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たぶん? 乙女ゲー?? の世界に転生したんだと思います??? ~先日見た夢を文章化してみた~

※先日見た夢(寝ている時に見る方)の文章化につき、細かい突っこみはスルーしてください。

 ……あれ?

 

 ふわりと意識が浮上し、覚醒する。

 パチリと瞼を開けば、そこは見覚えのない部屋だった。

 

 ……や、違う。見覚えはある。

 

 見覚えはある気がしてきたのだが、よくよく考えると『知っている』という感覚は遠ざかる。

 知っているはずなのに、知らない場所、といったところか。

 

 ……変だな?

 

 何かがおかしい。

 そう確信して、ムクリと身体を起こす。

 生成りの寝間着に長い黒髪が肩からすべり落ち、いよいよ目がさめてから続いている違和感に眉をよせた。

 それもそのはずで、私の髪とは似ても似つかない、絹糸のような黒髪だ。

 私本来の髪は、少し癖の付いた亜麻色である。

 こんな艶のある黒髪ではない。

 

 ……何がどうなっているの?

 

 少しでもこの妙な情況を理解できないものか、と情報を求め、改めて室内を見渡す。

 優しいオリーブグリーンの壁に、小さな窓があるがカーテンはかかっていない。

 古ぼけたベッドが二つ並んでいて、片方には私が今まで眠っていた。

 

 ……違う。私は『今から』寝ようとしていたところだった。

 

 記憶と感覚とのズレを修正しながら、ベッドから足を下ろす。

 眠るところだったはずなのだが、今はこの違和感のせいで安心して眠れそうにない。

 

 ……隣のベッドは――

 

 誰のベッドだろうか?

 そう考えた瞬間に、隣のベッドの上に『吹き出し』が現れた。

 漫画のような『吹き出し』というよりは、ゲームの『メッセージウインドウ』といった方が近い気がする。

 黒い風船に、白文字で文章が表示されていた。

 

『少しぬくもりが残っている。姉さんはもう仕事に出かけたようだ』


 ……なんで『吹き出し』!? あと、『姉さん』って誰!?

 

 『吹き出し』の出現に驚いて、ワンテンポ遅れて文章が頭に入ってくる。

 私に姉などいないはずだが――

 

 ……あ、いた。姉さん。

 

 本来の私には、兄はいるが、姉はいない。

 が、今の私には、兄はいないが、姉はいる。

 それも、両手の指の数だけでは足りない数の姉貴分が。

 

 同室の姉は二つ年上で、赤い髪をしている。

 些細な仕草や、口癖まで思いだせるのことが当たり前なのに、不思議だ。

 今の私は、私であって、私ではない。

 

 ……これって、あれでは? web小説でよくある奴。

 

 異世界転生だとか、異世界の誰かに憑依してしまうだとか、そんな出だしのweb小説ではなかろうか。

 ようやく手掛かりらしきものに手が届き、頭が回り始めてくれる。

 とりあえずで判ることは――

 

 ……これは、異世界転生タイプ? かな?

 

 本来の私――これが本当に『異世界転生』なら、前世の私――と今の私両方の記憶があるため、誰かの身体に憑依したタイプだとは考え難い。

 加えて、気になった箇所に表示される『吹き出し』こと『ゲーム風のメッセージウインドウ』。

 

 ……ゲームの世界に転生しました、ってことかな?

 

 そう考えてみると、自室としては違和感があるが、規視感のある部屋の正体も判ってきた。

 ここはゲームの中で、プレイヤーキャラの部屋だったのだろう。

 自室ではないが、見覚えがあるはずである。

 

 ……この顔、めっちゃ私の好みだわぁ。

 

 姉がいる時に覗くと怒られるのだが、今は留守なので遠慮なく鏡台を使わせていただく。

 姉がお客に買ってもらったと自慢していた三面鏡を開くと、そこに映っているのは実に私好みの美少女だ。

 

 白くほっそりとした身体に、幼さの残る顔つきには不釣合いに膨らんだ胸。

 艶のある絹糸のような黒髪は真っ直ぐで、癖もなければ、アホ毛もない。

 瞳は石榴ざくろのように神秘的な深紅あかで、綺麗なアーモンド形をしている。

 悪役令嬢のように釣りあがっても、逆に垂れてもいない。

 就寝の直前であったことから、この顔が素顔だ。

 ノーメイクでこれだけの美少女だとか、人生勝ち組にもほどがある。

 

