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98 マルゴンの語り ③

「さて、それではヴァン・エストラーダ。あなたの話を聞きましょう」


俺との話が一区切りつき、マルゴンはヴァンに体を向けた。

そう、ヴァンの聞きたい事は、俺もレイチェルも気になっていた事だ。


「あぁ、単刀直入に聞くが、今回の件、なんでお前らが全責任を負うと言ってるんだ?」



今回、俺とヴァン、カリウスさん、フェンテスの四人はマルゴンに戦いを挑んだ。


かろうじて勝利を治めたが、理由はどうあれ、囚人扱いだった俺と、元隊長、元副隊長、現役の隊長補佐、このメンバーで手を組み、騒動を起こした事は非常に重い。


これまではマルゴンの絶対的な強さによって、無茶なやり方も黙認されていたが、敗れた事でなんと騎士団が治安部隊を糾弾したのだ。


そして、これまで治安部隊に怯えていた街の人達から、一斉に怒りの声が上がり、マルゴンはあの戦いから僅か1日で隊長の任を解かれ除隊処分になり、ここに収容される事になった。


そして、アンカハスとヤファイは、除隊処分にはなったがマルゴンよりは罪状は軽くなるはずだった。

だが、二人は一貫して、全ての責任を負うと話しているらしい。それはマルゴンも同じだった。


マルゴン、アンカハス、ヤファイの三人が、なぜ俺達の分まで全ての責任を背負おうとするのか、

それは俺も聞きたかった。



「ヴァン・エストラーダ、それは簡単な話ですよ。私に非があったからです。あなた方に罪はありません。街の人々を畏縮させ、疑わしいというだけで処刑したのは私です。サカキアラタを不当に投獄し、暴行を加えたのも私です。私は罪を償わねばなりません。ただそれだけです」


マルゴンは表情を変えず、淡々とした口調で答えた。

あまりに予想外の言葉に、俺もレイチェルもヴァンも、その場の誰一人として何も言い返す事ができずにいると、隣の牢からアンカハスが言葉をかけてきた。



「おい、お前ら、マルコス隊長は一貫してこの国を護るためだけに行動している。治安部隊は新しい体制で始まるんだ。ヴァン、お前が新隊長というのはほぼ決定しているんだろ?

カリウスもフェンテスも、これからの隊に欠かせない人材だ。アローヨだって、時間はかかるが立ち直ってまたこの国のために働くだろう。ならば、ここでお前達が処分を受ける事は、この国にとってマイナスでしかないんだよ。だから、マルコス隊長は全ての責任を一人で背負おうとしたんだ」


「何だって・・・?」


アンカハスの言葉を受け、ヴァンは立ち上がろうとすると、マルゴンが手を前に出しそれを制した。


「ヴァン・エストラーダ、落ち着きがありませんね?お座りなさい」

「マルコス、てめぇ・・・」


「聞け、ヴァン。俺達もマルコス隊長と同じ気持ちだ。道は違えたが、この国を護りたいという気持ちだけはお前と同じだ。だから俺達三人が全てを背負う。お前達はこの国を護れ」


アンカハスとヴァンは、しばらく無言で視線だけを合わせていた。

お互い真意を探るかのように。先に口を開いたのはヴァンだった。


「・・・分かった。約束しよう。治安部隊の誇りに懸けて俺達がこの国を護る」


ヴァンの言葉を受け、アンカハスは小さく頷くと、それ以上話す気は無いようで、目を伏せ顔を背けた。



「私も聞きたい事があるんだが、いいかい?」

ヴァンの話しが終わったタイミングを見て、レイチェルがマルゴン向かって口を開いた。


「レイチェル・エリオット。せっかくの機会です。ご遠慮なくどうぞ」

マルゴンが頷き、差し出すように手を向けた。



「あんたさ、前に私に、大切なものを守りたい気持ちは同じ、って言ったよね?あんたにとっての大切なものって何?」


マルゴンにとって意外な質問だったようだ。小さく息を付き目を伏せると、少しの沈黙があった。



「・・・この国の平和です。私にとってはそれが全てです。私は、貧しい家に生まれ育ちました。

日々の食事にも苦労する本当に大変な生活でしたが、両親は確かな愛情を持って育ててくれました」


マルゴンは静かに、だがハッキリとした口調で、淡々と自分の過去を話し始めた。


「よくある話かもしれません。ある日、賊が入りましてね。ですが、我が家には差し出せる金品などありません。無駄足だったと憤怒した賊共はその場で両親を斬り殺しました。

私も殺されるはずでした。ですが、子供だった私には使い道があると思われたようです。

人買いに売り飛ばす事で話がまとまったようで、私は縄で縛られ連れていかれました。

怖かったですよ。あの時私はまだ八歳でした。何も抵抗できませんからね。日が暮れかかっていましたしたので、賊は少し急いで馬を飛ばしました」


重い過去を語る表情には、怒りも悲しみも無く、ただ起こった出来事をそのまま口にしているだけに見えた。

誰も口を挟めなかった。マルゴンはそのまま淡々と話を続けた。



「夜になる前に、賊共は森の中の小屋にたどり付き、その日はそこで一夜を過ごす事になりました。

私は後ろ手に縛られたまま、小屋の隅に転がされてました。ヤツらは楽しそうに笑い、飯を食ってましたね。それをただ見ているしかできない私は、己の無力さと、両親を目の前で殺された恨みで、闇に取り込まれていたのかもしれません・・・・・・」



