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【874 カエストゥス 対 帝国 ⑧ 想い残すもの】

誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。

「よし・・・お前達、撃て!」


「はい!」


パトリックが声を上げると、五人の魔法使いが灼炎竜を撃ち放った!


五体の炎の竜は光源爆裂弾の爆発が起こした、轟轟と燃え盛る爆炎の中心地に撃ち込まれると、更なる爆炎を上げ、より激しく燃え上がった。



「・・・これなら・・・」


光源爆裂弾に灼炎竜が五発。その破壊力は凄まじく、パトリックの目の前ではとてつもなく大きな爆炎が舞い上がり、爆発によって立ち昇った黒い煙は、空を覆いつくす程広がっていた。

あまりにも巨大な破壊の力は、周囲で戦っていたカエストゥスと帝国の兵士達でさえ、剣を止めて見入ってしまう程だった。



「団長・・・どうでしょうか?」


魔法兵の一人が、様子を伺うように声をかけてきた。

光源爆裂弾の爆発は、生けるものの生存を許さない。そう確信が持てる程に巨大なものだった。


これの直撃を受けて生きている事など考えられない。普通ならば生存の確認をする事もない。

だがジャミールはパトリックの雷をものともせず、魔法兵の光源爆裂弾でも、ほとんどダメージを受けていなかった。


だからこそ自分達より魔力の高い、ジャミール本人の光源爆裂弾を撥ね返し、追撃で五体の灼炎竜を撃ち込んだ。

ここまでやればあの魔道具、魔吸の鎖の吸収力を、大きく凌駕しているはずだ。



「ああ、これで仕留められたはずだ。ヤツはお前達の光源爆裂弾で、僅かながらダメージを受けていた。俺達以上の魔力を持つ自分の魔法を喰らったんだ、それ以上のダメージは間違いない。さらに駄目押しで灼炎竜まで喰らわせたんだ・・・・・終わりだ」



できれば死体は確認したかった。

だが目の前で燃え盛る爆炎は、この吹雪でも全く消える気配はない。このまましばらく燃え続けるだろう。

この炎が燃えている限り、確認は不可能だった。



「・・・いや見なくても分かる。これで生きていたら人間じゃない。殺し屋ディーロ・・・その一族との戦いは、これで終わったんだ」



生きているはずがない。

これだけの炎に身を焼かれ、生きていられるはずがないのだ。

魔吸の鎖は優れた魔道具だった。だが、これだけのエネルギーを吸収しきれるはずがない。

そんな事ができれば、もはやその魔道具は無敵としか言えない。




パトリックは油断をしていたわけではない。

だが戦争をしている両軍が、一時的に手を止めて見入ってしまう程、とてつもなく巨大な爆炎を前にしては、そこに意識が集中してしまうのは止むを得ない事だった。


そして強敵、ジャミール・ディーロを倒したという安堵感に、パトリック達の気持ちが僅かながらも緩んでしまったのは、しかたないと言えよう。



しかしその結果・・・パトリックの心臓を、鋭い炎の熱線が正面から焼き貫いた。



「・・・なっ!?ガ、ァァ・・・・・ッ!?」



一瞬何をされたのか分からなかった。

だが胸に感じた熱に目を向けると、青いローブが焼き切れて、左胸に丸く焦げた穴が開いていた。


それを目にした途端、全身から汗が噴き出した。

自分の体に穴をあけられたと理解すると、胸に鋭く強烈な痛みが走り、喉の奥からうめき声が漏れた。

そして痛みとともに、体の内側から焼かれるような熱が全身に広がった。



こ、これ・・・は、な、んだ・・・ッ!?いったい、俺は・・・何を、された!?


まさか・・・!倒したはずの、ジャミール・ディーロが・・・生きていたのか?