 ……や、間違っても勝ち組じゃないな。

 

 鏡の中の美少女を見つめているうちに、ふつふつと『美少女』の半生を思いだしてきた。

 

 物心つく前のことは、わからない。

 両親がどんな人物だったのかは、誰も教えてくれなかった。

 もしくは、誰も知らないのだろう。

 

 私はおそらく孤児だ。

 気が付くと今の家に居て、姉たちに世話を焼かれていた。

 

 少し知恵が付くと家が『娼館』で、姉たちが『娼婦たち』であると理解した。

 私もある程度育てば娼婦として働くのだとばかり思っていたのだが、私が商品として店に呼ばれることはなかった。

 私の仕事は裏方の、さらに裏方の仕事だ。

 店に出る前の姉たちの身支度を手伝う見習いではなく、姉や見習いを含め、娼館で働く人間たちの食事の準備や洗濯といった、家事が主な仕事だった。

 

 ……おかしい。こんな美少女に客を取らせないなんて。

 

 じっと鏡を見つめると、思案顔の美少女がいる。

 どんな表情をしても崩れない、完璧な美少女だ。

 娼婦として店に立たせれば、すぐに人気が出ること間違いない。

 

 ……いや、娼婦になりたいわけじゃないけど。

 

 娼婦になりたいわけではないが、十五歳が成人とされ、それ以前から働く子どもも珍しくないという環境にいて、十七歳まで『家事手伝い』というのは、少々異常だ。

 

 ……あ、違う。十八歳になったんだっけ。

 

 私の起床時間は、姉たちの就寝間近の時間である。

 姉たちは私を可愛がってくれているので、当然のように十八歳になったことを祝ってくれた。

 が、とくに誕生会といったような行事を行う習慣はないので、淡々と誕生日の一日は終った。

 

 否。

 

 終ろうとしている――

 

 

 

 

 

 

 そう気が付いたことが、フラグだったのかもしれない。

 黒服の男たちが、ノックもなしに部屋の中へと押し入ってきた。

 

「え? え?」


 驚いて反射的に腰を上げる。

 視線は男たちに釘付けだったが、手はしっかりと三面鏡を閉じていた。

 うっかりこれを開いたままにすると、鏡を覗いたことが姉にバレて怒られてしまうからだ。

 

「えっと……?」


 部屋の中に押し入ってきた男たちは、しかし部屋の中で整列をして動きを止める。

 特に私を捕まえに来ただとか、押し込み強盗といった雰囲気ではない。

 

 ……なんだっけ?

 

 無言で整列する黒服の男たちに、理由わけがわからず困惑し、ジッと男たちを観察する。

 明らかな異常事態なのだが、不思議と怖くはなかった。

 

 ……あ、この人たち。

 

 冷静になって観察してみると、男たちの顔に見覚えはないが、揃えられた服装には覚えがある。

 この娼館いえは一階と二階が店で、三階は店で働く娼婦たちの生活スペースになっていた。

 そして、さらに四階と五階があり、そこはカジノとして経営している。

 黒服の男たちは、そのカジノの用心棒たちだ。

 カジノで『おいた』をする者には怖い相手だったが、同じ建物内で働く私や娼婦あねたちには親切で優しい、気のいいお兄さんたちでもある。

 

 ……そのはず、なんだけど……?

 

 なんだか黒服の男たちの雰囲気は、いつもと違う。

 いつもは会えばこっそり飴をくれたりする優しい人たちなのだが、今日はムッスリと唇を引き結び、怖い顔をしていた。

 

 ……私、なにか怒られるようなことしたっけ?

 

 黒服たちに怒られる覚えはないのだが、表情が普段と違いすぎる。

 これは彼らの素の顔ではなく、仕事中の顔だ。

 

 ……うん? 仕事?

