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793 レイチェルの覚悟

ジェリメール・カシレロは努力家だった。


魔法使いとしての才能はあったが、突出した天才というわけではない。

大陸一の軍事国家ブロートン帝国において、カシレロ位の才能を持った者は珍しいものではなかった。


だからこそカシレロは努力をした。

人の二倍も三倍も努力をした。持てる時間を全て魔法の修行に使ったと言ってもいいだろう。


カシレロより才能のある者は沢山いた。

だが、カシレロより努力をした者は一人もいなかった。


努力は確実に、カシレロに力と自信を付けさせた。


自分は強い。なぜならそれだけの努力をしたからだ。


そして自分より才能のあった者達さえも追い越して、青魔法兵団の団長に選ばれた。

この実績がカシレロを支えていた。



カシレロは努力家である。それは帝国の誰もが認めるところである。

しかし、カシレロが尊敬に値する人物かと問われた場合、帝国での評価は二つに分かれていた。


なぜか?


それはカシレロが、何を置いても勝利を最優先するためである。


勝利を優先する事は軍事国家として当然の事である。責められる事でも、否定される事でもない。

しかし、味方にもおぞましいと忌み嫌われる吸血魔道具を使用し、敵とはいえ人間を食い散らかす様は、拒絶されてもしかたない事だろう。



「うぁぁぁぁぁぁー----ツ!」


「ふははははは!お前もいい声で鳴くじゃねぇか!この血巣蟲に食われたヤツは、みんなそうやって鳴いたもんだぜ!」


体から血液を吸い取られる。

それはこれまで経験した事のない、命を直接刻まれるような耐え難い苦痛だった。



「ぐ・・・あぁぁぁぁぁーーーーーッツ!」


意識を手放しそうになる痛みと苦しみの中、レイチェルは血が滲む程に唇を噛みしめ、左手に持ったガラスのナイフを一線する。

自分の右半身を突き刺す、赤い蟲の脚を刈り取ると、そのまま頭を縦に真っ二つに斬り裂いた。


「ハァッ!ハァッ!・・・・・ゼェッ、ゼェッ・・・ぐっ・・・」


蜘蛛に似た巨大な蟲が、赤い血へとかえると、レイチェルは体を起こし、自分に蟲を飛ばした男へナイフを向けた。


「はっはぁー!ようやく立ったけど大丈夫かぁ?顔色悪いぜ?俺はおかげ様で満腹だけどなぁ!」


血色の良い顔で笑うカシレロとは対照的に、レイチェルの顔は青白く、ひどく消耗している事は誰の目にも明らかだった。それは血を吸われた事はもとより、蟲の脚で刺された事も深く影響していた。


右腕は二か所の刺し傷、これも深いが、右脇腹を刺された傷が一番大きなダメージだった。

すでにかなりの血液を吸われている上に、腕と脇腹から流れ出る血で、レイチェルは気を失う寸前だった。



まいった・・・・・

この男、私との相性は最悪だ。

物理攻撃が効かないんじゃ、私にできる事は限られる。

更に蟲による数の攻撃、これも単体で潰していくしかない。

これ程戦い難い相手だとは思わなかった。



レイチェルは左手に持つガラスのナイフを、逆手に持ち替えた。

上半身を背中が見える程、大きく左に回す。



「お?・・・女、テメェまさか・・・その状態で真空波を撃つ気か?」


レイチェルの構えを見て、カシレロは意外そうに目を開いた。

体にかかる負担を考えれば、今の状態で真空波を撃つ事は自滅しかねない。


カシレロの問いかけに、レイチェルは答えなかった。

いや、正確には口を開くだけでも消耗が大きく、答える事ができなかった。



残りの全ての力をこの一撃にかける。


自分に背中を向けて力を溜める赤い髪の女の覚悟を感じ取り、カシレロの表情から笑いが消えた。



「・・・赤毛ぇ、どうやら本気マジみてぇだな。その状態でどれだけの破壊力が出せるか知らねぇが・・・俺は油断しねぇぞ」


カシレロは両手を伸ばすと、これまでよりも深い輝きを放つ青い結界を、己の前に張り巡らせた。



「言っておくが、さっきテメェの真空波が破ったのは、ただ魔力で作っただけの結界だ。そしてこれは天衣結界だ。さぁ撃ってこい!俺の天衣結界は真空波でも破れねぇぞ!それを凌げば今度こそテメェは終わりだ!」



カシレロの体から発する魔力が強さを増し、それに伴い結界はより強く、堅固けんごに成っていく。



言われなくても分かってるさ。これが私の最後の攻撃だ。

最初の真空波で、天衣結界なら防ぎきれると判断したか?


カシレロ・・・・・見せてやるよ、全身全霊ってヤツを!



レイチェルの体から発する気は、燃え尽きる前の最後の輝きを放つかのようだった。


一気に膨れ上がり・・・・・そして爆発した!




真空波 対 天衣結界



レイチェルとカシレロの戦いに、決着の時が来た



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