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796 侮辱

「へっ、そんなの分かってんだ・・・よ!」


背後から斬りかかったエルウィンだが、デービスはすでに気配を察していた。

アラタの拳を握る手に力を入れると、おもむろに体を捻り、そのまま力任せに後ろへ振り回した!


「なっ!?」


軽々と持ち上げられ、足が地を離れた事に驚きの声が出るが、体を振り回される力に全く抵抗ができない。


「吹っ飛べやァァァァァーーーーーッツ!」


背後から自分の首を斬り裂こうとしたエルウィンに、デービスはまるでバットでも振るかのように、アラタの体を叩きつけた!


「うぐぁッ!」


予想外の攻撃。一人の人間をぶつけられるなど思いもしない。

まともに受けたエルウィンは、その体を地面に打ち付けられる。


そのまま放り投げられたアラタも、受け身さえとれずに背中から地面に落ちて転がされた。



「ハッハァーッ!おら!さっさと立ってかかってこ・・・!」


デービスがたった今放り投げた二人に向かって行こうとしたその時、一早く体勢を立て直したアラタはすでにデービスに向かって突っ込んでいた。


「オォォォォーーーーーッツ!」


「はっ、タフだな?イキがいいじゃねぇか!」


かかってこいと左手を誘うように向けるデービスに、アラタが放った一撃は左ジャブ!


速ッツ!?


それは最初のストレートとは比べようもない速さだった。


ダメージを狙ったものではなく、次への布石、目くらましを目的とした最速のジャブは、デービスの防御反応を超えて顔面を的確に捉えた!


「っぐぁ!」


顔に拳を受けて、瞬間的に両目を瞑る。

デービスとて生身の人間である以上、この条件反射はどうしようもない。


そして今のアラタを前にして、一瞬とはいえ視界を閉じた以上、次の一撃は無条件でクリーンヒットを許す事になる。


左ジャブを戻しつつ、腰を左に回し肩を入れて全体重を乗せて撃ち放つ!


右ストレート!

デービスの顎先を捕えた右拳、そこに感じる確かな手ごたえ!

完璧だ!これで倒れないヤツはいない!


デービスの上体が大きく揺らぎ、膝は折れ、背中から倒れそうになった・・・だが。



「・・・な、に?」


アラタは目を見開き、驚愕した。


上半身は大きく後ろに傾き、膝も折れ、倒れる寸前だった。

だがそこで、デービスの体はピタリと止まっているのだ。


どう見てもこのまま倒れるしか見えない。だが倒れない。

膝まで折れているのに、足の力だけでこの巨躯を支えているのだ。



「・・・テメェ、この前レストランの前で会ったよな?」


上半身を後ろに傾けたままのデービスから、ゆっくりと声がかけられる。


その声を耳にした瞬間、アラタの背筋にゾクリとした冷たいものが走った。

至って普通に話しているように聞こえるが、まるで喉元に刃物を当てられたような静かな殺気が、アラタへ圧力をかけていた。


話しに付き合う必要はない。このままたたみかければいい。

だが、今攻めれば殺られるという確信に近いものが、アラタの足を止めていた。



「でもよ、それだけじゃねぇよな?さっきてめぇの顔を見て、思い出したんだ。てめぇ、あのリサイクルショップ、ウイニングの店員だよな?俺にぶっ殺されたはずなのに、てめぇもこっちに来てたのか」


デービスは腹筋の力だけで上半身を起こすと、ゆっくりと膝と背筋を伸ばした。

口の端から一筋の血が流れているが、アラタの渾身の右ストレートを受けても、まるでダメージが見えなかった。

アラタとの身長差、15cm以上、体重にいたっては70キロ程度のアラタより40キロは重いだろう。

ヘビー級の体を持つデービスに見下ろされると、大人と子供程にもある差が明確になった。



「・・・やっぱりな、あの日レストランで会った時、一目で気付いたよ。お前があの日俺を殺した男だってな・・・俺だけじゃない。弥生さんも、村田さんも殺したんだろ?」


目の前の男が、日本で自分を殺した男だという事は分かっていた。

そして相手の口からハッキリと告げられた。


確信に近いものを持っていたが、ここは日本ではなく異世界だ。

もしも、万が一違っていたら・・・心のどこかで、その可能性もあるかもと思っていたが、デービスが認めた事で、抑えていた怒りをぶつける対象が明確になった。


「ん、あぁ・・・あの時まだ意識が残ってたのか?お前のあとに俺にかかってきたあの二人だろ?女の方は、ありゃなんか格闘技やってたのか?すばしこくて面倒だったけど、掴まえちまえばなんて事なかったな。首を絞めてやったら、そのうち動かなくなったぜ」


軽い話し方、そしてこの腕で絞殺したと教えるように、右腕を曲げて力こぶを作って見せる。


「もう一人はな、村戸修一ってんだろ?あいつはボクシングやってたんだってな。俺に負けねぇくらい腕力があったから、ちょっとてこずったけどよ、投げや関節にはやっぱ弱いよなぁ、あいつも後ろをとって首をへし折ってやったよ。そんでよ、ここからが笑えるんだが、なんで俺があいつの名前やらを知ってると思う?あいつは今・・・ん?」


二人を殺した事を、ニヤニヤと笑いながらあざけるように話す。


分かりやすい挑発だったが、姉のように慕っていた弥生。兄のように頼りにしていた修一。

人生の恩人とも言える二人を手にかけられ、そしてそれを笑いながら話すデービスに、アラタはキレた。



「・・・黙れ」


小さな呟きだったが、その言葉はやけにハッキリとデービスの耳に届いた。


「あぁ?調子こいてんじゃ・・・」


一歩足を前に出して詰め寄ると、それまで俯いていたアラタが顔を上げた。


「っ!?」


その目が放つ殺気・・・ただ自分だけに向けられた純粋なまでの殺気に、デービスは一瞬だが体を固くした。



次の瞬間、アラタの左フックがデービスの右の頬にめり込み、その巨体を吹っ飛ばした。



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