4.開戦準備
朝。誰かに起こされるでもなく、自然と俺の瞼は開いた。寝起きだというのに頭は軽やかで、爽快感すら覚える。
俺は視線を自分の懐に向けた。妙な熱源を感じたからだ。
そこに居たのは、俺の身体を枕に、触手を布団代わりに眠っているヴィヴィだった。
寝顔を見てみると、小動物の様で可愛く思える。俺の触手を抱きながら蹲る様に身体を丸め、すぅすぅと寝息を立てる。とはいえ、流石に触手に噛みつくのはどうにかして欲しい。
ヴィヴィの頭を軽く撫でる。加減を間違えたのか、ヴィヴィの身体は小刻みに震えた。
「くぅ……。ヤマト?」
眠気眼を擦りながら、ヴィヴィは起き上がる。
変異前の名前を呼んでいる辺り、相当寝ぼけているらしい。俺は、少し呆れながら言った。
「ヴィヴィ、お前……そうやって寝てたのか?」
ヴィヴィが布団代わりにしていた触手は、まるで猫が爪研ぎしたみたいに歯形がついている。治るから問題はないが、ヒリヒリと痛む。
「悪いか?」
「別にいいけどさ」
正直、全くもって良くはなかった。が、寝起きで喧嘩するつもりまではない。
「お前こそ良いのか?リュウゲンと戦うために、体力を万全にするんだろ」
「もう大丈夫だと思う」
俺は、軽く身体を動かす。身体の動作に何不自由はない。変異して間もない為、これが万全かは判らないが、無茶や無理が出来る程度には元気だ。
俺の動きを見て、ヴィヴィは頷きながら言う。
「そかそか。んじゃ、メシにするか」
ヴィヴィは、せっせと朝食を作り始める。
小麦や米は変異の影響でなくなってしまったが、変異によって産まれた別の穀物を代用する形で、パンやご飯は流通されている。
食べたい料理を何かしら思い浮かべれば、代用品ではあるが再現がされたものが既にあるのだ。
今日の朝食は、フランスパンっぽいパンと変異して紫色になった肉、レタスっぽい葉物野菜で作ったサンドイッチ。
見た目こそエグいものの、味は折り紙付き。
「ホイ、お前の」
「ありがと」
感謝を伝え、サンドイッチを受け取る。
ヴィヴィは照れるでもなく、空いた手で軽くあしらいながら言う。
「良いって。その成りじゃ料理出来ないからな」
四足獣形の変異者は、不器用さにおいて他の追随を許さない程突出している。俺の場合、触手がある分その弱点を補えてはいるが、元々人間規格の道具は使い勝手が悪い。
俺はサンドイッチの先端を加えると、口元の触手で支えながら咀嚼する。それを見ていたヴィヴィは、こちらを見ると少し驚いた。
「おおぅ」
「何?」
「何か、食ってる光景が船が沈む時のアレに見えたわ。あの、映画とかに良くあるやつ」
サンドイッチを船に、触手を海に見立てての言葉なのだろう。
きっと沈む船は豪華客船に違いない。船首を天に突き立て、渦潮に飲まれていく光景が脳裏に広がる。
「何だよその言い草。せっかく褒めようと思ったのに」
俺がムスッとそう言うと、ヴィヴィは頬張っていたパンを飲み物で流し込む。
「褒める?」
「美味しかったから。ヴィヴィって料理上手いんだな」
ヴィヴィの変異は獣化。匂いで毒や害となる生き物か判るため、変異した生き物でも初見で食用可能か、どの部位を取り除くべきかは判別出来る。
そのため、旅をしていた時期に狩りや野草で食い繋いでいたらしく、料理センスに事欠かない。
調理に関しては、基本目分量でパパッと済ませているが、本人曰く匂いで分量が判るらしい。
俺が褒める、ヴィヴィは尻尾を目まぐるしくバタつかせ、顔を覆う。
「ほ、褒めてもお代わりしか出ないぞ?」
出るものは、しっかり出るらしい。
本人にそのつもりはないのは百も承知だが、俺は誂うように言う。
「それって、逆に褒めないとお代わりくれないってこと?」
「その手があったか……!そうしよう、褒めるまでお代わり禁止!!」
力強く俺を指差し、そう宣言するヴィヴィに俺は言う。
「じゃ、さっき褒めた分頂戴」
「あ、はーい」
俺が触手を差し出すと、若干テンションが下がったもののヴィヴィは、追加のサンドイッチを渡してくれた。
てっきり駄々でも捏ねるのかと思っただけに、彼女の反応は以外だった。
そうこうして朝を過ごしていると、程無くドアがノックされる。
