邂逅と逃走
俺の体を包んだ光は、しばらくすると少しづつ治まってきた。
光が収まってすぐは目が慣れずに視界がぼやけて前が見えなかった。
それでも、自分の後ろに誰かがいるのははっきりと分かる。
何故かは分からないが、気配がとても強いのだ。
こいつ、きっと街角インタビューとか受けやすいタイプだな。
日陰者の自分からすると、そういう人の目を引く天賦の才能は羨ましい限りだった。
目が慣れ初めてきたので、両手で目を擦って慣らす。
左手にはあのキーホルダーを握ったままだ。
振り返ると、そこには赤髪の少女がいた。
少女といっても歳は俺と同じくらいで、ツインテールが肩までかかっている。
「あぁ〜クッソー間に合わなかったかぁ〜!」
そう言うと誰かに電話をかけ始めた。
相手はワンコールで出た。
俺の友人も是非とも見習って欲しいものだ。
「美奈? ごめん間に合わなかった! とりあえずそっち連れてくね!」
美奈というのは電話の向こうの相手の名前だろう。
間に合わなかった、連れていくというのは?
もしかしてここ、私有地とかなのか?
それも、カタギとかの類の。
それならこんなとこに通路があるのもうなずける。
ほら、あれだ。
「奴らカチコミに来やがった! 組長は裏口から逃げてくだせぇ!」とか言うやつ。
……なんか時代劇と混ざってるな。
いやいや、だとすれば俺、とんでもないことをしちゃったんじゃなかろうか。
ヤクザの本拠地の秘密の裏道を見つけて入り込み、あまつさえ台座に置かれているような代物に手を出したのだ。
指の一本や二本では済まない。下手すりゃ沈められるぞ、冗談抜きで。
どうやら向こうの電話が終わったらしく、少女はこちらに近づいて来る。
どう弁解しようか、ここに来たのは迷い込んだで済むとして、問題はこのキーホルダーだ。
さっさと元の位置に戻せばいいのだが、それが出来ない。
出来ないと言うより、したくないのだ。
これを離したら一緒後悔する。
そんな気がしてやまないのだ。
ならいっそ逃げてしまうか?
相手は女の子1人だ、逃げ道は塞がれているが、強行突破できるだろう。
そんなことを考えていると、
「貴方、詳しい説明は後でするから、今はとにかく来て!」
そう言うと彼女は俺の手を掴んで走り出す。
不覚にも少しドキッとしてしまう。
同年代の子に手を繋がれるのはいつぶりだろうか。
そうだ。体育祭のフォークダンスぶりだ。
あの時の女子の嫌そうな顔といったら…軽く一週間は凹んだな。
いや、あれはもう忘れようと心に誓ったではないか。
ダメだダメだ考えるな。
それより今は、目の前に集中しなければ。
俺は彼女に手を引かれるまま、路地を駆けるのだった。
もう1年も執筆活動を続けているのに、上達してる気配がないですね。
あくまで主観的な判断ですが。