表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

文也とぼくとけん玉

作者: 沢山多部太

 文也の家は、ちょっと臭い。

 文也のお父さんの灰皿とか、ずっと置いてあるゴミ袋とか、洗ってない食器とか、思い当たることはたくさんある。

 でも、僕は毎日のように文也の家に行った。


 僕が家のチャイムを押すと、ガチャリとドアが開く。

 「おい、今日は何するんだ」

 文也が僕を睨んで、いつもそう言う。Tシャツもいつもと変わらない、ブルドックの顔がプリントされてるやつだ。文也とブルドッグの顔がすごく似てるから、面白い。

 「なんでもいいよ。早く遊ぼう」

 何百回と言った言葉を、今日も言った。

 

 文也の家にはお母さんがいない。文也と、お父さんと、犬。それが文也の家族のかたちだ。

 一度なんでお母さんがいないか文也に聞いたことがある。その時は、「しらねえよ」っていってた。

 それっきり、文也にお母さんについて聞いていない。


 僕たちは、持ってきたオセロで遊んだ。

 オセロで勝つためには、一番外側を取らないように置くのがコツだ。それを知っていた僕は、文也に全勝した。

 文也は顔を真っ赤にして怒って、すぐにやめちゃった。

 「おいタケ、けん玉やるぞ」

 文也は何かで負けるとすぐにけん玉勝負をしかけてくる。

 僕はけん玉を持ってないし、文也はけん玉しかおもちゃをもってない。だから、一回も勝ったことがない。

 正直いやだったけど、文也に向けられたけん玉を、僕はしぶしぶ受け取った。

 

 すうっ、かつん、かつん、さくっ。


 えいと投げた玉が、大きな皿、小さな皿に乗って、最後には剣先に刺さった。それは、文也も成功したことがない技だった。

 「やったよ、はいったよ文也!」

 文也はふんと鼻を鳴らし、絆創膏が貼ってあるほっぺたをかいた。僕たちは、顔を見合わせて笑いあった。




 次の日、チャイムを鳴らしても文也が出てこなかった。窓の方を見ると、カーテンの奥で影が少し動いていた。


 仕方なく家に帰った。

 なんでかわからないけど、すごく悲しくなって大声で泣いた。お母さんがびっくりして、僕を抱きしめた。よしよしと頭をなでる手は、暖かかった。

 夜は、お父さんと一緒に寝た。絵本を読んでくれたり、今日あったことをうんうんと聞いてくれた。

 いつも笑っているお父さんが、すごく真剣な顔をしていた。




 それから、文也とは一回も会えなかった。

 久しぶりに玉を投げると、皿からはすぐに零れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