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80 セインソルボ山 ①

しばらくアラタ達は出てきません。

「ここがセインソルボ山かぁ・・・店長、やっと着きましたね」


セインソルボ山。

カエストゥスとブロートンの国境に跨っており、200年前までは西側と東側から入山できたが、

現在は東側の地に足を踏み入れると、帰って来れない呪いがあると言われ、事実上西側からしか入山できない。


今は4月の終わりだが、山はまだまだ雪が積もっており、アタシ達のいる山裾も、所々赤茶色の土が見え隠れしているが、足首が埋まる程度には雪が残っている。


最後に立ち寄った村で食料などを補充し、ここまでは馬車を出してもらった。

村の人の話しでは、村からここまでおそらく20キロ程だろうと話していた。


帰りは歩きになるが、村まで20キロ・・・何時間かかるだろうか?今から憂鬱だ。



クインズベリー国を出て1週間、馬車も使ったが、歩く事の方が多かった。

アタシは魔法使いにしては体力はある方だと思う。でも、1週間の旅は正直疲れた。


アタシが疲れを見せると、店長はヒールをかけてくれる。

だから体力的には大丈夫なのだが、精神的な疲れはとれない、こればかりはどうしようもない。


山裾で胡坐あぐらかいて、あらためてセインソルボ山を見上げてみた。




ブロートンの青魔法使いが調べた記録では、標高は6636メートルの独立峰だ。

今は山頂部分が雲に覆われ、山の全容は見えないが、

西側から見える範囲では切り立った崖のような、急斜面が多く見える。


ここに来るまでに立ち寄った街や村で聞いた話では、今から200年以上も昔は、山登りを楽しむ人が訪れていたらしい。

だが、ブロートンとカエストゥスの戦争の後、東側のカエストゥスから入山した人が、誰一人として下山できなかった事から、帰らずの山、とも呼ばれ訪れる人は減少していったそうだ。


いつしかそれは、呪いと呼ばれたり、山の神が入山を嫌っていると噂されたり、様々な形で広まっていき、いつしか信仰の山として見られるようになった。



そのためセインソルボ山の入山許可は、まず一般人ではでない。

今回は王妃様が、かなりご尽力されたと聞いている。どうしても真実の花が必要なのだろう。


そしてブロートン側から、仮に山頂まで登る事があった場合、絶対に山頂は踏んではならないと条件を出されたらしい。

信仰の山には神が宿るとされている。山頂を踏む事は、神の頭を踏む事を意味する。


それは神への許されない冒涜であり、現地の人には災いを呼び寄せると信じられているそうだ。



アタシとしても、できれば山頂に登る前に花を見つけて帰りたい。ジーンに早く会いたいからだ。

ここまで来てなんだけど、もう目の前に咲いててくれてもいいんじゃない?くらいの気持ちだ。


あっさり過ぎて拍子抜けくらいでいい。でも、そううまくいかないもんなんだよね。




アタシは登山経験はない。

店長から青魔法使いなら可能だと言われたが、本当にこんな山を登れるものだろうか?

標高6636メートルを見上げて、アタシは眉を寄せ首を傾げた。これ無理だって・・・



「店長・・・これ、厳しいってか、登れますかね?。アタシと店長のサーチを合わせても、半径1キロですよ?山は標高6636メートル・・・ってか、山っていうより化け物サイズの大岩じゃないですか?

アタシの知ってる山って、もっと木があって、鳥の声が聞こえたり、川もありましたもん。これ山じゃなくて、岩ですよね?6636メートルの岩ってなんの冗談ですか?それで雪まであって、手の平サイズの花を探すんですよね?普通無理ですわ」


アタシは顔の前で手を振りながら、隣に立つ店長を見上げた。




サラリとした金色の髪をかき上げ、バリオス店長は溜息をついた。

ややタレ目がちで、長身だが体の線は細く、一見ひ弱そうにも見えるが、実は魔法使いとは思えない程、引き締まった体をしている。


年齢は20代後半から30前くらいに見えるが、正確な年は誰も知らない。


「・・・また、ここに来る事になるとはな」



その目は遠く、山を見つめているようで、その先にある別の何かを見ているようにも見えた。


「店長・・・前にも、ここに来た事あるんですか?」


「・・・あぁ、ずいぶん昔だがな・・・もう来る事はないと思っていたが・・・真実の花は、ここにしか咲かないからな。ケイト、今回の依頼、付き合わせてすまないな。キミの力がどうしても必要だった。確かに難しいが、王妃様のご依頼だ。絶対に持って帰らなければならない。力を貸してくれ」


店長はほんの少しだけ笑顔を作り、アタシに顔を向ける。

確かに笑顔ではあるが、その瞳だけはいつもどこか悲し気だった。



アタシはこの顔に弱い。


アタシはジーンが好きだ。ジャレットやミゼル、店には他にも男がいるし、客から声をかけられた事もあるけど、一度も興味を持った事がない。


店長も同じだ。男としての興味は全く無い。


だけど、なぜか放っておけないと思ってしまう。



ジーン以外で、こんな気持ちを持つ事は初めてだった。


店長は謎が多い。多すぎる。バリオスという姓しか分からないし、正確な年齢も教えてくれない。

どこで生まれ、どのように生きて来たのか、全くなにも分からない。


ただ、一つだけ確信を持って言えるのは、嘘つきではない。


偽名を名乗る事もできる、年だって適当に答えればいい、出身だって何でもそうだ。適当に答えておけばいい。その方が不信に思われる事もなく、店長だって生きやすいはずだ。


でも、店長はそうしなかった。

言えない事は言えないと言う。何かをごまかしたり、はぐらかしたりする事は一度もしなかった。

いつでも、誰とでも誠実に向き合ってきた。


きっと・・・そういう店長だから、アタシも力になりたいと思ってしまうのだろう。



「・・・しゃーないですね。まぁ、ここまで来たんだから、できる限りの事はさせてもらいますよ」


アタシは立ち上がると、店長の胸に拳を軽く打ち付けた。



「俺にこんな事するのはキミくらいだよ」



店長はさっきより、もう少しだけ大きな笑顔を見せてくれた。





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