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退廃世界のパラドックス  作者: アマテル
退廃裏世界1章∶彼方に捧ぐ純潔の葬送歌
16/35

5.孤高なる武士

 ヴィヴィと別れてから程無く、大地を震わせる雄叫びが木霊こだました。圧倒的な声量により、離れた場所にいるというのに、その地面の砂までもが左右に揺れた。


「今の咆哮は?」

「襲撃の合図だな。本格的に永久の都の攻略が始まった」


 見てみれば、飛行部隊が上空から一斉に攻撃を仕掛け、地上ではコロニーの防壁を破ろうと画策している。


「そうか……」


 瓦礫の雨霰を受けても尚、コロニーの防壁にはヒビどころかかすり傷一つつかない。アレを突破するのに、リュウゲンの力は不可欠だろう。

 俺は、最後にもう一度装備の確認をする。装備と言っても、武器はオリエナ一つ。傷一つない強弓の弦をそっと指でなぞる。

 先日、全力で矢を放ていたが、オリエナが痛む様子はない。変異者を素材に作られた装備。ただ単純に、頑丈という訳でもないだろう。

 俺は、オリエナを背に戻す。準備は万端。後は、リュウゲンとの直接対決に挑むのみだ。

 準備する姿を見ていた男が、酒を煽りながら手を振る。今回の戦いの勝敗を賭けにしているらしい。


「精々頑張れよ!お前に賭けて――」


 そう言いかけた見物人は、眼前を歩き通過する男を見て口を開けたまま止まる。

 その男は、黒い虫化の変異者だった。肉体が完全に変異仕切っているレベルⅤ。それでありながら、パット見の骨格は人間そのもの。人間のように一対の腕。しかし、腰から下にはバッタに似た四本の足が生えている。

 細身の全身は甲殻に覆われ、胴には亀の甲羅のような形に節が形成されている。本来は柔軟性に乏しい筈の虫化の変異だが、あまり期待出来そうにない。それに、細身とはいえ筋力も侮れない。

 アリは、自重の百倍の物を持てるという有名な話もある。それに匹敵する筋力かは判らないが、獣化の変異とは違い、見た目で筋力の判別は出来ない。

 腰に携えた刀からして剣士なのだろう。

 虫の変異者は、俺を見ると刀に手を置く。


「誰?」

「ルバガンテ。リュウゲン殿に義理あって、君の足止めを任された」


 虫の変異者――ルバガンテの身長は目算でニメートル半と高身長。加えて、変異の内容も隙がないものに見える。完成された変異者とでも言えばいいのだろうか。

 余分な部位は一切無い。故に弱点も見当たらない。

 俺は見物人達から離れながら言う。


「足止めねぇ」


 ルバガンテも俺の行動に乗るようで、一度刀から手を離し、周りを巻き込まないであろう場所に移動する。

 遮蔽のない平地。弓の独壇場ではあるが、虫化の瞬発力相手に、弓を構える暇があるのか疑問だ。


「リュウゲンに次ぐ実力者だ。気張りな!」


 見物人の忠告に、俺は触手を振りながら返す。


「あいよ」


 俺は、触手を束ねて硬化させ、即席の棍棒を生成して左手に構える。攻防の最中に時間制限で崩壊するのを懸念し、自切はしない。上半身の体重は右腕に任せ、打ち合う判断。

 俺の行動を確認すると、ルバガンテは地面を踏み固めた後に構える。腰を割り、姿勢を低く、抜刀したした刀を居合のように脇腹に潜ませる。まるで、限界まで圧縮したバネの様相。その内包した力を解き放つ瞬間を、今や遅しと待っている。

 相手の武器は刀。鈍器による攻撃なら武器破壊も容易。加え、こちらが接近戦でも問題ない事をアピールするためでもある。

 俺の得意な距離は、中距離から遠距離。接近戦は苦手とは言わないまでも得意ではない。精々護身用とか対応可能といった評価妥当。肉体が完全に変異する以前の戦闘スタイルも中距離基準だった為、この考えに間違いはないだろう。

 俺は、接近戦の経験値が極端に少ない。それも当然、この世界で接近戦を選ぶということは、身体能力に優れた変異獣を捻じ伏せる事が出来るのが大前提。今の俺なら可能だろうが、その状態に至ったのはつい最近。時間的に、経験を積む暇なんてなかった。

