【940 親友の姿】
皇帝の魔力開放を例えるなら、超高密度に圧縮された風、まるで台風に向かって剣を叩きつけているような手応えだった。
「オォォォォォォォォォォーーーーーーーッツ!」
一の太刀!
右から左へと一線した剣は、魔力の圧に阻まれて皇帝には届かない。
だが私の剣は止まらない、そのまま体を回して、右斜め上から皇帝の頭を目掛けて振り下ろす!
鋼鉄を容易く斬り裂き、大木さえも一刀両断する私の剣だが、皇帝の魔力の波動は、剣が入っても深いところまでは届かない。それだけ圧が強いのだ。そしてこの魔力の波動は防御だけではない。
私に向かって放出されているのだ。私は足を止めずに斬り続けなければ、この魔力の波動に吹き飛ばされてしまう。剣を止めつつ攻撃の役割も果たす、まさに攻防一体の技だった。
三の太刀、四の太刀、五の太刀、振り切った全ての剣が、皇帝の魔力に阻まれて届かない。
だが私が剣を振るう限り、皇帝の魔力の波動も私には届かない。
私の剣と皇帝の魔力が拮抗しているのだ。
流石だな皇帝、この私の剣が届かない程の高密度の魔力とは・・・
だが届かないのであれば届くまで斬るだけだ!この体力が続く限り、斬り続けるのみ!
「ウラァァァァァァァァーーーーーーーッツ!」
一太刀一太刀を全力で振り抜く!皇帝の魔力を斬って、斬って、斬り続ける!
私の剣が皇帝の魔力を斬り裂く度に、皇帝の魔力が宙に散らされて消えていく。しかし膨大な魔力を持つ皇帝は、いくら魔力を削られようが、削られた先から新たな魔力を生み出し放出する。
「フハハハハハハハ!どうした!?その程度か!?その程度で余の魔力を越えられると思うなよ!貴様の剣は余には届かん!だがな、余の魔力開放はまだまだこんなものではないぞォォォーーーーッツ!」
皇帝の黄金の瞳がギラリと光ると、魔力の密度が増大しペトラに強烈な圧を叩きつけた!
「なッツ!?」
さっきまで斬れていた魔力の波動が、今度は大剣を撥ね返しペトラを吹き飛ばした!
「うあぁぁぁぁーーーッ!」
最初にくらった魔力開放とは威力がまるで違っていた。
魔力開放とはその名の通り、魔力を開放しぶつける技である。魔力を高めれば高める程、威力が上がるのは道理。
本気を出した皇帝の魔力開放は、ペトラの体を強烈に撃ちつけた!
「女ッ!余の魔力開放にここまで食い下がったのは褒めてやろう!だがここまでだァァァッツ!」
両手に込めた魔力がバチバチと音を立てて輝き出す。
空中に吹き飛ばされたペトラに両手を向けると、目も眩む程に強い光を発する巨大な破壊のエネルギー、爆裂空破弾が撃ち放たれた!
「余の爆裂空破弾は上級魔法さえ食らうぞ!女、空中では躱しようがなかろう!塵と化すがいいッッッツ!」
「ぐうッ、こ、このぉぉぉぉーーーーーッツ!」
眼前に迫り来る皇帝の爆裂空破弾に、ペトラは体を捻ると大剣を振り上げ、巨大な破壊のエネルギー弾に斬り下ろした!
耳をつんざく爆音が轟き、大気が激しく震えた。
黒煙が空を埋めて、火の粉を舞い散らせる。ペトラは大剣で爆裂空破弾を斬り裂こうとしたが、皇帝の本気はペトラの剣をも呑み込んだ。
「フハハハハハハハ!馬鹿め!余の爆裂空破弾を、そんな剣で斬れるとでも思ったか!?」
勝利を確信し笑い声を上げる皇帝。
「ペトラ隊長!」
「そ、そんな!隊長ーーーッツ!」
戦いを見守っていたカエストゥス軍に衝撃が走り、悲痛な声が上がっていく。
ここまで確かな力を見せて、軍を引っ張ってきたペトラならば、皇帝を相手にしても勝てるのではと、希望を抱いていた。だが本気を出した皇帝の圧倒的な魔力の前では、ペトラの剣も届かなかった。
上級魔法に匹敵する、皇帝の爆裂空破弾をまともに受けた以上、ペトラは死んだ。
誰もがそう思ったその時、ペトラを呑み込んでいる空中の爆煙が斬り裂かれた!
