱いは俺とカトウに差は無いだろう。差が生まれるとすれば、彼女が戦闘員として何の仕事をこなして来たかによる。


「一応?」


 鱗を生やした男が聞くと、カトウは武器に被せた布を捲る。それは、長距離射撃用の電気銃だった。それも、市販の物とは少し異なる。

 通常、電気狙撃銃はカートリッジ式なのだが、カトウの持つ銃はリボルバーと同じ回転式。ハスキの電気弓と同様オーダーメイドなのだろう。


「コロニー外の変異獣をちょっとね。でも、流石にノアって人程射撃が上手いわけじゃない。そういうアナタは?」


 話を振られた鱗の変異者は、胸を張りながら答える。


「俺はザスティー。近距離、中距離、遠距離、索敵。基本的に何でも出来る」


 本当に何でも出来るのかは判らないが、こういった器用な人は居ると安心する。

 気になるのは索敵方法だ。ザスティーは複数の武器を所持しているが、レーダーやカメラといった機器を携帯しているようには見えない。


「索敵ってどうやるの?」


 カトウに聞かれると、鱗の変異者――ザスティーは自慢げに自身の手首から鱗を一枚射出すると、コイントスをするように親指で弾いた。


「俺は鱗を飛ばせるんだが、それから信号を受信出来るんだ。で、相手を割り出して狙撃も出来るし、鱗をばら撒いて近接戦闘に持ち込んだりも出来る」


 なるほど、と俺は頷く。

 銃弾の様に鱗を飛ばせるなら、中距離戦が弱い訳が無い。体格や変異者由来の身体能力が有れば、徒手空拳でも猛獣並に強いはずだから、接近戦も弱点には成りえない。

 そのくせ索敵も出来るのだから、バランス面では随一と言える。自信溢れる態度になるのも理解できる万能さだ。

 順番に習い、次はフィオルトの番となる。

 異星人で目立つからか、フィオルトは軽く手を挙げるだけで注目を集める。


「索敵なら、私も出来る」


 相手が文明が発達した異星人ともなれば、ザスティーも張り合う気に成れないらいく、拗ねた様に口を尖らせて言う。


「まぁ、異星人だしな」

「フィオルトという。よろしく」


 フィオルトが名乗ると、ハスキが後を追う。


「彼と共に旅をしていたハスキだ。後……」

「テセウス。よろしくお願いします」


 自己紹介を手短に済ませたのは、ハスキが異星人である事を悟られない様にだ。

 ハスキとフィオルトは異星人でありこの時代の文化にはうとい。また、俺も単独行動が主だったので、こういった関わりに関して詳しい訳では無い。何かしらの地雷を踏むより、手早く終わらせたかった。

 俺が名乗ると、ルバガンテは首を傾げる。


「テセウス?」


 俺とルバガンテは初対面の筈だ。同姓同名の知人が居るか、変異による記憶障害が起きる前に出会い、俺がその事を忘れているか。だが、もし俺とルバガンテに面識が有るならば、もう少しリアクションが有っても良い。昔の知り合いと出会ったのに、会話も会釈も無いのは不自然だ。


「何か」

「いや……何でもない。それより次の者は?」


 ルバガンテに促されると、黒髪を束ねた男が杖を鳴らす。


「ルファン。別のコロニーで探索隊の副隊長をしていたんだけど、まぁ……遠征中にそのコロニーが無くなって、今に至るかな」


 要するに、帰る所が無くなって流れ着いた先がここだったのだろう。

 彼か名乗ると、モリアが関心したように頷く。


「君が慧眼けいがんのルファンか」

「慧眼?」


 俺が聞き返すとユーが説明する。


「識別名、判りやすく言うならば通り名のようなものだよ」

 

