表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
876/1564

【876 カエストゥス 対 帝国 ⑩ 受け取った想い】

「・・・パトリックさんまで・・・」



絞り出した声には、悲痛な思いが滲んでいた。

目を開けていられずきつく閉じた。

唇を噛みしめて、拳を強く握り締める。込み上げてくるものを無理矢理押さえ込んだ。


一番の友に続いて、兄のような存在だったパトリックさんまで・・・・・


立て続けに大切な人が命を落とした。




・・・・・泣くな。


自分に言い聞かせた。


分かっていた事だろう?これは戦争だ。いつ誰が死んでもおかしくない。

自分の周りだけ無事なんて、そんな都合の良い事はありえるわけがないんだ。


俺だってそうだ。五分後に生きている保証なんてない。



「・・・ヤヨイさん」


さっき聞こえた声の主を思い出した。


「あれは確かに、ヤヨイさんだった・・・」


あの声を忘れるはずがない。

こっちに来てと、ヤヨイさんが俺を導いたんだ。


きっと俺を・・・パトリックさんに会わせたかったんだ。

遺体をこのままにしては、おけなかったという事だろう。


その気持ちは分かる。雪が覆い隠してくれるといっても、やはりきちんと埋めたいはずだ。


そう思い、地面に爆裂弾を撃って穴を空けようとした時、俺はパトリックさんの右手が固く握り締められている事に気付き、手を止めた。


「ん・・・なにか握ってるのか?」


腰を下ろし、パトリックさんの右手を掴むが、よほど力を込めていたのか簡単には開けられなかった。

指を一本一本掴んで開けて、ようやく手を開かせると、そこには指輪があった。



「・・・指輪?これって・・・パトリックさんの結婚指輪じゃないのか?」



なぜ死の間際にこれを握っていたんだ?

普通は左手の薬指にずっとはめている物じゃないのか?

実際パトリックさんは、いつもそこにはめていたはずだ。


「・・・なにか、あるのか・・・?」


なにか理由があって握っていた?そう思って、俺は指輪にそっと触れてみた。


「なッ!?・・・こ、これは!?」


触れた瞬間、指輪は強く輝き出し、俺の中にパトリックさんの感情が流れ込んできた。


それは祈りと願いだった。


どうかカエストゥスを護ってほしい。

どうか子供達を護ってほしい。


その強い気持ちが押し寄せる波のように、俺の胸の内に流れ込んでくる。


パトリックさんは、平和と子供の事を祈り亡くなったんだ。


ヤヨイさんを亡くして一人親になったパトリックさんは、俺には想像もできないくらい、子供達への強い想いがあったのだろう。


指輪から流れて来る想いに、俺は胸が痛くなった。


テリー君とアンナちゃん・・・あの二人はこれから、祖母のモニカさんに育てられていくのだろう。


前に会った時は、うちのティナと一緒に、三人で仲良く遊んでいたのに・・・・・

テリー君はティナの事を気にいっていたようだから、将来二人が結婚するかもしれないねって、そんな話しをした事もあったな・・・・・




「・・・・・パトリックさん・・・」




パトリックさんの手から、指輪を取って握り締めた。


これはパトリックさんの形見だ。

生きて帰り、俺がモニカさんに渡します。


テリー君とアンナちゃんの事も心配しないでください。

モニカさんがいるから大丈夫でしょうけど、俺もメアリーも、二人の事は自分の子供のように可愛く思ってるんです。だから俺達も協力して、立派に育ててみせますから。



形見の指輪に誓うと、指輪が青く光り輝いた。

まるでパトリックさんの魂が応えてくれたように。




「・・・さぁ、いくか」




指輪をローブのポケットにしまうと、腰を上げて俺は城へと顔を向けた。


城壁を抜けると石造りの階段があり、その先の王宮内へと続く門の前には、あの火の精霊使いが立っていた。

顔は分からないが、強い視線を感じる。あいつがこっちを見ている事だけは分かる。



「ふぅ・・・・・ハァァァァァァー----ッ!」


一つ息を吐くと、俺は魔力を風に変えて放出した。

足元から発生した風は周囲に積もった雪を吹き飛ばし、叩きつけて来る吹雪も寄せ付けない。


チラリと辺りに目を向けるが、さっきの俺の魔力を見たせいか、帝国兵達は俺に攻撃をしかけられず、遠巻きに武器を構えて様子を見ているようだった。数十人はいるだろう。

しかし、俺と目が合うとジリジリと距離を詰めてきて、飛び掛かるタイミングを狙っていた。



こいつらを倒す事は簡単だが、俺はすでに巨槍を防ぐために風魔法を使い、その後にトルネードバーストも撃っているため、それなりに魔力を消耗している。

魔力回復促進薬も飲んでおいたが、やはり自然回復を早めるだけだから全回復とまではいかない。


あの精霊使いとの戦いを控えて、ここでこれ以上魔力を使うわけにはいかない。

だが、囲まれている以上、無視して先に行く事もできない。


やむを得ない、もう一度風魔法で吹き飛ばして・・・そう考えた時だった。



「ラァァァァー---ーッ!」

「ぐぁッ!」


突然の叫び声、そして数人の敵が倒れて囲みに穴が開くと、黒いマントを風になびかせながら、大剣を持った金髪の女剣士が包囲網を抜けて駆け込んできた。



「ペトラ!」


「ウィッカー様、ここは私に任せて先へ行ってください!」



剣士隊隊長ペトラ・ディサイアが、大剣を構えて帝国兵達の前に立った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