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【933 止まない吹雪の夜】

「いつまで降ってやがんだよ」


最年少のリッキーが、苛立ちを隠さずに洞窟の外を睨みつける。


吹雪は今日で6日も続いていた。俺が目を覚ましてからだと三日目という事になる。

明日には帝国の領土を抜けて、カエストゥスに入れるだろう。


帝国軍とペトラ達にはまだ追いつけていないが、大軍を引き連れて進行する事に比べ、俺達はたった8人だ。移動の速さは勝っているだろう。それに朝早くに出発して、暗くなるまで歩き続けているのだから、差が縮まっていないはずがない。


「本当にね、帝国って火の精霊の加護で雪が降らないんじゃなかったの?こんなに吹雪くなんて、カエストゥスでもそうは無いわよ」


リッキーの向かいに座っているリースも、つられるように洞窟の外に顔を向けた。


焚火の明かりが外まで漏れて、闇夜を薄っすらと照らしている。その少しの明かりで、外の状況は十分に見て取れた。吹雪は依然いぜん変わらず続いている。


轟々と強い音が洞窟内に響き渡り、風に乗って雪も入り込んで来る。

俺達は少しでも暖をとろうと、焚火を囲んで座っていた。



「明日にはカエストゥス領内に入れそうですね・・・」


アニーが俺に顔を向けた。


どうしますか?とは聞いてこない。

だがゆっくりと俺の顔を見て口にしたその一言には、今後の方針を俺に委ねているように聞こえた。


左右に首を動かすと、全員が俺に目を向けている。


俺はこいつらに命を救われたし、こいつらは七人で一つのチームで動いていたから、あまり口を挟まないようにしていたが、明日には帝国を抜けてカエストゥスに入るとなると、状況も変わってくる。

確かにここからは俺が指揮をとるべきだろう。



「・・・基本的な隊列はこれまで通りでいいだろう。アニーが先頭で、カイルがしんがりだ。俺は列の真ん中で、何かあったらすぐにフォローに入る。カエストゥスに入ってからだが、帝国軍とペトラ達が戦闘に入っていたら、俺達はそのまま加勢に入る。皇帝をは俺がやる。みんなは状況を見ながら動いてくれ・・・ただ、もし首都が戦火に包まれていたら・・・人命を護る事を最優先に考えてほしい」


願わくば首都に入る前、外で決着をつけたい。

首都に入られていたら、どれだけの被害が出るか分からない。


メアリー、ティナ・・・・・


愛する妻と娘の顔が目に浮かぶ。もし二人になにかあったら・・・・・


そう考えると焦燥感で心が乱され、僅かだが魔力が体から漏れだした。



「ウィッカー様・・・怖い顔してますよ」


強く握り締めた拳に、温かい手が添えられて我に帰る。

顔を上げると、エニルが心配そうにじっと俺を見つめていた。冷静だったつもりだが、俺もずいぶん気持ちを押し殺していたようだ。


「あ・・・、悪い」


「・・・奥さんと娘さんの事ですか?心配ですよね」


エニルは俺の手を握って、優しく声をかけてくれた。

彼女は時折俺を誘惑するような言葉を口にするし、こうして手や肩に触れてもくる。

俺を諦める気持ちは無いようだが、メアリーやティナと自分を比べるような事は一度も口にしなかった。

それどころか、こんなふうに気にもかけてくれる。

既婚者を誘惑してくるくせに、なんだか憎めないところがあり、俺はエニルに悪い感情は持っていなかった。


「・・・エニルはさ、やっぱり人の考えが読めるんだろ?」


「さぁ、何の事だか分かりませんね。女の勘ってヤツですよ」


小首を傾げて微笑むエニルを見て、俺の心の焦りも落ち着いていった。


「そうか・・・ありがとう。もう大丈夫だ、話しを続けよう」


険のとれた俺の顔を見て、エニルは納得したように手を離したが、その代わりというように距離を詰めて、肩をくっつけてきた。


「・・・おい、エニル」


「え、なんですか?早く話しの続きをしましょうよ」


とぼけるエニルに軽く息をついて、他の6人に顔を向けると、みんな笑って俺達を見ていた。

最初の頃は気を使って見て見ないふりをしていたが、周りの目を気にしないエニルと、なんだかんだで受け入れている俺を見て、口には出さないが見守る事にしたようだ。


「・・・じゃあ、話しを続けるぞ」


それから俺達は今後について、じっくりと話しあった。

アニー達も俺の言う通りにするだけでなく、自分達の意見も出してきて、どう動く事が最善かをみんなで考えて話しあった。


そして話しがまとまった頃には夜もすっかり深まっていた。


外から聞こえる風の音は強く、一向に弱まる気配を見せない。この分では朝になっても変わらない吹雪だろう。この数日間、歩き詰めで疲労は溜まっている。明日も吹雪の中を歩かなければならない。



「もう、寝ようか・・・明日もキツそうだ」


話しがまとまったのなら、少しでも多くの睡眠をとって体を休ませた方がいい。

俺が洞窟の外に顔を向けてそう話すと、そうですね、休みましょう、とみんなが同意の言葉を返して横になり、明日に備えて体を休めた。


発光石に蓋をして明かりを消すと、みんなこの数日の疲れが溜まっているのだろう。

ものの数分程度で寝息も聞こえて来た。



俺も寝るか・・・

肘を曲げて枕代わりに頭を乗せると、あっという間に睡魔に襲われて、俺は深い眠りについた。



寝息を立てる俺の隣で、エニルが寂し気に俺を見つめている事など、俺は気が付きもしなかった。



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