 変異者同士の戦闘経験は、体験は愚か見たことすらない。そういう意味では、リュウゲンと戦う前に他の変異者と戦闘できるのは幸運ですらある。

 俺が深呼吸をすると同時に、ルバガンテは瞬時に距離を詰める。変異によって獲得された跳躍力。それはさながら、雷の様な速度だった。


「いざ、切り結ぶ時」


 どこぞの剣客の言葉に、『切り結ぶ、太刀の下こそ、地獄なれ、踏み込みいれば、ここは極楽』という言葉があるのを思い出した。戦闘中に、そんなことに頭を働かせる余裕があるのか、と自分に冷ややかな想いを向けながら、その言葉に乗るのも悪くない、と俺は一歩踏み込んだ。

 ルバガンテの一閃に、棍棒が導かれる。迎撃のために踏み入った訳ではない。ただ、進んだと同時に身体が動いていた。

 放たれた斬撃を打ち落す。棍棒越しに伝わる振動と感覚、刀に対する手応え。

 敵、武器に損傷。僅かな刃こぼれ。

 トウカクと握手した際、まるでその構造を理解する様な感覚を覚えたのを思い出した。あの感覚が、戦闘に生かされている。

 打ち合う瞬間、薄氷うすらいを割るような感触。そして、認識する刃こぼれ。衝撃に耐えかね、震えるルバガンテの腕。

 ルバガンテは反射的に距離を取り、自身の腕を抑え震えを止める。


「鋼鉄並の硬化能力とは、恐れ入った」


 ルバガンテは地面を踏み固める。俺が射撃の際に深呼吸をするように、彼にもそういったルーティンがあるのだろう。

 互いに呼吸を整える。

 一打目は退けた。問題は、能力の割れた二打目以降。


「いざ、再び」

「「切り結ぶ時」」


 彼の言葉に、俺は自然と合わせていた。

 言葉と同時に来る相手の突進。それに合わせ、棍棒で薙ぎ払う。それを見越してか、ルバガンテは身体を地面に滑り込ませる様に強引に俺の懐に潜り込み、攻撃を掻い潜る。

 刀身が煌めく、斬撃の合図。

 瞬間、俺は背の触手をアンカーのように地面に突き刺し、上体を起こしながら首を後ろに。一瞬遅れ、俺の鼻先を白刃が通過した。

 アンカーを切断し、俺の身体は倒れ込む。その勢いと体重を、俺は右腕に乗せ振り下ろす。

 ルバガンテの身体がひるがえると同時に刃が鮮やかな円を描き、俺の腕を受け流す。鉄の義手と刃が火花を散らし、今度は互いに距離を取る。

 反射神経は恐らく五分。だが、身体的な敏捷性はルバガンテの方が上。俺は、触手や柔軟性で差を補っているに過ぎない。

 筋力は、大体七三くらいの割合で優勢。とはいえ、最初の打ち合いでそれが露呈ろていしているため、筋力勝負に持ち込まれることはずない。

 俺とルバガンテを他所に、外野が歓声を上げる。


「今の打ち合いで互いに無傷かよ!」

「これを賭けにしなかったの惜しいなぁ……!」


 俺は思わず溜息吐く。見世物にされているようで、いい気はしない。ルバガンテも同様で、視線を外に向ける。


「うるさい外野だ」

「いいよ別に。次で最後だから」


 俺がそう告げるとルバガンテと視線が交差し、彼は鼻で笑う様に空気を零す。


「いいだろう」

「「いざ、切り結ぶ時」」


 一回目は棍棒で、二回目は義手で打ち合った。ルバガンテは、同じ手が通用するような相手ではないだろう。それ前提で、手段を変える。

 俺は、触手を伸ばしながら棍棒を回転させる。高速回転する棍棒を傘のように頭上に構え、ジリジリと領土を広げる。

 触手を鎖、棍棒を鎌に見立てた鎖鎌。いや、棍棒は鈍器なのだから、分銅に見立てたほうが正しいだろうか。

 やはり、中距離的なこちらの方が安心感がある。しかし、ルバガンテの眼光を見た途端、その感情は失せた。


「なるほど」


 と、彼は呟き、四足のうち後ろ二つを畳み込み、人間のような二足の形態に以降。体制を低く、四足獣に似た前傾姿勢で跳躍の構えを取る。それを見て俺は鎖鎌を地面スレスレに傾けた。

 風圧で雪が舞い上がり、土が露出する。

 俺の対応を見ても、ルバガンテの姿勢は変わらない。寧ろ、念入りに地面を踏み硬め、地に手が触れる程に体制を前に傾け、疾走した。

 触手越しに伝わるリズミカルな感覚。タンッタンと軽快に、高速回転する鎖鎌の鎖を足場に弾む。そこに、一切の迷いも躊躇もない。出来ると確信している者の、確かな足取り。そして、俺の頭上まで跳ねると、空中で刺突の構えを取る。

