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【895 カエストゥス 対 帝国 ㉙ 兄弟の絆】

「マルコ、そろそろ休め」


弟であり、現国王のマルコを一瞥した。

カエストゥス軍が帝国へ出立して以来、マルコはずっと気を張っている。

食事も満足にとらず、まるで何かに取り憑かれているように、執務に没頭していた。


「・・・兄上、これで良かったのでしょうか・・・・・」


マルコは書類に走らせていたペンを置くと、机の上で拳を握り、俯いたまま静かに言葉を口にした。


目鼻立ちは俺に似て少しキツ目の印象があるが、ふわりとした柔らかそうな金色の髪、細身の体付きはまるで女のような雰囲気だ。一見するとマルコは、荒事には向いていないように見える。


だが王位継承の儀で、父である国王を殺害した犯人を突き止めた時の堂々としたたたずまいは、一国の王たる風格が垣間見えた。


今はまだ即位したばかりで足りないところはある。

だがロペスが脇を支えて育ててやれば、マルコはきっと名君となるだろう。


俺の役目は、全ての悪意からマルコを護る事だ。



「・・・どういう意味だ?」


「・・・帝国との戦争で、10万もの兵を出しました。出立してからの日数を数えれば、もう帝国に入っている頃でしょう。いったいどれだけの命が失われるか・・・そう考えると、戦争を決断した私の判断は間違っていたのではないか・・・・・そう考えてしまうのです」



なるほど・・・思い詰めている原因はそれか・・・・・



「お前らしいな、マルコ・・・」


優しいお前らしいよ。マルコ、お前はそのままでいい。その心を忘れないでくれ。



顔を後ろに向けると、窓の外の白い雪景色が目に映る。豪雪地帯のカエストゥスらしく、辺り一面が白く染まっていた。


帝国には雪は降らないと聞いた事がある。

火の精霊の加護を受けている事が理由のようだが、毎年大雪に見舞われるカエストゥスとは正反対だ。


「兄上・・・教えてください。私は正しかったのでしょうか?帝国の軍門に下るわけにはいきません。けれど、兵に血を流させる事が正しいとも思えないのです。もっと他にやり方があったのでは・・・」


「マルコ、何が正しいか間違っているか、そんな事は考えなくていい」


「え・・・」


マルコはそこで初めて顔を上げると、少しだけ驚いたように目を開いて俺を見た。

目を合わせてその視線を受け止める。


マルコは真面目で純粋だ。責任感も強い。だからこそ国王としての決断は下した。

しかし、それ以上に優しいんだ。だからこそ、兵を数ではなく一人の人間として見てしまう。

それは正しい。そしてそうあるべきだ。ただの駒、そして数字でしか見れなくなったら、それは人の上に立っていい人間ではない。



「マルコ・・・お前の決断はが正しかったかどうかは、後の世の人間が判断するだろう。この戦争が終わった後、国がどういう形で残るか?それを見た人達が決めるものだ。歴史とはそういうものだ」


けどな、マルコ・・・・・


「兄上・・・」


俺はマルコの肩に手を置いた。マルコに必要なものは自信だ。

そしてそれを持たせてやれるのは、俺だけだ。



「マルコ、後の世の人間が何を言おうと、どう評価しようと、侵略戦争をしかけた帝国が悪だ。それだけは間違っていない。お前は王として国民を護るための決断をした。兵達もお前の決断を支持するからこそ戦場に赴いたのだ。あの時の兵達の顔を覚えているだろ?士気も高く、誰もが国を護るという気概を見せていた。お前は正しい。少なくとも俺達はお前を信じている」


真っすぐにマルコの目を見て話した。



「あ、あに、うえ・・・・・わ、私は・・・・・」



お前の重圧は俺が思っている以上だろう。

お前の判断が兵を、国民の命を左右するんだ。これでいいのか?間違っていないのか?

決めては悩み、そして後悔する事も多いだろ。それはこれから先ずっと続いていく。


だから・・・


「・・・泣くのは俺の前だけにしろ。お前は国王なんだ。弱みは見せるな」


「・・・は、はい・・・あに、うえ、ありがとう、ござい、ます・・・・・」



だから兄である俺が、お前の逃げ場になってやろう。


お前が辛い時、苦しい時は、その重荷を俺も背負おう。



「礼を言う事ではないだろ、俺達は兄弟なんだ」


声を押し殺し、肩を震わせて涙するマルコの頭を、俺はそっと撫でた。








「フゥ・・・ハァ・・・・・」


静かに息を吐き、精神を落ち着かせる。


「ハァァァァァァァーーーーーーーッツ!」


両足を肩の幅より広げ、拳を握り、魔力を全身の隅々まで行き渡らせる。

俺の体から放出される魔力の密度が増す。

鋭く研ぎ澄まされた魔力が壁に、そして天井を支える柱に亀裂を走らせる。



「ほぉ・・・やるではないか。その体でこれ程の魔力を出せるとは、大陸一の黒魔法使いと呼ばれるだけはある」


自身の体をビシビシと打ち付けてくる魔力の波動さえ、皇帝はまったく意に介していない。

いかにウィッカーが消耗していても、その魔力は絶大。まともに浴びて平然としている事などできるものではない。


涼しい顔でウィッカーの魔力を受け流している皇帝。


それはつまり・・・



「だが、余を相手にするには少しばかり、足りないのではないかな?」



両者の力量の差が、それ程あるという事だった。



「受けてみろ!」


ウィッカーの右手から、破壊の魔力を込めた弾が撃ち放たれた!


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