87 城への召喚
誤字があったので、修正しました。内容に変更はありません。
10月1日
今日から開店時間が30分早くなり、8時30分からの開店になった。
夜はトバリで出歩けないので、日の出日の入りに合わせ、開店時間、閉店時間が変わってくる。
10月中の閉店は4時30分の予定だが、
レイチェルはお客の様子を見て、もう15分くらいは早まる可能性もあると話していた。
夜が早くなると、なにかと気を遣う事が増えそうだ。
「おう、アラやん、エルボーイが来てるぞ。事務所だ」
開店したばかりで、コーナーの整理をしていると、メインレジに行っていたジャレットさんが戻って来て、事務所に向かって親指をくいっと向けた。
エルボーイとはエルウィンの事だ。
エルウィンとエルちゃんは、どちらも名前にエルが入る。
紛らわしいと言って、ジャレットさんは男のエルウィンは、エルボーイと分かりやすくしたと言っていた。
ちなみにエルちゃんのことは、エっちゃんと呼んでいる。
エルちゃんもこの呼ばれ方は普通に友達にされる事があるそうで、何の抵抗もないようだ。
どのみち渾名を付けるのだから、紛らわしいのかな?と若干疑問には感じた。
「エルウィンか、分かりました。じゃあ、行ってきます」
コーナーをジャレットさんにお願いして、俺は事務所に向かった。
朝8時30分の開店は、日本人の感覚で言えば早い。
リサイクルショップに朝8時30分から何を買いに来るんだ?と思うが、この世界ではこの時間が普通なのだ。
さすがに朝一で混雑はしないが、開店と同時にいつも4~5人は入ってきて、その後もポツポツと入店する人が後を絶たない。日照時間が短くなると、その分一日の行動が何もかも早いのだ。
「いらっしゃいませー」
俺はお客に挨拶をしながら、事務所に足を入れた。
「アラタさん!おはようございます!」
事務所に入るなり、エルウィンが勢いよくイスから腰を上げ、大きな声で俺に挨拶をしてきた。
長テーブルに向かい会う形で、レイチェルとエルウィンが座っていたようだ。
「おはようエルウィン、なんか久しぶりだな。元気か?」
「はい!俺は毎日元気に頑張ってますよ!アラタさんも元気そうで良かった」
エルウィンは歯を見せて笑うと、右手を出してきたので、俺はその手をがっちりと握った。
店に復帰してから、エルウィンに会うのは初めてだった。
あの戦いからまだ10日程だが、なんだかずいぶん久しぶりに感じる。
エルウィンは俺が自宅療養中に、何度か店に来たと聞いていたが、今はレイジェスと治安部隊との連絡係を引き受けているらしい。
「アラタ、私とアラタが城に行く日が決まったぞ。明日だ」
俺はレイチェルの隣に座った。やっぱりそうか。
俺も体調が戻って仕事に復帰したし、そろそろかなと思っていた。
正直な気持ち、面倒だがしかたない。さすがに国王陛下との謁見だ。断れない。
「そっか・・・分かった。明日だね?時間は?」
エルウィンはイスに座りなおすと、人差し指を1本立てた。
「午後の1時です。できるだけ失礼の無い服装でお越しください。魔法使いなら国のローブ、騎士団や治安部隊なら、いつものアーマーと甲冑姿でいいのですが、お二人は一般人で体力型ですもんね。やはりスーツが一番かとは思います」
「スーツ?スーツってあのネクタイ締めるスーツだよな?」
「はい、そのスーツですけど・・・アラタさんスーツがどうかしたんですか?」
エルウィンは俺が異世界から来たという事は知らない。
日本でサラリーマンがよく着るスーツは、この世界には無いと思っていた。
だが、どうやらあるようだ。
「いや・・・なんでもない。そうだよなスーツしかないよな」
エルウィンはなんだか不思議そうに俺を見たが、それ以上は何も追求してこなかった。
謁見について国王と話す際のマナーなどを説明し終えると、あすは余裕を持って10時前頃に迎えに来ると言って帰って行った。
「アラタ、日本ではスーツは珍しくないようだな?」
レイチェルがコーヒーを飲みながら、顔を向けて来た。さっきの反応で察しがついたようだ。
「あぁ・・・この世界では一度も見た事がないから、存在も忘れていたよ。日本では大人は皆一着は持ってると思うよ。仕事で毎日着る人もいるしな。こっちではどうなんだ?」
俺もコーヒーを一口飲んで、レイチェルに問い返した。
レイチェルはマグカップを置くと、両手を組み少し考えるように視線を天井に向けた。
「・・・そうだな。私も1着しか持っていないし、着るのはいつ以来だろう?ここでは、体力型以外はスーツを必要としないから、需要が限られている。仕事で着る人なんて、服屋と一部の役人くらいじゃないかな?だから、街中で見かける事もめったにないだろう。国王陛下への謁見は特別だから、このような事でもなければ、着る機会はなかなかないぞ」
「へぇ~・・・やっぱり日本とは違うんだな」
俺が頷き答えると、レイチェルは席を立ってカップをシンク台に置いた。
「じゃあ、さっそくだけど行こうか?ジャレットには私が話しておくから、カチュアを連れて来てくれ」
レイチェルはロッカーという名の、扉も無いカラーボックスから紺色のショルダーバッグを取ると、斜め掛けにして出かける準備を始めた。
いつも思うが、本当によくこんな無防備に貴重品を置くよな?俺も慣れてきて、最近は財布でも何でも置いているので、偉そうに言えないが、やはりこれはおかしいと思う。
日本ではありえない。
「えっと、どこに行くの?」
「キミは何を言ってるんだい?この流れなら、スーツ作りに決まってるじゃないか?」
状況を飲み込めていなかった俺に、レイチェルはさも当然と言うように答えた。
「アラタのスーツを作りに行くんだよ。費用なら安心してくれ。仕事で着るんだから経費で落ちるよ」
「あ、あぁ・・・まぁ、確かに持ってないから助かるけど・・・作るって?出来てるのを買うんだよね?」
「キミは何を言ってるんだい?出来てるって?アラタが行かないとサイズが分からないじゃないか?」
「いやいや、だって作るって、明日着るのを今日作れるの?俺も詳しくは知らないけど、スーツ作るのって一か月以上かかるって聞いた事あるよ。だから間に合わないでしょ?店に置いてある完成品のスーツを買うんじゃないの?」
俺の言葉を受け、レイチェルは合点がいったように手を打った。
「あぁ~、そっか、なるほど!アラタの世界だとそういう感じなんだ?スーツ作るのに一か月もかかるから、間に合わない人のために完成品が置いてあって、体に合いそうなのを買うんだね?」
「あ、そうそう!そんな感じだよ。と言うか、作るのに一か月もかかるって・・・こっちはどのくらいで作れるの?まぁ、明日までにはできるみたいだけど」
俺が眉を寄せて問いかけると、レイチェルは指を一本立て、得意気な笑みを浮かべ答えた。
「一時間」
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