表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
930/1563

【930 心の中】

誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。

「ここまで、凄い吹雪とはな・・・」


廃屋にいた時も、崩れた屋根から入ってくる雪と風で、ある程度は想像していた。

だが実際に外に出ると、優に膝が埋まりそうな程に積もった雪、そして数メートル先も満足に見えないくらいの猛吹雪に、視界を塞がれた。


まともに歩く事も難しいため、俺達は風魔法を使って、全身に風の鎧を作り吹雪から身を護っている。

魔力の消費が大きい技ではないが、長時間維持すれば当然それだけ負担がでる。

気になるがこの状況ではしかたがない。誰かが辛くなったら、休息を入れて回復するまで待つしかないだろう。


それにしても、帝国は火の精霊の加護を受けているため、そもそも雪が降りにくい。

降ったとしても粉雪程度で、まず積もる事ない。それがどうしてここまで降るんだ?


「驚きますよね?もう三日も吹雪いてるんですよ」


「なに、三日も!?」


隣を歩くエニルが、まるで心を読んだかのように俺の疑問に答えた。

驚きをそのまま声に出した俺を見て、エニルは少しだけ笑った後、すぐに表情を引き締めて言葉を続けた。


「はい、この吹雪は三日続いています。そのせいでこの通り、膝まで埋まるくらいに積もってるんです。私達はカエストゥスの人間だから、このくらいの雪は経験がありますけど、帝国にとっては初めてで、どう対応していいか分からないでしょうね・・・」


そこまで話してエニルは一度言葉を切ると、俺に顔を向けて右手の人差し指を顔の前で立てた。


「だから、三日遅れていても追いつける可能性があります。ペトラ隊長が率いている軍も、帝国の進軍から半日程遅れて発ちましたが、雪国育ちのカエストゥス軍と、雪が初めての帝国軍では、進軍のスピードの差は圧倒的ですからね。すでに衝突している事も考えられますよ」


「なるほど・・・それなら、なおさら急ごうか」


エニルの分析は的を得ていた。

確かにこの吹雪は厳しいが、雪国育ちの俺達にとっては、経験した事があるレベルだ。

半日の時間差ならば、ペトラ達は帝国に追いついているかもしれない。


そして戦闘になっているのだとしたら、やはり皇帝がどう出てくるかで命運が変わるだろう。

カエストゥスに追いつかれた瞬間、またも光源爆裂弾を撃たれでもしたら、一瞬で潰されてしまう。


今のカエストゥス軍で、皇帝の光源爆裂弾を防げる者はいない。師匠、ブレンダン・ランデル並みの使い手でなければ不可能だからだ。

全てを受け流すと言われる、ペトラの流水の盾だって不可能だ。あれほど巨大なエネルギー弾は、受け流すとか撥ね返すというレベルの話しではない。それ以上の魔法をぶつけて呑み込むか、耐えられらレベルの結界で凌ぎきるしかない。


ペトラ達が帝国に追いついたとしても、常に皇帝を警戒しながらの戦いを余儀なくされれば、本来の実力を発揮できるはずがない。かなり不利な戦いになるだろう。


皇帝に太刀打ちできるのは俺しかいない。三日の遅れは大きい。もう手遅れになっているのかもしれない。でも、それでも僅かでも可能性があるのであれば、行かなければならない。



俺が足を速めると、エニルも歩調を合わせるように歩幅が大きくなった。






「・・・今日は、ここまでにしよう」


半日は歩いただろう。すっかり日も暮れて暗闇に閉ざされた。

俺達は山道を通っている。樹々がある程度の吹雪は防いでくれているが、足場はまったく見えない。

これ以上は危険だと判断し、近くに見えた山小屋に避難する事にした。


もし俺一人であれば、夜であろうとかまわず先を急いでいた。

だがアニー達が一緒であるから、そうはいかない。

彼女達の魔力は決して高くない。特に最年少のリッキーは体力も低く、見るからにバテているのが分かった。勝気な性格だから弱音は吐かないし、みんなが先を行けば黙ってついてくるだろう。