両足から力が抜け、右手で左胸を押さえながら膝を着く。

正面に顔を向けるが、人影も気配も無い。ただ爆発による炎が燃えているだけだった。



「だ、団ちょ・・・ぐ、がァ・・・ッ!」


突然崩れ落ちたパトリックに魔法兵達が手を伸ばすと、炎を纏った熱線が一人、また一人と、その体を、頭を貫いていき、あっという間に五人全員を倒していった。



ついさっきまで共に戦った仲間達が、ほんの一瞬で物言わぬ亡骸と化す。


彼らとは上官と部下という関係だった。

特別に親しくしていたわけではない。訓練ではパトリックも厳しく指導していたから、疎ましく思われているのではと、そう思い悩む事もあった。


だが違った。

自分の危機に、彼らは駆けつけてくれた。共に命を懸けて戦った。


生きて帰ったら酒にでも誘おう。そう考えていた・・・・・



「ラルッ・・・ガハァッ・・・」


5人の名前を口にしようとして、喉の奥からせり上がってきたものを吐き出す。

独特な匂いと味、鉄臭いそれは真っ赤な血だった。


「カッ・・・・・ハ・・・・・・ァ・・・・・・・」



背中から倒れる。全身の力が抜けていくようだった。

視界がぼやけ始め、もう立てそうになかった。



ラルフ・・・ジョージ・・・マット・・・ガレッド・・・エイブラム・・・・・・



ともに戦った五人の名前を、心に思い浮かべる。


あと数十秒、いや数秒の後に自分も彼らを追って逝くだろう。

だが、最後に疑問が残った。


自分達を撃ったのは、ジャミール・ディーロではない。

そもそも生きているとは思えないが、爆炎の中から攻撃の気配もなかった。


そして自分の心臓を貫き、五人の魔法兵を殺したこの攻撃は・・・果たして魔法なのだろうか?



魔法でないのならば、いったい俺はなにで殺されるんだ・・・・・?



死の際でパトリックは、力を振り絞って首を動かし、帝国の城の方へと顔を向けた。


なぜそっちに顔を向けたのか、深い理由があったわけではない。

ただ自分は、城を正面を見た状態で攻撃を受けたのだから、同じ方向に顔を向ければなにか分かるかもしれない。そう思った。




「・・・・・あ・・・」



あれは・・・・・・・・




その男と目が合ったと感じた時、パトリックは全てを理解した。


長い金色の髪、感情の見えない冷たい金色の瞳、そしてその体は、魔法とは違う、もっと異質な炎に包まれていた。


男とはかなりの距離がある。

まして間もなく事切れるであろうパトリックは、視界もぼやけていて見えるはずがない。


だが、なぜかその男だけはハッキリと目にする事ができた。

そしてその男は、自分達に指先を向けていたのだ。まるで何かを撃ったように。




こいつだ・・・・・!

こいつが俺達を撃ったんだ。


あの炎は、魔法じゃない・・・・・まさか火の精霊か!?



まずい・・・火の精霊が・・・・・



「ぐ・・・ぅぅ・・・・・ゲホッ!」


大きく血を吐き散らかし、いよいよ意識が遠くなる


パトリックは震える右手を動かして、左手の薬指から結婚指輪を取った




ウィッカー・・・こいつは危険だ・・・・・これまでで最も危険だ


いくらお前でも、火の精霊が相手では・・・・・


だが、それでもお前がやるしかない・・・・・・




俺の残りの魔力を・・・・・お前に託す!




握り締めた結婚指輪に魔力が注がる。それは青く強い輝きを放った



ウィッカー、受け取ってくれ!

俺の最後の魔力だ!どうか受け取ってくれ!



パトリックが祈り、願うもの、それは生まれ育った故郷、カエストゥスの平和・・・

そして亡き妻との忘れ形見、最愛の息子と娘、テリーとアンナの笑顔・・・



テリー・・・アンナ・・・すまない

お前達をおいていってしまう父を許してくれ・・・・・


母さん、どうか・・・どうか二人をお願いします・・・・・



両目から大粒の涙が零れ落ちる




俺はここまでだ・・・・・だが、あの男は倒さなければならない

そしてそれができるのは、おそらくウィッカーだけだ


だから、どうか頼む・・・俺達の故郷を・・・・・子供達を護ってくれ!


頼む・・・頼むウィッカー!




魂の最後の一滴まで注ぎ込むように、パトリックは結婚指輪に魔力を注ぎこんだ



そして・・・・・・・魔力を込め終えると、パトリックの腕が力なく落ちた



「・・・・・ヤ、ヨイ・・・・・・・・・・・・・・・・・」


最後に口にしたのは、最愛の妻の名だった


血で汚れた口元には笑みが浮かび、命の灯の消えたその表情は、不思議と安らかなものだった


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