 そんな二つ名のような文化があるのは初めて知った。辺りを見てみると、他の人には馴染みのある物らしい。

 ユーが続けて言う。


「ちなみにルバ兄と私も識別名はあるよ」

「というか、大抵の奴はあるんじゃないか?」


 聞く話によると、戦闘に携わる者は識別名を得ている者が殆どの様だ。ルバガンテは『羅刹らせつ蟲者むしゃ』、ユーは『無頼ぶらい風月ふうげつ』、ザスティーは『弾く音色』と識別名があるとのこと。

 モリアは実戦経験が比較的少なく、そもそも戦闘しても報告をしないので識別名が無い。ガンダスは筋トレに日々を費やしていた為、識別名という存在を最近まで認知していなかったそうで、二人共その気に成れば名前を貰えそうな気がする。

 ここに居ない二人は『あま裂く機構士きこうし』ピアッソ、『地斬ちぎ鉄翼てつよく』のアルソードとそれぞれ名が有り、傭兵や護衛に関しては有名人らしい。

 ちなみに、カトウはそもそもクローンなので識別名とは無縁。そんな文化が無かった。

 周りがこうも実力者揃いだと、なんか気後れしてしまう。


「これで全員か」


 ルファンがそう言うと、皆一様に互いの顔を眺めた。

 全員が自己紹介を済ませたのを確認すると、ユーが呟く。


「割と粒揃いな気はするね」


 雰囲気や立ち振る舞いからして、俺以外は実力者が揃っている感じがする。下手に口出しが出来ずまるで、末っ子にでも成ったみたいだ。


「まとめ役は?まとまりは欲しいよね」


 カトウと発言通り、リーダーのとなる中核は必要だ。コミュニケーションエラーで仲間を誤射、なんて事態は避けたい。


「経験がある人が良いんじゃない?」

「あるいは、速攻脱落しない実力者か」


 ザスティーの一言を聞き、数名がルバガンテの方を見た。この中で腕が立つのが彼なのだろう。

 ルバガンテは、自分が視線を集めているのに気が付くと首を横に振った。


「私は経験が無い訳では無いが、近接戦が出来なくなるのは避けたい」


 それはそうだ。リーダーともなれば、仲間の位置や状況を考慮し、指示を出す必要がある。前線では後衛の状況まで確認する隙はないし、指示を出す隙もない。


「そういえば、アイツに一回ボコられたんだっけか?」


 ザスティーがそう言うと、ルバガンテはじっと彼に顔を向ける。虫化の変異だと表情が読み取れないが、いい気はしないだろう。


「何が言いたい?」

「いや、蔑みたいわけじゃねぇよ。ただ、大人数戦ともなれば、一度倒してる奴を放置はしないだろ?相手からすれば、手っ取り早く頭数を減らせる訳だし、自分の手の内を知ってる奴を早い段階で処理出来るなら、速攻潰したいだろ」


 ザスティーの発言は多少トゲが入り混じっているが、内容は理解できる。

 俺達がノアに優位なのは人数と、そこから来る情報収取力。人数が減るに連れて、その優位性は薄れる。となれば、各個撃破をしたいのが相手目線の考え。

 前衛は各個撃破の流れで一番脱落しやすく、そんな立ち位置の人にリーダーを任せることは出来ない。

 ルバガンテは不服そうに言う。


「まぁいい。私も自分自身が頭の器ではないことを理解している。だが、同じ相手に負けるつもりはない」


 勝てる自信もなくリベンジマッチをする人は居ない。何らかの勝ち筋くらいは持っているだろう。

 空気を変えるためか、カトウが話を変える。


「異星人さんは、誰が良いとかある?」


 唐突に話を振られたフィオルトだったが、動揺することなく受け止めて回答する。


「私は、人の思考には三つの種類があると考えている。一つは計算力、一つは想像力、一つは精神力」

「精神力って別じゃないの?」


 モリアの発言に俺も同意した。

 計算力と想像力が人の思考に重要は理解出来る。が、精神力で連想されるのは、騎士道精神とか武士道精神といった自分の意志を貫くもの。あるいは、精神的な我慢強さ。それが、思考に関わり有るとは考えたことが無かった。

