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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

沫雪と共に溶けて消えゆく

作者: 静夢

 ――――あれは確か雪の日だった。


 カーテンを開くと、薄っすらと、されども一面に広がる雪景色を見た。向かいの民家の黒い屋根にしとしとと降り積もる雪は、おしろいほどの厚さで、道路なんかは車が通れば消えてしまうほどしか積もっていない。


 それでも、雪景色なのは変わりない。


 ――――彼女の後ろに見える景色は真っ白で。


 私は、部屋の扉をばんっと勢いよく開くと、パタパタと会談を駆け降りる。裸足の足に冬の朝の床は氷のように冷たくて、トントンと飛び跳ねるように廊下を駆ける。

 玄関で飛び込むようにスリッパを履いて、転びそうなほどの勢いで外に飛び出す。


 ――――ずっと親友でいようね。


 12月の25日。クリスマス。ホワイトなクリスマス。私は笑顔で雪を踏みしめ、雪を消していく。私が踏むだけで、儚く切ない雪たちは透明な雫になって消えていく。


「ちはるー、はやく朝ご飯食べなさーい」

「はいはーい」


 クリスマスの朝に実家の目の前の道路で大学生の娘が小躍りを始めようが、うちの母にとっては特別珍しくも心配にもならないらしい。

 キッチンの向かいで新聞を読んでる古風でステレオタイプな父親の隣に座り、いただきますも言わずに私はトーストに噛り付く。


「いただきますはどうした」


 これもまたいつも通り、お父さんはこちらを見もせずに小言を言ってコーヒーをずずっと啜る。こちらもまたクリスマスの朝に娘が当たり前のように実家にいてもなんとも思いやしないのだ。いやいや、父親と言うのは娘がいない方が心配するものではなかったかと言われれば、そうとも言えるに違いない。


「んっ、はむっ、はふっ。いははきあふ……」


 熱々の緑色なお茶を入れたティーカップに手を添えて冷えた手を温めれば、真っ赤になってなんだかおもしろい。何が面白いってクリスマスからは縁遠い緑茶のくせにクリスマス色だからだ。


「クリスマスクリスマス……クリスマスかぁクリスマスぅ……」

「ケーキは昨日食ったろ」

「そうね。チキンもね。あれ美味しかったぁ」

「そういうのは今お前の弁当を作って忙しくしてる母さんに直接言ってやれ」

「まさしくそー通りで」


 不愛想だがなんだかんだ不憫な娘のどーでもいー話に付き合ってくれる当たり、うちのお父さんはステレオの中でもかなり優秀な方なんじゃあないだろうか。


「あんさー、父上」

「どうした?」

「友達と遊びもせず……まあなんだぁねぇ、彼氏? ってのもおりゃんで家で聖なる夜を過ごす娘な訳ですが、朝になって帰ってくる娘とどっちがいいと思いやす?」


 父親は新聞を閉じて天井を見上げ、まだ沿っていない髭をじょりじょりと捏ねまわす。今日初めて私の顔を見て、何を思ったか朝のニュース番組が流れるテレビを凝視して、答えが出ないやつだなと思った頃にコーヒーを啜る。


 ことり、とコーヒーのカップを置いて小さく息を吐きだしたところで、また天井を見上げるところから始まった。うちのステレオは些細な質問にも時間をかけて正解を考えるタイプなのだ。


 しばらく静寂が流れたのち、お父さんは無言で席を立った。かと思えば、無言ではなくかわいそうな娘にポツリと同情の籠ったステレオタイプな答えを残して洗面台の方へ去っていく。


「家族で過ごして、新雪を踏んで朝帰ってくるうちの娘だ」


 ふむ、確かに私は朝帰りとも言えなくもない。私が一本取られたという感じだろうか、父親的には。うちのステレオは考える時間が長いくせに面白くもない絶妙に下手な答えが返ってくるのが欠点だった。


