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退廃世界のパラドックス  作者: アマテル
退廃裏世界1章∶彼方に捧ぐ純潔の葬送歌
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幕間・月光の誓い

 夜。獣達が森を駆ける。落ち葉と雪を巻き上げ、進む先にいたのは一人の女性だった。

 月光を浴びて煌めく純白の髪、透き通るような白い肌。日の光を帯びたトパーズを思わせる金色の瞳。変異の予兆が一切ない肉体。

 彼女は、俗に言う異星人だった。


「かッ……!」


 女性の背中に獣の頭突きが直撃する。彼女の口から空気が溢れ、動きが停止する。

 受け身を取ることすらままならず、身体を枯れ木に打ち付けた彼女は、身体を反転させて木に身体を預けながら呟く。


「申し訳ございません、姫様。あなたの分まで生きるという誓い、どうやら守れないようです……」


 眼前に迫るのは、変異獣達の群れ。

 鋭い牙と爪を携え、本能のまま血肉を貪る獣。そんな怪物を目の前に、希望なんてものは一切ない。

 議論や取り引きの余地は皆無。力で敗れた以上、後は死ぬのみ。原始的にして、非常にシンプルなルール。

 彼女は、痛む身体を抑えながら最期に笑ってみせた。


「少し期待したんですけどね。白馬に乗った王子様というのを」


 瞬間、女性の眼前に群がる獣達が一斉に消し飛んだ。

 十匹近く居た変異獣が居た場には、クレーターが有るのみ。その中心には何も無い。まるで、空間そのものが爆発したかと錯覚しそうな惨状。

 事態を理解出来ずに絶句する女性の元に、土煙を搔き分けて黒い触手に覆われた獣が姿を表す。その背には、白い珍獣。

 黒い獣は、女性に触手を差し出しながら言う。


「大丈夫?」


 見た目に反して優しい声色に、彼女はある童話を思い出す。それは、ある国の王子が呪いによって怪物に変身させられる物語だった。

 女性は、目を丸くして差し出された触手と黒い変異者の顔を交互に見る。


「……良く、私を見つけましたね」


 彼女は、逃走中に他の変異獣が来るのを避けるため、明かりや声を発する事を避けていた。都合、遠くから見つけることは不可能に近い。

 黒い変異者は記憶を辿る様に斜め上を見上げながら応える。


「助けを呼ばれた気がしたから」


 助けなんて呼んだ覚えはない。そう口にしようとした女性の頭に、ある考えが浮かぶ。

 助けを口にした記憶は確かに無かった。が、助けを期待したのは紛れもない事実だった。

 もし、その願いを感じ取ったのだとしたら、彼には人の心の声を察知出来る可能性がある。と、彼女は考えた。 

 女性は、力を振り絞る様にして一度預けた身体を持ち上げ、片膝を立てて地面に座る。


「一目惚れ、というものでしょうか……」


 それは、忠誠を誓う騎士の姿勢だった。

 無論、異星人である彼女にとって、そんな文化は有りはしない。ただ、郷に入れば郷に従えという言葉の通り、この星の文化に従ったに過ぎない。

 残すは誓いの言葉。

 思考を巡らせる間もなく、彼女は言葉を紡ぐ。


「この生命、この心。私の持つあらゆるものを、忠誠と共にアナタに捧げます」


 そして、彼女は差し出された手を受け取ると、静かに口付けをした。

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