 回転するヘリコプターのプロペラの隙間を射抜く様なものだ。しかし、俺には確信がある。

 ルバガンテが鎖の上で跳躍する際、その鎖で感じた手応え。冷静かつ軽快な足取り。それは、成功の光景が見えてるもののそれだ。

 彼なら、確実に刃を通してくる。鎖鎌の鎖だろうが、ヘリコプターのプロペラだろうが関係なく。

 突き立てられた白刃か瞬くのに合わせ、身体をよじりながら鎌を自切する。

 刃が俺の頬を掠める。

 俺は、鎖を硬化させて自切。遠心力により放たれる即席の刀を右手で掴むと、ルバガンテ目掛けて振るう。

 空中により、回避は不可。俺の手にした刀は、不完全な硬化状態でありながら、ルバガンテの懐を捉える。そして、そのまま彼を地面に叩きつけた。


「ガッ!」


 轟音と共に衝撃により地面が振動し、土煙が舞う。その揺れが止まるまもなく、周囲から歓声と驚愕が響いた。


「ルバガンテ相手に無傷?!」

「接近戦なら、リュウゲンでももう少し苦労するのに」

「『竜星』以外だと勝負に成らないんじゃないか?」


 勝負の時間は、途中での会話を除けば三度の打ち合いを合計しても十五秒未満だろうか。見物人からすれば、余裕に見えたかもしれないが、そんなことはない。

 ただ、リュウゲン相手でも勝負が成立する旨の言葉により、僅かに肩の荷が降りた気がした。少なくとも、レベル差が有りすぎて勝負にならない、なんて展開は無さそうだ。

 俺が立ち去ろうとする視線の端で、ルバガンテは身体を持ち上げようと震えていた。まだ動ける事に驚くも、彼が起き上がる気配はない。身体の自由が効かないと言った様子で見物人のうち数名が動くのを制する。

 最初の想定では、雪の上に叩きつける予定だったが、ガッツリ地面に叩きつけてしまった。相手がヴィヴィやハスキなら、恐らく死んでいたであろう威力。見た目こそ損傷が少ないが、ただでは済まない。意識があるだけで異常だ。

 自分の容体を知ってか、ルバガンテは横たわりながら言う。


「恐ろしいな……君は」

「アンタも大概だよ」


 鎖の上を跳躍した際は、流石に肝が冷えた。ただ、こと速度においてはヴィヴィほどのものは感じなかった。仮に、ヴィヴィの敏捷性を目の当たりにせずに戦ったのなら、想定外の機動力に翻弄されただろう。


「誇るといい……。君ならば、彼の『竜災』にも手が届くだろう。私は、まぁ……ここで見させて貰うとする」


 身体を持ち上げるのに限界が来たのか、ルバガンテは地面に身体を預ける。立ち去るついでに、俺は言い添える。


「賭けに参加するなら、俺に賭けな。絶対勝つ」


 そう言い残し、俺はその場を後にした。



 ・・・



 リュウゲンの下に移動する最中、コロニーの様子を伺っていたが、状況はかんばしくない。

 想定よりもコロニーが頑丈らしく、地上部隊がゲートを突破出来ず、潜入部隊が孤立している。加えて、潜入部隊が通った通路も見つかっているらしく、今となっては使い物にならない。

 潜入部隊が各個撃破されるのも時間の問題だろう。

 リュウゲンが居る場所は直ぐに判った。彼の巨体を隠せるものなんて、辺りには無かったからだ。

 丁度、永久の都と変異者達のコロニーの中間付近だろう。幾つかのテントが立ち並び、そこを武装した変異者が出入りしている。その中、不動といったただ住まいで、赤い竜は鎮座していた。どうやら、ここを本部としているらしい。

 リュウゲンは、コロニーの様子を静かに眺めていた。変異者達を指揮するでもなく、虎視眈々と何かを狙う様に、静かな視線をコロニーに向けている。

 こちらをチラリとも見ずにリュウゲンは言う。


「もう来たのか」


 リュウゲンは、気配で人の位置が判る様な話を聞いた。初めて聞いたときは眉唾ものだったが、今となっては、その感覚が理解できる。驚くことでもない。


「何事もなく、とは言わないけどね」


 ルバガンテとの戦闘は、自切を最低限に抑えることが成功したため、内容の割に疲労をしていない。が、実力を少しでも偽る為に、俺はそう答えた。

 リュウゲンがルバガンテをけしかけてきたのだから、彼の目算では少なからず拮抗した戦いをすると思うだろう。

 リュウゲンは、瞳だけ動かすと俺の方を見る。

 