 

 仕事中の顔だ、と気が付くのと同時に、黒服に遅れて『母』が部屋の中へと入ってきた。

 母といっても、実母ではない。

 娼婦たちの元締めだ。

 娼館うちは娼婦を『娘』、見習いを『妹』、元締めを『母』と呼んでいる。

 娼婦でも見習いでもない私は『末妹いもうと』だ。

 これは私より年下の娼婦あねがいても変わらない。

 

「母さん、どうしたの? この人たちは……」


「すまないが、アンタには今日から若様のところへ行ってもらうことになった。すぐに身の周りの物を持って、上に行きな」


「へ?」


 言うだけ言って背を向けた母に、言葉の意味を遅れて理解する。

 つまりは、私に買い手が付いたのだろう。

 若様、上、ついでに黒服の迎えとなれば、買い手はわかる。

 上階のカジノを経営している青年だ。

 

 あの人だ、と思いつくと、その容姿が思いだされる。

 鮮やかな深紅の長髪に、群青の瞳の美青年だ。

 カジノの経営者といえば、厳つい顔のオジサマをイメージしてしまうのだが、彼は違う。

 どちらかといえば爽やかな海が似合う王子様といった印象の青年だ。

 むしろ、その雰囲気かおでなぜ裏町でカジノ経営などしているのか、と突っこみたい。

 彼の容姿と人脈があれば、表の世界でも成功を掴めるはずだ。

 

 ……それにしてもイケメンだな。

 

 思いだした『若様』の顔に、規視感を覚えて首を傾げる。

 今の私としては、何度もあったことのある人物なので、規視感があるのは当然だ。

 当然だったが、規視感を感じているのは『本来の私』である。

 本来の私は日本の一般家庭に生まれた極々普通の一般人のため、カジノ経営者に知り合いなどいない。

 

 ……どこで見た顔だっけ?

 

 気にはなるが、今はそれよりも黒服たちである。

 急かす言葉はかけてこないが、雰囲気が。

 厳しく顰められた顔つきが、早く荷物を纏めて若様の元へ行け、と言っていた。

 黒服たちも仕事で迎えに来ている以上、あまり待たせれば実力行使に出るだろう。

 

「えっと……持ってく物って……お財布ぐらい?」


 まさか娼館を出て行く日が来るとは思わなかったので、突然のことに困惑してしまう。

 物を持たない生活というか、自由に使えるお金なんてほとんどない生活をしてきたので、持ち出すものなど、私にはほとんどない。

 

 服は当然必要だ、と普段着ている服を手に取ると、これは黒服に止められた。

 私が今日から着る服は、若様が上階に用意してくれている、と。

 それなら本当に持って行く物などない、と考えたところで、ベッドの下からはみ出ている肩紐に目が行った。

 普段は意識にも上らないが、私がこの娼館いえに来た時に持っていた肩掛けのバックらしい。

 中には数着の子ども服と、いわくあり気な首飾りが入っている。

 

 ……一応、持って行こうかな?

 

 一度、売ればお金になるのではないか、と母に言ったことがあった。

 が、お金に厳しいはずの母も、なぜかこれには手を出していない。

 曰く、こんな怪しげな首飾りを売れば、どんな災いを引き寄せるか判らないだとか、なんとか。

 

 そんな怖い物はいらない、と母に家賃として首飾りを押しつけようとしたら、肩掛けのバックの底布を解いて、その中へと首飾りを隠された。

 母はそうまでして私にこの謎の首飾りを持たせておきたいらしい。

 

 ……たぶん、置いていったら、即日『忘れ物』とか言って届けられる。

 

 そんな気がする。

 私の引越し先は娼館の上階だ。

 徒歩で五分もかからない。

 階段を駆け上がれば、それこそ数十秒の距離だ。

 引越し先が近すぎる。

 

 ……これがお城の皇帝陛下とか、領地持ちの領主とかだったら、忘れ物なんて簡単に届けられないんだけどね。

 

 服は着替えなくていい、と急かされ始めたので、寝間着の上に肩掛けのバックを首からかける。

 治安のあまりよろしくない裏町では、引ったくられないよう肩掛けのバックはこう使うのが一般的だ。

 

 ……ん? なんだろう、あの染み。

 

 黒服たちに囲まれて部屋から出ると、ふと廊下の天井付近にある黒い染みに気がついた。

 いつもはまったく気にならないし、古い建物でもあるので、天井に染みぐらいあるが、今日に限って妙に気になる。

 

 ……あれ? なんか、等間隔に染みがない?

 

 私の部屋の前にもあったが、廊下を少し歩くと同じ大きさの染みがある。

 位置も同じような場所や廊下の角にあって、自然のものと考えるには不自然な気がした。

 

 ……待って? これ、監視カメラ的なものじゃなかったっけ?

