803 カチュアの祈り
「アラタ君!アラタ君・・・あ!」
ヒールをかけて怪我は治したけれど、アラタ君はなかなか目を覚まさなかった。
私はアラタ君の頭を膝に乗せて、精一杯の気持ちを込めて名前を呼び続けた。
そして何度目かの呼びかけで、アラタ君はゆっくりと目を開けた。
「アラタ君!良かった、なかなか目を開け・・・え?」
アラタ君の目は私を見ていなかった。
真っすぐにじっと空を・・・いいえ、この目はもっと別のなにか・・・自分にだけ見えている形の無いなにかを見ているんだ。
例えば、そう・・・怒り、憎しみ。
負の感情に捕らわれて、何も見えなくなっているんだ・・・私の事も・・・・・
「ぐ・・・ぐぅぅ・・・よくも・・・よくもぉぉぉぉぉーーーーーッツ!」
突然の絶叫、そして見た事の無い怖い表情だった。
その目は強い憎しみの炎を宿し、喉が張り裂けるのではと思うくらい、大きく口を開けて、憎悪に満ちた声を出す。そしてアラタ君の体から、黒い瘴気が滲み出てきた。
我を忘れるくらいの強い憎しみに、アラタ君は闇に呑まれそうになっているんだ。
そんなアラタ君を・・・夫を・・・私は・・・
「・・・アラタ君、私だよ・・・カチュアだよ」
私はアラタ君は抱きしめた。
「うぁぁぁーーーッ!なんでだぁぁぁーーーッ!なんで殺したぁぁぁーーーーーッツ!」
がむしゃらに暴れるアラタ君はすごい力だった。
背中に回した腕が振りほどかれそうになるけれど、絶対に離しちゃいけない!
今この手を離せば、アラタ君は闇に呑み込まれる。そう思って必死にしがみ付いた。
「アラタ君、前に私がキッチン・モロニーで言った事、覚えてる?・・・アラタ君は、辛い気持ちをいっぱい胸に閉まってたんだねって・・・私、奥さんなのに、アラタ君がこんなに辛い気持ちだったのに、また気づけなかった・・・ごめんね・・・本当にごめんなさい」
涙が溢れて来た・・・・・
私、奥さんなのに・・・なんでアラタ君の辛い気持ちに気付けなかったんだろう?
あの日、アラタ君は泣いてたのに・・・
ニホンの家族の事だけじゃない。シンジョウ・ヤヨイさん、ムラト・シュウイチさん、アラタ君の大切な人の事も聞いていたのに・・・・・
最近は話しを聞かなくなってたけど、心の問題は何も解決してなかったんだ。
アラタ君が言わないからって、もう大丈夫だって気にしなくなってたんだ・・・・・
私・・・自分の事しか考えてなかった・・・・・
「・・・アラタ君、私、頼りない奥さんだけど・・・でも、アラタ君の事大好きだよ。この気持ちだけは誰にも負けない・・・私じゃダメかな?アラタ君の辛い気持ち、私が全部受け止めるから・・・だから帰ってきて・・・・・お願い・・・・私の大好きなアラタ君に戻って!」
帰って来て・・・・・
これまで一緒に過ごした思い出を
辛い事もあったけど、それ以上に楽しい事が沢山あった
私はアラタ君への気持ちを込めて願った
アラタ君、帰って来て・・・・・
・・・・・どのくらいそうしていただろう
すごく短い時間だったかもしれない
けれど、とても長く感じた
「・・・カ・・・チュア・・・・・」
そっと私の髪を撫でたのは、私のよく知っている優しい手だった。