「少し話でもしよう」


 それは、穏やかな声色とは異なる鋭い視線と共に告げられた。蛙を睨む蛇の瞳だって、もう少し柔らかいものだろう。拒否する言葉の一切を断つ、そんな視線。

 断る理由は特にないので、俺は黙って頷くと彼の後をついて行った。

 永久の都の眼前、遮蔽のない、平野に俺とリュウゲンは立つ。身を隠す場所なんてない。今から私が攻め込む、という彼なりのメッセージなのか、コロニーを正面に捉えての仁王立ち。威風堂々としたその姿勢には、信念が感じ取れる。

 リュウゲンは、首を俺の方に傾けながら言う。


「てっきり、二人っきりになったら仕掛けてくると思っていたが……」


 確かに、この平野は得意な環境ではある。ルバガンテと違い、よーいどん即近距離戦と言った展開にもならないだろう。しかし、今戦うべきではない。


「タイミングを伺ってはいるかな?」


 リュウゲンは首を正す。


「私を止める為に画策している。という話は風の噂で聞いているよ。それで、タイミングとは?」

「コロニーの攻略、このままだと防壁を突破出来そうにないからさ」

「というと?」

「ヴィヴィがコロニーの中に潜入した。ただ、そっちの潜入部隊と地上部隊が手こずってるのか、ゲートが開いてない。このままだと、潜入してる人達は全滅。当然、ヴィヴィも。それだけは避けたい」

「なるほど。つまり、それまでは不可侵という事か」


 頭の悪い話だという自覚はある。

 予想が外れ、尻拭いを相手にさせておいて、その後に戦闘しようだなんて。十二支の鼠がゴール手前で牛を殺そうとする様なものだ。牛からしてみれば、騙されて眠りこけてる猫の方がマシに思えるだろう。

 とはいえ、こちらとしても手段は選べない。第三者からは、強いだの化け物だの褒められては居るが、手段を選び、その上で通し切る程の力かと言われれば否だ。


「そうなる」


 俺は、思わず苦笑いを浮かべる。


「私があのコロニーに特攻するのは、もう少し経ってからだ。今、中に耐衝撃と着弾……いや、着地地点の信号を送っている。そうだ。そういえば、サヤは?」

「え?」


 一瞬、リュウゲンから威圧感が消えたので、俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。


「君の友人に連れられてコロニー内に入ったんだが……知らないのか」


 友人とは、フィオルトのことだろう。

 フィオルトと何かを話し込んでいるのを確認はしていたが、コロニーの中に入る所までは確認していない。確か、マスターと呼ばれる人物の部屋に何かが有ったという話だったが、その人も部屋も知らない俺からしてみれば、ちんぷんかんぷんだった。