 

 なにか、誰かがそんなことを言っていた気がする。

 いざという時にすぐ駆けつけられるよう、周囲に監視の目を置く、と。

 

 ……なにか変だぞ?

 

 この監視カメラ(?)は、私を守る意図を持って設置されている。

 その確信を思いだして、これまでとは違う違和感に気付いた。

 

 ……このまま若様のところに行って、いいんだっけ?

 

 上階へと続く階段に差し掛かり、天井を見上げる。

 娼館いえのフロアからは完全に出ているが、監視カメラ(仮)はやはり天井についていた。

 ということは、この監視をつけた人物にしてみれば、若様も警戒対象だったのだろう。

 

 ……あれ? もしかして、素直に付いて行くんじゃなくて、時間を稼いで助けを待つ場面?

 

 可能性に気がついた時には、すでに階段を上りきってしまっていた。

 あとはカジノの扉をくぐり、若様の執務室へと案内されるだけだ。

 

 ……どうしよう。いいのかな? カジノに入っちゃって大丈夫?

 

 なんだか急に怖くなって足を止める。

 カジノの扉はすぐそこにあり、その扉をくぐれば終りだと、直感が告げていた。

 

「……若様がお待ちだ」


 早く中へ、と黒服に促されたが、足が動かない。

 ここまで素直に歩いてきた私の変化に、黒服の男は僅かに眉をひそめたが、無理矢理腕を引かれるようなことはなかった。

 ただ、いつまでも立ち止まっているわけにもいかない。

 どうしたものか、とカジノの扉を見つめていると、扉の奥で異変が起こった。

 

 最初は小さな悲鳴だ。

 そのあとはだんだんと声が波になって広がり、扉の方へと近づいてくる。

 

 カジノの中でなにか起こっている、と理解するころには、扉の奥からカジノの客が逃げ出してきた。

 そのあとを追うように黒い煙が広がり、カジノの異変に黒服の何人かがカジノの中へと飛び込んでいく。

 私はというと、いつの間にか腰へと添えられた手に促されて壁際に寄せられた。

 カジノから逃げてくる客の人波に飲み込まれないように、という配慮だろう。

 

「今のうちに」


 ……?

 

 てっきり人波を避けるための動作だと思っていたのだが、腰に添えられた手は私を抱き寄せると階段を下りるようにと促してくる。

 このままカジノに入るのは怖かったので、素直にこのエスコートに従ってしまった。

 

 ……あ、この人。

 

 黒い服を着ているが、黒服たちの揃えられた服とは違う。

 今は彼一人しかないので揃いの服でもそうと判らないが、これは騎士の制服だ。

 カジノの用心棒のものではない。

 

 ……たしか、街で何回か見かけた?

 

 特別親しい知人というわけではないが、顔を合わせれば挨拶ぐらいは交わす。

 そんな距離感の知人だ。

 お互いに名前も知っているが――

 

 ……手が。

 

 いつまで腰に手を回されているのだろうか。

 私の腰へと添えられた騎士の手が、気になって仕方がない。

 

「あの、どこへ……」


「こちらです。急いで」


 煙を避けてカジノのある階からおりては来たが、出てきたばかりの娼館いえまで無視されるとは思わなかった。

 騎士もなにかおかしい。

 そう気がついて足を止めようとしたのだが、腰を攫われてほとんど抱き運ばれる形で一階まで連れ出されてしまった。

 今のこの身体は、恐ろしく軽いらしい。

 私一人を抱えて移動することなど、騎士には造作もないことだったようだ。

 

 あとは本当に、一瞬である。

 

 躊躇う間もなく寝間着のまま建物の外へと連れ出されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 ……武力行使、待ったなし。

 

 もしくは武力行使直前だったのだろう。

 建物を出てすぐ目に入ってきたのは、魔道鎧と呼ばれる鎧だ。

 これは『鎧』と聞いて想像する鎧とは少し違う。

 身に纏うというよりは、中に乗り込むロボットだ。

 とはいえ、ロボットと聞いて想像するような巨大さはなく、せいぜい3~4メートルぐらいの大きさで、このあたりがギリギリ『鎧』と呼ばれている由縁であろう。

 むしろ重機に近い気もする。

 

 その魔道鎧が三体(うち一体はキラキラとした黄金色だ)、娼館みせの前に並んでいた。

 

「お疲れ様です、先輩! さすがのお手並みですね」


 魔道鎧を出すまでもなかった、と背後へと声をかける騎士に、つられて背後を振り返る。

 と、丁度建物から出てきた『先輩』こと赤い制服の騎士が煌く金色の髪を靡かせて私の横を通り過ぎた。

 ばっちりとあった目の色は、金色だ。

 

 ……赤い制服は、たしか近衛騎士の制服なんだっけ?

