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ホムンクルスNO28


 赤い輝きに一馬は顔をしかめながら入り込んでゆく。

 その先にあったのは、まるで工房を思わせる不思議な空間だった。

 

(ここはなんだ?)


 工房であるのは間違いない。

 しかし鍛冶士のそれと比べると、やや呪術めいていて、異様な空間に感じられた。

 一馬は少し冷静になって、辺りを注意深く探ってゆく。


 “ゴポリ”と、背後で水音がした。

 慌ててて踵を返すと、そこには大きなガラス管があった。


「人……?」


 思わず声を上げる。ガラス管の中には青く長い髪を左右で二本に結った、年端も行かない少女が全裸で浮かんでいる。


「この子は一体?」


 ガラス管の下には、説明書きなのか、名前なのか、文字が刻まれたプレートが取り付けられていた。

 

「ホムンクルスNO28……これがホムンクルスなんだ」


 兵団の書庫で本を読み情報だけは知っていたが、ホムンクルスをこの目で見たのは初めてだった。


 煌帝国に奴隷制度は存在しない。なぜならば、奴隷に代わる労働力として人造生命体である“ホムンクルス”が存在しているからである。

ホムンクルスは時に人に代わるの労働力として、時に愛玩用の道具として扱われ、その生涯を終える。

 もっとも、ホムンクルスを所有することは容易ではなく、貴族が豪商かに限られる。またはホムンクルスばかり集めた娼館へ行くか。

 以前兵団の同級生が、ホムンクルス専門の娼館へ行ったことを、嬉々とした様子で話しまわっていたことを思い出す。

 

 一馬とて一介の男子。そういうことに興味がないとは言い切れない。

しかし、今目の前にいるあどけないホムンクルスを、欲望の対象にするのはどうかと思った。

むしろ、ホムンクルスの娼館へ行き、そのことを自慢していた同級生を思い出し、強い嫌悪感を覚える。


「――!」


 その時、ガラス管の中で、青い髪の少女が目を開いた。

サファイヤのような瞳が一馬を映し出す。


『人間の生命反応を確認。起動シークエンス準備』


 ガラス管から響きの良い少女の声が響き渡った。

 NO28と記載されていたプレートが左右に開き、青い宝玉が現れる。

 

『起動シークエンス準備完了。ホムンクルスNO28の起動をご希望なら、そちらのブルーサファイヤに触れてください』


 これは良い、と一馬は思った。

 ホムンクルスは強力な兵器だが、主人マスター登録をすることで、命令の絶対順守を強いることができる。

 自分の身を守るための武器として、ホムンクルスほど適する者はない。これは今の一馬にとって、天からの恵みに他ならない。

 

 一馬は青い宝玉へ、迷わず手をかざした。

 

「俺の名は一馬。木造 一馬!」

『――キヅクリ カズマ――主人マスター登録完了。これより排出シークエンスへ移行します】

 

 ガラス管の中を満たしていた液体が、パイプを伝って流出してゆく。

やがて中で少女が足をつけると、ガラス管が開いた。


 蒼く長い髪をもつ全裸の少女はペタペタと足音を立てながら、ガラス管を出て、一馬を見上げる。


「2190日――現時刻をもってカウント開始。初めまして、我がマスター、木造一馬。ワタシはホムンクルスNO28。なんなりとごご命じください」


 無機質だが、響きの良い声でホムンクルスNO28は従順な言葉を紡ぎだす。


「ならば問う。この施設はなんだ? どうして君はここにいる?」

「ここは煌帝国、第08探索隊の研究ラボ。ワタシは08隊の皆様への愛玩を主とする奉仕、並びにファウスト大迷宮での戦闘補助を目的に製造――」

「ファウスト大迷宮!? それは本当か!?」


 気が付けば一馬は、華奢なホムンクルスの肩を思い切り掴んで叫んでいた。

 

「はい。事実です。ここはファウスト大迷宮80層です」


 ホムンクルスは一馬に揺さぶられながらも、淡々と答えた。

 まるで自分が、彼女へ“暴力”を奮っているように感じた一馬は、慌てて華奢な肩から手を離す。

 

「わ、悪い」

「問題ありません。もっと乱暴なことをされても、ワタシは壊れませんのでご安心ください」


 一体、煌帝国の人間はホムンクルスへどんな仕打ちをしているのか。

 想像するだけで不快感が沸き起こる。

 

 その時、ホムンクルスは背筋を伸ばし、踵を返す。

 

「敵、接近を確認。来ますっ!」


 ホムンクルスが熱を帯びた言葉を吐き出すと、真っ赤に染まる工房へ、一馬よりも大きいが、アインよりは小さい猿の魔物が駆け込んでくる。

 