「おーい、攻撃部隊に動きがあったぞーい」
「おう、行く行く」
ドア越し聞こえた言葉に、ヴィヴィが応対する。
俺とヴィヴィは互いに頷くと、荷物をまとめ仮宿を後にした。
・・・
俺とヴィヴィは、コロニーとその周辺を目視できる。小高い丘に陣取った。そこには、既に今回の作戦に参加するつもりがない者や、中立的な立場を取るため手出しが出来ない瓦商会の面々、興味本位の見物人なんかが既に居た。
「いよいよか」
商人の一人がそう言う。
既に戦闘が開始している、というわけではない。長年、戦闘の話が出てはいたが、実行に至ったのが今回で初めてのだったからだ。
状況としては、コロニーの周辺の要所要所に変異者の兵士が潜伏しながら展開していた。
「包囲してる連中の話からして、今日は昨日は誰もコロニーから出てないってよ。ウォーマ、仕事してくれりゃ良いけど」
ヴィヴィの言葉に俺は少し記憶を探りながら答える。
「昨日、ハスキ達が中に居るのは見たし。まだ、見つけてないんじゃないか?」
昨日、コロニーの上空からはハスキ達を見つけた時、ウォーマは見当たらなかった。順当に考えれば、ハスキとウォーマが出会っていないということだろう。
「あのコロニー内、電波通じないらしいしな。探すのでも一苦労なんだろう」
遊園地ですら、電話無しに合流するのが一苦労なのだから、だだっ広いコロニーで人を探すのは当初の想像よりも困難なのだろう。
とはいえ、俺の立場から出来ることはない。出来る事と言えば、リュウゲンの足止めをすることくらいだ。
「今のうちに、出来る事はやっておくか」
リュウゲンとの戦いに集中出来るよう、思い起こすことが無いようにした方がいいだろう。
俺は身を乗り出すように辺りを見渡した。
昨日、助けてもらった変異者に対して、感謝をまだ伝えてなかったので、今のうちに済まそうと思ったのだ。
あの時、初めての飛行による緊張から来る疲れと、想定よりもコロニーから離れた位置に着陸したこともあり、俺はコロニーに戻る選択をした。人一人を探す余裕が無かったとは言わないが、体力の回復を優先する都合、後回しになってしまった。
俺は、移動しながら辺りを観察する。攻撃部隊や見物人集団、飛行部隊、警備。そのどこにも見当たらない。
「……どうかした?」
見ると、昨日のときに見掛けた見物人だった。うろ覚えではあるが、ヴィヴィが襲われた際、真っ先にスクロに声をかけたのが彼だ。
俺の動きが挙動不審に見えたのか、心配そうな視線を俺に向けている。
「スクロって人は?」
俺がそう聞くと、男はばつの悪い表情を浮かべた。
「あいつは……」
彼が言い淀んでいると、酒を煽っていた商人が口を挟む。
「昨日、誰か助ける為に出てってから帰って来てないよ。あいつ」
「え……?」
そう言えば、スクロは俺が安全圏に入ったのを見送ると、仲間を援護するためか反転して行った。つまるところ、彼が安全圏に入るところは見ていない。
俺は見物人の男に視線を向ける。彼は、黙って頷いた。昨日、スクロとのやり取りを見ていたからか、彼は何も言わなかった。いや、彼の心情を察するに言えなかったの方が正しいだろう。
「注意引くために囮を引き受け、そのままらしい。どうかしたか?」
商人の問いに、俺は思わず視線を反らしながら答える。ヴィヴィがこの事を、知らなかった事がせめてもの救いだろう。
「その、もう少し話しておきたかったなって……」
商人はチラリとこちらを見た後に、再び酒を煽る。
「そうかい。ま、気を付けるんだな。次はお前が、なんてことになったら、残されたあの子が浮かばれない」
それもそうだ。
スクロに対しては、申し訳ないと思うし後悔もする。が、そのせいで俺まで死んでしまっては元も子もない。
俺は、心の中で割り切る。
決意を決めていると、周りにいた数名が立ち上がり、目を凝らして人間達のコロニーの方を見ていた。内、一人が小声で『異星人』と口にしたのが耳に入り、俺も視線を向ける。
ヴィヴィの反応からして、ウォーマは変異者達と面識が有ることが予想出来た。だから、ウォーマ以外の異星人だと理解できる。となると、俺の中に候補者は二人しか居ない。