 このことに関しては、隠すこともないので包み隠さずに答える。


「ヴィヴィと会うのを優先して、話も特に」

「そうか……」


 リュウゲンの瞳に、少しさみしげな色が混ざる。


「この話の流れで、サヤさんが何処にいるか判んないからって理由で、コロニーの壁だけ壊して帰ったりはしない?」

「しないよ。彼女には、事前に私が何処を狙うか伝えてある。仮に彼女が巻き込まれるのなら、それは彼女も覚悟の上で行動してたということだ」


 つまり、彼女が死んだ場合は自分の命よりも優先すべき何かを見つけたという話。単純明快で判りやすい。

 それまでコロニーに向いていたリュウゲンの首が、こちらを捉える。


「挑むのなら受けて立つ。私は逃げも隠れもしない」


 話の流れからして、やるからには命を賭けろと言いたいのだろう。無論、リュウゲン自身も命を賭ける。威圧感のある言葉なのだが、俺はそれほど緊張しなかった。

 逃げも隠れもしない、という言葉。逃げるならいざ知らず、リュウゲンの巨体で隠れる場所なんて無いだろう。

 そうこうしていると、一人の変異者がリュウゲンの下に駆け付ける。


「リュウゲン様、機械装備の射出準備完了しました。また、中から信号を確認、着地地点把握とのことです」


 そう言えば、と俺はリュウゲンの姿を確認する。たしか、前情報だとリュウゲンは自身の肉体に加え、異星人由来の装備を装着するとのことだった。

 さっきの『仕掛けてくると思った』とは、装備が無い今なら可能性があるぞ、という話だったのだろう。


「相判った」


 リュウゲンは、器用に俺を咥え伝令を摘むと変異者達の本部まで羽撃く。

 空中機動力は言わずもがな俺とは比較にならない。安定感もあり、口にぶら下がっている俺自身、落下の心配が一切湧かなかった。

 そして、悠々と俺と伝令を地面に降ろす。


「その特等席で見るといい。流星が降るその様を」


 それだけ伝えると、リュウゲンはその場を後にし、さっきまで俺と話をしていた場所に一人で戻る。

 確かに、本部ほど離れた場所ならば巻き込まれる心配も無いだろう。リュウゲンの放つ流星の威力を図るのにはもってこいだ。

 リュウゲンが咆哮を上げる。咆哮は炎となり、竜の身を朱く染めていく。熱量により雪は塵と化し、大地は燃え上がる。そこは、既に生き物が生存できる場所ではなかった。

 途端、地上部隊は一目散に消え、コロニーの透明な防壁が光り始める。


「コロニーが……」

「水晶壁は、エネルギーを注ぐと耐久力が増すそうです。光っているのは、その目印だそうで……」


 そう言えば、以前に上空から様子見している変異がちょっかいを出していた時は、ほのかに光を帯びていた気がする。

 普通の変異者が攻撃する際は、岩やら瓦礫やらを持ち出していた。人数も十人近く。それを、防ぐのにもちいたエネルギー量は、発光度合いからして微々たるもの。それが、今やコロニーそのものが巨大な閃光弾のように光り輝いている。

 つまり、リュウゲンの放つ一撃は、約十人の変異者が放つ攻撃の威力を軽々と越しているということだ。

 咆哮が止み、耳鳴りが響く静寂の中、炎竜は両翼を広げ大地を強く叩く。それは、ロケットの打ち上げを見ている様な光景だった。

 全身を燃やす姿は炎弾。それが一直線に上空を目指す。紅い尾を引き、星の様に小さく光る点に見えるまで上空、しかる後に停止する。そして、上空を煌めく小さな星が、熱気により周囲を歪ませながら膨張し、瞬きと同時に急降下した。

 大気圏内に居るかすら怪しいほどの高高度から、空間を超越するかの如く、正確無比な神風特攻がコロニーを貫く。

 コロニー自体が蒸発するのではないだろうか、そう思っていた俺の瞳は確かに捉えた。体当たりする手前から、勢いを相殺するように翼を広げる。僅かに減速した瞬間、空中でサマーソルトの様に回転し、そこ勢いを込めた尾によりコロニーの防壁を砕いた。

 その勢いは凄まじく、コロニーの破片を本部まで送り届ける程だ。


「えっぐ……!!」


 着地の際、サマーソルトの回転を利用して被害は最小限に留めている。見た目以上の技巧派。それも、自分の持つ力の扱い方を熟知しているレベル。一朝一夕では身に付ける事は不可能だろう。

 とはいえ、リュウゲン自体無傷ではない。破壊されたコロニーの防壁は、彼の尾に突き刺さっている。しかし、リュウゲンは持ち前の再生能力によりその破片を体外に押し出し、傷を完治させる。


「着地を確認。機械装備、発射どうぞ」


 通信手の合図に従い、永久の都付近に控えていた部隊が鉄製の棺のようなものを二つ射出する。それは、リュウゲンの上空に留まると、装甲板をパージし、巨大な砲塔を露出させて巨竜の背に舞い降りる。

 本来は、フィオルトの様な異星人そのものが装備するものではなく、戦艦やら飛行船用の砲塔だろう。サイズ感は生き物が着けれる物ではない。それを二門も装備し、尚リュウゲンは身軽そうに身体を揺らす。


「リュウゲン様が動かない」

「トラブルか?」


 配下の人達が、不安そうにリュウゲンを見る。

 その視線の先にいるリュウゲンと目があった。リュウゲンは、こちらを見るだけで何も言わない。だが、俺は感じ取った。『今のを見た上で、止めたいのならどうぞ。ご自由に』という竜の言葉を。

 リュウゲンは、視線を前に戻し進行を開始する。自身の放った炎を全身に纏い、障害物を焼き払う。その光景は、まるで生き物の形をした溶岩が歩いているようだ。

 幾ら、変異して耐久力が上がったとはいえ、あの火の海に飛び込めば一溜まりもない。そんなことは判りきっている。だが、逃げるつもりも毛頭ない。


「言われなくとも、止めるつもりだ」


 俺は、一人そう呟く。

 相手は、世界屈指。下手をすれば、世界最強のリュウゲン。

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