「あー、一本取られた。お父さんおもろー」


 お父さんは何も反応を示さなかったが、枕元にサンタさんから一日遅れの一万円札が届けられていたことは言うまでもなかろう。


 私は素朴な私服に着替えて家を出る。お母さんの作ってくれた弁当が荷物の大部分で、そういえば教科書を入れ替えるのも忘れてしまった。


 雪化粧を纏った景色は既になく、雨上がりの町のような湿り気だけで味気ない道を歩く。太陽と言う名前の友達がいかに大きな存在だったのか気づく曇りの日の通学路。ついでに中学理科と説きますか。センスあるなぁ私。……勘違いだなぁ。


「走るか!」


 私は思い付きで走り出す。風がコートと手袋の間から吹き込んで、腕が痛いような締め付けられるような肌寒さを感じる。

 案外走るというのは気持ちいい。調子のいい時に走るのは息が乱れて苦しくて面白くないけれど、悩みとか面倒なものが心にあるときは余裕が無くなれて考えなくていい分、すんごい楽だった。


「あっ……」


 考える余裕のない私は視界に入った人物の姿に自然と足が止まっていた。目があって、私を見て笑顔になって、女の子らしい小走りで駆け寄ってくる。


 私の親友、真冬。


ふんわりとした清楚っぽいワンピースで着飾った、気合の入ったきらきらとした化粧、普段は付けてないピンク色の口紅。


私の傍に寄って歩幅を合わせると、慣性の悪戯がふわりと髪を浮かびあげて柑橘系の香水の香りが私の鼻をくすぐる。


私と一緒に買いに行った香水じゃない……。


「おはよう、ちーちゃん」


 普段と変わらない笑顔。

 瞼に冷たい空気が流れ込んできて、すーっと痺れる痛みにじんわりと涙がにじむ。


「うん。おはよう、真冬……」


 私はちゃんと挨拶できていたのだろうか。変わってしまった親友と、ちゃんと親友ができているのだろうか。


 ――――変わってしまった日は覚えている。


 あの日は、夏だった。暑さにうなされながら起き上がって、昨日の夏祭りがあった河川を颯爽と駆け抜けてから朝食を食べた二学期の始業式。


 久々に顔を合わせた年頃の乙女4人集まれば、自然と夏休みの清算が始まる。


「やっぱ、大学生の彼氏ってすげーね」

「和美こそ、圭太と泊り旅行行ったんでしょ? 夜の話聞かせなー」

「おいおい、美優。ストレートすぎやん。いいよ、あたしがあんあん言わされた話そんな聞きたいん? 友達のとか生々しいやん」

「確かに聞きたないね」


 クラスの中でも派手めなメイクをしたギャル女子二人組、和美と美優。大学生になった今では、地元しか知らない地域高校のギャルなんて子供じみた可愛いものだ。けれども、当時は少し怖いとも思っていたのを覚えている。雑談をしていく過程で友達想いのいい奴だと分かったので、このころにはマブダチになっていたっけ。


「ふえぇ、二人ともすごいねぇ」

「真冬がいうかー? この学園のマドンナ様がよー。付き合ってくれないとおこぼれが無くて困るって、雑魚女子たちが泣いてるぜー」

「マドンナって言ってるの美優だけだよー。私はちーちゃんと遊んでる方が男の子と遊ぶより楽しいもーん♪」


 この頃から真冬は美人だった。高校生女子にはたぶん可愛いが言葉としてはふさわしいし、中身はゆるふわなのでそこだけ見れば美少女とかのが相応しい。だが、真冬は美人なのだ。大人びた容姿、真面目で清楚な黒髪美人。明らかに同級生とは一線を画す美形。完璧すぎる美の化身故に、高嶺の花というやつで寄り付く男子はそうそういなかった。暗黙の了解ができていたのかもしれない。


