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89 海の宝石

レイチェルが行ってしまったので、俺もカチュアも外で時間を過ごす事にした。


カチュアは散歩が好きだ。この街の景色が好きだから、歩いて街並みを見るだけで楽しいそうだ。


最近は俺も同じように感じている。

相変わらず花の名前は分からないし、名前まで覚えようという気持ちはないが、綺麗だと素直に感じるようになっていた。



時刻は10時過ぎだ。秋の午前中は気持ちが良い。


たまに馬車が通るので道を開けるが、この世界は通りの真ん中を当たり前に歩ける。

日本では車や自転車が来るから、端っこしか歩けなかったが、通りの真ん中を堂々と歩けるのは気持ちが良かった。


大通りの両サイドでは食堂や喫茶店、お土産屋、宝石店など様々な店が立ち並び、露天も出ていた。

とても活気があり、俺はいつも、毎日がお祭りのようだと思っていた。



「あ!」


偶然だった。

アクセサリーの露店を出していた店が目に留まり、その石が目に入ったのは偶然だった。



似ている・・・


「アラタ君、どうしたの?」

「カチュア、ちょっとごめん、待ってて!」


俺は急ぎ足でその露店に行った。


大人が二人並んだら見えなくなる位の小さな台の上には、ピアスやネックレスなど、女性物のアクセサリーが並べられている。


俺はその中から迷わずその石を手に取った。



「・・・やっぱり似ている・・・」


「お兄さん、それ、買うの?」



まじまじと石を見て一人言を言っていると、背もたれの無い、四つ足のイスに腰をかけている店の女性が声をかけて来た。


年齢は二十歳か、もう少し上かもしれない。少しクセのあるショートの黒髪に、健康的な褐色の肌をしている。瞳の色も黒で、どこか南米系に見えた。

白の長袖シャツを着ているがボタンは全開で、インナーは黒のタンクトップ。膝の破れているインディゴのデニムを穿いている。


「あ、すみません。ちょっと気になって・・・あの、この石、このネックレスに付ける事できますか?」


ポケットから、あの命の石が付いていたカチュアのネックレスを取り出した。

あの日、このまま返す事ができず、お守りとして持たせて欲しいと言って、そのまま俺が持っていた。


店の女性は、黙ってネックレスを取ると、割れたまま付いている石の欠片を観察するように眺めた。


「・・・お兄さん、これ命の石でしょ?すごいね、なるほど・・・確かに似てるかな?代わりにその石を付けたいんだ?」


「え?この石の事、分かるんですか?」


驚いた。シルヴィアさん以外、レイジェスの皆だって誰も分からなかったのに。



「見た事あるからね。これはもう使われた石だけど、少しだけ魔力の残り香があるしね。

そっかぁ・・・うん。気持ちは分かるかな・・・いいよ。ちょっと手間だけど、サービスで取り付け代はいらない。あと、この石は、海の宝石って言ってね、ちょっと高いんだ。30,000イエンだけど、どうする?」


「できるんですね?良かった!もちろん買います。ありがとうございます」


財布には確か35,000くらい入っていたからなんとか買える。

俺が頭を下げて30,000イエンを渡すと、女性は意外そうに目をぱちぱちさせてお金を受け取った。



「・・・お兄さん、全く迷わなかったね?ここに来る人、値段聞くと止める人多いんだよ。

まぁ、こんな露店だし、安いと思われてるんだろうけど・・・即答はちょっとおどろいたよ。

このネックレスがよっぽど大事なのかな?よし、じゃあ付けるから10分くらい待ってもらえる?

それと後ろでこっち見てる子、彼女でしょ?なんか心配そうにしてるから、早く戻ってあげたら」



店の女性が俺の後ろを指さすので、振り返ると、少し離れてカチュアが心配そうに表情を曇らせて、じっとこっちを見ていた。慌てて駆け寄るが、カチュアは下を向いてしまった。



「・・・綺麗な人だね・・・・・・」


この言い方は鈍感な俺でも分かる。カチュアに誤解させてしまったようだ。

確かに、いきなり女性物のアクセサリー屋に走って行って、店の女性と長々話していれば、心変わりを疑われてもしかたない。


「ごめん!カチュアに心配かけた!カチュアのお母さんのネックレスと、よく似た石があったから驚いて・・・それを見てただけなんだ」


「え!?うそ・・・本当?」

「うん、本当だよ。カチュアも行こう」


驚くカチュアの手を取って、アクセサリー屋の露店に戻ると、店の女性はまだ作業の途中だった。



「もうちょっと待っててね・・・お兄さん、あんた彼女に心配かけるような事しちゃ駄目だよ?なんとなく分かったけど、落ち着いて一言言ってからここに来れば、余計な心配かける事なかったんだから」


店の女性に注意され、俺が、本当にその通りです、と答えて頭を下げると、女性は声を出して笑った。

「あっははは!お兄さん、あんた素直だね、そんなに畏まって謝られると、あたしがいじめてるみたいじゃない?まったく・・・ねぇ彼女さん、あんた幸せだよ。この人は浮気しないね」


店の女性に話を振られると、カチュアはチラリと俺に目を向け腕を組んできた。


「はい!私は幸せです!」


そう言ってカチュアが笑顔を見せると、店の女性は作業の手を止め、俺とカチュアを交互に見て、口元に少し笑みを浮かべた。


「・・・あたし、あんたら好きかも・・・良いカップルだね」


「ありがとうございます・・・実は、近いうちに結婚するんです」

カチュアが少し照れながら話すと、店の女性は、へぇ~、と少し高い声を上げた。


「そりゃあ、おめでとう!お兄さん、ちゃんと幸せにすんだよ?さて、できたっと!」


店の女性はイスから腰を上げると、商品を並べている台を回り込んでカチュアの前に座った。


「ちょっと、ごめんよ・・・これ、彼女さんのでしょ?はい、どうぞ」


店の女性が、カチュアの首に手を回す。

突然の事でカチュアは少し驚いたが、首にかけられたネックレスを見て息をのんだ。



「・・・・・・アラタ君・・・この石、本当にそっくりだね・・・ありがとう・・・・・・」



カチュアはちょっとだけ涙ぐんで、ネックレスに付いた新しい石を、大事そうに両手で包んでいる。


「あの、本当にありがとうございました」


俺があらためてお礼を口にすると、店の女性は、小さな水色の布袋を二つ出してきた。

布袋には船の刺繍がされていて、細い紐が付いている。バッグなどに結んで付けられそうだ。

なんだか、日本のお守りに似ている。



「お兄さん・・・あんた優しいね。あたし、あんたら好きだな。これあげる」


この布袋が何か分からず、俺とカチュアが少し戸惑いながら手に取ると、店の女性は笑って口を開いた。



「あたしは、シャノン・アラルコン。もし、ロンズデールに来る事があったら、誰かにそれを見せて見な。あたしに会えるから」




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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