【887 カエストゥス 対 帝国 ㉑ 精霊の炎と氷の竜】
サブタイトルだけ変えました。
こいつを倒しても、その後ろには皇帝が控えている。
ここで魔力を使い果たすわけにはいかない。
「・・・その考えが間違っていた」
この男、精霊使いのアンソニーを倒すには、余力を残すなんて考えでは駄目だ。
ここで全てを出し尽くしてでも倒す。その覚悟をもって挑まなければならない。
俺の魔力を浴びて顔を上げたアンソニーの両目からは、真っ赤な血が流れ出ていた。
そして赤々と燃えるような瞳は、強烈な殺意と破壊衝動を漲らせていた。
瞳の力を警戒したが、目の焦点が合っていない。
「・・・この状態では、瞳の力が使えないのか?」
瞳の力を感じ取れるわけではない。だが、気配がまるで感じられなかった。
こいつ、今意識はあるのか・・・?
「オォォォォォォーーーーーッ!」
大地を蹴ってアンソニーの眼前に距離を詰めた!
しっかりと目を合わせる・・・・・熱は来ない。
右手に風の魔力を込めて、アンソニーの顔面に叩き込む!
「・・・ッ!」
殴りつけた感触はあった。だがそれはアンソニーの顔面ではなかった。
アンソニーの顔と俺の拳との間には、炎が盾のように立ちはだかり、俺の拳を防いでいた。
まるで炎が圧縮されたように厚みと弾力があり、拳で撃ち抜く事ができない。
「火の・・・精霊か・・・」
確信した。今こいつの意識はない。
火の精霊がこいつを動かしているんだ。この男アンソニーは、火の精霊を操る力を持っている。
だがそれは反対に、火の精霊がアンソニーを動かす事もできるんだ。
目を合わせても熱が襲ってこなかったのは、意識が必要なんだろう。俺に熱をぶつけるという意思が必要なんだ。精霊は体を動かせても、意識までは操れない。だから瞳の力がこなかったんだ。
危険な賭けだったが、これはこいつに勝つために知っておく必要があった。
「ダラァァァーーーッ!」
右脇腹を狙い左の拳を撃ちつけ、左膝に右の蹴りを叩き込む。
顔面に右の掌打を繰り出し、右の側頭部に、左の上段蹴りを放った。
拳と足に風を纏わせ、アンソニーに攻撃を仕掛けるが、そのことごとく炎の盾で防がれた。
「・・・火の、精霊か・・・」
ここまでやって、ダメか・・・・・
アンソニーの意識があった時は、打撃技の全てが入っていた。
あれは受けたダメージを全て返すという魔道具、復讐の衣を使うためだったからかもしれないが、俺の動きにアンソニーが付いてこれなかった事も、アンソニーの反応を見れば間違いなかった。
だが、今は違う。
火の精霊が体の主導権を握っているからだろう。俺の攻撃を全て受け止めている。
意識の無いアンソニーに表情は無く、ただ虚ろな目をあらぬ方向に向けていた。
だが、アンソニーの体を包むようにして燃えている炎は、俺をあざ笑っているかのように、ゆらゆらと踊るように揺らめいていた。
「・・・やはり魔法しかないか」
エロールの攻撃を受けて、アンソニーは復讐の衣を失った。
ならば接近戦でも制圧できると思ったが、この鉄壁の護りではそうはいかないようだ。
右手の平をアンソニーに向ける。固定するように左手で右手首を掴み、体がブレないように足を広げて、中心線と重心を押さえる。
俺の全身から発せられる魔力が冷気を帯びると、アンソニーの体を包む炎が、まるで警戒するように強さを増した。そして両手を肩の高さまで上げると、手の平を重ね合わせて俺へと向ける。
向けられる殺意、そして炎の発する熱波が、俺の冷気の魔力とぶつかり合い、ビリビリとした衝撃が肌に突き刺さる。
「正面からやる気か?いいぜ、火の精霊よ、決着をつけようじゃねぇか!」
ここで勝たなければその先は無い。こいつは危険だ。エロールがその命を懸けて追い込んだからこそ、今の状況を作りだせた。おそらくこいつに勝てるチャンスは今・・・この時しかない!
全身から放出した魔力が冷気となって俺の体を覆うと、かまえた右手に向かって氷の竜が形作られていく。
それは俺の魔力の高まりに比例するように、十数メートル、いやそれ以上の巨大な氷の竜となって、アンソニーに牙を剥いた。
俺の全魔力を込めた竜氷縛をぶちこんでやる!
「くらいやがれぇぇぇー----ッ!」
撃ち放ったのは渾身の竜氷縛!
残り全ての魔力を込めた全身全霊だ!
地鳴りを響かせ、地吹雪を巻き上げ、巨大な顎を開けてアンソニーに食らいつく!
「アァァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!」
アンソニーの喉の奥から、絞り出されたような叫び声が発せられた。
人のものとは思えない獣のような咆哮だった。火の精霊が出させているのだろう。
常人がこれを浴びれば、立っている事さえできなくなるだろう。
そして絶叫と同時に全身から撃ち出されたのは、俺の竜氷縛に匹敵する程の巨大な炎だった。
エロール、見てろよ・・・俺がこいつを倒す・・・絶対に倒してみせる!
精霊の炎と氷の竜が正面からぶつかり合う。
両者の戦いに決着の時が来た。




