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828 いつから

「・・・う・・・ん」


まどろみから引き戻されるように、重い瞼が少しづつ開かれていく。


長い夢を見ていた気がする。

とても長い・・・懐かしい夢を・・・・・


「・・・気が付いたか」



耳に触れた声は、例え夢の中だろうと聞き間違える事のない人の声だった。


「あ・・・てん、ちょう・・・・・」


サラリとした金色の長い髪。少したれ目で、優しいけれどどこか悲しい瞳。

一見細く見えるけれど、体力型にも負けない引き締まった身体。

バリオス店長は私の隣で、本を片手に丸いイスに腰をかけていた。

いつも通り、見慣れたクインズベリーのローブを着ている。


「レイチェル、具合はどうだ?頭が痛かったりしないか?」


「え?・・・あ、ここ・・・私の部屋?」


少し意識がはっきりしてくると、周りが見えてくる。

店長が肘を乗せているのは、一昨年の誕生日に母に買ってもらった赤い丸テーブル。

部屋のドアの横には、引き出しが少し引っかかって開けづらいけど、デザインが気に入って買った中古の黒い衣装棚。

胸までかけてあった白のブランケットは、この春にレイジェスで仕入れた物で、少し薄くて夏に丁度良さそうだから自分で買った物だ。


そして頭の下の丁度良いフィット感は、確認するまでもない私の枕。

部屋の中を一度見回して、ここが間違いなく自分の部屋だという事を理解した。



「・・・その様子だと体は大丈夫のようだが、まだ寝ていた方がいい。レイチェル、キミは五日間寝ていたんだ。意識を失う前の事は覚えているか?」


体を起こそうとすると、店長が手を前に出して止めてくる。

そしてそう言われて思い出した。私は戦っていたんだ。帝国軍の青魔法兵団団長のカシレロと。


カシレロを蹴り倒したところまでは覚えている。

けれど、そこから先が全く記憶にない。


「・・・えっと・・・帝国軍の青魔法兵団団長、カシレロを倒したところまでは・・・覚えてます。そこから先は・・・」


「ミゼル達から聞いた話しだと、血まみれで倒れていたそうだ。おそらく敵を倒した後にレイチェルも倒れた・・・相打ちに近い形だったんだろう」


店長にうながされるまま横になる。

お腹の辺りまで下がったブランケットを取って、そっとかけ直してくれる。



「・・・そうですね・・・あの時の自分の状態を考えると、カシレロを倒してそのまま倒れたんだと思います。そうですか・・・私、五日も寝てたんですね・・・あ!店長、ここにいていいんですか?お城の仕事は・・・」


「アンリエール様からしばらく休みをもらった。城の復旧も完了までの見通しが立っているし、俺がいなくても大丈夫だ。それより、今はレイチェルの体を治す方が大事だ。かなり危険な状態だったんだ・・・命が助かって本当に良かった・・・」


「店長・・・そんな、私・・・こんな迷惑をかけてしまったのに・・・」


店長は大丈夫だと言ってくれるけど、今の国の情勢を考えれば、やはり店長は城にいた方がいいだろう。

実際に帝国が攻めてきたのだから、いつどうなるか分からないのだ。

それなのに、私のせいで店長をここに縛り付けておく事が申し訳なくて、私は店長から目を反らした。



「・・・レイチェル、そんな事は無い。俺は一度も迷惑なんて思った事はない。それどころか、俺がどれだけレイチェルに助けられているか・・・・・レイチェルと出会って、もう七年になるんだな・・・」


私が店長から顔を反らしていると、優しい声と一緒に頭をポンポンと撫でられた。

首を動かして店長に顔を向けると、店長は口元に笑みを浮かべて椅子に座り直した。

視線は窓の外へ・・・景色ではなく、遠い昔を見るような表情だった。



「はい・・・もう七年になるんですね。なんだかあっという間だったな・・・」


両手をお腹の上に乗せて、私も窓の外へ目を向けた。

半分くらい開いた窓から、時折涼しい風が入り髪を撫でる。今日は少し気温が低いのだろうか、風が気持ちいい。



「最初は少し変わった子だなって思ったんだ。開店準備をしてたら、こっちをじっと見てる女の子がいてさ、なにか気になるのかなと思って、話しかけようとしたら逃げるんだもんな」


「いえいえ、だってあの時はちょっとびっくりしちゃったんです。私、レイジェスに行った事なかったから、どんなお店かなって見てたんです。そしたら店長が急に近づいて来るから・・・」


「あはは、そう言えばそう言ってたな。開店してしばらくしたら店に入って来て、けっこう長い時間ぐるぐる見て回ってたよね?」


「はい・・・驚きました。リサイクルショップって、こんなに沢山いろんな物があるんだなって。買い取りもすごかったです。両手いっぱいに古着を持った人や、鍋とか食器を持って来る人、本当にいろんな人がいろんな物を持って来て・・・見てて全然飽きなかったです」


「そうそう、俺もあの日の事ははっきり覚えているよ。赤い髪の女の子が、椅子に座っていつまでもずっとこっちを見てるんだもんな。何度も言うけど、あの椅子売り物だったんだからね?一時間も二時間も座ってちゃ駄目なんだよ?」


「あ~!やっぱりそれ言うと思った!店長、それ言うのやめてくださいよー。何回そのネタで私の事いじるんですか?」


ここで店長が私をいじるのはいつもの事だ。

この話しはもう何回もしている事だが、店長は必ずここで私をいじって笑うんだ。

私も絶対に言われると分かっているけど、ついいつもと同じ言葉を返してしまう。


何回もしているこの話しが私は好きだ。だって、この時だけは店長が、本当に楽しそうに笑ってくれるから。



そして次の日もレイジェスに行って、同じように椅子に座って買い取りや品出しを見ていると、店長が私に声をかけてくれたんだ。


・・・この仕事に興味あるのかな?良かったら一緒に働いてみるかい?



あの時店長が声をかけてくれたから、私は今レイジェスで働いている。





「ははは、うん・・・それだけ笑えるんなら大丈夫みたいだね。ご両親を呼んで来るから、ちょっと待っててくれ。お二人ともとても心配していたんだ」


私が笑うと、店長は安心したように微笑んで、椅子から腰を上げた。


「あ、すみません、なんだか色々していただいて・・・」


寝ている間も沢山面倒をかけていたのに、これ以上店長のお世話になる事が申し訳なくて、私は体を起こして頭を下げた。



「・・・レイチェル、何回も言うけど、俺は面倒だとか迷惑だとか、そんな事はまったく思っていないよ。それと、こういう時は謝る必要は無い。何か言うのなら・・・」


「店長、ありがとうございます。ですよね?」


私がお礼を口にすると、店長は小さく笑って、部屋を出て行った。



「・・・忘れてないですよ。だって、これも店長が教えてくれた事だから・・・」




窓の外へ目を向ける


私の家の庭には、赤や黄色、色とりどりの花が咲いていて、今日のようにそよ風の吹く日は、

部屋の中に季節のそっと香りを届けてくれる



あれから七年・・・いつからだろう・・・最初は上司と部下、それだけの関係だと思っていた


優しくて頼りになる上司を、尊敬しているだけだと思っていた


でも、あの日カチュアに言われて自覚してしまった気持ちは、今も私の心を大きくしめている



・・・・・店長、あなたが好きです




ささやく様な小さな声、だけどハッキリと言葉に出して呟いた




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