ウォーマがハスキ達を見つけ、コロニーから出るように促したのかと想像し、向けた視線の先には一つの人影が映し出される。
黒い装甲を身に纏った異星人。遠目でフィオルトだと判る。辺りを見渡す様にカメラを動かし、それと視線が合う。
「こっち見たぞ」
「まさか、異星人の傭兵でも雇ってたんじゃぁ……」
見物人の集団の中に、狼煙の支度を初める者が視界の端に映り、俺はそれを触手で制する。
狼煙の内容までは判らないが、仮に奇襲の合図だった時の事を想定し、着火前に留めた。
「俺の知り合いだ。手出しはしないでくれ」
「お、おう……」
そのままフィオルトの元に向おうとして足を進めた後に、背後から俺が人間達側のスパイだったのかと憶測する様な囁き声が耳に入る。彼ら目線ならあり得る事だ。
俺が、二人揃って襲撃される事を危惧し、振り返りながら付け加える。
「もし、不審な行動を取ったら襲撃しても構わない。その時は、無理に加減しなくていいよ。こっちも手加減しないから」
俺は高圧的にそう言い捨てる。
実際、変異者達に襲われたら一溜まりもない。だが、それは変異者側も同じ事だ。
以前にヴィヴィと話した内容からして、単体で俺に勝てるのはリュウゲンくらい。加えて、対多数戦は俺も望むところ。それは、一昨日行われた変異獣との戦闘を見ていたメンバーなら知っているだろう。
少なからず、変異者達にも被害が出るとなれば、襲撃の時期を見送る必要がある。が、リュウゲンとの会話で、これ以上時期を見送る事が出来ないと公言されている。つまり、無理に被害は出せない。
俺が悠々と歩みを進めると、少し不安そうな面持ちでヴィヴィが歩いてきた。話の内容は、特に聞いていない様子だ。
「テセウス?」
俺は、ヴィヴィの頭を撫でる。
「大丈夫。小話でもしたら戻ってくるから」
そう告げると、俺はフィオルトの元まで俺は歩いた。
・・・
俺はフィオルトに相対すると、念の為に様子を伺う。
思わず飛び出してしまったが、フィオルトのスーツを着た第三者の可能性があると、今になって気が付いたからだ。
フィオルトの姿を注視してみれば、右腕に損傷は有るものの、それ以外に目立った物はない。致命傷と成りそうなものがないので、スーツを奪われ中に別の人物が入っているという可能性も低いだろう。
「やはり、君だったか……」
聞き覚えのある声に、俺は胸を撫で下ろす。
「良く判ったね、フィオルト」
「昨日見た時は驚いた。見た目が変わっている。生体反応を見なければ判らない程に……」
確かに、変異させる雪が異星人由来の技術から来るものなのだから、変異前と変異後を見抜く技術を獲得していても不思議はない。一目、俺を見て生存を確認した時の衝撃は、何となく想像できる。
だが、フィオルトは嬉しそうではない。その逆で、どことなく切なげな立ち姿に見える。それもそうだ。仲間がこんな化け物になって、喜ぶ者なんて居ない。
それに、フィオルトは俺の姿を見て治療を進言した。しかし、今の俺に治療法があるとは思えない。手遅れであることは言うまでもない。
妙にしんみりしてしまいそうだったので、俺は話を切り出す。
「ハスキは?」
「中に居る。どうやら、不味い状況らしいな」
フィオルトはコロニー内を指す。
ずっとコロニーに居た人でも、今の状況こ判別は出来るらしい。それに、フィオルトのレーダーならコロニーが囲まれている事は判るだろう。
「運がない事に俺達は、コロニー襲撃のタイミングでここに流れ着いたらしいし」
間が悪いにも程がある。仮に到着したのが襲撃の遥か前ならば、合流は出来ずともハスキ達が準備する時間はあっただろう。
フィオルトは、カメラだけを動かし辺りを眺めながら言う。
「そちら側の狙いは?」
言っていいのか悩んだが、フィオルトやハスキは兎も角コロニー内の人間は想像がついていそうだと思い、質問に答える。
「クローン制御施設の破壊」
「あそこは、このコロニーの中核だ。戦闘は避けられないだろう」
元よりそのつもり、というのが変異者達のスタンスだ。頭のチップにより玉砕を強要されるクローン兵、対するは神風特攻を思わせる変異者集団、双方の犠牲は必至。
そんな事にハスキを巻き込ませる訳にはいかない。