だが、それではいずれ倒れてしまうのは目に見えている。チームである以上、足並みは揃えなければならない。


休もうという俺の言葉に、ホッとした息がいくつか聞こえた。

リッキーだけでなく、限界が近い者が多かったのだろう。故郷のために先を急ぎたい気持ちはみんなが持っている。だが歩き続けて体力も魔力も、底をつきかけていたのだろう。

ここで倒れてしまっては、戦う以前の問題だ。



「あ、あそこに薪がある。俺、火を起こしますね」


最年長のカイルは小屋に入るなり、率先して行動した。

部屋の中央には、数十センチ程度の四角い木の枠があり、その中には灰が敷き詰めてあった。

まだ使えそうな薪も置いてある。おそらく前にここを使った人が置いていったのだろう。


カイルが火魔法で火を付けると、みんな一斉に火を囲むように集まった。

いくら風魔法で吹雪をさけても、寒いものは寒いのだ。体は芯まで冷え切っていたのだろう。


部屋全体が温まるには少し時間がかかるだろうが、火の回りはすでに熱が伝わってきていて暖かい。




「ウィッカー様、もう少し近くに来た方が温かいですよ?」


少し離れて座っていると、エニルが俺の前に腰を下ろした。その両手には木製の小さな器が持たれていて、白い湯気が出ていた。


「いや、俺はここでいい」


この七人を避けているわけではないが、今は誰かとあまり話したい気分ではない。

短い言葉で断ると、エニルは、そうですか、と一言返して俺の隣に腰を下ろした。


「はい、どうぞ。温まりますよ」


エニルに器を手渡される。受け取ると、冷え切った両手にスープの温かさが伝わり、コンソメの良い匂いが鼻腔を刺激した。


「・・・ありがとう。スープなんて、よく作れたな?」


乾パンや干し芋などの保存食ならともかく、人数分の器に、スープの材料なんて、どうやって持っていたんだと感心してしまう。


「ふふふ、驚きました?実はトムが作ったんですよ。トムって、自分の事より人の事ばかり考えてるんです。このスープも戦争に行く事が決まった時に、みんなに温かい物を食べて欲しいからって、準備したんですって。できるだけかさばらないように、最小の荷物にするために苦労したみたい」


「へぇ、そう言えば俺もトムにローブをもらったな。トムは仲間思いで優しいんだな」


「はい、本当に良いヤツなんですよ。あ、冷めないうちに飲んでください。トムのコンソメスープって、すぐに体が温まるんですよ」


「ああ、いただくよ」


一口飲むとエニルの言う通り、冷え切った身体がすぐにポカポカ温まり出した。


「なるほど・・・これは良いな。冷たくなっていた指先にも、感覚が戻ってきた。トムに感謝しないとな」


拳を握って感覚を確かめる。かじかんでいた指先にも、熱が戻ってくる感じがあった。


「そうでしょ?あとでお礼言ってください。喜びますよ。アイツ、ウィッカー様に憧れてるから」


エニルは目を細めて笑うと、自分もスープを一口飲んで、おいしい、と呟いた。



それから俺達は黙ってスープを飲んだ。

アニー達は焚火の前で談笑しながらスープを飲んでいる。彼らは本当に仲が良い。

だが彼らを見ていると、微笑ましく思う反面、自分が失った仲間達を思い出してしまう。


ジョルジュ、ジャニス、師匠、パトリックさん、エリン・・・・・



・・・・・もう二度と会えない




「・・・ウィッカー様、怖い顔してますよ」


ふと、肩に乗せられた手に我に返る。


エニルが心配そうに眉を下げて、俺を見つめていた。



「ああ・・・悪い、なんでもない」


「そうですか・・・・・」


俺が目を逸らして答えると、エニルは俺の肩から手を離した。

そして手を離した代わりに頭を乗せて、もたれかかってきた。



「なっ!?おい、エニル?」


驚く俺をよそに、エニルは前を向いたまま静かに呟いた、



「ウィッカー様・・・・・アタシ達、やっぱり死ぬんでしょうか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