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786 体力と気力と意地

「・・・・・硬いな」


蹴りつけた右足が感じた感触に、レイチェルは眉根を寄せた。

まるで肉厚の鉄でも蹴ったかのような、強い衝撃が足に撥ね返り、バランスを崩して転びそうになる。


「なんだぁ?威勢よくかかってきた割に、そんなもんかよ?」


その男の青く輝く結界は、自分の顔を目掛けて繰り出されたレイチェルの蹴りを、難なく防いでいた。

仕切り直すようにして、レイチェルは後ろに飛び下がる。

感覚を確かめるように、履いているブーツの爪先を、二度三度地面に打ち付ける。



「・・・お前、その深紅のローブは帝国軍の幹部だよな?青魔法兵団か?」


右手で左手の、オープンフィンガーの革のグローブを引いてはめ直すと、今度は逆の手のグローブをはめ直す。拳を何度か握っては開き、感触を確かめる。


「その通りだ。俺は帝国軍第六師団長にして、青魔法兵団団長のジェリメール・カシレロ。こいつらを操って暴れさせたのは俺だ!可哀そうになぁ!俺に操られているだけの何の罪もない人間を、てめぇは容赦なく叩き伏せたんだ。心が痛まないのかよ?」


言葉とは裏腹に、ヘラヘラと軽薄な笑み作って語る仕草は、レイチェルの神経を逆なでした。

睨み合う二人の周囲には、先ほどレイチェルが無力化させた暴徒達が倒れている。

できるだけ傷つけないように、注意して意識だけを飛ばしたつもりだが、罪のない町人に手を出さざるを得なかった事は、後味の悪いものだった。



「心だと・・・?どの口がそんな事を言う?元凶はお前だろう?」


視線に込めた鋭くも強い殺気は、カシレロに強烈なプレッシャーを与えた。

並みの人間ならばこれで戦意を失ってしまうだろう。だが、カシレロは不敵に笑って見せた。


「へぇ、すげぇ圧力だ。ここまでのはデービスさん以外じゃ初めてだな。けどよぉ、俺の結界はお前じゃ突破できねぇえぜ?どうするよ?」


短い金色の髪を後ろに撫で、カシレロは挑発するように舌を出した。

レイチェルの一蹴りを防いだように、カシレロは自分の魔力に対して絶対の自信を持っていた。

余裕さえ見える態度は、確たる裏付けがあってこそである。


「どうするだと?・・・決まっている」


トン・・・トン・・・トン・・・と一定のリズムを刻んで、爪先で地面を打っていた音が、突然消えた。



「なっ!?」


目の前で挑発していた赤い髪の女が、煙のように一瞬で消え去った。

意表を突かれカシレロが固まった直後、まるで鉄板をハンマーで打ち付けたかのような、鈍く重い音と共に、カシレロの結界が激しく揺さぶられた!


「ふぅん、これでも壊れないか。本当に頑丈な結界だな」


頭上から聞こえる声に顔を上げると、赤い髪の女が結界の上に立ち、踏みつけるように右膝に手を乗せて体重を預けていた。


「すばしこいじゃねぇか?だがな、そんな蹴りじゃ俺の結界は絶対にやぶれねぇよ」


魔法使いのカシレロの目では、レイチェルの動きはまるで捉える事はできない。

だが己の魔力、結界に対する絶対の自信ゆえに、カシレロには焦りは微塵も見えなかった。


「いくらでも撃ち込んでこい!てめぇがヘバったら、その可愛い顔をぐちゃぐちゃに潰してやるよ」


舌を出して嘲笑うカシレロに、レイチェルは冷たく目を細めた。


「ずいぶんな自信じゃないか。ところで知ってるか?ニホンという国には、泣かぬなら泣かせて見せようクソ野郎、という言葉があるそうだ。この結界が破れた時、お前が泣き叫んで命乞いをする姿が今から楽しみだよ」


「わけのわからねぇ事言いやがって、やれるもんならやってみやがれ!」


「ではお言葉に甘えて」


レイチェルの言葉に顔を険しくしてカシレロが怒声を上げると、レイチェルは小さく笑い、そして再びカシレロの前から姿を消した。



「おッ!?」


レイチェルが姿を消した直後、カシレロの背後からけたたましい音が鳴り響き、青く輝く結界が揺さぶられる。


「ハッ!一瞬で後ろをとるか!流石に早ぇじゃねぇか!けどなぁ・・・!」


カシレロが振り返った時には、すでにレイチェルの姿は見えない。

代わりに音と衝撃だけを残して、レイチェルは前に後ろに、あらゆるところから打撃を撃ち出し、カシレロの結界を激しく揺さぶった!



「俺の結界は絶対にやぶれねぇんだよォォォォォーーーーーッツ!」



カシレロの体から魔力が放出され、青く輝く結界をより強固に堅牢に仕立て上げる!



赤毛のクソ女!

俺が今のこの地位に就くために、どれほど血の滲む努力をしたと思ってる!?


青魔法使いは護りの要だ。結界こそが術者の真価を問われる。

だからこそ俺は誰よりも硬く、誰よりも長い時間張れるように力を付けたんだ!


俺の結界は最高にして最強!てめぇの蹴りは強ぇ、それは認めてやらぁ。

だがな、根競べで俺に勝てると思うなよ!


てめぇの攻撃が全て無駄だったと思い知らせてやる!




「ハァーーーッツ!」


全力で結界を蹴り付ける!

足に伝わってくる重く撥ね返されそうな衝撃に、この結界がどれほどの強度なのかを感じる。


大したものだ。

これほどの結界は初めて見る。

うちのジーンやケイトでも、ここまでの結界は張れないだろう。


だが結界ってのは、張ってるだけで魔力を消耗するんだろ?

そして物理攻撃でも破壊可能なんだ。


いつまでも凌げると思うなよ?

貴様の気力を削ぎ落して、その顔面に一発食らわせてやるよ!



赤い髪の残像だけを残し、絶え間ない連打を繰り出すレイチェル。


青く輝く結界を維持し、止まない打撃を防ぎ続けるカシレロ。



体力と気力、意地と意地、二人の戦いは激しさを増していった。


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