 全くの無関係とまでは言わないが、競馬とマラソンの様にジャンルというか区分けが違うように思っていた。


「思考を放棄しない力、と言った意味で精神力を使っている。例えば、敵に包囲された際にどう切り抜けるか。投降が悪いとは言わない。皆殺しにされる事もあるが、戦うよりも被害が少なく事も有るだろう。問題なのは思考の末に投降したのか、思考を放棄して投降したのか」

「あー、アニメとかである上官が部下に時間稼ぎして逃げるやつってこと?」

「そう。パニックになって自分だけ生き残ろうとしたのか、考えた結果自分だけ撤退したのか」


 何となく理解出来た。

 フィオルトの言う精神力とは、どれだけ理性を保てるかを指しており、わば思考に用いる体力のようなものだろう。

 だとしたら、確かに重要な要素である。

 重要な局面で頭が真っ白になったり、思考停止して自分の命を優先する人にリーダーを任せる事なんて出来ない。今回のメンバーでは、一人逃走する人は居ないだろうが、頭が真っ白になる人は居るかもしれない。


「って考えると、その精神力が高い人に任せたいって思うかな」


 ユーの言葉に俺は頷きながら言う。


「じゃあ、フィオルトが適任なんじゃないか?」

「いや、私は遠慮させて貰う。異星人であるせいで、君達とは物差しが違う。君達の容認出来ない手段を提示することもあるだろう。そういった摩擦が無い者の方が良い」


 その上で、フィオルトはハスキの方を向いた。


「ハスキ。君ならどうだろう」


 異星人が人間を束ねるのは難しい。それは、フィオルトの口にした通りだ。文化、種族、基準、価値観、あらゆるものが人間とは異なる。そのため、互いの意思疎通が困難である。

 三人旅をしている時は、それが目立つことはなかった。だが、十数人を管理するとなれば話は別だ。必ず、取捨選択のタイミングが訪れる。

 俺は気になった。ハスキは異星人の姫であり、カリスマ性はある。そんな彼女が、今回の試験でどの様な指示を人に送るのか。興味が湧いた。

 皆に注目される中、ハスキは答える


「私は流れ者で、仲間以外の生存者とはしばらく無縁だったからね。他の人が良いと思うよ」


 てっきり了承すると思っていただけに、俺は悲しいともショックとも言い難い複雑な気持ちになる。

 ハスキが持つ世界が荒廃した以降の知恵は、俺が教えたものが大半だ。その俺は単独行動が多く、コロニーやキャラバンといった文化圏に属していなかった。

 なので、ハスキの選択は正しい。だが、それでも尚彼女が人を指揮する姿が見たかった。

 一連の流れを見ていたルファンが手を挙げる。


「なら、俺が立候補しよう」


 それは、願ってもない提案だった。

 ハスキが立候補しない以上、他の経験者として名前が上がるのは、昔探索隊の副隊長をしていたというルファン。皆の反応からして、経歴に嘘は無いだろう。

 ここまで口をあまり出さなかったので、議論に対して積極性に少し欠ける気もするが、指揮のとり方は十人十色。寧ろ、他のメンバーの議論を俯瞰ふかんして見る事が出来るとも考えられる。


「君なら確かに適任かな?」

「異議なし」


 モリアの言葉にユーが賛同する。

 特に反論もなく、リーダーはルファンに決定。彼の指示に従い、今後の方針を定める事と成る。


 第一にノアの情報収集。

 第二に防衛拠点の強化。

 第三に受験者同士の連携。


 手早く課題を目に見える様にするのは、彼の長年の経験からだろう。

 最初の議題はノアについて。敵を詳しく知るのが戦闘の基本。噂程度でも知ってることを受験者同士で話し合う。しかし、集まるのは彼が如何に強いかという情報が殆ど。

 射撃が得意であり、狙撃に関しては日本一と言われても差し支えない。触手という無数の腕もを持ち、身体能力も高いので近接戦も強い。鋼鉄並みの硬化が可能で、身体の一部を武器にも盾にも出来る。レーダー顔負けの索敵能力がある。高い自己再生能力を持ち。目が良いらしい。飛べる。

