827 エリザベートの決意
「・・・突然、どうされたのですか?」
レイジェスに連れて行ってほしい。そう口にしたエリザベートに驚かされたが、シルヴィアは表情を変える事なく訳を聞いた。
唇を結び、思い詰めた目を向けるエリザベートからは、並々ならぬ決意のようなものが感じられた。
エリザベートのすぐ隣に立つローザ・アコスタも、あまりに突然の事に目を丸くしている。
「姫様・・・急に何を?」
シルヴィアとローザの二人に問われ、エリザベートは胸に当てた手を握り締めた。
秘めた想いを打ち明けるように、一度目を閉じてハッキリと言葉を口にした。
「おそらく冬です・・・女王は今、戦力の増強に力を入れております。城の復旧はあと一か月程で完了しますので、本格的に戦争の準備に入ったのです。ロンズデールとも密に連絡を取ってますし、あちらも大分準備が整ってきているようです・・・・・帝国がどう動くか分かりませんが、このままいけばおそらく冬・・・戦争になると思われます」
「・・・冬、戦争・・・」
エリザベートの言葉に、アラタは少なからずショックを受けた。
心構えはしていたつもりだった。何度も視線をくぐり抜けてもきた。
だが、まだ漠然としていた戦争が、現実的なものとして見えてくると、日本人であるがゆえの拒否反応が表に出た。
複雑な心境だったが、口を挟む事はできなかった。エリザベートの話しを黙ってきくしかなかった。
「エリザ様・・・続けてください」
シルヴィアの表情が僅かに厳しくなった。
エリザベートが予測した戦争の時期は、アンリエールから聞かされていない事だったからだ。さっきまで会食もしていたのに、なぜこんな大事な話しをしてくれなかったのかと、不信感さえ覚えた。
「・・・申し訳ありません。まだ大まかな目安の段階ですので、女王は皆さんへお伝えするのは時期尚早と思っているようです。もう少し詰める事ができれば、皆さんへお話しがいくと思います」
「・・・そうでしたか。ですが、それならなぜエリザ様は、私達にお話しくださるのですか?」
事情を聞くと納得のできるものだったので、シルヴィアの表情から険がとれる。
確かにまだ見通しも不確かな状況では、女王の立場として軽々には発言できないだろう。
しかし、それならばなぜエリザベートは、それが分かっていながら自分達に打ち明けてくれたのだろうか?
シルヴィアの疑問にエリザベートは、一つ一つの言葉を確認するようにゆっくりと答えた。
「私は白魔法使いです。コルバートの血が、私にも高い魔力を与えてくれました。ですから私も戦いたいのです・・・皆さんと一緒に!」
自分もこの国を護るために戦いたい。
だからこそ、まだ女王が口にしていない話しであっても、信頼できるレイジェスには打ち明ける。
エリザベートの想いどれほどのものか、断固たる決意の目を自分に向ける王女の気持ちを、シルヴィアもしっかりと受け止めた。
「・・・エリザ様のお気持ち、よく分かりました。ですが、このままご一緒にレイジェスに向かうわけにはまいりません。今日のところは、このままお戻りくださいませ」
「シルヴィア!私は・・・」
「エリザ様、今日のところは、です。エリザ様の国を想うお気持ちはとても素晴らしいと思います。ですが、追いかけてくれたローザさん、アンリエール様もきっと心配しながらお待ちになられてるでしょう。まずはよく話し合う事です」
なおも食い下がろうとするエリザベートだったが、優しく諭されるとそれ以上は何も言えなくなってしまった。
肩を落とすエリザベートの手を取り、シルヴィアはそっと包み込んだ。
「確か、エリザ様はまだ、魔道具はお持ちでなかったですよね?」
「え?あ、はい・・・持っておりません。王族でしかも王女ですから、戦闘に使う魔道具は必要ないと教育を受けてきましたので・・・」
唐突に話しが変わり、エリザベートは質問された意図がつかめず、目を瞬かせた。
「ふふ、そうですね。確かにそうかもしれません。魔道具は戦闘用の物が多いですし、王女様が持つ必要は無いかもしれません。ですが今は国がこのような状況ですし、私はエリザ様も魔道具を持った方がいいと思うんです」
そこまで言って、シルヴィアはエリザベートに片目を瞑って微笑んで見せた。
「店長にお願いしておきますね。エリザ様専用の魔道具を作って欲しいって」
「え!?シルヴィア・・・」
驚いた顔を見せるエリザベートに、シルヴィアは優しく声をかけた。
「エリザ様、お母様とよくお話しされてみてください。ご自分がどうされたいか、きちんとお話しして、周りの理解を得る事です。私達レイジェスはいつだって相談に乗りますし、エリザ様をお友達だと思ってますよ」
「・・・シルヴィア・・・はい、分かりました。私は少々気がせいていたようですね。女王、いえ母とちゃんと話してみます」
それまでの気が張った硬い表情は、穏やかで柔らかいものへと変わった。
自分を追いかけて来たローザへも、ごめんなさい、と声をかけると、ローザも小さく首を横へ振った。
「とんでもございません。姫様のお気持ちが一番大切なのですから。ぜひ陛下とお話しされてみてください。シルヴィアさん、ありがとうございました。私ではこう上手く説得できなくて・・・」
「いえいえ、ちょっとお節介をやいてしまったかと思いましたが、エリザ様のお気持ちが良い方向に向いてくれて何よりです」
エリザベートの正義感、国を大切に想う気持ちが強く、少々気が逸ってしまったが、シルヴィアはそれを決して無碍にせず、魔道具を用意する事で、いつでも受け入れができる事を伝えた。
本来王女が戦場に立つべきではないだろう。だが、身を護る手段の一つとして考えれば、王女だからこそ魔道具を持つべきだろう。
エリザベートの気持ちを汲んだシルヴィアの想いに、エリザベートもまた、母と向き合い、周りの理解を得たうえで参戦する意思を固めた。
それからアラタ達三人は、エリザベートとローザに見送れながら馬車に乗り、レイジェスへの帰路に着いた。