 

 平民どころか貧民に近い裏町に住む私には縁のない相手過ぎるが、娼婦あねたちがそんな話をしていたのを覚えている。

 騎士は、それも近衛騎士にもなると、金払いの良い上客だ、と。

 

「カジノの若様とやらに私の心臓がどこにあるかを教えてやったまでだ」


「うわぁ……怖いなぁ……」


 トントン、と誇らしげに自分の胸を指差す近衛騎士に、騎士の青年が感嘆の声を洩らす。

 私にはなんの話か意味が判らなかったが、彼らの間では通じる言葉なのだろう。

 

 ……それにしても?

 

 両者ともに、とても顔がいい。

 近衛騎士は整った顔立ちの美青年で、騎士は少しだけ幼さの残ったワンコ系の可愛らしさだ。

 会話から察するに先輩・後輩の間柄らしいのだが、見て取れる二人の関係性と、イケメンであるという事実に、再び規視感が浮かび上がってきた。

 

 この規視感は『本来の私』の物だ。

 私が入った『美少女』の物ではない。

 

 ……二人ともどこかで見た顔――

 

 と、視線をじゃれ合う――内容としてはカジノ襲撃に関する報告なのであろう――二人の青年から魔道鎧へと移し、さらにその奥に止められた黒い馬車へと移す。

 馬車に見えるが、どちらかと言えば車に近い。

 馬車であっても、馬が引く車ではない。

 蒸気の力で動いているらしいので、蒸気自動車、あるいは蒸気馬車だ。

 

 ……これ、乙女ゲーだっ!?

 

 蒸気馬車の中にいる、ゆるく癖のついた金髪の人物の背中を見つけ、急に理解した。

 むしろ、ようやく理解した。

 

 この妙にイケメン率の高い環境は、乙女ゲームの世界だからだ。

 そして、騎士と近衛騎士、それから蒸気馬車の中の人物は、その乙女ゲームの攻略対象たちである。

 とくに蒸気馬車の中の人物は、難攻不落とされる攻略難易度最難関の氷の皇帝サマだ。

 

 間違っても娼館の家事手伝いと知己であるはずのない人物である。

 

 そして、だんだんと思いだしても来た。

 

 ……よくわかんないけど、これ、攻略済みですっ!!

 

 理由は判らないが、妙な確信がある。

 攻略難易度最難関の皇帝陛下様はすでに攻略済みで、私が入った美少女にメロメロ(死語)である。

 

 そして、カジノの若様こと美少女わたしの買い手も、すでに攻略済みの攻略対象だ。

 

「……さて、あまり主を待たせてもいけません。貴女は早く蒸気馬車くるまへ」


 どうぞ、と近衛騎士に蒸気馬車へと促され、顔が引きつってしまった。

 情況を整理すれば、『娼館からカジノオーナーへと身請けされそうなところを皇帝陛下が救いだした』といったところだが、私の危機はまだ去っていない。

 私の危機というか、私の入った美少女の貞操の危機だ。

 

 ……これ、絶対18禁のエロゲーっ!?

 

 娼館育ちという美少女しゅじんこうの境遇から察するに、性の知識はあっても不思議ではない。

 むしろ、身近なモノであったはずだ。

 

 そして、皇帝の姿を見た時から私の頭の中には警笛が鳴り響いている。

 あの男に捕まったら最後。

 溺愛という名の下に、監禁・調教・種付けレイプが待っていると。

 

 ……私、好みの二次元美少女にエロいことしたい派ですけど、自分がされたいわけじゃありませんからーっ!!

 

 らーっ!

 

 らーーーーーーっっっ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 いや、マジで。

オチはない。

ここまでが夢の内容なので、オチはない。


異世界転生・美少女化・モテモテ・逆ハー・なんだったら攻略済・伏線っぽい首飾り、とweb小説の設定として役満みたいな夢でした。

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