 戦闘面に関して非の打ち所がないらしく、攻略は難航した。


「誰か、アイツの弱点とか知らないのか?」


 投げやりなザスティーの言葉の裏で、俺は医務室でノアと医師の会話を思い出していた。

 弱点というか、気掛かりな部分はある。

 先ず、戦闘出来る時間は最長で三日間。それも、寿命を削る程無茶をしてだ。となると、この三日間の試験で本気を出してくるかは判らない。

 彼が戦闘に用いる戦術が自傷行為の様な負荷が掛かるもので、それを行う度に寿命を削るのかもしれないし、単純に身体を激しく動かすだけでも身体に負荷が掛かるのかもしれない。

 前者の場合、肉体負荷が掛かる特定の行動を禁じられているだけで戦闘自体は本気で出来る。

 後者の場合、そもそも本気で動ける状態なのかも怪しいものだ。

 気掛かりは、肉体面だけでは無く精神面にもある。

 医師がノアの精神状態を気にしており、一人にすることを懸念していた。今回の試験官はノア一人、医師が懸念していた単独行動に合致する。

 悩ましいが、手心を加えて負けるのも良くはない。ノアは、医務室で俺と会っている。なので、肉体的な弱点について俺が知っていると思っても不思議はない。その場合、彼が手加減されたと判断する可能性は十分ある。

 渋々、俺は口を開く。


「心当たりはあるけど……」

「何?」


 ノアは、恐らく俺が医務室で話を聞いていた事に気が付きている。気を使われた、とは彼に思われたくはない。

 俺は、そう自分に言い聞かせた。


「医務室で偶然会ったんだけど、遠回しに長時間の戦闘は避けるように言われてたのと、精神状態があまり良くないとか」

「精神状態って?」


 カトウの質問に、俺は付け加える様に答える。 


「一人に成るのが苦手みたい」


 俺が言い終えた直後、視界の端で顔色が変わった人が居た。ルファンだ。

 彼は、何か不味い事に気が付いた様で、思考を巡らせている。

 ユーもそれに気付いた様で、直ぐに問い掛ける。


「ルファン、どうかした?」

「彼に妻が居るという話を聞いた」


 ヴィヴィの事だ。

 ヴィヴィはノアの事を旦那と呼んでいて、見た目からして彼よりは弱そうに思える。


「まさか、そいつを狙うとか言うんじゃないだろうな」


 ザスティーの発言を、ルファンは真っ向から否定する。


「無しだ。正々堂々と戦わなければ、試験の意味がない」


 当然の考え方だ。

 俺達はあくまで護衛。人質を取る様な盗賊まがいな事はしたくないし、依頼主の風評も悪くなるので出来ない。


「それに、怒らせる事になったら不味いんじゃあ」


 カトウの言葉に全員が頷く。ノアは、近隣でも一二を争う実力者。怒らせてしまえば、何が起きるか判らない。


「判ってる。だから、保護をしないと」

「あぁ……、ここに居ないピアッソとアルソードは狙うかもしれないのか」


 モリアは顎をさすりながら短く何度も頷く。

 他の受験者を盾にした二人だ。手段を問わないとなれば、人質作戦を決行する可能性は高いように思える。


「面倒なことになったね」


 ハスキが眉を潜めながら呟いた。彼女は、ヴィヴィと面識がある。巻き込まれるとなれば、思う所が有るのだろう。

 ルファンは、少し考えると指示を伝える。


「テセウスは医師から情報の確認を」

「了解」


 突然の名指しに背筋を伸ばした後、俺は頷きながら答えた。


「俺は彼の妻を捜索する。カトウは、ここの一帯を調査して狙撃に適した地点を探して欲しい」


 名指しされなかったメンバーは、各々の判断で指名された者の仕事を手伝う様に指示が出される。

 俺の仕事は危険度が少ないからか、直ぐに人が付いてくる様子はない。他の仕事、ヴィヴィ捜索に関しては試験の難易度が上下する可能性があり、一帯の調査は変異獣に遭遇するリスクがあるので、それだけ人数が必要となる。