「ウォォォォォォォォォーーーーーーーッツ!」
獣のような咆哮が轟く!
ペトラだった!爆裂空破弾の直撃を受けても生きていた!
だが当然無傷ではない。鉄の胸当ても、肘当ても、防具のほとんどは砕けて、全身を血に塗れさせていた。
そしてペトラの力の象徴たる大剣が、半分程に折れていた。
皇帝の爆裂空破弾の直撃を受けて、無事で済むはずがない。
だがペトラの大剣は盾として爆裂空破弾を受け、その威力を半減させていた。
金髪の女剣士ペトラは、頭上高く大剣を振り上げて、空中から皇帝に向かい斬りかかった!
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃッツ!?」
馬鹿な!?余の爆裂空破弾を受けて生きているだと!?ありえん!ありえんぞぉぉぉーーーッツ!
己の魔力に絶対の自信を持つ皇帝にとって、爆裂空破弾を直撃させて生きているなどあってはならない!だが今自分に向かって空から落下してくる金髪の大剣使い、この女が生き残った事は事実、ゆえに迎撃しなければならない!
だが・・・・・
「死ねぇぇぇぇぇぇーーーーーーーッツ!」
血まみれのペトラの最後の一撃!
半分に折れたとは言え、それでも人を斬るには十分な長さがある。
頭上高く振り上げたその剣を、皇帝の頭に向けて振り下ろした!
「っ!ぐぬぉぉぉぉぉぉーーーーーッツ!」
完全にペトラを仕留めたと思った皇帝は、ペトラの攻撃に対しての備えに一瞬の遅れが生じる。
そして攻撃の手に迷いが出た事も致命的だった、爆裂弾による迎撃か、魔力開放による防御か?
瞬き程の刹那の時間の選択だったが、この遅れが結果として皇帝に一太刀を浴びせる事になった。
「ガッッッ・・・・・!」
鮮血が飛び散り、皇帝の体が大きく揺らいだ。ペトラの大剣は確かに皇帝の頭を斬った。
だが・・・あまりに浅かった。
「ル、チル・・・・・」
剣を振り抜いたペトラの目が、驚きのあまり見開かれる。
見間違えるはずはない。今自分が剣で斬った相手は、ペトラの親友、ルチル・マッカスキル。
だがルチルは北の街メディシングで、帝国の指揮官と戦い命を落とした。
なぜ今ここにいるのか?
自分は今皇帝に剣を向けていたのだ、なぜ今ルチルがここに現れたのか?
あのまま全力で剣を振り抜いていれば、皇帝の頭は粉砕されていただろう。
だがペトラは、突如目の前に現れたルチルに剣を引いた。
・・・・・・幻覚か!?
ペトラがその答えに辿りつくまでに要した時間は、数秒程度の短い時間だった。
だが数秒もあれば、頭を斬られた皇帝が体勢を立て直し、そして魔力を練るには十分な時間だった。
両手に漲らせた莫大の魔力、大地を揺らし、空気を震わせるそのな破壊の力は、かつてカエストゥスを焼いた爆発の上級魔法。
「灰になるがいぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーッツ!」
光源爆裂弾!
ペトラが我に帰り皇帝に顔を向けたその時、皇帝はソレを撃ち放った。
「ペトラ隊長ーーーーーーッツ!」
後ろで戦いを見守っていたフローラが飛び出した。




