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2.中動グラデーション

最初は一話目においていましたが、編集して二話目に変更です。

特に変化はありません。

次話ほぼ書き終わってるので、すぐ三話目アップ予定です。

2.中動グラデーション


 街を、森を、田んぼを突き抜ける。流れる景色は、このインフラを整えてくれた人がいたからだよね、世の中にはこんなに役に立っているのに誰が、この鉄道を、この骨のようなレールを、血管のような架線を、血のように流れる電気を、引いてくれたのか知らない。 

 ありがとう、おかげで怖じ気づいて後戻りするなんてこと無さそうです。


 計画は、朝イチで新幹線で数時間かけて山へ、昼前から登山開始。日が暮れる前に登頂し景色を堪能した後、下山途中に遭難して熊とかに襲われたり、普通に衰弱して死んだりして虫やら動物に食べてもらう。


 電車を降りると、バスで山の麓まで連れて行ってくれる。バスの最後尾、左の窓際で勝手に景色が視界に入ってくる。

 手をつないで、歩いている3人の家族が見えたような気がした、この辺りに住んでいる家族だったのだろうか、一瞬で追い抜いてしまったけれど、楽しそうな雰囲気で胸をギュッと握られた痛みを感じる。

 意識を車内に戻すと、そこにも家族がいて、一人でいるのは私だけのよう、最後尾、左側の窓際、ここはどこだろう。


 バスがため息を吐いたかのようにぷしゅーっと空気が抜ける音がして、その方向を見ると、扉が開いたようだった。

 降りるとそこはバスの停留所で、登山ルートの案内が出ている。一緒に乗り合わせていた人達は活動的になり、どんどこバスから吐き出されに動いている。

 私は、荷物をもって出口へ向かい、バスから吐き出されて何とか降り立つことができた。

 見上げると山頂は雲で見えない。いや、ちょっと引きこもってたしやっぱ無理かも。

 独りごとのように唱えてみたものの、もうバスは行ってしまった。

 登るしかないよね。


 登山ルートに登り始め、途中休憩を挟みつつ順調に登頂。近くで登っている人の会話が耳に入って知った事だったけれど、実は山の途中までバスで来ていてすでに半分くらいは上っていたようだった。本当に山に挑む人はバスでは来ないって話だった。鼻から空気が予想しないタイミングで勝手に出た。その話が自分で面白かったらしい、気づいたら一人でツボに入ってしいしばらく笑いが込み上げて仕方なかった。

 てっぺんにはテレビで見た景色と変わらず異界があってここでなら大丈夫だなと確信しつつ、ある程度周りを見渡す、同じように見渡している人やスマホやカメラで写真か動画を撮影している人。みんな達成感で満足した顔をしていた。鼻がヒリヒリとして目が熱くなる。私にも達成感がきたのかと思いってみたものの、そこにある感情には自分でも名前が付けられない、自分でもよくわからない。

 下山のタイミングを窺う。一人で道に逸れた時近くに人がいないようにしたい。そんな恥ずかしいところ誰にも見られたくない。まだ恥ずかしいなんて気持ちがあることに驚きもあるが、見つかって呼び止められるのを避けたいって思いと半分半分だ。

 途中まで来た道を戻るだけではあるものの、いつかどこかで脇道に逸れなければならない。

 道なき道を選ばなければならない、とそう思っていた。意外と自然に迷っていた。前や周りではなく、足元だけをみて歩いていると気づけば一人ぽつんとしていた。

 そのまま、向かうべき場所も道もなく、ただ進む。

 どんどんと暗くなり、闇はむしろ私を迎えてくれた。


「落ち着くなぁ」やっと今何も考えず、何も持たないでいられる。

 足は止まらない。どこに向かうでもないのに、道などないのにそれでも動く、動かされるでもなく、動きたいでもなく。

 真っ暗かといえば、そうでもないことに気づいたのは、しばらく歩いて、さすがに疲れたので、ちょうどいい石に腰かけた時だった。ふと、上をふり仰げば、木々の間から光がもれていて、月や星の輝きが平等に降り注いでいる。

 座った場所がたまたま少しひらけた場所だったからということもあるだろう。様々な音が聞こえる。

 例えば、虫の鳴き声、葉が互いに擦れてさざ波のように絶えず聞こえる木々の鳴き声、時おり聞こえる動物の鳴き声、そして、今後ろから聞こえた、誰かが忍び寄ってくる音。

 近づいてくる…? 慎重な足取りで。「怖い…」森に入って始めて感じる本当の身にふりかかる危険に予想よりも鼓動を速くしてしまう。

「落ち着いて、来るときが来ただけ」胃を決して振り返ると、草むらの中に光る二つの珠がある。動物だと直感が働く、なぜか身構える、なぜか、その光から目をそらすことができず、しばらく固まっていた。どれ暗いの時間が過ぎたのだろう、数秒にも、数分にも、数時間にも感じられる。不思議な時だった。

 一歩、たぶん一歩踏み出した時だ、珠が消えて、チラリと草むらから何かが一瞬はみ出した、それは猫の尻尾のように見えたけれど、知っている猫の尻尾よりも太く、長いように見えた。え? 虎? たぶん何かの見間違え。

「食べてもらえなかったな」ざわつく胸にてを当てて、自嘲気味に笑う。


 眩しい、そう感じたことで、自分がいつの間にか寝てしまっていたことに気づく。いつぶりだろうか、こんなにスッキリとした目覚めは。

 登山のために持ってきた水筒から最後のお茶を出して、一気に飲み干す。

 私だって不思議。死ぬつもりなのに、こんな生きようとしている。

「おかしいじゃん、こんなの」

 歩く、休んで、また歩く。

 ざっざっざっざっざっざっざっざ。

 草むらを分けて歩く私は、何ものでもなくなっていた。

 最初の方は、まだ見ぬ子供のこと、生まれてきてくれたらどんな名前にしようとかを彼と話していたりいたことを思い出したり、母からは、男の子を産みなさいとか言われていて、選べる訳じゃないんだからって笑っていたことを思い出したり、友人の子供に指をぎゅっと握られた時に友人にすごいねーなんて話ながら、私もきっと……なんて想像していた。そんなことを思い出しながら、一歩、また一歩死に向かっていく。

 意外なことに、思い出すのは、楽しかったこと。

 顔が緩んでいるのが自分でも分かる。何をニヤついているんだろう。でも、その先に待ち受けていた事を思い出すと、その瞬間にもっとも暗いところへ連れて行かれてしまう。その気持ちにリンクするように、私の身体も暗いもっと奥へと進んでいく。


 朝になった。少し身体が動きそうな予感がしたので、立ち上がる。また、歩ける。

 繰り返し、数日が経ったが、動ける時間はほとんどなくなっている。

 人間って簡単には死なないようにできているのかもしれない。

 ついに全く動けなくなった、夜のことだ。

 言葉から、思考から解放されていた。なにも考えていなかった。例えば、木の葉がざわめく、何かが聞こえる。でもそれが何かでどうなっていて耳に響いているのがどういうことかという考えが起こらない。

 自然に還って、植物になっていた。

 私は溶けて死ぬ。


「君は助かりたいの?」

(助からないから、死にたいの)

「はは、もう何を言っているのか分からないね。言いたいことあるなら仕方がない、助けちゃうよ、そうなっているからね」


 男性の低い声が聞こえた。

予定は未定。

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