 他の人が話し合う中、待つのも億劫おっくうに思えて俺は拠点を後にした。直後、俺を追う足音が一つ。


「フィオルト?」


 俺は振り向いた。

 フィオルトは足音が重いのですぐに判る。先ず、フィオルト並の重量の者は居ない。また、次点で体重の重そうなルバガンテに関しては、異形であり四足歩行なので足音が多く、これもすぐに判る。


「私も彼の様子は気になる」


 意外だったのは、ハスキが居ない事だ。


「ハスキは別行動?」

「顔を知っているからヴィヴィの捜索をしたいと」


 確かに、ヴィヴィの顔を知っているハスキは捜索の適任だ。一緒に行動できないのは寂しいが、仕方ないだろう。


「私も一緒に行動しても構わないかな?」


 フィオルトの背後から声がした。見てみると、腰に刀を携えた女性だ。


「ユーさん、で合ってる?」


 俺が確認すると、彼女は屈託ない笑顔で返す。


「タメ口構わないよ。敵の弱点は知りたいしね」


 他に付いてくるひとも居なさそうだったので、俺達は歩きながら話をすることに成った。

 幸い、コロニーに近いので変異獣が少ないので、危機感から神経を磨り減らす必要もない。


「ユーって、何で今回の試験を受けたの?」

「ルバ兄を倒した人だからかな」


 ユーとルバガンテは、普通の仕事仲間の様な関係で無いことは一目で判る。が、何処まで踏み込んだ関係なのかはさっぱりだ。


「どういう関係?」


 彼女は、少しあらたまった調子になり、背筋を伸ばして言う。


「私が奴隷狩りに襲われてる時に助けられてね。その後、生き方を教わったんだ」


 命の恩人であり恩師でもある。この世界、心許せる者は数少ない。


「だから助けようと」

「え?」


 会話の流れ、てっきり恩返しの為に参加したのかと思った。フィオルトの方を見て確認すると、彼も同様の考えをしていたのか、サッパリ判らないと言いたげに首を左右に揺らす。


