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90 水色の布袋

シャノンにお礼を言って店を後にした俺とカチュアは、そのままモロニー・スタイルに戻った。

丁度スーツも仕上がったところだった。


モロニー・スタイルで試着をしたが、そのフィット感には驚いた。

細過ぎず、太すぎず、肩も動かしやすいし、座った時に腿やお腹が窮屈になる事もない。

申し分のない仕上がりだった。よく一時間でできるものだ。



「アラタ君、似合う似合う!かっこ良いよ!」


カチュアも手を叩いて褒めてくれた。


明るい紺色のスーツで、暗めの青のストライプが入っている。

日本のスーツと違う点は、袖が捲られていて、外側に少し尖っている点だ。

そして、衿端から裾の端までパイピング、黒のテープ状の布で包まれている。


どことなく、ファンタジー漫画の学生が着る制服のような印象もある。


最初は日本のスーツのイメージで考えていたので、大丈夫かな?と気になっていたが、この世界ではこのデザインが普通なのだろう。そう考えると、悪くないかなと思えて来るから不思議だ。


ネクタイやシャツはレイチェルがジャックさんに頼んで、合うものを見繕って置いてもらったようだ。


一式全て受け取って、俺とカチュアはレイジェスに帰った。

店に戻ると、皆からスーツの出来を聞かれ、閉店後にお披露目する事になった。





「あ、ジャレットさん、これってなんだか分かりますか?」


仕事に戻った俺は、防具の手入れをしながら、露天でもらった水色の布袋をジャレットさんに見せた。

ジャレットさんは、布袋を取って眺めたが首を横に振った。



「いや、知らねぇな。ミゼルに聞いてみな、アイツけっこう物知りだから、分かるかもしれねぇぞ」


ジャレットさんにそう聞いた俺は、手入れが一区切りしたタイミングで、黒魔法コーナーへ行ってみた。

黒魔法コーナーでは、お客さんが魔道具についてなにか聞いているらしく、シルヴィアさんが商品を手に取って説明をしていた。



「このピアスは魔力を込めて投げれば爆発します。威力は、基本の爆裂弾程度ですけど、お値段も一個500イエンですし、込める魔力もほんの少しでいいんです。ピアスなので邪魔にもなりませんし、おすすめですよ」


「そうなんですか・・・分かりました。では今日は二つください。試してみて良かったら、また買いに来ます」


「ありがとうございます」


縁取りに明るい茶色のパイピングをあしらった、フード付きの黒いローブを着ている女性だった。

クインズベリー国の、黒魔法使いの正統な装束なので、女性が黒魔法使いだとすぐに分かった。


シルヴィアさんから、ピアスを入れた紙袋を受け取ると、女性はお礼を言ってコーナーを離れて行った。


「あら、アラタ君どうしたの?」


シルヴィアさんが俺に気付いて、カウンターから顔を覗かせた。今はミゼルさんはいないようだ。


ウェーブがかった白に近い金髪を耳にかける。今日は少しゆったりした白のケーブル編みのセーターに、ワインレッドのテーパードパンツを合わせている。


シルヴィアさんは線が細く、儚げで守ってあげたい雰囲気があるので、店に来る男性客から実は一番人気がある。俺も何度もシルヴィアさんについて聞かれた事がある。


彼氏はいるのか?とよく聞かれるので、なんだか俺も気になってしまい、シルヴィアさんにそのまま聞いた事がある。

すると、シルヴィアさんは、小首を傾げて意味深な笑みを浮かべ、どうかしらね~、としか答えてくれなかった。あんまりしつこくも聞けないし、この話はそれっきりになっている。



「えっと・・・シルヴィアさん、これ知ってますか?」


俺はカウンターに水色の布袋を置くと、シルヴィアさんは布袋を手に取って眺めたが、眉を寄せて首を傾げた。


「う~ん、どこかのお土産品かしら?高価な物にも、特別な物にも見えないわね。これがどうしたの?」


「街でアクセサリー売ってる露店があって、そこでもらったんです。話してたらちょっと仲良くなって、ロンズデールの人みたいで、これを持ってくればまた会えるって言ってたんですよ」


