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794 勝敗を分けたもの

誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。

右足を強く踏みしめて、張りつめた弦を放つように、左から右へと腰を一気に回す。

ガラスのナイフを握る左手は、上半身を回す遠心力も加わえて、まるで鞭のようにしなやかに風を切ってその刃を振り抜いた。


受けてみろ!

レイチェルの瞳に宿る覚悟の炎が燃え上がる!


ガラスのナイフから衝撃波が発せられると、周囲の音が消え、時が圧縮されたかのような錯覚を起こす。

広範囲に渡って不可視の一撃を放つこの衝撃波こそ、かつてのガラスの剣の持ち主、リコ・ヴァリンが使っていた必殺技、真空波!




衝撃をぶつけるこの真空波という技は、視認できる形というものが無い。

それゆえにカシレロが目で捉える事はできない。だが、自分に向かい撃ち放たれた圧力の塊のようなものは、その耳が、肌が、全身の感覚が捕えていた。



はっはぁー!すげぇじゃねぇか!このプレッシャー、最初のヤツより明らかに強い!

死にぞこないがよくこんなの撃てたなぁ!?褒めてやるぜ!


「だがよ!」


足腰に力を入れて衝撃に備える。

両手は前に出したまま、気を入れ直すように息を短く吐き出し、正面を見据えた。


「俺の天衣結界を破るには、足りねぇんじゃねぇのかなぁぁぁー--ッツ!」


カシレロが叫んだその時、凄まじい衝撃と共に轟音が鳴り響き、青く輝く結界を激しく揺さぶった。



「ぐ、なんだとぉぉぉぉぉぉぉッツ!?」


真空波の余波は地面へと伝わり、足元の石畳を割って吹き飛ばす程のものだった。

そしてその威力はカシレロの想定を超えていた。


少しでも気を抜けば、その瞬間に結界が破壊されると感じる程の圧力に、歯を食いしばり耐える。

結界を盾にしても、揺さぶられる衝撃に立っている事がやっとだった。

足元の石畳にどんどん亀裂が入り、カシレロを揺さぶっていく。



レイチェルの渾身の真空波は、カシレロを追い詰めた。

額から流れる汗を拭う余裕もなく、全力で魔力を放出し続け、必死の形相で衝撃が去るまで耐え続ける。


あ、赤毛ぇぇぇッ・・・!

こ、ここまでの威力とはな・・・想定以上だ、見誤ったぜ。

だがな、それでも俺の天衣結界を破るには、ちょっとばかし足りねぇぜ!



真空波と天衣結界、互いに全身全霊のぶつかり合い、真空波は確かにカシレロを追い詰めた。


だが・・・・・




「うおっしゃあぁぁぁぁーーーッツ!」


カシレロは最後まで天衣結界を維持し続けた。

やがて真空波が威力を無くし散らされると、せめぎ合いを制したカシレロは歓喜の声を上げる。

赤い髪の女は満身創痍だった。全てをかけたこの一撃で力を使い果たしただろう。


カシレロが勝利を確信した瞬間だった。



「どうだぁぁぁーーーッツ!俺の勝ち・・・!?」


その時、カシレロの目が驚きに見開かれる。


「ば、馬鹿なッ!ま、まだ動けるのか!?」


なぜなら、今の真空波で力を使い果たしたはずの赤い髪の女が、結界を一枚隔てた距離まで迫っていたからだ。



「全身全霊を見せると言ったよな?私はここからだ」



燃えるような赤い髪を振り乱し、その黒い瞳には確固たる意志を秘めている。

己の流した血にまみれたレイチェルの飛び蹴りが、カシレロの結界を撃ち付けた。


「なっ!?ぐっ、な、んだとぉぉぉー--ッツ!?」


結界を激しく揺さぶるその衝撃に、カシレロが動揺を見せると、レイチェルは左右の蹴りで畳みかけた!


「オォォォォォーーーーーッツ!」


右の前蹴りを叩き込む!

右足を引くと同時に体を左に回転させて、勢いを付けて左の踵を打ち付ける!

そのまま右足で地を蹴って飛び上がり、右の爪先に力を集中させて貫くように撃つ!


「う、ぐぅ・・・蹴り・・・壊して、やるよ」


出血の多さに、もはや血の気の無いその顔色は青白く、唇も色を失いかけていた。

だが、その目はまだ生きている!


燃え尽きる前の最後の輝き、トップスピードを維持したままの高速の連撃、限舞闘争!



「あ、赤毛ぇぇぇーーーーーッツ!」


打撃音の切れ間が無い程に撃ち続けられる超高速の蹴り。

カシレロは残りの魔力を振り絞り、ただ耐えるしかなかった。



ふ、ふざけんじゃねぇぞ!

なんだそりゃ!?残像しか見えねぇ、まだそんな動きができんのかよ!?

し、しかもこの女、この局面でとんでもねぇ事してやがる!



レイチェルが蹴り付ける場所は、ただ一点に集中していた。

それは真空波によって、僅かにヒビが入ったこの結界の急所。一番脆くなっている場所だった。



こんな小せぇヒビを一瞬で見抜いたってのか!?

この赤毛、俺が思ってた以上にやべぇ、とんでもなくやべぇ女だ!

真空波で両腕が痙攣して動かねぇくせに、足だけでここまでできるもんなのかよ!?


く、くそがぁぁぁぁぁーーーーーッツ!



カシレロは血が流れる程強く唇を噛みしめた。

魔道具血巣蟲、そしてここまでの天衣結界の維持で、もはや魔力は尽きかけている。


ここからは体力と魔力ではない。気持ちの勝負だった。



隠してるつもりだろうが、テメェも息が絶え絶えじゃねぇか!

根性は認めてやるが、もう死にかけだろう!

いいぜ!やってやる!これが正真正銘俺とテメェの最後の勝負だ!全部受け切ってやらぁぁぁーーーッツ!




息が・・・できない

苦しい・・・一瞬でも緩めると・・・倒れてしまいそうだ

両腕は、もう感覚が・・・ない・・・・・

けど、この足が動く限り・・・・・少しでも体が動くのならば・・・・・



私は店長の弟子だから、店長がいない時は・・・私が・・・私が・・・・・




勝敗を分けたものは背負っているものの差だった


カシレロが己を高めるために費やした時間、流した汗は決して軽い物ではない


だが、自分のためにだけ戦うカシレロに対し、

レイチェルの背中には、クインズベリーに住む人々の命がかかっていた




「私がこの町をまもるんだぁぁぁぁぁーーーーーーーッツ!」




右足を垂直に、頭上よりも高く上げると、全体重を乗せてそのまま一気に振り下ろした!


結界の最高峰、青く輝く天衣結界が粉々に破壊された。



「なッ!?ば、ばか、な・・・そ、んな・・・まさ・・・」



これまで一度足りとも破られた事のない天衣結界が破壊され、思考が停止した一瞬の間隙。


「ハァァァァッツ!」


レイチェルの左の上段蹴りが、カシレロの顔面を蹴り抜いた。



崩れ落ちるカシレロ。


倒れたままぴくりとも動かないその姿に、決着がついた事を確信すると、レイチェルの意識もそこで途切れた。



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