「リベンジを助けたいんじゃないの?」

「いや、ルバ兄を倒したノアを倒せば、実質私がルバ兄を倒した様なものだと」


 要するに、ノアを物差しに使いたいのだろう。

 ユーに何もしていないにも関わらず、全力で斬りかかられるノアが少し可愛そうに思える。


「そういう君達は?」


 ユーの問いに俺は空を見上げた。

 珍しく雪も少ない澄んだ空だ。心なしか、世界が荒廃する以前よりも綺麗な空に見える。


「フィオルトを宇宙うえに戻すために」


 正確にはハスキとフィオルトを戻す為だが、嘘は言っていない。とはいえ、こういった証言をするのは気が疲れる。


「なるほどね。なら納得かな」

「納得出来るんだ」

「キャラバンと目標としてるコロニーの統治者が異星人だからね」


 俺は、昔フィオルトが言っていた事を思い出す。

 フィオルトと出会ったばかりの頃、彼は西に同胞の居る地が有るので、そこを目指したいと言っていた。恐らく、それが異星人の統治しているコロニーのことなのだろう。

 奇しくも辻褄が合った事に俺は安堵する。その最中、フィオルトに背中を突かれた。


「何?」

「彼女、多分違和感を覚えた」


 ユーに聞こえない様にか、フィオルトが囁き声でそう言った。

 思わずユーの方を見ると、口をすぼめて顔を反らしている。


「聞こえてるよ。わざわざ触れないであげたのに」


 そう言うと彼女はため息を吐き、舌の根も乾かぬうちに話を続ける。


「宇宙に行きたいのって、多分もう一人の子でしょ?」


 完全に見抜かれている。

 こうなってしまえば、否定しても意味がない。気になるのは、何故バレたのかだ。


「何でそう思ったの?」


 俺が聞くと、彼女はフフッと笑い嬉しそうに答える。


「会話中に突然気を抜くんだもん。だから、嘘が通ったと思って安心したんだと思って」


 正確には嘘は言っていなかったのだが、気を抜いてしまったのは事実だ。ユーの様な詰め方をされてしまったら、発言の真偽なんて意味をなさないだろう。

 フィオルトは、関心したように頷く。


「感覚が鋭いのか」

「どう言えば良いのかな?緊張してるか……いや、気を張っているか?判る感じ。だから、会話の最中に気が抜けたタイミングがあれば、自然と嘘も判るんだよね。応用すれば、ブラフもフェイントも判るよ」


 嘘情報を掴まされ難く成るのは、確かにメリットとして大きい。それに、戦闘で使える応用技があるなら今回の試験でも使える。

 気掛かりなのは、その技を共有していない事だ。


「それって、皆に言わなくて良いの?」

「合格したら言うけど、試験中は言わないかな?ノアの気配は判んなかったし」


 そういえば、ユーはノアの攻撃を少なからず被弾していた。と考えると、万能とは言い難いように思える。

 気になるのは、彼女が気配を感じ取る事の出来ない条件。


「それは、実力差的な?」

「リラックスしてるんだよ。最後、矢を飛ばしてくるの判んなかったし。まぁ、実力差があるせいで眼中に無いって思われてたなら、実力差が有る相手に使えないっていうのは間違いじゃないかな?」


 そこまで言うとユーは俺達の方に向き直り、続け様に言う。


「一応言っておくけど、詮索はしないから安心して。下手に首突っ込むと巻き込まれかねないし」


 面倒事に巻き込まれない様にするのは、懸命な判断だと思う。

 素性を隠している人が異星人とチームを組み、しかも宇宙に行きたがって居るのだ。俺だって、ユーの立場なら警戒する。

 フィオルトは、少し考えた後に訪ねる。


「君のその感覚で、実力を測れたりはしないのか?」

「大雑把になら出来るかな?」


 その言葉に、俺は羨望の眼差しを向ける。

 見ただけで相手が強いか弱いか判るのは、生存において重要な技術の一つ。先ず腐らない。

 俺の視線のせいか、ユーは気が乗った様子で言う。


「先ず、ノアって人は本当に強いね。リュウゲン相手に引き分けたってのは嘘じゃない」


 リュウゲンの噂は聞いたことがあるが、出会ったことがないのでイマイチ想像しにくい。

 フィオルトは、腕の端末を操作して宙に映像を投影させる。ホログラムというやつだろう。


「比較として、見せたいものがある」


 映し出されたのは、黒い鬣をなびかせた一体の竜だった。遺体の様に白い肌、巨大な右腕と細長く複数生えた左腕。

 そんな姿の怪物が、複数の異形兵と戦闘している。


「これは?」

「永久の都に居たマスターが変異外殻というのを使った姿らしい。それで、これとどちらが強そうに見える?」


 ユーは顔をしかめながら応える。


「げ、これがマスターか……。映像から気配が判る訳じゃないんだけど……あ~でも、ノアの方が強いかな?」


 思いの外、早々に結論が出た。それも、個人的には予想外の結果だ。

 見た目の邪悪さで言えば、間違いなくマスターに軍配が上がる。それに、マスターに勝てる想像が一切浮かばない。器用さ、素早さ、頭の回転といった分野ならば、ノアの方が上なのだろう。が、強さといった戦闘力を採点するなら、マスターの方が恐ろしい。


「理由は?」

「これがリュウゲンと互角に戦えるとは思えないから。異形兵ってさ、リュウゲンなら簡単に処理出来るんだよ。で、それに苦戦した時点でリュウゲンの下位互換?ぽいからさ。ってなると、リュウゲンと互角だったノアには勝てなさそうというか」


