【854 パワーとスピード】
ジョルジュの腹に拳をめり込ませたまま、ワイルダーは軽々とその体を持ち上げた。
直径40cm、全長250cmの鋼鉄の巨槍を、左腕一本で投げるワイルダーにとって、成人男性程度の重量など赤子を抱えるようなものだった。
己の頭の上に掲げたジョルジュに目を向ける。腹にくらわせたこの一発のダメージは大きく、ジョルジュは歯を食いしばり、苦痛に耐えている。
「ぐ、うぅ・・・」
ワイルダーは自分に挑んできた弓使いの姿を嘲笑うように、フッと鼻で笑って見せた。
「ジョルジュとやら、なかなか頑丈なようだが、これは耐えられるかな?」
ワイルダーの重く太い声が耳に届いた瞬間、ジョルジュに戦慄が走る!
「ハァッ!」
ワイルダーはジョルジュの腹に拳をめり込ませたまま、その体を叩きつけるように頭上から地面に振り下ろした!
このまま背中から打ち付けられれば、いかにジョルジュとて甚大なダメージを負う事になるだろう。
このまま黙って潰されるか?
ワイルダーの目には明確な殺意があった。このまま叩きつけて殺すと。
だが同時にジョルジュを試しているようでもあった。この程度は外せるだろうと。
外せなければ死ね!
ジョルジュの身体が地面に叩きつけられる寸前で、ジョルジュはワイルダーの手首を両手で掴んだ。
「むッ!?」
「ハァッ!」
ワイルダーの左手首を軸に、ジョルジュは体を回すように捻り、拳を腹から外した。
そのままワイルダーの身体を蹴りつけ、大きく距離を開ける。
勢いよく地面を殴りつけたワイルダーの拳は、大地を割り手首まで深く埋まっていた。
拳を外し難を逃れたジョルジュだが、ワイルダーの拳が起こした振動は、ジョルジュの足元にまで伝わっていた。
あの拳の下に自分の体があったのならば・・・そのイメージが頭をよぎり、ジョルジュの頬を一滴の汗が流れ落ちた。
「・・・ふむ、思った以上にやるようだな」
ゆっくりとした動作で地面から拳を引き抜く。
左拳についた土を手を振って地面に落す。地面を割る程の一発だったにも関わらず、ワイルダーの拳は血の一滴すら出ていない。いかに頑丈な拳で、どれほど強靭な体なのかが分かる。
「どれ、まさかこれで終わりではないだろうな?かかってこないのならば・・・」
ワイルダーは上半身をかがめると、さっきの一発で砕いた地面の石を無作為に掴み取った。
「何をする気だ?・・・まさか!?」
「こちらからいくぞ」
ワイルダーが何をしようとしているのかを察し、ジョルジュの目が鋭く険しくなる。
そしてジョルジュの頭に浮かんだものに回答するように、ワイルダーは左腕を振り被り、握り締めた石や砂利を力任せに投げつけた!
218㎝の巨躯が放った石礫は、逃げ場がない程に空間を埋め尽くした!
大小さまざまな石だが、そのどれか一つでも受ければただではすまない。それは迫り来る石礫の圧力が教えていた。
「・・・くッ!」
受けはできん!この礫は防御など容易に貫く。
攻撃範囲が広い、両脇に避ける事は不可能だ。道は一つしかない!
俺は地面を強く蹴って上空へと逃れた。逃げ場は上しかない!
そして俺が跳ぶのとほぼ同時に、足元を凄まじい勢いで石礫がかすめていった。ただの小石が恐ろしいまでの速さと強さで投げられる。
生身で受けれるものではない。鉄の盾でも貫通すると思わせる程の威力だ。
「そうだ。この場合は上しかあるまい。だが・・・」
ワイルダーは顔を上げると、空中のジョルジュをその目で捉え狙いを付ける。
右足に力を入れて大地を踏みしめる。
「空中では身動きがとれんよな?」
地面が砕ける程に強く蹴り上げる!それは黒き閃光となり、瞬き程の一瞬でジョルジュの背後を取った!
「くッ!」
「今度は耐えられるかな?」
後ろを取られたジョルジュが振り返ろうとしたその時、ワイルダーの拳がジョルジュの背中を撃ち抜いた。