「ふーん・・・あ、ミゼルじゃない、良いところに来たわ」


丁度説明を終えたタイミングでミゼルさんが、コーナーに来た。シルヴィアさんが、水色の布袋をミゼルさんに見せると、ミゼルさんは驚いたように片眉を上げ、怪訝な顔で布袋を凝視した。



「・・・これ、青の船団だよな?なんでこんなの持ってんだ?」


「スーツ作りに行った時、出来上がりを待つ間、外に出てたんです。その時に寄った露店の人にもらったんですが、青の船団ってなんですか?」


ミゼルさんは、布袋を興味深そうに眺めながらカウンターに入り、イスに腰をかけた。



「ロンズデール国が水産業で成り立っているのは知ってるか?あそこは水の精霊の加護を受けてるからな。国民の1/3は漁によって生計を立てているくらいだ。漁と言ったら船だろ?青の船団は、ロンズデールの造船業の最大手だ。この袋の刺繍の船は、青の船団のシンボルマークだ」


「ミゼル、よく知ってるわね?」


シルヴィアさんの声に驚きが含まれている。感心しているようだ。



「ロンズデールに行った事があるヤツなら、多分誰でも分かるぞ。そのくらい目立つんだ。街の食料品店に入ると、だいたいどこでも、このマークが入ったプレートが目立つところに掛かってるんだ。青の船団経由で魚とか海の仕入れを行っているんだ。組合証みたいなものだな」


「つまりミゼルは、ロンズデールに行った事があるのね?」


「・・・ここで働く前だ。16歳の時、一年くらい、大海の船団ってとこで働いてた事がある。まぁ、たった一年しかいなかったし、8年も前だから今はどう変わっているかは知らないがな」


あまり良い思い出はないのか、眉を強く寄せて、頭を掻きながら話している。口調もやや硬い。


「なんで辞めちゃったの?その大海の船団っていうところ」

「シルヴィア~・・・空気読もうぜ?俺、嫌そうな口調で語ったよな?」

「あら?そうだったかしら?」



遠慮なくミゼルさんに聞いていくシルヴィアさんに、ミゼルさんは顔をしかめてつっこんだが、シルヴィアさんは気にしないどころか、まるで楽しんでいるように目を細め、声を弾ませている。

敵にすると怖そうだなと思った。


「アラタ、お前も聞きたそうな顔してんな?」

「え!?あ~・・・まぁ、興味はありますよね・・・」

「ほら、これで二対一ね。ミゼルの負けよ。白状しなさい」



ミゼルさんは、面倒そうに頭を掻くと、溜息を一つ付いて口を開いた。


「まぁ、よくある話でよ、人間関係だよ。大海の船団の連中は、どうもウマが合わないヤツが多くてな。

船団の仕事は大きく分けて二つ。海に出て魚を獲ってくる事と、海の宝石を獲って来る事だ。

青の船団は、この二つをバランス良くやってたが、大海の船団は主に宝石だった。

海の宝石は数がそれほど多くは無いんだ、だから高く売れるけど、考えて獲らないとすぐに無くなってしまう。でも大海の船団はそんなのお構い無しだった。なんだかよ、金の事しか考えてない連中のやり方に嫌気がさしてな・・・」


「・・・海の宝石?あ、そう言えば今日買った石がそんな名前だったな」



海の宝石という言葉に聞き覚えがあった。そう言えば、あの時はあの石を見つけた事でちょっと興奮してて、あまり気にしなかったが、今日シャノンから買った石も、そう呼ばれていた。

海の宝石とは一体なんだろう?



「え?お前、買ったのか?海の宝石ってのはその名の通り、海でできる宝石なんだ。

水の精霊の加護で、ロンズデールの海は特別なんだ。海の中の石が、太陽と月の光を吸収して宝石に変わるんだ。獲る場所によって、水温やら環境が違うし、元が石だから、形や大きさ、色も、どれ一つ同じ物はできない。全て一点物だから価値も高い。大きさや、透明感で値段がガラっと変わるけど、小さくて安い物でも10,000イエン以下は見た事がないな。高いのだと1,000,000イエン以上は当たり前にあるからな」


「私も見た事はあるわ。ロンズデールの名産品よね。こっちに来るロンズデールの行商人は皆持って来るわね。綺麗だけど、ちょっと高いのよね。不純物が多いと安いけど色が悪いし、小さくても綺麗な石だと20,000イエン以上はするから、衝動買いはできないわ・・・アラタ君、買ったって本当?」


シルヴィアさんが、一歩近づいて顔を寄せて来た。目に好奇心がありありと見える。やっぱり女性は、こういう宝石とかの話は好きなのだろうか?



