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773 導かれた理由

「・・・精霊の導きだと?」


そう聞き返すレイチェルに、アゲハは一度頷くと話しを続けた。


「・・・本当に不思議な経験だった。あの日の夜、突然頭の中に声が聞こえたんだ。いや、正確にはあれは声ではなかったのかもしれない。頭の中に精霊の意思や感情が流れ込んでくるんだ。突然の事に混乱したけど、不思議と冷静に受け止める自分もいたんだ。そして私はその声に導かれるまま帝国を出て、カエストゥスに行ったというわけだ」


アゲハの説明に、誰もが驚かされた。

軽い調子で話しているが、精霊の声はそう簡単に聞けるものではない。

ここにいる全員、誰一人として精霊と心を通わせている者がいないのだ。


ケイトは風の精霊に加護を受けているが、それもバリオスが間に入ったからであり、またあくまで加護を受けたというだけで、その力を自在に使えるわけではないのだ。




「・・・ふむ、興味深い話しだな。このクインズベリー国でも、土の精霊と心を通わせ、その力を自在に使う事をできるのは、ゴールド騎士のフェリックス・ダラキアンだけだ。しかし、フェリックスはここクインズベリー国の人間だ。お前は帝国で生まれたのだろう?それがある日突然風の精霊の声を聞いて、カエストゥスに行ったとは・・・にわかには信じられん話しだ」


信じられないと口にしているが、バルデスもアゲハの出した風は見ており、疑っているわけではなかった。だが常識で考えた場合、まず誰も信用しないだろう。その意味で出した言葉だった。


どう答えてくるかと返事を待つように、バルデスが青い瞳でじっとアゲハを見つめると、アゲハも真っすぐ言葉を返した。


「言ってる事は分かる。私も最初は不思議でしかたなかったよ。けどそれも一応私なりに説明はついた。さっきも言ったけど、私の祖先にはカエストゥスの人間がいたんだ。ずいぶん薄くなったと思うけど、それが理由なんじゃない?・・・そしてその人間は、風の精霊にとても気に入られていた」


アゲハの言葉には確信があった。アゲハは自分の祖先を調べたと言っていた。

そして200年前にカエストゥスにいた人物にたどり着いた時、アゲハは自分のルーツを知ったのだ。



「・・・その、200年前にカエストゥスにいた人って・・・・・・名前は?」



ここまで話しを聞いて、アラタはほぼ確信を得た。

そしてそれを確かめるための質問に、喉を鳴らして唾を飲んだ。



おそらくこのアゲハという女性は・・・・・



話しの途中で口を挟んできたアラタに、アゲハは顔を向けた。

ここでなぜ名前を気にするのか、それが気になり観察するように目を細める。



「名前か・・・なんでそんなの気にするの?」


「それは・・・・・あなたが俺の知ってる人に、とてもよく似ているから・・・」


初対面の人間に、自分と新庄弥生との関係を説明しても、理解してもらえるとは思えない。

だからこそ、アラタはどう話せばいいのか迷った。


そして選んだのは正直に話す事だった。



「俺の、恩人の弥生さんに・・・そっくりだから」



その名前を口にした時、アゲハの黒い瞳が大きく開かれた。



「・・・その名前、なんで・・・あんたもカエストゥスの歴史を調べたの?恩人?」


「やっぱり知ってるんだな?じゃあ、あなたの祖先って言うのは・・・」


アラタがそこまで口にすると、アゲハもアラタの様子から何かを感じとったのか、正面から向き会って言葉を発した。


「あんたがさっき言った人、ヤヨイ・シンジョウは私の祖先だ」





予想した通りだった。

弥生さんにとてもよく似たこの女性は、弥生さんの子孫だった。

この感じ・・・なんて言えばいいんだろう。


200年前に戦死したと聞いた弥生さんが、実は生きていた。

そんな事もあるんじゃないって、心のどこかで期待もしていたけど、それは違っていた。


やっぱり弥生さんと再会はできなかった。

けれど、弥生さんの血を引いた人と会う事はできた。



「・・・あんた、何ぼけっとしてんの?ヤヨイの事を知ってるみたいだけど、恩人ってどういう事?200年も前に死んでる人だよ?それに私だって精霊の声を頼りに小さな手がかりを見つけて、やっと探し当てた名前だったのにさ。あんたアラタって言ってたよね?何か知ってるの?」


新庄弥生の名を口にした目の前の黒髪の男が、どういう人間かを見極めるように、アゲハはテーブルに肘を突き、口元に拳を当てて視線鋭くアラタを見据えた。



「・・・言った通りだ。俺は弥生さんを知っている。弥生さんは俺の恩人だ・・・俺達はこことは違う世界から来たんだ」


「違う世界・・・どういう事?」


眉根を寄せるアゲハに、アラタは自分達に何が起きたのかを話して聞かせた。

多少の時間はかかったが、アラタの話しに合わせて周りの人間も口添えをして、どれも適合が取れた説明だったため、最初こそ懐疑的に聞いていたアゲハも、最後には黙って耳を傾けるようになった。



「・・・なるほど、ふ~ん・・・」


アゲハはそう一言呟くと、目を閉じて何かを思案するように腕を組む。


「アゲハさん、アラタ君の言った事は本当なんです。信じてください」


黙り込んだアゲハに、カチュアも強く言葉をかける。



「・・・ああ、いや、ちょっと驚いたけど、うん、そうだな・・・なんだか色々納得できたよ。そういう事なら理解できる部分もあったからな。なるほどねぇ・・・私のご先祖様は、ニホンてとこから来たわけか・・・・・ねぇ、あんた、アラタって言ったね?私ってそんなに似てるの?ヤヨイに」


そう言葉を向けられて、俺はアゲハと目を合わせる。

自分とそう変わらない背丈、長く艶やかな黒髪、気の強そうな切れ長の目。


「・・・背格好までそっくりだよ。よく見れば弥生さんじゃない事は分かるけど、双子って言って通じるくらい似ている」


「ふ~ん・・・そっか、なんか不思議だね。ヤヨイ本人は200年も昔に転移したのに、あんたはこの時代でしょ?それで、どういうわけかヤヨイの血を引く私が、この時代であんたと出会うなんてね」


どこか嬉しそうに口元を緩ませるアゲハに、俺も自然と心の内がこぼれた。


「・・・うん、そうだね。俺、こっちの世界で弥生さんが亡くなってるって聞いた時には、すごいショックだった。けどこうして弥生さんの子孫であるキミに会えて、嬉しく思ってるよ」


自然と手を伸ばしていた。


「・・・うん、あんた、あ~、アラタって呼ばせてもらうよ?」


「もちろん。俺もアゲハって呼ばせてもらう」


アゲハは俺の手を握ると、ニコリと笑って見せた。

そして、お前達には名乗っても良いだろう、と一言前置きをして口を開いた。



「あらためて名乗ろう。私の名はアゲハ・シンジョウだ。なぜ風の精霊が私をここに導いたのか今分かった。共に帝国と戦おう」



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