そこで言葉を区切ると、マルゴンは顔を上げ、俺達の目を見て続きを口にした。



「そこから先覚えている事は、賊共が生きながらトバリに食われ悲鳴を上げているところです。

私の手には、たいまつが握られており、小屋は火の粉を散らしながら勢いよく燃え盛っていました。

そして、闇の中、賊は一人、また一人とトバリに食われ、その血を撒き散らしていきました。

実に恐ろしい光景でしたよ。何も無い闇の空間が、突如渦巻くのです。そして、表現としておかしいかもしれませんが、闇の渦がまるで口を開けるようにうねり、賊を捉えていくのです。

食われた部分は闇の腹の中とでも言いましょうか、消えてしまい、闇の口から漏れた真っ赤な血だけが残るのです。ここまでトバリをハッキリと見た人間は、私だけかもしれません。

そして・・・私だけ生き残りました・・・その後、私は一人あてもなく森をさまよい歩いていたところ、運良く治安部隊に拾われ、見習いとして働く事になったのです」



トバリ・・・夜を支配する闇の主。夜外を出歩くと、トバリに食われる。これはこの世界の常識だ。


俺もこの世界に来た最初の日に、カーテンから外に目を向けただけで、得体の知れないなにかの強烈な視線を感じ、背筋が凍り付く思いをした。


マルゴンは、そのトバリを利用し窮地を脱したと言っていいのだろうか?

だが・・・


「マルコス、なんであんただけ助かったんだい?目の前でトバリが現れて、あんただけ助かるはずがない。その話通りなら、あんた森の中で一夜を明かしたんだろ?それで無事だった理由があるんじゃないかい?」


そう。レイチェルの言う通りだ。この場の誰もがそれは疑問に思っただろう。

マルゴンだけ、トバリから逃れられた理由があるはずだ。

レイチェルの言葉に、マルゴンは遠くを見るように視線を少し上げた。



「・・・推測ですが、思い当たる節はあります。恨みで闇に取り込まれたと言いましたよね?

私はトバリという存在に触れていたのではないのでしょうか・・・私は間近でトバリを見て、アレは意思を持っているのではと感じました。

トバリとは意思を持った闇であり、激しい憎悪に支配された私は、トバリと共鳴したのではないかと。

途中の記憶が無いのです。気が付いたらたいまつを手に、燃え盛る炎に包まれた小屋を見ていました。

私はトバリに精神を奪われていたのかもしれません・・・そう思えてならないのです」



「・・・意思を持ち、憎悪がトバリと共鳴する・・・それじゃあ、トバリとは・・・」



「あの日から20年以上経ちました・・・当時を振り返り、今思う事は、トバリとは憎しみ、恨み、呪い、恐怖という負の力が生んだ闇なのではないでしょうか・・・・・・トバリとは、人が生んだのです」



マルゴンは断定するように、ハッキリと言い切った。

トバリとは、マルゴンの言う通り、人が生んだ闇なのだろうか?

静寂の中、マルゴンは更に言葉を紡いだ。


「ずいぶん年月が経ってから分かった事ですが・・・あの時、私達家族は巻き込まれた・・・いいえ、売られたのです。最初は別の家族が襲われたのですが、命を助けてもらう代わりに、私達の家にはお金が沢山隠してあると、あの家族はそう話したのです。助かりたい一心でしょうが、でたらめもいいところです。

それを知ってからですね、私が今のやり方をするようになったのは・・・善人そうに見えても、そう見えるだけで腹の中までは分かりません。

いいですか?行動を見て、疑わしいと感じたらそれは取り締まるべきなのです。それが犯罪を未然に防ぐ事につながります。

私はそうやって、犯罪率を9割削減し、この国を護ってきました。それは今でも正しかったと思ってます。

本当に善良な人々が平和に暮らせる世界・・・それが私が護りたい大切なものです」



今度こそ、マルゴンは話は全て終わったというように、俺達の顔を見渡した。


マルゴンの信念、そしてなぜあんなやり方をしてきたのか、その疑問は解けた。

俺はマルゴンのやり方はやはり、間違っていると思う。

だが、極端ではあるが、一貫してマルゴンとしての正義はあった。大半の人々は恐怖を感じながら生活をしてきたと思うけど、防げた犯罪もあっただろうし、犯罪の抑止力は強力だったと思う。


ただ一つ、疑わしいと感じたら、有無を言わさず連行し、処刑まで行っていた事が間違いだ。

それによって、多くの悲しみが生まれた事は事実であり、マルゴンはその罪を償わなければならない。


俺とマルゴンはやはり相容れないと感じた。

だけど、マルゴンが、アンカハスが、ヤファイが、三人が持っているこの国を想う心。

俺達の分の処分を引き受け、この国を託した心は、しっかりと受け止めたいと思う。



「マルゴン、俺はお前が嫌いだし、やっぱり間違ってると思う。だけど・・・」


俺は鉄格子の中に右手を入れた。


マルゴンは驚いたように、片眉を上げて俺の手をじっと見た。



「・・・サカキアラタ・・・クインズベリーを頼みましたよ」



ほんの少しだけど、マルゴンが笑ったように見えた。その表情には険も無く、初めて見る穏やかなものだった。


マルゴンは俺の手をしっかりと握った。


その手はとても力強く、平和を願うマルゴンの想いが伝わって来るようだった。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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