 納得して俺とフィオルトは頷く。

 確かに、視線を異形兵に向けてみれば気付く事もある。

 異形兵は確かに強力だ。しかし、戦闘に特化した変異者ならば一対一でも渡り合えそうに見える。となると、武装した変異者三、四人相手に苦戦している訳なので、仮試験時に威嚇射撃でその場を支配したノアの方が、確かに強そうに思える。


「なるほど、判りやすい」

「見立ては正しそうだ」

「どうも」


 ユーは照れながら頭を掻く。

 本題はここから。


「それで、今回の受験者の実力は?」


 問題は、本試験に挑む受験者の実力。

 受験者十二名の内、ノアを倒せるものは居るのか。

 ユーは特に悩むでもなく結論を出す。


「パワードスーツ着てるアナタが判んないし、一旦君達三人を無視すると、一流って感じのはルバ兄とルファン、ピアッソの三人かな?その次がアルソード、ザスティー、ガンダスは……ここでも良いか。最後にモリアとカトウかな?」


 自分自身の名前が入っていないのは、自分の実力を気配で測る事が出来ないからだろう。

 俺とハスキが護衛で生計を立てている人達と並ぶとは思えないから、モリアやカトウと同じ辺り。フィオルトは、雑に上位に入れても問題が無さそうな気がする。

 残ったユー本人に関しては、ノアが攻撃をしてくるとは思わなかったと言いつつ、その実しっかり攻撃を撃ち落としていた辺り中位相当の実力はあるだろう。

 となると、


 ティアA∶フィオルト、ルバガンテ、ルファン、ピアッソ

 ティアB∶アルソード、ザスティー、ガンダス、ユー

 ティアC∶モリア、カトウ、ハスキ、俺


 と当てはめるとしっくり来る。

 変異していない人間組みに、ちゃっかりモリアが紛れているが、年齢的にピークを過ぎていそうなので妥当なのだろう。

 そんな事を考えながら、俺達は医務室へ向かった。



・・・



 医務室に到着すると、俺達は医師であるトウカクに試験の話を伝えた。

 やはりと言うか、当然の言うか、トウカクはいい顔をしなかった。


「……という事なんですが」

「なるほど」


 医師は考え悩む。取り乱している訳でも無いので、直接的に命に関わる訳ではないのだろうが、顔色は優れない。


「あの人って、そもそも三日間の実戦試験に耐えれるんですか?」


 個人情報なので即答はしなかったが、トウカクは悩みながら応える。


「彼の戦闘スタイルは、部位の硬化と自切をすることにより即席の武器を作るもの。彼は自切の度に自己再生で回復するんだけど、流石に頻度が早くてね。細胞分裂には限界がある。だから、三日が限度な訳だけど……」