「千春は彼氏作んないの? 活発女子って男子受けいいじゃんね」

「あー……私はそういうのは良いかなって」


容姿と言うのは、暴力なのだ。

真冬という超絶美人を軸に作られた輪の中にいるうちに、こんな私でもモテ女子に昇華されていた。美人すげー。


 私が苦い表情をのぞかせると、ギャル二人はピンと来たと顔を見合わせて、食いついてくる。


「これはなんかあーね」

「話聞かせなー? 言った方が楽よー」


 心配そうな目を向ける真冬に笑顔で返して、私はもごもごと話す。


「サッカー部の……あの小林くんに、夏祭りでちょっとね」

「あれ? 千春は真冬と二人で行ったんじゃなかったっけ?」

「そうなんだけど、偶然会ったときに少し時間あるかって言われて……」


 夏祭りの最中、私と真冬がりんご飴を買うかどうか、中に入ってるりんごが味が無くて好きじゃないとかそんな話をしていると、6、7人の背の高い男子たちのグループがなれなれしく寄ってきた。

 私は真冬を狙った男子たちだと思ったから、強気に追い払おうとしたのだが、彼らの目的は私だった。サッカー部のエース小林、この前の試合でなんとかトリックとかいう技を決めただとかでクラスの女子に囃されていたのを覚えている。

 そんな超絶話題の絶頂期男子な小林がどうして私なんかをと思うが、だからこそなんだろう。今ならなんでも上手くいく。真冬には手が出せないから、取り巻きの男子とも分け隔てなく話す活発な不思議ちゃんにでも告白してみよう、そんな心づもりなのだろう。


彼が本気ではなくて遊びとノリ、夏祭りと舞い降りた好調によってもたらされた告白だと頭では分かっていた。でも、こんな女らしくもない女でも、呼び出され告白されてみればいっちょ前に淑女になってしまうものなのだ。


気がありそうな反応をしてしまったがために、真冬と二人で回るはずだった夏祭りは大所帯になってしまった。

聞きたくもない話、自然だと思いこんだ不自然なボディタッチ、最悪な思い出だったからこそ、早朝に夏祭りの会場を走りたくなったのだ。


「てか、やばくね? 小林だろ」

「小林だね。サッカーの」

「最近、あいつ絶好調らしくて夏の大会も優勝したらしいしな。真冬やるねー」

「はー、男子とか興味ないから」

「うわー、小林かわいそー。後でいじり行くか」

「やめんしゃい」


 私は恋愛に興味がないわけではない。でも、なんというかクラスの男子を見てもそんな風には思えないのだ。いや、クラスの男子だけじゃない、生まれてこの方誰かを好きになったことがない。


「ふふふっ、ちーちゃんは男子なんかじゃなく私と遊んでればいいもん♪」

「うんうん。末永くよろしく頼むよ、真冬」


 きっと私は恋愛を友情の延長戦だとはき違えていて、真冬といた方が楽しいからという理由で恋愛を拒絶してきた。今までは告白されるような立場じゃなかったけど、真冬が美人になって私が引っ張り上げられた以上、高校ではこういうのも多くなるんだろう。そう考えると憂鬱だ。


 恋愛なんて興味がない、友達といればいい。それは、私と真冬がいちゃいちゃとしているときだった。


 ドンッ!! と、真剣な表情の美優が机を叩くように手を着いた。その瞳はじっと力強く真冬を見つめていた。


「ダメだよ!」

「ふえぇ!?」


 美優に真剣な目で見つめられ、ぐいぐいっと付けまつげがすごい顔を寄せられるのに対して、真冬は気おされて後退る。


「そーやって、真冬が友達友達っていうから真冬に彼氏ができないんだよ!!」

「私のせい……なの?」

「そうだよ。真冬は美人だからいいけど、千春はそんなだからこんな大大大チャンスを逃すと、もう二度と来ないかもしれないんだよ!」


 呆れた話だ。というか微妙にディスられてるのが気に食わない。まあ確かにこんな大チャンスは来ないだろう。でも、今の恋愛に興味のない私にとっては前提としてチャンスではないのだ。そもそも相手がサッカー部のエースだとか、イケメンだからだとか、お金持ちだからとか、そんな理由で恋愛するような女ではない。


