七・現代に帰れませんでした。
のどかな日々が続いている。
「……な~にが、現代に戻ってこれる、だ」
俺は、毒づいた。あのマッドな博士は『運がよければ』とそう言っていたような気もするが、いつまで経っても現代に戻る気配は無い。俺の記憶が正しければ、恐竜の時代に来てから半年は経っていた。
しかも、俺のように送られてきた子たちが何人かいるのも知っている。彼らが現れる場所は一緒で、かつ、そういう日は決まって空が変な様子になるのだ。
多くの恐竜たちは空の異変には気がついても、慣れた様子で「今日は天気がおかしいね」と、慌てた様子はなかった。
この時代に送り込まれて、取り付く島もなく荒れてどこかへ去っていく者もいたけれど、同じ種類の恐竜だった場合はなるべく俺の所属している群れに誘っている。
最初は戸惑うことも多かったけれど、今ではとても仲良くなっていた。自分でも驚くぐらいの適応力だと思っている。まぁ、恐竜へ変身したせいなのか、恐竜の言葉が理解できた事が大きな要因だと思うが……
(何人送れば気が済むんだよ、あほ博士は?)
そして、俺の知る限りで誰一人として、現代に戻る者は無かった。
「あぁ、頭痛くなってくるよ!」
俺は羽の生えた腕で頭をかく。
「頭いたいの? だから、ぼんやりしていたのね? 大変、ゆっくり休まなきゃ」
俺の声が聞こえていたのか、カグヤが心配そうにそう言った。
「いや、ごめん。大丈夫だよ」
そういう意味の頭の痛さじゃないしね。
「そうだ、確かあれがあったはずだわ。ちょっと取ってくるわね」
カグヤは何かを思い出したように、走り出す。
「これを少しなめると、頭痛は治まるわ」
少しして戻ってきたカグヤは、こぶし大ほどの土の塊を持ってきた。
「これは、何?」
どう見ても、泥の固まった土にしか見えない。
「少し削ってなめてみて、頭痛なんてすぐ治るわ!」
俺は、土の塊を爪で少し削りおそるおそるなめてみる。
「しょっぱい。これ塩?」
「塩?」
「こういうしょっぱいものは、塩って呼んでいるんだ」
現生の動物も、ミネラル補給のために、塩の混じった土を舐めるという行動をするものがいる。恐竜もそうであってもおかしくないのだ。
「なんか、治まってきたよ……ありがとう、カグヤ」
ここは直ったことにしておかないと。
「よかった。これはここにおいておくから、また頭が痛くなったらなめてね」
「本当にありがとう、カグヤ!」
本当にカグヤはいい娘だなぁ。