「じゃあ、自切しないで武器をそのまま用意するんなら、身体に害は無いのか」


 大抵の生き物の細胞分裂には限界がある。なので、自己再生をすることにより寿命が縮まる。ノアの余命宣告は、それが理由なのだろう。

 だとすれば、自切しないで戦闘するように切り替えた場合、寿命を縮める事無く戦える筈。

 そう考えて発言したのだが、トウカクは悩むだけで頷かなかった。


「どうだろう……。私が想像してるより、彼は成長速度が早いんだ。だから、こうしてれば安全と言い切れなくてね」


 つまり、変異内容自体が延命に向いていないのだろう。人の寿命を縮める変わり、その短い命に力が圧縮されている。

 理屈では理解できるが、恋人が居る者には余りにも酷い罰だ。

 俺が眉をひそめていると、トウカクは付け加える様に言う。


「まぁ。彼にもやりたい事はあるようだし無理はしないだろう」


 それはそうだ。恋人が居るのに、試験で寿命を迎えるなんて事は流石にしないだろう。そうなれば、流石に試験どころではない。

 重苦しい雰囲気の中、フィオルトが手を挙げる。


「一つ確認がしたい」

「何かな?」

「細胞分裂に限りが有るから、短命というのは理解した。なら、万能細胞を投与することで延命は出来ないだろうか」


 確かに、俺が生命維持装置を使用していた際、万能細胞には助けられた。アレを利用すれば、ノアの寿命問題は解決しそうに思える。

 しかし、トウカクは首を横に振る。


「延命は出来るよ。ただ、本格的な解決にはならない。万能細胞だって無限に有るわけじゃないし、最終的には万能細胞の投与が間に合わなくなるだろう」


 原因が解決しない限り、事態は解決しない。

 となると、気になるのはノアに似た他の変異者だ。自切が短命化を引き起こすのなら、他の人がどうやって対処しているのか。


「自切とか出来る人って、皆こういう短命だったりするものなんですか?」

「人による。それこそ、ノアのケースが普通なんだけど、例外として細胞分裂に限りがない様な変異の内容なら、自切なりで寿命を迎える事はないらしい。細胞分裂に限りがないってことは、事実上寿命が無い不老みたいなものだからね」


 寿命で死ぬことがない生き物は確かに居る。なので、不老の変異者も当然居るだろう。

 会話の途中、フィオルトの端末が鳴り響く。向こうで何があったらしい。


「失礼」


 そう言いながら席を外すフィオルトの背を、俺とユーは眺める。

 程なく、フィオルトは通信を切り上げて戻ってきた。


「ヴィヴィを確保したらしい」



・・・



 その後、トウカクから聞ける話も無いということで、俺達は別行動しているグループとの合流を目指す。


「ユー、その……長話ごめん」


 俺はユーに謝った。

 元はノアの弱点を聞き出す為に情報収集していたのだが、いつの間にか彼の身体を案じていた。

 その会話に、彼女を巻き込んだことが今となって忍びなく思ったからだ。

 俺の謝罪に、ユーは首を振る。


「私は別に構わないよ。それに、閃いたこともあるし」

「何かあるのか?」


 俺が聞くと、ユーは自慢げに応える。


「医務室に行く途中、変異外殻の話あったでしょ?あぁ言うので変異させるのを第二変異って言うんだ。で、それを誘発させれば本人の変異を捻じ曲げて別の変異を促せれる訳」

「なるほど。それで変異内容が変われば解決するかもしれないのか」


 トウカクの話からして、ノアが余命宣告された理由は自切行為の他に、変異による急成長が原因に思える。

 その急成長により肉体に負荷が掛かっているのなら、変異の内容が変えて成長速度を遅らせれば、延命も可能だろう。


「ただ、第二変異って自然では起きないから、誘発出来る何かを使わないといけない。その有名なのが変異外殻とか感染型の変異者とか」

「感染型?」


 そんな形態の変異者も居るのか。と、俺は首を捻った。感染ということは、菌に近いのだろうか。とは言え、菌に伝染することで延命出来るイメージが湧かない。

 菌や感染で想像出来るものと言えば、病気辺り。どう考えても延命とは程遠い。

 俺が理解できずにいると、ユーは少し考えた後に説明する。


「ゾンビに噛まれるとゾンビになる、吸血鬼に噛まれると吸血鬼になる。イメージ出来た?」


 確かに、パニック映画の代名詞といえるゾンビ、オカルトとして人気な吸血鬼、この二つは噛むことで種族を増やす感染もの。完全に盲点だったし、感染型と呼ばれるのも理解出来る。


「超納得した」


 俺は思わずそう感想を溢していた。

 そんな俺に、ユーは質問する。


「ところでさ、何で君はノアの心配してるの?」


 そう言えば、最初はノアの弱点を探すつもりだったのだが、気が付いたら彼の身を心配していた。

 何故、その流れに成ったのかは覚えていない。


「何でだろ。何か気になるんだよね」


 出会って数回、顔馴染み程度の間柄の筈だ。

 赤の他人とは言わないまでも、友人と呼べるには少し距離がある筈だ。

 なのに、何故か俺はノアに対して親近感を覚えていた。

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