「あ、はい・・・まぁ・・・宝石買って、色々話したら、帰りにその布袋くれたんです。透明感があって綺麗だったから、30,000イエンだと今聞いた基準なら、お手頃だったんですかね」


「あら、それは奮発したわね!やっぱりカチュアにかしら?」


「はい・・・実は、あの命の石にそっくりだったんです。代わりにはならないと思いますけど、どうしても欲しかったんです」


「・・・素敵だと思うわ。アラタ君、その気持ちが大事よ。なんだか私まで幸せを分けてもらったような、温かい気持ちになるわ・・・」



シルヴィアさんは小さく微笑むと、イスに腰を下ろしミゼルさんに向き直った。



「ごめんなさいね、話しの腰を折っちゃって、つまりミゼルは辞めたのね?」

「おい!聞き出しといて、そんな一言でまとめんなよ!」


シルヴィアさんは口に手を当てて、ちょっと笑いを堪えながらミゼルさんを見ている。


シルヴィアさんは何と言うか、上手い。

勘が鋭いし、隠し事ができないのだ。話術が巧みで、いつの間にかシルヴィアさんのペースになっていたりする。

味方だと頼もしい事この上ないが、俺は絶対敵にしたくないタイプだ。



「あ~っと、まぁ、つまりだ。この布袋は、ロンズデールの青の船団っていう、最大手の造船業をやってるとこの物だ。誰からもらったか知らないが、また会いたいなら、これ持ってロンズデールに行けば、なんとかなるんじゃねぇかな。あと、海の宝石はさっきの話の通りだ。お前もよく金あったな?」


ミゼルさんはシルヴィアさんへの抗議を諦めると、話しをまとめて、俺に布袋を返してきた。


「はい。こっちだと必要な物にしかお金使わないので、先月の給料も半分くらい残ってたんです。さすがに結婚すると、色々物入りになると思うので、これからはもっと節約して、貯金しなきゃって思いますけど、あの石だけはどうしても欲しかったんです」


俺の言葉にミゼルさんは感心したように頷いている。



「偉いわアラタ君、ミゼル、あなたもお酒辞めてクリスちゃんに何かプレゼントしたら?」


シルヴィアさんが、ミゼルさんをチラリと見ながら肩をつついている。

ミゼルさんは、苦笑いをしながら席を立つと、トイレ行ってくる、と早口で言ってカウンターを出て行った。


「あらあら、ちょっとからかい過ぎちゃったかしら」


「シルヴィアさんて、けっこうミゼルさんの事いじりますよね」


「ふふ・・・そうかもしれないわね。ミゼルってね、仕事は真面目なのに、私生活だらしないでしょ?本人も自覚はあるのよ。でも人に言われるのは嫌なの、だから言われると行動早いのよ。

同じ事言われないようにするためにね」



「へぇ~、じゃあ今シルヴィアさんが指摘したお酒やプレゼントも、すぐに実行するんですか?」


「禁酒は無理ね。せいぜい三日。でも、プレゼントはするはずよ、三日間の禁酒で浮いたお金で買って、自分を納得させる理由を作るのよ。三日だけど禁酒は禁酒、プレゼントも買った!だからもういいだろうってね」


シルヴィアさんは一本指を立てて、まるで推理した答えを披露するように話した。その目は力強く、自信満々だ。妙にリアルで当たってそうで怖い。



何にしても、この布袋の事が分かった。シャノンはロンズデールで造船業をやっているのだろう。

こっちには行商に来て、海の宝石を売っていたというところかと予想を付けた。


もしロンズデールに行く事があったら尋ねてみようと思った。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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