「俺としては、ハスキが脱出してくれれば問題ない」
それに関しては、フィオルトも同様のらしく頷きながら言う。
「脱出経路は?」
「ウォーマって言う異星人に任せてるけど、その感じだと出会えなかったらしい」
こうなる予感はあった。
ウォーマは口振りからして、コロニー内の権限等を持っているようには思えなかった。おおよそ、コロニーに技術を提供した際に、何かしらの細工をした程度なのだろう。となると、技術提供した後の文化や技術に対して、彼の知識は通用しない。
思いの外、合流も脱出も難易度がウォーマの想定よりも跳ね上がっているのだろう。しかし、今こうしてフィオルトがコロニーの外に出れている辺り、脱出自体は可能に思える。
俺が考えている他所で、フィオルトは話の内容よりも出てきた名前の方を気にしていた。
「ウォーマ……なるほど」
初めて聞く名前。では無く、以前聞いたことのある名前を自分の中で照らし合わせている様子で、フィオルトは何度も頷く。
「どうかした?」
俺が聞くと、フィオルトは気にするなと云うようにて一度首を横に振る。
「いや。それより、一緒に来てくれないか?」
魅力的な言葉ではあるが、それを受け入れる訳にはいかない。リュウゲンを足止めする必用があるのと、そもそも人間以外の出入りが困難なコロニーに、変異した俺が入るには何かしら特殊な手段を踏むのが予想できる。
「無理かな。相手しないといけない奴がいる」
ここに関しては、リュウゲンの認知度がどの程度人間達のコロニーに広まっているのか知らないので、一応にと伏せる。
「そうか……」
フィオルトは切なげに俺を見ると、肩を落としながら話を続ける。
「すまない。これ以上姫から離れる訳にはいかない」
ここにフィオルトが居るのだから、ハスキは単独行動かそれに近い状態。フィオルトを引き止めている間に襲撃が始まる、なんてケースは避けたい。
「そっちは頼んだよ」
俺は触手を振りながら別れを告げる。だが、フィオルトは別れの言葉に応えず、俺の背後を手仕草で指す。
「知り合いかな?」
考える事に重きを置いていただけに、背後の気配には気が付かなかった。
振り返った先に居たのは、リュウゲンと出会った際に見掛けた、あの黒髪の女性だった。
「すいません」
「えっと、サヤさん?」
一度、こうして人と面と向かって気が付いたのは、俺の察知能力は相手の種族毎に精度が変わるらしい。
変異獣達と戦った際は、目視しなくても精確な位置が判った。しかし、変異していない人間に対しては、位置こそ判るものの反応が乏しく、意識を集中しないとそこに居ると判らない。
それか、人間というよりも彼女が特段感知し難いか。
そんなことを考えていると、サヤは短く要件を告げる。
「ヴィヴィさんが、出撃前にもう一度会いたいと」
変異者達よりも、ヴィヴィは一歩先に動くべきだと判断したらしい。あるいは、俺の行動で襲撃部隊の行動が少し早まり、結果としてヴィヴィの行動も早まったか。
「テセウス、彼女は?」
フィオルトがサヤの方を向きながら言う。が、別に彼女に関して仲がいい訳ではない。
俺が少し困ると、それを察したのかサヤは自分から名前を名乗る。
「サヤと言います。元はこのコロニーのクローンで」
初めて聞く情報に、俺は表情に出ない程度に驚いた。が、改めて考えれば納得する部分もある。
サヤは、マスクをせずに行動している。言い方こそ悪いが、人造人間のように遺伝子操作することで、変異を抑えることは出来そうに思える。
「あぁ、なるほど。マスターの部屋に飾ってあったのは君か」
フィオルトは短く頷く。
俺は、自分が蚊帳の外に行きつつあるのを感じ取り、お先にと触手を振る。
会話の内容は少し気になるが、ハスキの安全さえ知れれば良い。それに、無理に会話に入ろうとして時間を食っては、フィオルトとハスキが合流するのが遅れかねない。
「……悪い、フィオルト。そろそろ行かないと」
そう告げると、俺はフィオルトに頭を下げる。対し、フィオルトはサヤとの会話を一時停止し、手を振って反してきた。
フィオルトとサヤは意気投合したのか、利害が一致したのか、二人して妙に真剣な面持ちで会話を続ける。
