表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
797/1561

797 命を繋ぐ行為

「レイチェルさん!」


エルウィンはレイチェルの元に駆け寄ると、腰に下げたポーチから傷薬を取り出した。


右脇腹と右腕の刺し傷に、手早く薬を塗っていく。

レイジェスで売られている傷薬は非常に効果が高い。止血効果はすぐに表れ、出血が止まると、エルウィンは回復薬を取り出した。


レイチェルの上半身を起こして、首と肩の間に左腕を入れて支える。

ぐったりとしてまるで力を感じない。生気の無い青白い顔を見ると、動揺して手が震えて回復薬のビンを落としそうになった。


微かに胸が上下している事から、まだ生きている事は分かる。

だが、このままではいつ死んでもおかしくない。

一刻を争う危険な状態だと分かり、緊張と焦燥で鼓動が速いなって、全身から汗が噴き出る。


「レイチェルさん、飲んでください・・・」


回復薬のビンをしっかりと握り、口元に持っていく。


しかし口の中に薬を流しても、力なく零れ落ちてしまう。意識は完全に無く、飲みこむ力も残っていないのだ。


「そ、そんな・・・レ、レイチェルさん!飲んでください!」



エルウィンは声を大きくして呼びかけるが、レイチェルの瞼は開かれない。

腕はだらりと下がり、力の無い体はもはや死を待つだけにしか見えなかった。



「エルウィン!・・・それ・・・貸しな」


ふいに背中にかけられた声に振り返ると、息を切らせたケイトが険しい顔をして立っていた。


「え、ケイトさ・・・!」


睨むような鋭い目を向けてくるケイトに、気圧されて反応が遅れると、ケイトはエルウィンの手から回復薬を奪うように掴み取った。


「どいて!」


そのまま自分の口に回復薬を含むと、ケイトはエルウィンを押しのけてレイチェルの体を掴み、そのままレイチェルの口に自分の唇を重ねて薬を流し込んだ。


「ケ、ケイトさん!?」


目の前の光景に、エルウィンが驚き戸惑いの声を上げる。

ケイトはレイチェルから唇を離すと、そんなエルウィンを厳しい目で見た。


「・・・エルウィン、状況分かってる?こんな事で照れてる場合?」


「あ・・・いえ・・・」


普段とは全く違うケイトの厳しい口調に、エルウィンの目が泳ぐ。


「・・・エルウィン、こっち来て」


ケイトがエルウィンに向ける視線は、有無を言わさぬ迫力があった。

エルウィンが戸惑いがちに近づいて来ると、ケイトは抱きかかえているレイチェルを、そのままエルウィンに手渡した。



「え?あ、あの、ケイトさん?」


「よく聞いて。お腹と腕の出血は止まってるし、回復薬を飲ませたから少しは体力を戻せた。けど、やっぱりこのままじゃレイチェルは死ぬわ。こんなに顔が青白いし、体も冷たい。呼吸もすごく弱い。血が流れ過ぎてるのよ」


「そ、そんな!レ、レイチェルさんが・・・」


ケイトから突きつけられた現実に、エルウィンは悲痛に顔を歪ませた。


「黙って最後まで聞いて!いい、まだ助かる!助けられるの!失った血を補う事ができる薬があるの。充血剤じゅうけつざいって言って、10センチ程度の細い筒に入っている赤い液体よ。レイジェスの事務所の戸棚にあるから、そこまでレイチェルを連れて行って飲ませて。店の鍵はジャレットが持ってるけど、緊急事態だから壊して入っていいから。戸棚の鍵はキッチンの横ね」


動揺を隠せず落ち着かないエルウィンを一喝すると、ケイトはこれからすべき事を指示した。


「た、助かるん、ですか?」


「そう。急げば助けられる。ただ、アタシは魔法使いだから、レイチェルを背負って走る力はないの。でもエルウィンならできるでしょ?あんたがレイチェルを助けるの。さぁ、速く行って!レイチェルを助けるんだよ!」


目をしっかりと合わせ、肩を掴んで強く言葉を発すると、エルウィンは今自分が何をすべきなのかを理解し、しっかりと頷いた。


「分かりました!俺が絶対にレイチェルさんを助けて見せます!」


まだ意識の戻らないレイチェルを背負うと、エルウィンは一度ケイトに顔を向けて目を合わせる。


「頼んだよ、エルウィン」


「はい!」


短く、けれど力強く返事をすると、エルウィンは走り出した。





「・・・エルウィン、あんたレイチェルが好きなら、恥ずかしいとか言ってられないからね」


あっという間に金色の髪の少年の姿が見えなくなると、ケイトは軽くため息をついた。

回復薬を飲ませたが、それでもまず意識は戻らない。ならば充血剤を飲ませる時も、エルウィンはケイトと同じ方法で飲ませるしかないだろう。



「さて、アタシは・・・」


ケイトは少し離れた場所で、息を飲む程に激しい戦いを繰り広げている男達に顔を向けた。


戦っているのは、アラタと大柄な男だった。

大人と子供程に体格差があるが、圧倒しているのはアラタだった。

左右の拳を息を持つかせぬ程に撃ち続け、巨躯の男を完全に封じていた。



「アラタ・・・あんた、なにがあったの?」


普段の穏やかなアラタからは想像もできない、鬼気迫る顔だった。

怒りと憎しみに染まったアラタの顔を見て、ケイトは怖さよりも不安を感じていた。



ねぇアラタ、あんた今自分がどんな顔してるか分かってる?

あんたがそんな顔をするくらい、その男に恨みでもあるの?


アラタ、駄目だよ・・・

そんな感情で力を使ったらダメだ。



「闇に呑まれたらダメだ!」



荒々しく拳を振るうアラタを止めるため、アタシは左手の魔道具、引斥の爪を向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