86 同じ夕陽を見ている
アタシが話し終えると、皆、大変だったな、店長大丈夫だといいね、と口々に話しかけてきた。
あの後、二人で一度ふもとに降り、小屋で今後の事を話し合い、アタシは店長と別れ一人で帰ってきた。
真実の花はアタシが持って帰る事になった。
なるべく早く届けた方がいいだろうという事で、まぁ確かにその通りだ。
薬の作り方は店長に教えてもらった。
意外に簡単で、誰でもできそうな感じではあったが、念のためにメモしておいた。
作業に入る前にもう一度確認はしておこうと思う。
なんせ、王妃様の薬だ。万一にも失敗はできない。
皆への報告だが、アタシはジーンに心配をかけないために、一度気を失った事は黙っていた。
ジーンには絶対に心配はかけたくない。
そしてもう一つ、店長個人に関係する事は全て話さなかった。
だから、真実の花は、西側の山頂付近でやっと見つけたという事にしておいた。
東側で起きた事は全て話さないでおこうと思う。
【メアリー】
多分、店長の奥さんの名前だろう。
店長はカエストゥスの人間だと言っていた。奥さんも同じ出身かもしれない。
珍しい名前ではないが、カエストゥス国のメアリーという女性を調べれば、店長の事が何か分かるかもしれないと思った。
でも、やめる事にした。
もう店長の過去を詮索する事はよそう・・・
ボロボロのあの人を、これ以上傷つけてはいけない・・・
自分で言った事だ。もう話さなくていいって。
店長は店長だ。レイジェスの店長だ。それでいいじゃないか。
困った時は、アタシがフォローするから・・・感謝してくださいね・・・
少し話が長引いたので、今日のところはアタシの報告だけでお開きになった。
真実の花は店の金庫で保管する事にした。
セーブをかけておけば、どこに保管しても決して痛まないから花を金庫に閉まっても大丈夫なんだ。
店を出て、空を見上げるともう日が沈みかけ、夕陽が街を赤く染めていた。
早いな・・・陽が短くなるとアタシは物悲しくなる。
「ケイト、どうかした?」
隣に立ったジーンが、そんなアタシを見て顔を向けて来た。
「うぅん、大丈夫だよ・・・ただ、ちょっとだけ・・・この夕陽が寂しかった・・・」
ジーンも夕陽に目をやると、なにかを感じたのかもしれない。
アタシの手を握ってきた。
あの日・・・ボロボロだったアタシの手を握った時のように
「帰ろう・・・僕達の家に」
「・・・うん」
店長・・・
どうか無事に帰って来て下さい
同じ夕陽を見ている店長の心が、どうか穏やかであるように・・・そう願った




