【949 手遅れ】
俺の魔道具、魔流縛は体内に埋め込む魔道具で、相手に密着しなければ発動しない。
持ち歩く必要が無いのは楽でいいが、射程距離の問題からリスクも大きいし、使い辛い魔道具ではある。しかし一度捕まえてしまえばこの通りだ。
自分よりはるかに魔力の高い相手でも、こうやって完璧に動きを封じ込められる。
皇帝、テメェは確かに強い。俺なんかとは比べものにならない。
だがな、これは戦争だ。一対一じゃねぇんだよ?俺一人で勝つ必要はねぇんだ。
俺の役目はてめぇの動きを封じる事で終わりなんだよ。
「ぐっ、き、貴様ァッ!」
どうした?ずいぶん慌ててるじゃねぇか?なんだよそのツラ?動揺が見え見えだぜ?
怖いのか、皇帝?
フン、そのツラが見れただけでも、ちっとは留飲が下がるってもんだ。
色々言ってやりてぇ事はあるが、あいにくこの魔道具は強力な分、長くはもたねぇんでな。
さっさと決めさせてもらうぜ。
「今だァァァァァーーーーーーッツ!撃てェェェェェーーーーーーーーーッツ!」
皇帝を押さえつけたまま、俺は自軍に向かって声を張り上げた。
「なっ!?き、貴様正気か!?」
密着した状態で撃てというのは、言葉通りの意味だ。俺ごと皇帝を撃ち殺せばいい。
「言っただろ?ここで俺と死ねよ。最後が貴様との心中とは色気がねぇけどよ、俺の命とてめぇの命が引き換えなら上等だ」
正面から皇帝の目を覗き込むように睨むロペス。
その顔を見て、皇帝ローランド・ライアンに戦慄が走る。
本気だ・・・この男、本気で余と相討ちを狙っている!死が怖くないというのか!?
自分を押さえつけるこの男、カエストゥスの大臣エマヌエル・ロペスの事は、王維継承の儀で顔合わせをした事があり覚えている。
その時の印象を一言で言うのなら、知略家だった。
前国王ラシーン・ハメイドが使い物にならないから、実質このロペスが国のかじ取りをしているというのも、ロペスと話せば話す程に頷けるものだった。
指揮官としても稀有なものがあるだろう。
そう思っていたが、あくまでそれは軍を指揮する立場での事だ。兵を駒として動かし、戦局を動かす事に長けているだろうと、皇帝はロペスをそう評価していた。
しかし兵を動かすどころか、開戦と同時に己が突っ込んで来て相打ちを図るという、この豪胆さはなんだ!?
本当にあの日会った、あの冷静かつ知的な男と同一人物なのか?
荒々しい言動、攻撃的な振舞はまるで別人のようだった。
「き、貴様!離せ!離さんかァァァァァー------ッツ!」
「へっ、覚悟を決めやがれ」
ロペスが視線を後ろに向ける。皇帝もロペスの視線を追って前を向くと、最前列に出て来たカエストゥスの黒魔法兵達が並び立ち、魔力を込めた両手を帝国に向けていた。
「まずいぞッ!結界だ!結界を張れ!」
「早くヤツを斬れ!」
「皇帝ー-----ッツ!」
トルネードバーストが上空に弾かれた直後、一瞬のうちに皇帝が押さえつけられていた。
この状況は帝国軍にとって想定を大きく超える事態だった。
そのためロペスが皇帝を押さえ、カエストゥス軍が魔法の発射体制に入るまでの僅かな間、帝国兵達は状況を飲み込むために行動に遅れが出てしまった。
青魔法使いが結界を、体力型がロペスを斬るために動きだすが、その全てがすでに手遅れだった。
集結したカエストゥス軍による一斉射撃!
炎の竜が唸りを上げて迫り、竜巻の如き風の刃が渦を巻いて襲い来る!
数えきれない程、無数に撃ち放たれた魔法の数々。
いかに皇帝の魔力が絶大でも、これだけの数の魔法を受ければ死は免れない。
「ウオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッツ!」
逃れられない死に直面し、皇帝の絶叫が響き渡った。




