シスター・メアリの手紙
親愛なる猊下へ。
近頃、冒険者達を騒がせた『鋼鉄の魔王』が此度あたくし達の暮らすパペットグラスの街を襲撃し、一時的に支配下に置かれました。
襲撃犯は『鋼鉄の魔王』と『鋼鉄の聖女』と名乗る者です。
領主ボールド様の城壁の一部が大魔法にて吹き飛ばされましたが、現在は魔王自身の手によって修復して元通りです。
幸いなことに犠牲者は1人も出ませんでしたが、『鋼鉄の魔王』が迷宮で幾人もの冒険者を手にかけている以上、油断はできません。
セイバーハンズ教会にも接触してきましたが、驚くべきことに今回の襲撃の首魁は『鋼鉄の魔王』ではなく、隣の集落のミリアという女性でした。
どうやら冒険者ギルドから発布された『鋼鉄の魔王』討伐依頼にクロガネの者達と聖女が激怒して手始めに近場のパペットグラスの冒険者ギルドと領主を襲撃してしまった様です。
信仰は時に人を争いへと駆り立ててしまうのは、あたくし達セイバーハンズ教会も覚えがあるところです。
彼女から直接話を聞くところによれば、クロガネの北に位置するオーガ・モーガ山の中腹に迷宮と繋がる横穴が開き、溢れた魔物が彼女達を迷宮内に連れ去り、言葉にするのも憚られるような非道な行いをしたというのです。
彼女も命を絶とうとしたそうですが、そこに『鋼鉄の魔王』が現れ魔物を誅殺したとのことでした。
彼女達は魔王を『鋼鉄の守護神』として毎日熱心に崇め、集落クロガネの者は皆『鋼鉄教団』の設立とミリアを『鋼鉄の聖女』に認定すると宣言しました。
集落の長であるサテツ老の認定もあります。
集落と迷宮には常に鋼鉄のゴーレムが行き交い、魔物は近寄らないとのことです。
『鋼鉄教団』の教義は余り判然としませんでしたが、『鋼鉄聖女ミリア』によれば「鋼神様を崇める」「鋼神様に平和を願う」「鋼神様から与えられた物を大切にして感謝する」、といった内容でした。
彼女と交渉してみましたが、やはり田舎の集落で暮らしていたせいか世間に疎い様で、何故かこちらの有利になってしまう様な内容を呑んでしまっていました。
一つ目は『鋼鉄教会』のセイバーハンズとの共同教会建立です。
クロガネという集落は農家と狩人が多いので信仰に時間を割く経済的ゆとりがない様で、『鋼鉄教団』の布教はこちらに任せるとのことでした。
随分とおおらかな信仰の様です。
鋼鉄教会を含め、魔王の創り出す製作物は驚くほど精巧に出来ていて、猊下の保管なされている『神器』に匹敵するものばかりです。
今はシスター達が調査と称して鋼鉄教団の宿舎を使用していましたが、どうにも彼女達が便利さに毒されている気がしてなりません。
あたくしも使っているのですけれど。。。。
二つ目は化粧品の販売権です。
『鋼鉄聖女ミリア』はとても美しい容姿をしていて、魔王が特別に作った化粧品を集落で広めているようです。
あたくしも使ってみましたが、以前よりも信者が喜んでくれている様にも思えます。
聖女にこの化粧品を沢山作れるか聞いたところ「鋼神様はこれくらい、無限に作れる」との事で我がセイバーハンズ教会にて販売してみることにしました。
化粧品のレシピについては『鋼鉄の魔王』が所持しており、交渉次第では購入できるやも知れません。
既に沢山の献金をいただいていますが、『鋼鉄教会』の維持管理よりあたくし達の教会の修繕と信者の怪我治療に使われています。
三つ目は一時的にセイバーハンズ教会の教義を鋼鉄教会でしても良いか聞いたところ、聖女は構わないと言っていました。
『鋼鉄教団』は入信自由を宣言しており、どの様な宗教を信仰していても、『鋼鉄の魔王』に敬意か崇拝か感謝をするならば出入り自由としているのです。
これは今までセイバーハンズ教会が抱えてきた異種族との問題を解決するかもしれません。
異種族。特に魔族やエルフ、ドワーフ族は魔王を巡る数多の聖騎士団との宗教戦争で傷ついた者も多く、セイバーハンズ教会には近寄りません。
手を差し伸べようとしても払い除けられることも多く、あたくし達に対する嫌悪感は根強いものとして印象付けられました。
『鋼鉄教団』にセイバーハンズ協会の慈愛の手を広めさせてくれる手伝いをしてもらうのです。
『鋼鉄聖女ミリア』は未だこの世界に蔓延る数々の魔王や邪神崇拝等をよく知らないと思うのですが、純朴な彼女がそれを知ったら『鋼鉄の魔王』と共に戦う事を選ぶでしょう。
神が本当に『鋼鉄の守護神』を遣わしたのか、それとも『鋼鉄の魔王』なのか判断がつきませんが、更に彼らが邪悪でない事を証明する2つの出来事がありました。
冒険者達の遺品の返却と、鋼鉄教会地下から産出された巨大な希望石です。
遺品と遺骨はどうやったのか分かりませんが、全て浄化されており、芸術的な乳白色の磁器に故人の身分を表す物と収納されていました。
全て神の御許に帰れる様に取り計らうことが出来ました。
冒険者ギルドにも既に報告済みです。
そして鋼鉄のゴーレムが掘り出したベッド二つ分程の大きさをした希望石。
これはセイバーハンズ教会の神聖性を証明する由緒正しい聖遺物とされていますが、残念ながら要望は聞き入れられず、鋼鉄教団の所有となってしまいました。
しかしながら、希望石は共同建立した鋼鉄教会の中心に厳かに座し、いつでもシスター達や信者達もこの聖なる魔力をひしひしと感じることができます。
ここでセイバーハンズの教義を説いても鋼鉄教会は口出ししないと言っています。
これは神が鋼鉄教団を認めているという思し召しなのでしょうか?
猊下。
鋼鉄教団の処遇について早急に取り決めをする必要がありそうです。
そして、『鋼鉄聖女ミリア』に教会から保護観察者をつける事をおすすめします。
これから彼女らは巡礼行脚と称して方々を回る予定ですが、なるべくここに引き止められるように努力いたします。
神の敬虔な信者、シスター・メアリより