俺は、それを後目にヴィヴィの元まで駆け足で戻る。ヴィヴィもこちらに向かって来ていた様で、彼女とは丘に到着するまでもなく出会った。
彼女は、俺を見るなり跳ね、俺の背中に飛び乗る。
「ヴィヴィ、大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと吸引させて」
背中から俺の触手を嗅ぐ様な音が聞こえる。行動からして全くもって大丈夫ではなさそうだが、拒絶はしない。これからどちらも命を賭けるのだから、やりたいことはやるべきだろう。
俺は、ヴィヴィを掴むと彼女に習い顔を近づけ、息を大きく吸った。途端、ヴィヴィは全身の毛を逆立てながら、身体をバタつかせる。第三者からしてみれば怪獣映画の捕食シーンなのだろうが、気にしない。
「へ、変態だぁぁ!」
「その言葉、そっくり返すよ」
変態度で言えば、絶対ヴィヴィの方が高い確信はある。その自覚があってか、ヴィヴィは動きを止める。
「あ、それ知ってるぞ!ブレーメンってやつだろ?」
「ブーメランな」
何でなんの脈絡もなく音楽隊が会話に参戦するのか、意味がわからない。
ヴィヴィっぽさのある間違いに、緊張が和らいた気がした。もし、狙っての発言ならばかなりの策士だが、思わず身を丸めて顔を手で覆っている辺り、ただのポンコツという評価が妥当だろう。
「ところで、思ったより動き早そうだけど……何かあった?」
俺が聞くと、ヴィヴィはハッとした表情を一瞬だけ見せ、気を持ち直す。
「隠し通路が新しく見つかったらしい。そのせいか、潜行部隊の動きが早まってよ」
「通路がマークされてる可能性は?」
「それは大丈夫。潜伏してるクローンの仲間が見張ってる」
俺は、以前聞いたヴィヴィの説明を思い出していた。
クローンには、頭にチップが組み込まれている。それを介して、こちらの情報が抜き取られはしないのだろうか。
「クローンって、チップ埋め込まれてるんじゃなかったっけ?」
「一回助けて抜き取った連中。ただ、クローンなのにチップが無いってことはそういう事だろ?だから、バレないうちにってこと」
なるほど、と俺は頷いた。
チップの埋め込まれていないクローンなんて、人間達のコロニーの常識的にあり得ないだろう。そんな者が見つかれば、確実にスパイだと判断される。
つまり、それより早く潜入する必要がある。
潜入部隊の主な仕事は、コロニーのゲートを開け放つ、敵迎撃部隊の排除、防衛システムの停止、通信阻害システムの停止。どれも、襲撃の成功率に直結しうる。
「私は、潜入部隊に紛れてコロニーに入る。一旦、ここでお別れだ」
俺は、ヴィヴィをもう一度だけ強く抱きしめると、優しく地面に降ろした。
「必ず帰ってこいよ」
俺の一言に、ヴィヴィはニンマリと返す。
「今夜は寝かせないってか?」
「一晩だけで済むかな?」
ヴィヴィの言葉を想定し、俺は彼女にそう告げた。
彼女は、自分の発言に対してのカウンターにめっぽう弱い。今もヴィヴィは、恥ずかしいのか、照れているのか、それとも嬉しいのか腰が砕けてしまった。
「お、お前は出撃前になんちゅう事を!」
「先に言ったのお前だ」
「あぁ……そうだった、そうだった」
ヴィヴィは、自分の毛を硬化させ引き抜き、杖代わりにして背筋を伸ばす。出撃前に、この体たらくで大丈夫なのだろうか。
笑い話として雑に決める筈のカウンターが、思いの外クリティカルヒットしてしまった。潜伏中に思い出し笑いでもされ、発見されたらと思うと少し申し訳ない。
そんな、俺の気も知らないでヴィヴィは歩き始めた。
「んじゃなぁ!」
「じゃ!」
登山家の様に杖をつく彼女を俺はその場で見送った。
その時、彼方から竜の咆哮が木霊した
電気弓の籠手がハスキにフィットした理由(退廃世界一章四話目)
元々、電気弓はウォーマがサヤに渡すために作った代物であるため、籠手を女性用に新調していた。
ハスキとサヤが出会った日に受け渡しをする手筈だったが、ハスキ達が火葬した火の煙を狼煙だとサヤが勘違いし合流出来ず、後日ウォーマが変異者コロニーに向かった際は変異獣に襲われエネルギーを消費しすぎてしまった為、変異者コロニーに向かうことができなくなってしまった。




