【970 タジーム 対 皇帝】
タジーム・ハメイドの戦いを見た者はいない。
ただ、父である国王さえ恐れる凄まじい魔力が、いつしか悪評となって広まった。
およそ人では考えられない魔力は、人外の存在。不吉なる者。悪魔王子。
様々な呼び方で表現されたが、どれもとても王族に向ける言葉ではなかった。
タジームの魔法が公で使われたのは、あのバッタの時が初めてである。
闇魔法黒渦。
黒魔法使いのタジームが使用した以上、黒渦は黒魔法に分類されるべきなのだが、師ブレンダン・ランデルは、黒渦のあまりの禍々しさから、ブレンダンは黒渦を闇の魔法と分類した。
黒渦は大勢の国民が目にした。
本来、国を救ったタジームは英雄と呼ばれていい。
だがタジームの使用した黒渦は、畏怖の対象として映り、賞賛されるどころか更なる迫害を受ける事となった。
一歩間違っていれば、あの黒渦に国民も呑まれていたのではないか?
そもそもあんな禍々しい魔法が存在していいのか?
あんな魔法を作り出すなんて、とても同じ人間だとは思えない!
やはり悪魔の子なのだ!
それが国民から見るタジーム・ハメイドだった。
「ぐはぁぁぁーーーーーッツ!」
腹部で爆ぜる衝撃に、皇帝ローランド・ライアンは天井へと吹き飛ばされた。
「ふん、その程度か?」
タジーム・ハメイドはつまらなそうに呟くと、右手の平から立ち上がる煙を握り締め、爆裂弾で飛ばした皇帝を冷めた目で見つめた。
「ぐぬぅッッッ!」
床に落ちる寸前で風魔法を使い体を浮かせると、皇帝は体を回して着地をした。
「くっ・・・」
致命傷ではないが、ただの爆裂弾でも想像以上に大きなダメージを受けた。
火の精霊の加護を受けている深紅のローブはあっさりと燃やされ、腹の部分が焼け落ちている。
くらった瞬間に魔力を集中させて、爆発のダメージを軽減させたはずだが、それでも腹の中にズシンと重く残る痛みがあった。
・・・爆裂弾でこれか?
口の端から流れる血を拭い、皇帝は視線の先のタジーム・ハメイドを見据えた。
・・・初級魔法の爆裂弾でこの破壊力なのか?
魔法とは使用者の魔力によって、破壊力が変わってくる。
皇帝である自分が使えば、爆裂弾でも並の魔法使いの中級魔法を大きく凌駕する破壊力になるが、タジームの爆裂弾は中級どころではなかった。
防御に回した皇帝の魔力を越えてくる破壊力、これは上級に匹敵する。
ここまでの攻防で、皇帝はタジームの魔力が、想定よりもはるかに高いと感じ取っていた。
「どうした?威勢がいいのは最初だけか?」
「・・・貴様・・・・・」
玉座の間の中央、赤い絨毯の上で睨み合う皇帝とタジーム・ハメイド。
ともに大陸最強と謳われる二人だった。
底の知れない魔力、そして黒渦という不気味なまでに恐ろしい魔法を使うタジーム・ハメイド。
圧倒的魔力で大陸一の軍事国家を支配した、皇帝ローランド・ライアン。
タジームと戦えるのは皇帝だけ。
皇帝と戦えるのはタジームだけ。
二人の名は常に並び、そして比べられてきた。
しかし・・・・・・・
「なめるなァァァァァーーーーーーーッツ!」
皇帝である自分が軽んじられるなどあってはならない!
怒りに表情が険しくなり、大きく口を開いて叫びをあげる!
右手が大きく光りを放つ!周囲の空気がバチバチと音を鳴らし、玉座の間を震わせた!
「ふん・・・・・」
並の魔法使いならば立っている事すらできない。地鳴りの如き振動と強烈なプレッシャー。
だがそれをぶつけられても、タジームは何も感じていないように、眉の一つさえ動かさなかった。
そしてゆっくりと右手を前に出すと、自分に向けられている皇帝の魔力に合わせるように、己の手にも爆発の魔力を集中させた。
「・・・貴様、余と魔力比べをするつもりか!?馬鹿が!消し飛ぶがいいィィィーーーーーッ!」
怒りの咆哮と共に撃ち放たれるのは、爆裂空破弾!
玉座の間を全て呑み込む程の巨大な光弾が、タジーム・ハメイドに襲い掛かる!
中級魔法に位置する爆裂空破暖弾だが、皇帝のソレは上級魔法に匹敵する威力を持つ!
「・・・こんなものか?」
「なにぃッツ!?」
皇帝は目を疑った。
タジームごとこの部屋全てを吹き飛ばすつもりで撃った爆裂空破弾が、タジームの右手一本で止められているのだ。
「俺と五分だと聞いていたんだが・・・・・噂は所詮噂でしかないな」
溜息交じりに呟くと、タジームは右手に少し力を込めて、皇帝の爆裂空破弾を押し返した。




