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【980 ただ一人の】

ウィッカー・・・この黒渦は消せない。


もう俺にも制御はできないんだ。こいつは意思を持っていて、術者である俺さえも操ろうとしている。


恐ろしい事に、黒渦と繋がっていると、弟を殺めてしまった心の痛みが和らぐんだ。

心地よささえ感じてしまいそうになる。


これはもう魔法ではない。

多くの魂をむさぼり生まれた闇。邪悪な闇そのものだ。






「うっ・・・ぐぅ、あぁ・・・・・」


「お、王子!」

「来るなッ!」


突然王子が右手で頭を押さえてよろめいた。

近づこうとすると左手を前に出して、言葉鋭く俺を止める。


「なっ、で、でも王子、どうしたんですか!?大丈夫なんですか!?」


あまりに強い言葉だったので、俺は足を止めざるをえなかったが、頭が痛むのか王子は額から汗を流し、呼吸も少し荒い。


「ウィッカー・・・・・逃げろ」


右手で頭を抑えながら、王子は俺を睨むように、鋭い視線を向けてきた。

緊迫感のある声に、俺もただならぬ気配を感じ取り息を飲む。


「に、逃げるって・・・王子を置いて逃げれるわけないじゃないですか!それよりどこか悪いんじゃないんですか!?だったら早く黒渦を止めないと!」


俺の必死の呼びかけにも、王子は小さく首を横に振った。


「はぁ、はぁ・・・言っただろ・・・もう、黒渦は俺の手を離れた・・・もはや俺でも消す事ができない。今はまだ押さえていられるが時間の問題だ。だからウィッカー、お前だけでも逃げるんだ」


「そ、そんなっ!ぐっ・・・!」


こうして話している間にも、上空に渦巻く闇は力を強めていく。

まるで体をワシ掴みにされたかと思うよな、強くまとわりついて引き寄せる風。

気を抜くと体が持っていかれそうだ。俺も全身に力を入れて耐えているが、だんだんと厳しくなってきた。


「お、王子ッ!これ以上は耐えられません!黒渦を消せないんなら王子も一緒に逃げましょう!マルコ様を連れてここを離れるんです!もうこの町に残っている国民はいません!王子がここで戦う理由もないんです!王子、一緒に行きましょう!」


黒渦の吸い寄せる力に耐えているが、限界は近かった。


俺が差し出した手を、王子は少しの間見つめていた。

ほんの数秒だったと思うが、王子は俺の手を取るか迷ったのかもしれない。




この時、王子が俺の手を掴んでいれば、もっと違う結末があったと思う。

いや、手を差し伸べるんじゃない。俺が王子の手を掴んで逃げれば良かったんだ。


俺の人生は後悔の連続だ。

あの時こうしていればと、悠久に続く時の中でどれだけ悔いただろう。


だが一度起きてしまった事は覆せない。

時の流れは戻せない。



結果は変えられない。




「・・・・・ウィッカー」




その時の王子の顔を、俺は生涯忘れる事は無い

とても・・・とても寂しそうな笑顔だった




「王子・・・・・」



「今までありがとう」




右手を俺に向けて、王子は俺に魔力をぶつけた。

まともに受けた俺は、町の外、はるか遠くまで吹き飛ばされて、そして意識を失った







「・・・・・ウィッカー・・・」


俺の魔力を受けて、遠く飛ばされていくウィッカーを見つめていた。



一緒に逃げよう・・・・・か



たった今ウィッカーに向けて、魔力を放った右手に目を向けた。

この手で魔力を撃つのではなく、この手でウィッカーの手を取っていたら、何か変わったのだろうか・・・



ウィッカー・・・・・

お前はいつも俺を気にかけてくれたな


初めて師匠と修行をした日の事は、幼いながらに今も覚えている


周りはみんな、大人も、父でさえ俺の魔力を恐れるというのに、お前は俺をすごいと言った

自分より小さい子供に負けて悔しくないのか?変わったヤツだと思ったが、俺に笑いかけてくれるお前と話していると、不思議と俺は胸が温かくなった



俺が城に軟禁された時、俺はもう一生ここにいてもいいと思っていた

もう誰かの迷惑になりたくない

いるだけで疎まれるのなら、もう俺は誰にも関わりたくない


一生一人でいい・・・・・


煌びやかな調度品はあるが、孤児院のような温かさは何一つない

あの冷たい部屋で一人、そう思っていた



だけど・・・・・


師匠・・・ジャニス・・・そして・・・・・


ウィッカー


お前が俺の扉を叩いたんだ

何度も何度も俺を呼んだんだ


あの日、お前が開けた扉は、俺の心だったんだ



俺の人生で友と呼べる人間がいるとしたら、それは・・・・・

ウィッカー・・・お前は俺のただ一人の・・・・・・・




「ぐぅッ・・・!」


頭部の強い痛みに眩暈が起きて、足元がぐらつき倒れそうになる

空を見上げると、無限に広がる闇の渦が、これまでで最大のうねりを起こした


「く、黒渦め・・・俺の精神を、乗っ取るつもりか!」



フッ・・・皮肉なものだな

俺が作り出した黒渦に、俺自身が呑まれそうになっている


傍らで眠るマルコの肩にそっと手を置いた


すまない・・・・・お前を護るはずが、俺がお前を殺してしまった


結局俺は、ベンや皇帝の言う通り、悪魔の子だったのかもしれないな

お前の愛したこの国を、俺が消してしまうんだ

俺の心はこの闇のように、どこまでも暗く歪んでいるのだろう




マルコ・・・・・

俺はこの闇の中で、永遠にその魂を捕らわれるだろう


すまない・・・マルコ、お前ももうこの闇から逃げる事はできない


だがお前は・・・・・お前の魂だけは護って見せる



俺は持てる全ての魔力を、眠るマルコに送り込んだ


闇に侵されないように

マルコの魂が安らかに眠れるように


いつの日か、光ある地に帰れるように



「マルコ・・・・・」



誰かを抱きしめた事は初めてだった



一緒に行こう・・・・・マルコ・・・・・・・・・・



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