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【965 面影】

「はぁっ・・・はぁっ・・・」


息が切れて苦しい。魔法使いの中でも特に小柄な私は、体力が本当にない。

だけど力の限り走らなくてはならない。ペトラ隊長、そして軍を全滅させた帝国軍は、お城に向かっているのだから。


私の白魔法がきっと役に立つはずだ。

エロール君・・・私、どこまでできるか分からないけど、一人でも多くの人を救ってみせるよ。

だから見守っていてね。


そう誓って走り続けた。



お城に近づく程すれ違う人は少なくなっていた。

当然だ。誰もがこの町から脱出しようとしているのだから。

家は焼かれ、あちこちから火花が飛んでいるのだから・・・


そして走り続けて、ひと際激しく燃え上がる炎が、空を赤く染める光景を目にし、私は思わず足を止めた。



本当に・・・なんなのこれは?


生まれ育った町が燃えている・・・・・・


美しかったカエストゥスがこんな・・・・・・


・・・・・許せない・・・・・絶対に許せない!

平和だったこの国を壊した帝国を、許す事はできない!




帝国への怒りで、頭がどうにかなってしまうかと思ったその時、突然背後から羽交い絞めにされ、ぐわっと持ち上げられた。


「きゃあッ!な、なに!?」


「おいおい、ガキがこんなとこで何してんだよ?いや、そのローブはカエストゥスの魔法使いだな?」


足が地に付かない。持ち上げられたままなんとか顔を後ろに向けると、鉄の鎧を身に着けた大柄な男が二人、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて私を見ていた。


「あ、あんた達帝国軍ね!?離してよ!このクズ!」


「あ~?んだとガキ?もうテメェらの負けなんだよ、舐めた口利いてんじゃねぇぞ!?」


「おう、ガキなんか捕まえてもしかたねぇだろ?殺していいよな?いいよな?な?」


私を持ち上げながら怒鳴る男に向かって、もう一人の男が興奮した口調で確認を取りながら、腰から大きなナイフを取り出す。


「ああ、構わねぇよ。こんなの捕まえても労働力にもならねぇ、さっさと殺っちまいな」


「ちょっ、な、なによ!?止めて!離してよ!」


ナイフを持った男は私の前に回ると、手の平でナイフを回しながら、上から下まで観察するように私を見回した。ギラギラとした目、にたぁ~としたイヤらしい笑みに、生理的嫌悪感で鳥肌が立った。


「へへっ、やったぜ!首か、いや胸、腹でもいいなぁ~」


「な、なに!?ま、まさか、それで!?」


ゾクリと血の気が引く思いだった。

ギラリと光る冷たいナイフ、あれを向けられて、私は現実的な死を感じた。


体をひねり手足を激しく動かすが、私を押さえつける男の力は強く、まったく外す事ができない。


「へっへっへ、魔法使いってのは非力なもんだよなぁ~、おう、サクっと殺っちゃいなぼぉあぷぅッ」


「っ!?」


耳元で嗤っていた男の体から突然力が消えた。

急にどうした!?押さえつけられていた体が自由になり振り返ると、男の額には深々と矢が突き刺さっていた。そして私が抜けだしてグラリと体が傾くと、そのまま力なく後ろに倒れた。


「え・・・?な、に?」


「お・・・おいおいおいおい、なんだよ?誰だゴラァァァッツ!?」


ナイフを握っているもう一人の男が、倒れた仲間を見て怒声を上げて後ろを振り返った。


つられるように私も振り返った。私の窮地を救ってくれた、この矢はいったい誰が?


視線の先、数メートル程離れたそこに立っていたのは、とても綺麗な長いアイスブルーの髪の女性だった。


矢をつがえてナイフを持った男を冷たく見据えている。

誰だろう?初めて会った人だけど、どこかで見た事がある気もする。


多分二十代後半くらい。女性にしてはやや長身で、アイスブルーの髪。

切れ長の目で、瞳の色も髪と同じアイスブルー・・・・・この人どこかで見た事が・・・・・


「ゲスが、死ね」


「女ァー--ッツ!てめぇよくもぶぽぁッ」


男が叫んで飛び掛かろうとしたその瞬間、女性の放った矢が男の額を貫いた。

正確無比な弓術、射られた男はそのまま倒れ、何度か体を痙攣させた後、動かなくなった。



すごい・・・カエストゥスに、まだこれほどの実力者がいたんだ。

でも、この外見に、この弓術・・・もしかして・・・・・


私が女性の事をじっと見つめていると、その視線に気づいた女性が、私に近づいて来た。



「危なかったね、怪我はない?」


「あ、は、はい、おかげさまで助かりました。ありがとうございます」


さっきまで男に向けていた鋭く厳しい顔つきから一変して、その女性はとても温かみのある笑顔を向けてくれた。私は少し緊張しながら、思い切って女性にたずねてみた。



「あ、あの・・・あなたはもしかして、ジョルジュ様のお姉様か妹様ですか?」



目の前の女性は少しだけ目を開くと、ニコリと笑って返事をくれた。



「あいつ、ジョルジュ様って呼ばれてたんだ?・・・うん、そうだよ。私はジョルジュの姉のシャーロット。シャーロット・ワーリントン。よろしくね」


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