【904 二人】
「くっ、ジャニス、怪我はないか!?」
師匠の起こした大爆発で、俺達の立っていた足場も全て崩壊した。
二階も抜けて、一番下の階にまで落下した俺達だったが、ジャニスの事は咄嗟に抱きかかえて、崩れ落ちて来る瓦礫や爆風から庇った。
「う、うん、大丈夫。ありがとう。けど、こんなにすごいなんて・・・」
風魔法で頭上を護りながら、ジャニスを下ろす。足元に転がる大きな石の破片や、砕けた柱の残骸、ひしゃげた調度品などが転がっていた。
「ああ、上はもう完全に崩壊したな・・・」
見上げたそこには天井は無かった。ただぽっかりと大穴が開いて、黒い煙に覆われた空が見えるだけだった。
光源爆裂弾や、エロールの反作用の糸による大規模な爆炎は、今もまだ続いている。
「ウィッカー、師匠を・・・お父さんをお願い」
隣に立つジャニスが、俺の顔を見上げながら手を握ってきた。
不安そうな目をしている。ああ・・・分かってる・・・
「ジャニス、俺に任せろ」
両腕の痙攣はすでに回復してもらった。
魔力はあまり残っていないが、まだ戦える。
そして俺達より数メートル前に立つ、青いローブ姿の師の背中に目を向けた。
前方を向いたまま魔空の枝を構え、警戒態勢を解いていない。
という事は、あの大爆発をまともに受けたにも関わらず、皇帝は死んでいないという事だ。
師匠・・・・・
「・・・皇帝、貴様・・・」
土煙が晴れてくる。
それとともに姿を現したのは、たった今霊魔力の大爆発を浴びせた、金色の目をした男だった。
驚くべきはその姿である。
城を崩壊させる程の大爆発だったにも関わらず、まったくの無傷だった。
まるでブレンダンの霊魔力を、完全に無効化させてしまったかのように。
「フッフッフ・・・素晴らしい攻撃だったぞブレンダン。さすがの余も少しばかり肝を冷やしたぞ。だが、惜しかったな」
そう言って勝ち誇ったように笑う皇帝の隣には、ネズミのような顔をした小柄な男が、ニタリと口元を歪めて笑っていた。
そしてこの男こそが、ブレンダンの霊魔力から皇帝を護ったのだった。
「ヒーヒッヒッヒ!、ブレンダン!王位継承の儀以来だな?ブロートン帝国大臣ジャフ・アラムだ。この私の魔道具、霊障石がある限り、皇帝に貴様の霊力は通用しないぞ!」
ジャフが右手に持つのは、手の平に収まる程の艶のある丸い石だった。
白と黒のまだら模様で、歪な光を放っている。
「むっ!・・・その石、まさか霊気を持っておるのか?」
ジャフの持つ石を目にし、ブレンダンの眉間に険しくシワが寄った。
「そうだ。クラレッサ・アリームの悪霊は強すぎた。万一の乱心に備え、霊力に対する対抗策を用意する事当然だと思わんか?まぁ、お前を相手に使う事になるとは思いもしなかったがな。このジャフ、死ぬ思いで霊力を身に付けたのよぉぉぉッ!」
ギラリと目を光らせ、口の端に泡を溜めて叫び散らすジャフの姿は、ある種の狂気が潜んで見えた。
「・・・まずは、お前のその石をなんとかせんといかんようだな?」
魔空の枝をジャフに突きつける。
鋭く睨み付けるブレンダンに、ジャフも真っ向から視線を受けて返す。
「できるものならやってみろ!言っておくが私は貴様と同じ青魔法使いだ!防げるものは霊力だけではない!皇帝には指一本触れさせんぞ!」
ジャフの体から、その歪んだ心の内を表すかのように、ドス黒い魔力が滲み出てくる。
「むっ!?こいつは・・・ちょっと、面倒じゃな」
凶悪な魔力を感じ、ブレンダンの表情が厳しさを増す。
ジャフの魔力はブレンダンとは比べ物にならない。
だが、実力差を越えた狂気が、ブレンダンにジャフの脅威を教えていた。
霊魔力が通じない以上、ブレンダンは手足を縛られたも同然。
しかしそれでも戦うしかない。ウィッカーとジャニス、二人を護るために、ブレンダンが再び戦いの火ぶたを切って落とそうとしたその時・・・
「・・・師匠、ここからは二人です」
大陸一の黒魔法使い、ブレンダンの愛弟子ウィッカーが、師の隣に立った。