「WOUWOU!!」


 猿は奇怪な遠吠えを上げつつ、紐のような尾を放つ。

 その先端は刀剣のような“刃”となっていた。

 刹那、一馬の目の前に青い軌跡が発生し、猿の尾を弾き飛ばす。

 

「危険度B、セイバーエイプです。マスターの後方に脱出口があります。ここはワタシに任せてお逃げください!」


 ホムンクルスは一方的にそう叫び飛んだ。

 左腕の甲から伸ばした“青い光の刃”でセイバーエイプに切りかかる。

 

 ホムンクルスは青い髪を振り乱しつつ光の刃を振り、セイバーエイプの刃の尾を弾き続ける。

 正確で鮮やかな剣捌きは、真っ赤な工房へ美しい青の軌跡を描き続ける。


「排除!」

「KYAKAYA!!」


 光の刃がセイバーエイプの尾を切り落とした。

 しかし次の瞬間には、丸太のように太い拳が華奢なホムンクルスへ遠慮なく叩きつけられた。


 ホムンクルスは工房の様々なものを蹴散らしながら、突き飛ばされて行く。

 更にセイバーエイプは飛び、瓦礫に埋もれたホムンクルスの小さな頭を無造作に掴み、持ち上げた。

 

「くっ……ああ!!」


 頭を掴まれホムンクルスは苦しそうな声を上げながら手足をばたつかせる。

 しかし手足が短いため、セイバーエイプには届かず。発生させている光の刃もブンブン音を立てつつ、空を切るのみ。

 

 そんなホムンクルスの様子が楽しいのか、セイバーエイプは手の力に緩急をつけて弄ぶ。


「マ、マスタぁー……お、お逃げ……ああっ!!」


 ホムンクルスは呻きつつも、茫然と立ち尽くしている一馬の身を案じていた。

 その健気な様子に、一馬は胸へ痛みを覚えた。

 

 煌帝国でのホムンクルスは人間ではない。人の形をした道具であり、玩具でもある。

 確かに一馬も、ホムンクルスを目覚めさせたのは、自分を守るための武器とするためだった。

 だが、しかし、切っ掛けがそうであったとしても!

 

「アイン!」


 気づけば一馬はそう叫んでいた。背後に鈍重な足音が轟く。

 そして背後の扉を突き破って、一馬の真横を巨大な”斬魔刀”の刃が過った。

 

 工房に差し込まれた斬魔刀は工房の中を滅茶苦茶に壊しながら突き進む。

 さすがのセイバーエイプも、危険を察知し、ホムンクルスを手放して飛びのく。

 

「今だホムンクルス!」

「イエス、マイマスター!」


 すぐに体勢を立て直したホムンクルスは左腕にも青い光の刃を発生させる。

 そして斬魔刀へ飛び乗り、まだ滞空状態にあるセイバーエイプへ突き進んだ。

 

「目標照準、固定!――殲滅っ!」

「SEKYA、kYAKYA……!!!」


 二振りの光の刃がセイバーエイプを十字に切り裂く。

 4ブロックに分断されたセイバーエイプが無残に落ちてゆく。

 

 一馬はアインへ吸収の法を使わせ、セイバーエイプを魔光に代えて吸収した。

 しかしスキルの獲得はならず。やはり、この程度の魔光の量では、アインにスキルを習得させられないらしい。

これは若干不便な箇所だと思った。

 

「マスター」


 気づくと全裸で小柄なホムンクルスが一馬を見上げていた。

 心なしか、表情が緩んでいるの様にみえるのは気のせいか。

 

「支援、ありがとうございました。とても助かりました」

「いや、まぁ、気にしないで」

「初戦闘でマスターの手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした。よって責任を取らせてください」

「責任?」

「はい。どうぞ、ワタシの身体を存分にお使いください!」


 全裸であどけないホムンクルスは、恥ずかしがることもなく、その場で大の字に体を開く。


「……は?」

「さぁ、どうぞ! ご遠慮なくご蹂躙くださいっ!!」




【木偶人形:アイン】現状(更新)



★頭部――鉄製アーメット


★胸部及び胴部――丸太


★腕部――伸縮式丸太腕部×2

*攻撃スキル:ワームアシッド


★脚部――クズ鉄棒・大きな石


★武装――斬魔刀×1(右腕装着)

*必殺スキル:エアスラッシュ


★武装2――ホムンクルスNO28×1 NEW!


昔懐かしの都合のいい奴隷的な? そんなヒロイン2のホムンクルスですw

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― 新着の感想 ―
[一言]  もしかして、というかやはり"アイン"の元ネタは"鉄人○8号"からきてるとか?  まぁ、"ジャイ○ントロボ"でもいいけど、こっちなら指先からのミサイルは必須だしねぇ(笑)  後、さらに進化…
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