「ちょっと、美優。何言ってんの、真冬のせいなわけないじゃん。真冬もそんなの気にしないで――――」


 ドクン、と胸が破裂しそうなほど締め付けられた。


「確かに、ちーちゃん良い雰囲気だったのに、私がいたから……」

「真冬……? 聞いてる?」


 胸が苦しい。痛みを我慢して笑う、夏の終わりを告げる儚い花火のような笑顔を見ていると、とてつもない不安が湧き上がってきた。


「ごめんね、ちーちゃん! 私たちももう高校生だし、友達とだけじゃなくて彼氏とかとも遊びたいよね!」

「待って。違うよ? ねえ、真冬?」


 私の言葉はたぶん、真冬の心にまで届いていなかった。


「実はちょうど私も告白されてて……ちょっと付き合ってみようかなって考えてたんだけど――――」

「えっ……え、あ、そう、なんだ……あはは」


 その時、私は上手く笑えていただろうか。世界から色が消えていって、腕が、肩が重たくてうまく動かなくて、自分が何をしゃべっているかも分からなかった。


「付き合ってみようかなって思うんだ」


 よく一緒に遊んでいたしていた友達に彼氏ができる。ただそれだけ。

 その後、真冬は告白してきた先輩と付き合って、二か月で別れた。そして、気づいたらまた別の男子と付き合いだした。元から男子から人気はあった。本人に意思があれば、彼氏を作るなんて難しいことじゃなかったのだ。


でも、特に私たちの関係が変わったわけではない。私には、なんの不満もない。


 私たちは変わらず親友だった。あの誓い通り、たぶん一生親友なのだ。でも、変わらない私を取り残して、真冬は変わっていった。同じ場所にいるのに、なんだか遠い。


 メイクを覚えて、ネイルとかもしちゃって、チークの色なんかを私に相談してくるようになった。一緒に服を買いに行くときだって、彼氏の好みがどうこうなんて言っちゃって。


私は意地を張って、小林と付き合った。これが笑える話で、2日で別れた。本気じゃなかったとか言われて。

分かっていたはずなのに、恋する乙女のように胸が苦しかったのを覚えている。


 すぐに分かれる程度の彼氏と付き合ったのかよ。私が男受けするファッションなんて知るわけないだろ。遊びで告白するような男と私がいい雰囲気に見えたのかよ。そんな言葉が出かかって、私は自分が心底嫌いになった。


 真冬はどんどんかわいくなって、美人より美少女が似合うようなモテフワ女子。もとからそっちのタイプだったのだから、そりゃそうなっておかしくない。


 きっと真冬が私の恋愛を妨げていたんじゃない。私が真冬の恋愛を妨げていた。友達の方が良いと、刷り込むように言い続けて。恋愛と友情は別物だというのに、私は。


「ちーちゃん……?」


 心配そうに私の瞳を除く真冬の顔が、目の前にあって私はびくっと跳ねる。


「わっ、わっ! びっくした~」

「ふふっ、良いリアクションだねぇ。考え事?」

「まあ、そんなとこ」


 真冬はけらけらと楽しそうに笑うと、にっかりと花のような笑顔を浮かべる。


「今日はクリスマスですがー。ちーちゃんは彼氏とデートはしましたか?」


 うっ、と息を詰まらせながらも、私は平静を保つ。そういえば今は彼氏がいる設定だった。


「あー、まあぼちぼちに?」

「ぼちぼちかー」


 社交辞令のような問いかけだったようで、深いっては聞いてこない。もしかしたら、なんとなく私が嘘をついていることに気づいていたりするのかもしれない。


「真冬は……?」


 真冬は浮ついたように遠くを眺めて、はーっとやって白い息を吐きだす。切なげな思い詰めるような表情は、次第に溶け往き真冬は笑う。僅かな間で消えていってしまったクリスマスの雪のように儚い笑顔で。


