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【938 ペトラ 対 皇帝】

「ハァァァァァァァァー--------ッツ!」


その闘気はペトラの金色の髪を逆立たせた。足元から巻き上がる風は、血濡れのマントを大きくはためかせる。

ペトラの発する気の高まりは、突風を思わせる程に鋭く、そして強烈な圧となって帝国軍を叩いた。


最前列に立っていた帝国兵達は、あまりのプレッシャーに気圧されて後ずさりをしてしまった。

気合だけで屈強な帝国兵を下がらせられる程に、今のペトラは力をつけていた。



「ひ、ひぃっ!な、なんだよアレ!?か、勝てるわけフヒュッ!」


一歩後ろに下がった兵士の首が、突然胴体と離れて地面に転げ落ちた。



仲間の首が飛んだ事に、残っている兵士達から驚きと同様の声が上がるが、前に立つ皇帝が発した魔力が、全ての雑音を黙らせた。


「・・・静かにしろ。貴様らは栄えあるブロートン帝国の兵士だぞ?この程度で何を取り乱している?次に狼狽えた者は、帝国軍としての資格は無しとして首を飛ばす」


右手に纏わせた魔力が風の刃を作り、周囲の空気を斬り裂く音が鳴り響く。

皇帝のウィンドカッターは、鋼鉄であろうといとも容易く切り裂く。

自国の兵であろうと、容赦なく殺す様を見せられて、兵士達は固唾を飲んだ。


「・・・とは言え、貴様らではこの女に勝てぬのも分かる。この女は師団長クラス、いや・・・あるいはそれ以上か?フッ、セシリアがいたら喜びそうな女だ」


皇帝は口の端を持ち上げると、兵士達を後ろに控えさせ、一人で前へ歩き出た。




「・・・ほう、皇帝、貴様一人でやる気か?」


一対一。皇帝が前に出て来た事で、自然とペトラとの一騎打ちの図式になった。


「フッ、貴様如きに兵の全てを当てると思ったか?本来なら余が出るまでもないのだが、今は他に戦える者がいない事も事実。ゆえにこの皇帝が、直々に相手をしてやろうというわけだ」


不敵に笑った皇帝の体から、殺意を帯びた魔力が滲み出る。

戦闘体勢に入った事を察したペトラは、前を向いたまま振り返らずに、後方で控えるカエストゥスの兵達に言葉を飛ばした。


「皇帝は私が殺る!お前達はそのまま下がっていろ!フローラ、後の指揮はお前に任せるぞ!」



ペトラの後方では、共に帝国からここまで歩いて来た、白魔法使いの部隊長フローラが立っていた。


回転しながら大剣を振るうペトラの技、乱殺風陣らんさっぷうじんは、強力無比な技だが、乱れ飛ぶ技の性質ゆえに、周囲に味方がいては使う事ができない。

そのためペトラが大剣を振り回し始めた時点で、カエストゥス軍は巻き込まれないように距離を取っていた。



「分かりました!こちらは私にお任せください!ペトラ隊長、思いっきりやってください!」


そう叫びフローラの目には、確かな強さ、そして覚悟があった。


恋人エロールを失った悲しみはまだ癒えていない、いやこの先どれだけの時間が経とうと、忘れる事も癒される事もないのかもしれない。

だが、苦しみも辛さも乗り越えて、戦いの場に立った。


自分は部隊長だ。命ある限りこの国のために戦わなければならない。


エロール君・・・私がくよくよしてたら、エロール君は安心できないよね。

だから、私頑張るよ・・・辛いけど、苦しいけど、頑張るよ。

だって、私に生きて欲しいって・・・エロール君の最後のお願いを無視するなんてできない。

だから私、頑張るよ!



フローラは前を向いた。

戦闘力のない自分にできる事は、ペトラが回りを気にせず、ただ皇帝一人だけに集中できる戦いの場を作る事。カエストゥスの兵達にそのための指示を出し、帝国兵の横やりが入らないように牽制する。


そしてカエストゥスの命運をかけた一騎打ちを見つめた。




「フッ!」


フローラの激が背中に届くと、ペトラは短く、そして鋭く息を吐き出して大地を蹴った。


皇帝との距離は、目算でおよそ7~8メートル。

帝国兵の視界から一瞬で消えさり、後ろを取る程の足を持つペトラは、この距離を瞬き程の刹那の間に詰めた。


選んだ技は中段突き。的の大きい胴体に狙いを付けた。

上段に振り上げる必要も、下段から斬り上げる必要もなく、ただ最短の距離に真っすぐ突き出すだけの最速の技である。

特別に強い腕力も、派手な技も必要ない。ただ突き殺す。

物理防御の高い防具などなにも身に着けず、深紅のローブに身を包むだけの、魔法使いの皇帝に対してはそれで充分だった。



だが・・・・・



「フッ・・・帝国で余と一戦交えて、何も学んでおらんのか?」


胴の中心に突き刺すはずだったペトラの大剣は、皇帝が右手に纏った風の盾によって防がれた。


「・・・チッ、皇帝、お前本当に魔法使いか?なぜ私の剣を止められる?」


最速最短で放った突きである。自信はあった。だが魔法使いを相手に軽々と防がれた事に、ペトラは眉を潜めて舌を打った。


魔法使いである皇帝が、なぜ体力型の兵達でさえ反応できないペトラの剣を防げたのか?

皇帝はペトラの動きをほとんど目で追ってはいない。いや、正確には追えない。

魔法使いの皇帝の動体視力では、ペトラの動きを追う事は不可能である。

ではどうやってペトラの剣を防いだのか?


「フッ、余とて楽に皇帝として即位できたわけではない。どれだけの死線をくぐり抜けたと思っている?累々たる屍の山を越えてきたのだ、貴様とは経験と勘が違うのだよ!」


両手で大剣を握り締め、皇帝に突き立てようと力を込めるペトラ。

その大剣を右手の風の盾で受け止めている皇帝は、左手にも風を纏わせると、ペトラの右脇腹に狙いを付けた。


「ッ!?」


「この距離では躱せまい」


風魔法ウインドカッター。

鋼鉄でさえ斬り裂く皇帝の風の刃が、ペトラの右脇腹に向けて飛ばされた。


ウインドカッターがペトラの脇腹を斬り裂くと思われた瞬間、ペトラは左手を剣から離し、まるで風の刃を受け止めるかのように左腕を差し向けた。


「そんな盾で余のウインドカッターが防げると・・・なにッ!?」


皇帝のウインドカッターは、ペトラの左腕の盾に当たった瞬間に、上空へと飛ばされて霧散した。


「馬鹿なっ・・・余のウインドカッターを飛ばしただと?貴様、その盾はなんだ!?」


皇帝はペトラから視線を切らず、警戒するように一歩大きく後ろに飛ぶと、ペトラの左腕に付けられている丸い盾を指差した。



「これは全てを受け流す最強の盾、流水の盾だ!」


前剣士隊隊長、ドミニク・ボーセルから受け継がれた最強の盾は、皇帝の魔法さえも受け流した。


「全てを受け流す、だと?」


「皇帝!この盾の前では貴様の魔法も無力だ!その命もらうぞ!」



右足を軸に体を素早く鋭く回す!

上半身を大きく捻り、勢いを付けたペトラの大剣が、皇帝の首を狙って繰り出された!


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