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799 集結

ケイトはタイミングを見ていた。

何かにとりつかれたように拳を振るい続けるアラタは、一度デービスから引き離す必要がある。

引斥の爪でデービスを弾き飛ばそうと構えていたが、そこで予想外の事態が起こった。


アラタが右拳を振り上げると、一瞬の間にデービスが懐に飛び込んで組み付き、そのまま背中に回ると、のけ反ってアラタを持ち上げたのだ。



間に合ったのはほんの紙一重の差だった。


マズイと思った時には魔力を飛ばしていた。

落下点に結界を張り、アラタの頭を護る事には成功した。


だが相当なパワーの一撃だったため結界は砕けてしまった。そして命は守ったとは言え、全ての衝撃は防ぎきれず、それなりの威力を受けてしまった。

しかも頭への攻撃だったため、アラタはそれで意識を失ってしまった。




ケイトは今、苛立ちを感じていた。

この男との間に何があったかは分からないが、感情にまかせて力をふるい、あっさりと返り討ちにあったアラタに。


そして自分を脅すように凄んでみせた、この巨躯の男に。



「・・・クズ。大声だしたり睨んで見せれば、女や子供がいう事をきくと思ってる男はクズだよ。暴力で支配しようだなんて・・・アタシは絶対に許さない」



ケイトは思い出していた。

幼い頃に両親が離婚し、母親と一緒にロンズデールに行った時の地獄のような毎日を。

母親がロンズデールで作った男から受けた仕打ちを。

心無い言葉、暴力から自分を助けてくれなかった母親を。


怒鳴る。脅す。

これらはケイトにとって、決して許す事のできない行為だった。


ゆえにさっきデービスがケイトに凄んで見せたのは、ケイトを怯ませるどころか、爆弾の導火線に火を付けるようなものだった。



至近距離で顔面を撃たれたデービスは、両手両足を投げ出して倒れていた。

デービスの顔からは魔力の残煙が立ち昇っていて、顔にまともに食らった事が一目で分かる。


「・・・あー、痛ってぇー・・・なんだよお前?話しの途中で撃つなんて、怖ぇ女だなぁ?」


ケイトの攻撃が止まった事を見て、デービスは上半身を起こした。


「・・・へぇ、もう撃ってこねぇわけ?」


問答無用で撃たれ続けていたデービスは、体を起こしてもケイトが撃ってこない事に、意外そうに片眉を上げてケイトを見た。


「・・・あんたに聞きたい事がある。あんたアラタの何?アラタのあの様子は普通じゃなかった。あんた何したの?」


「アラタ?・・・ああ、そいつの事か?何って、てめぇに言っても分かんねえよ。知りたきゃそいつを起こして本人から聞けよ。まぁ、聞ければだけどな」



睨み合う二人の間に、風が吹く。

これだけの激しい戦いにも関わらず、辺りは静まり返っていた。

暴徒から身を護るため、住民達は建物の中に避難して息を潜めているからである。

だが、全ての人がそうしているわけではない。


何が起きているのだろうと、わずかに開けた窓、ドアの隙間から、いくつもの視線が向けられていた。

ケイトもデービスもそれは感じている。

デービスはやろうと思えば、いくらでも住民を盾にできる。それはつまりケイトの引斥の爪を無力化できるという事であった。


「・・・くはははは、そう睨むなよ。てめぇが考えてる事は分かる。別に俺は街の人間を使って、脅そうなんて考えてねぇよ。そうする必要もねぇしな」


膝に手を付き立ち上がると、デービスは鼻から流れる血を親指で弾くようにして地面に飛ばした。


「てめぇ、指から空気の塊みたいなの飛ばしてるよな?衝撃波か?確かに痛かったけど、痛いってだけだ。そんなので俺は倒せねぇよ。てめぇの武器がそれだけなら、てめぇはここで終わりだ」


「それはどうかな?終わるのはあんたの方じゃない?」


「あぁ?何を言って・・・うぐあぁぁ!?」


自分の武器がいかに無力かを聞かされたはずなのに、見下ろす女の表情にはまるで焦りも動揺が見られなかった。それどころか、自分に対して挑発めいた事まで口にする女に、デービスが眉間にシワを寄せたその時、突然デービスの背中で爆発が起こり、デービスはその巨体をよろめかせた。



「ぐあぁぁぁッ!ぐぅ、誰だぁッツ!」


デービスが振り返ると、そこにはボサボサ頭の黒魔法使いが、破壊の魔力を漲らせた右手を向けて立っていた。


「よぉ、無防備なとこにくらうと、爆裂弾でもけっこう効くだろ?」


「あぁッ!?この・・・!?」


ニヤリと笑って見せるミゼルに、デービスが目を吊り上げて飛び掛かろうとすると、ミゼルの後ろから小さな影が飛び出した。


「っ!?このッツ!」


「・・・拳は目線の高さから、足首、腰、肩を回して・・・・・」


とっさの事に一瞬反応が遅れるが、デービスは自分に向かって真っすぐに突っ込んで来る、そのダークブラウンの髪の小柄な女を捕まえようと両腕で掴みかかる。だがスルリと潜り抜けられて、懐に入り込まれてしまった。


「撃つ!」


ユーリの右ストレートがデービスの鳩尾にめり込んだ!


「ごっ・・・はぁ・・・!」


魔力を筋力に変えるユーリの膂力のベルト、全開で放った一撃は確かにデービスの口からうめき声を漏らさせ、その体を折り曲げさせた。


「こ・・・この・・・ふざけんじゃねぇぞぉぉぉー--ッツ!」


次か次に出てくる新手、そしてここまでいいように叩かれた事が、ついにデービスを激高させた。

自分の腹に拳を撃ちこんだユーリを見下ろし睨みつけると、怒声を上げて右の拳を撃ち下ろした。


40cm近い身長差、大人と子供、いやそれ以上にさえ見える圧倒的な体格差から撃ち下ろされる拳は、ユーリを潰してしまうのではと思える程、巨大で凄まじい圧力があった。



魔風まふうの羽よ!」



しかし、デービスの拳がユーリに届く事はなかった。

突如台風を思わせる程の強い風が吹きすさび、デービスの体を叩きつけて吹き飛ばしたのだ。


「ぐぁぁッ!」


数メートル程飛ばされ、その体を地面に打ち付け転がされる。


「ぐ、こ、今度はなんだ!?」


体を起こしたデービスの目に入って来たのは、白い羽を握り締めたオレンジ色の髪の女、カチュアだった。

一見気弱そうにも見えるが、強い意思を秘めた目でデービスを見る姿は、覚悟を決めてこの場に立った事を示していた。



「・・・さっきから、どんどんどんどん、わらわらわらわら集まりやがって・・・てめぇらいい加減にしやがれッツ!もう容赦しねぇッ!全員まとめてぶっ殺してやるぁぁぁー--ー-ッツ!」


「悪いなデービス、まだ私もいたんだよ」


頭の上に突然影が落ち、耳に届いた声にデービスが顔を上げると、長い黒髪の女が己の背丈よりも長い得物を掲げ、空から降って来た。


「て、てめぇっ!アゲ・・・ッ!」

「じゃあな」


薙刀の刃がデービスの左肩に食い込み、右の脇腹へと袈裟懸けに斬り裂いた。



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