「楽しい夜だったかな」


 真冬がそう言うと、テロテロンテロテロンという着信音が鳴った。


「真冬の?」

「うん……」


 真冬は困ったように着信音が鳴り続けるスマホを握ったままで、電話に出ようとしない。


「どうしたの?」

「…………」


 スマホの画面にのばした指は震えていて、じわりと目じりに涙が浮かぶ。


「貸して」

「え?」


 私は真冬のスマホを分捕って、電源を切る。よく分からないが、そうした方が良いことだけはわかった。


「ちーちゃん、聞いて」

「うん」

「昨日ね。初めて、ホテルに行って……嫌だったのに、ベッドに押し倒されて……今朝は逃げてきちゃった♪ なんてね~」


 私は気づけば、私は立ち止まって真冬の腕を強くつかんで引き止めていた。


「ちーちゃん? 一限遅れるよ……?」

「そう、だね」


 真冬は身を寄せて、私の腕を解いて手を繋ぐ。私をあやすように。


「なんで、ちーちゃんが私よりつらい顔してるんだよー。もー」

「知らないっ! 馬鹿! 馬鹿真冬! ばーか!!」


 思考がぐちゃぐちゃで纏まらない。感情があふれて、よくわからない涙が溢れて、力強く歯ぎしりしすぎて顎が痛い。


 ――――分かっていた、はずなのに、なんで?


 なんで真冬のことで私が。なんで私が。


 私たちの関係はこれから先も変わらない。ずっとずっとずっと変わらない。

 恋愛ってなんだ。嫌がってるのに無理やりされるのが恋愛なのか。彼氏なら、真冬に何をしても許されるのか。


 ――――他の誰にも捕られたくなかった。


 私は真冬の手を引いて走り出す。真冬がぎゅっと手を握り返してくるのを感じて、黒い感情が私の中で暴れだしていくのが分かった。


 ――――束縛していたのは真冬じゃなくて、私だ。


「ホテル、入る」


 ホテルの前で、立ち止まり私は真冬の顔を見て力の限りを振り絞ってそういった。

 感情が渦巻いて、なんで自分がこんなことをしているかすら分からない。それでも、私は――――


「うん。いいよ、ちーちゃん」


 本当の気持ちから目を背けて、親友という言葉の鳥かごに幽閉していた小鳥が逃げ出して、その小鳥に執着して追い回す醜い獣。


「真冬は私のっ! 私の親友なのに……!」

「うん。ちーちゃん、優しくして」


 ああ、なんで最初からこうしなかったんだ。


「大丈夫。本気で抵抗したから、最後までされてないし。そんな顔しないでよ。ね?」

「だって、私は女で。だから。親友にしかなれない。なのにっ!」

「ちー、ちゃん? それって……」

「私はずっと、真冬が好きだったのにっ! 恋人になれなくても親友でいられればいいと思って、真冬は彼氏とか作って、どんどん遠くなってって……そんなつらい思いするくらいなら、彼氏なんて作んなくていいじゃんか!!」


 その時だった。真冬の手が私の頬を撫でて、ふと唇が触れた。


「え……?」

「ちーちゃんもそう思ってたんだね」


 恋愛は友情の延長線上にある、そう思っていた。だって、私の恋心がそうだったから。


「私も、ちーちゃんのこと好きだよ。あの時、小林君に言われたんだ、邪魔するなって。それでちーちゃんの邪魔にならないように、私も彼氏作って、それで……」


 真冬の頬を大粒の涙が零れ落ちていく。


「ごめんね、ちーちゃん。私のせいだ」


 その泣き顔が愛おしくて、おかしくなっていくのが分かる。


「私、ずっとちーちゃんとこうなりたかった。女の子でも、ちーちゃんの恋人にしてくれますか?」


 ――――ずっと親友でいようね。


 12月の25日。クリスマス。ホワイトなクリスマス。私たちは確かめ合うように肌を重ねる、伝えられなかった想いを伝える。

 私たちを縛っていた誓いは、聖夜の雪と共に溶けて消えていった。

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