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995 近づく戦争

「急で悪いね、忙しい?」


レイジェスの事務所内、テーブルを挟んで向かい側に腰を下ろしたシャノンが、レイチェルの持つ書類に目を向けて話しかけた。


「まぁ、いつも通りだな。今はジャレットがこの店の責任者だから、細かい仕事は全部ジャレットがやってくれている。シルヴィアもサポートしているから、安心してまかせられる」


そう答えてレイチェルは、手に持っていた一枚の用紙を、シャノンに見せるようにテーブルに置いた。


「・・・ふ~ん、これって昨対が倍くらいになってるね。そんなに買い取り増えてるの?と言うか、私に数字見せて大丈夫なの?」


用紙を持つと、シャノンは興味深そうに眺めながら問いかけた。


「ああ、私もアラルコン商会の数字を知ってるし、うちとは協力関係だろ?このくらいはいいさ。それは先月の数字だが、昨年対比で買い取りはほぼ二倍だ。今月はもっといくだろう。持ち込まれるのは衣類から武器防具、子供の玩具、雑貨に魔道具と色々だが、家具が特に多いな、みんな揃って引っ越しでもするのかって思うくらいだ」


レイチェルはテーブルの上で両手を組み合わせ、シャノンの目を見て答えた。

その視線を受けて、シャノンもレイチェルの目を見つめ返す。


昨年の同じ月と比べて、買い取りが倍増した。今月はそれ以上に増える見込みであるという。

そして買い取りは家具が多い。

今のこの時期にそれがどういう事なのか?その意味を考えた。


「・・・身軽になって、いつでも逃げだせるようにって事かな?」


シャノンの推測に、レイチェルも頷いた。


「そうとしか思えない。実際この町を出た人達もいると聞いている。この前帝国兵が町に入り込んで、大きな騒ぎを起こしただろ?前々から帝国との緊張状態が続いていたが、とうとう戦争が現実になりそうだから、物を処分して逃げる準備をしてるんだよ」


この町が戦火に包まれるかもしれない。

それならばもうここを出て、どこか遠くの町に避難したほうがいいんじゃないだろうか?

かさばる家具は金に換えればいい。


そういう考えなのだろう。



「だが、買い取りばかりが増えて、売り上げが落ちているかと言えばそうではない。売上も増えているんだ。主に、武器と防具、魔道具と薬だがな。古着はだめだ。溜まる一方でどうしようもない。だから最近は買い取り額を下げてるし、売値も原価近くまで下げている。それでもなかなか売れないがね」


「へぇ、そりゃすごいね。武器に防具に、か」


「町を出て避難する者達がいる一方で、戦う覚悟を決めて備えをする人達もいるって事だ」


なるほど。そう頷いて、シャノンはコーヒーの入ったカップに手を伸ばして口をつけた。


「アラルコン商会は最近どうだい?私も外部役員という立場をもらったが、ここ最近はそっちに行けなかったからな」


「ああ、それは気にしないで。元々レイチェルが忙しい人だってのは分かって頼んだんだ。都合が良い時に来てくれたらそれでいいよ。それにレイチェルが間に入って従業員を集めたり、建築の時に良い職人さん紹介してくれたから無事にオープンできたんだ。感謝してるんだよ」


「そうか、そう言ってくれると助かるよ」




ウィッカーとレイチェルは、最近は戦争の関係で城へ行く事が多い。


レイジェスには週の半分も来れればいいくらいで、店の営業はジャレットとシルヴィアが中心になって回していた。アラルコン商会とは馬車で30分はかかるくらい離れている事と、扱っている商品もほとんど重複しないため、客の取り合いになる事もない。


「それにしても、城じゃなくてシャノンに手紙が届くなんてね。他国の使者として来るんだから、そういう連絡は城へ行くものだと思うんだが」


「ああ、そりゃそう思うよね、大丈夫大丈夫、城へもちゃんと手紙は行ってるから。あのね、使者としての用事が住んだら、私達に会いたいんだって。私に来たのはそういう話しだよ。ほら、普通に考えれば、城で部屋を用意するんだろうけど、気を遣うし、私達と酒飲みでもした方が楽しいでしょ?どう?」


シャノンの説明に、レイチェルも納得したように頷いた。


「なるほど・・・まぁ、クインズベリーの立場で考えれば、使者は丁重にもてなすべきだから、夜は食事会でもするべきなんだが・・・リンジー達からすれば堅苦しいのは好まないという事か」


レイチェルは腕を組んで、少し考えるように天井を見上げた。


「・・・まぁ、大丈夫だと思うぞ。私達とリンジー達の関係を考えれば、クインズベリーで再会した旧友と親交を深める。という名目で私達が宿や食事の手配をしても、国の体裁も立つだろう。アンリエール様には伺いを立てなければならないが、まぁまず大丈夫だと思う。明日城に行って許可をもらって、帰りにアラルコン商会へ行くよ」


「分かった。面倒かけるけど頼むよ」


シャノンはニコリと笑って頷くと、席を立った。


「悪いな、大したもてなしもできなくて」


「いやいや、急に来たのは私だし、美味しいコーヒーを飲めたから十分だよ。みんなに挨拶してから帰るね」


レイチェルも席を立つと、シャノンはドアノブに右手をかけるながら、左手を軽く振って部屋を出て行った。



「・・・・・もう秋か、早いな」


あのロンズデールの戦いは昨年の冬、まだ一年は経っていないが、あっという間に時間が過ぎているように感じる。


一人部屋に残ったレイチェルは、日に日に近づいている帝国との決戦の時を感じ、目を伏せた。



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