表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
774/1564

774 お揃い

「アゲハさん、だいぶ慣れてきたみたいだね」


カゴに入れた小瓶を棚に並べながら、カチュアがアラタに話しかける。


「うん、たった一週間ですっかり馴染んじゃったよね」


アラタも隣で品出しを手伝いながら、メインレジに立つ黒髪の女性を見つめる。


慣れた手つきでレジを打ち、客と談笑しながら買い取りを行う。

加えて元々持っていた知識が生かされ、武器と防具に関しての質問には完璧だった。


あの日、アゲハが俺達に一緒に帝国と戦おうと言ってくれて、レイチェルはアゲハを店に置くことに決めた。

アゲハを信じる理由は風の精霊、そしてこれまでの話しに、疑うべきところが無いと判断したからだった。それでも元帝国軍の幹部だったアゲハを、店に入れる事はリスクが大きいという話しもでたが、最終的には店長判断で決まった。


アゲハと出会った翌日、店に来た店長はアゲハを見て、しばらくの間言葉を失ったように立ちすくんでいた。


無理もない。

以前俺は店長に、弥生さんを知っているかと聞いた事があるが、その答えは、知っている、だった。

目の前に弥生さんそっくりの人が現れたのだから、その衝撃はすさまじかっただろう。


店長はレイチェルから経緯を聞くと、そうだったのか、と頷いてアゲハに顔を向け、好きなだけいていい、と優しく言葉を告げた。

懐かしさと寂しさ、そして喜びを感じる表情だった。


店長も心の整理に時間が必要だったのだろう。

アゲハを従業員として採用する事を決めると、その日はそのまま城へ戻ってしまったのだ。

めずらしく訓練が中止になり、ミゼルさんは拳を強く握りしめて喜んでいた。

ミゼルさんは能力はあるのだから、もっとやる気を出せばいいのにといつも思う。





「あの様子なら、私が抜けても大丈夫だな」


「わ、レイチェル!」


いつの間にか後ろに立っていたレイチェルが、二人の間に入る。

カチュアがややびっくりして声を出すと、レイチェルはごめんごめんと笑って謝った。


「え、レイチェル、今抜けるとか言わなかった?どういう意味?」

「え!?レイチェル辞めちゃうの!?」


アラタが焦った声を出してレイチェルに詰め寄ると、カチュアも慌ててレイチェルの手を掴む。


「・・・ぷっ、あはははは!おいおい、そんなわけないだろ?いや、私の言い方が悪かったな。抜けると言っても店を辞めるのではない。今回の一件で、また城も慌ただしくなってきたし、アラルコン商会との連携もあるだろ?あまりレイジェスにいられなくなってきたから、どうしようか考えていたんだ」


笑いながら否定するレイチェルの言葉を聞いて、アラタとカチュアもホッと息を着いて、顔を見合わせた。


「じゃあ、落ち着くまで武器担当を、アゲハとリカルドに任せるって事か?」


「そういう事だ。アゲハも弓は専門外らしいが、そっちはリカルドがいるしな。苦手なところは二人で補っていけるだろう」


「そう言えば、店長も訓練に来る以外は、ずっとお城にいるもんね。レイチェルもいなくなったら寂しくなるな・・・」


下を向いて呟くカチュアの肩に、レイチェルが優しく手を乗せる。


「おいおい、そう俯かないでくれ。辞めるとは言ってないじゃないか。なるべく顔も出すさ。私がいない時は店を頼むぞ」


「・・・うん、レイチェルもあんまり無理しないでね」


分かってる、そう言ってレイチェルは優しく微笑んだ。






メインレジ交代の時間になり、俺が引き継いで入ると、アゲハは買い取った武器類をまとめていた。


「アゲハ、交代の時間だよ」


その背中に声をかけると、はいはーい、と軽い調子で返事をしながらアゲハが振り返る。

腰まである黒く長い髪は、普段はそのまま下ろしているのだが、仕事中はポーニテールにしている。


黒のタンクトップにデニムのホットパンツなんて穿いているから、露出の多さに目のやり場に困る。

本人は暑いからという単純な理由らしいが、店に来る男性客の何割かは、すでにアゲハを見る目が怪しい。


「ん、どうしたのさ?・・・あ~、なんだアラタ、お前もか?まったくこの店の男連中は、免疫が無さすぎるんじゃないのか?ミゼルもリカルドもジーンも、みんなお前と同じ反応だったぞ」


あまり見ないように、足元に目を落とすと、アゲハはからかい半分、呆れ半分というような声で話し出した。


「い、いや、けどさ、やっぱり仕事中はそういう恰好はやめたらどうだ?男の客もじろじろ見る人いたでしょ?トラブルになったら面倒だろ?」


「そんな客は相手にしないさ。ジャレットは堂々としていたぞ。むしろ似合っていると褒めてくれたしな。そう言えばあいつ、やたらと私にタンクトップを押してたな。古着のタンクトップも色々見せてきたし・・・・・あいつタンクトップ好きなのか?」


「・・・ジャレットさん、もうアゲハにタンクトップ勧めてたんだ?」


夏になり、ジャレットさんは年中タンクトップになった。

黒、白、ヒョウ柄に、スカルの毒々しい感じのイラストが入った物など、毎日毎日違うタンクトップだ。


その熱量は、恋人のシルヴィアさんでさえ、ジャレットさんがタンクトップを着すぎるから、自分は着れなくなったと言う程だ。


俺にも相変わらずそろそろタンクトップをと言ってくるが、その都度なにかしら理由をつけて躱しているが、だんだん言い訳が厳しくなってきたところだった。


「私にも?なんだあいつ、もしかして手当たり次第にタンクトップを勧めてるのか?馬鹿なのか?」


「え!?いやいや、ジャレットさんは馬鹿なんかじゃないよ、ただタンクトップ愛が強いだけで」


「じゃあ、マニアってやつか?そう言えば私が雇ってもらって一週間だが、あいつはいつ見てもタンクトップだったな・・・そうなると私はあいつとお揃いなわけだ・・・・・ペアルック?」


アゲハは急に真顔になると、何かを考えるように少し黙り込む。


「・・・アゲハ?」


呼びかけても何も答えず、やがて黙ったままメインレジを出て行くアゲハを、俺は首を傾げながら見送った。




「なぁアラヤン、アゲハのヤツ、急に上にシャツ着てんだけどよ、もったいなくね?あんなにタンクトップ似合ってたのによ?風邪でも引いたのか?」


アゲハがメインレジを出て10分程経った頃、ジャレットさんが後ろでに頭を掻いて、不思議そうに口を曲げながら話しかけてきた時には、どう答えていいか分からなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