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75 青魔法使いの帰還

私はバリオス店長から、この店を任されている。

レイチェルなら大丈夫と言ってたけど、私はちゃんとできているだろうか・・・


店長は、いつも街の平和を考えていた。


家族連れには特に優しく、なぜか子供を見るといつも寂しそうにしていた。


私は13歳の時、店長と出会い、この店で働く事になった。



店長は不思議な人だった。

信じられない事に、黒魔法、白魔法、青魔法、三系統全ての魔法を使う事ができる。


おそらく、いや間違いなく人類でただ一人だ。


当然私は聞いた。なぜ三系統全ての魔法が使えるのか?


店長は、言えない、と答えた。

言いにくい事があった時、店長はごまかしたり、はぐらかす事はしない。


ただ、この事は秘密にしてほしい、信用できる人にしか話さない、と言われたので私は秘密にすると約束した。


あの時の表情は一生忘れないだろう。


とても・・・とても悲しい目をしていた・・・


昔の事は分からない。

だけど、店長の抱えているものは、想像を絶する程重いのだという事は察する事ができた。



私は店長にナイフ術を習った。

なぜ魔法使いの店長が、こんなナイフの使い方を知っているのかと聞いた。

店長はどういう訳か、魔法使いには必要ないであろう、剣や槍、ナイフ術にも精通していた。



【皆を護るためだよ・・・レイチェル、戦わなくてすむ世界が一番だけど、どうしても戦わなくてはならない時がある。だから、優しい心を持った人に、護るための力を教えたくて学んだんだ。レイチェル、キミなら大丈夫】



連双斬を店長は実践できなかった。


だけど、技のタイミング、力の入れかたなどの説明はとても分かりやすく、私は習得する事ができた。

私のナイフ術は、全て店長から学んだ。


店長がどうやって、これほどの技術を学んだのか・・・

とても人の一生では吸収しきれない程の知識と経験を持っている・・・



私も、誰も店長の名前を知らない。



バリオスという姓しか教えてくれなかった。

訳有りなのは分かるけど、姓しか名乗らないのは返って不自然なので、偽名でもなんでも付ければいいのに、と思う事もあった。


私はそれとなく店長に聞いてみた。



【偽名でも名乗りたくないんだ・・・妻が俺の名前を好きだと言ってくれたから】



そう遠くを見ながら答えた店長は、消えてしまいそうなくらい儚く見えた



【今でもハッキリ耳が覚えているんだ・・・俺の名前を口にする妻の声・・・】



私は奥さんはどんな人なのか聞いてみた



美しい金色の髪で、透き通るような碧い瞳をした女性・・・

そして、ちょっと嫉妬深かったな、と笑って答えた・・・



過去形で答えている・・・多分、奥さんはもう・・・



これ以上は聞いてはいけない。私は言葉を呑み込んだ。





店長がもう一人の補助魔法担当、ケイト・サランディと長期の出張に出て、もうずいぶん経つ・・・


壁掛けの時計に目を向けると、8時40分だった。

そろそろ、他のみんなも来る時間だ。


朝の仕事前にこうしてテーブルで静かにコーヒーを飲む時間が私は好きだ。

アラタとカチュアもリラックスしている。


「店長、まだかな・・・」

つい、口をついて出た言葉に、カチュアが反応した。


「うん。もう4~5ヶ月は立つよね?店長が一緒だから、何も心配ないと思うけど、私もケイトさんに会いたいな」


「そう言えば、俺まだ店長と、そのもう一人の補助魔法担当に会ってないんだよな。どんな人なの?」


カチュアはマグカップを置くと、考えるように顎に指を当てながら少し顔を上げた。


「う~ん、青魔法使いでケイトさんって言うんだけど一言で言うと、ジーンの事を大好きな人かな」


「へぇ、女の人なんだ。ジーンが好きなの?」


「うん。ケイトさんはジーンが大好きなの」


「・・・うん」


「・・・・・」


「え?終わり?」


説明がそれだけ?性格とか、好きな食べ物とか、趣味とか、なんかもっと色々あるでしょ?

そう言いかけると、向かいに座るレイチェルが口を押えて笑いをこらえているのが目に入った。


「あはははは!カ、カチュア、さすがに端折り過ぎだって!そりゃそうだけど、アラタが訳わからんって顔してるから!」


こらえきれずレイチェルは手を叩いて大笑いする。


「う~、そんなに笑わなくても・・・」


カチュアが拗ねるようにレイチェルを睨むと、レイチェルは軽く手を前に出し言葉を止めた。


「ごめんごめん。でも、一言でまとめ過ぎだって。アラタ、名前はケイト・サランディ。20歳で背は170cmくらいあるかな?うちの女性陣では、一番背が高いよ。

髪の色は明るいベージュで、ボーイッシュな服が多いかな。男より女にモテる感じ。そんで、ジーンが好きなの。これは自分でハッキリ言ってる。普通に毎日言うから、あんまり重みを感じないんだけど、ケイトの気持ちは本気だし、ジーンの事でなにかあると私が怒るより怖いから気を付けてね」


「そ、そうなんだ?なんかすごそうな人だね?」


「そうだね。ジーンの事になるとすごいね。まぁ、それ以外は明るくておもしろいよ」


一体どんな人なんだ?丁度コーヒーを飲み終えたので、席を立ちシンクに持って行くと、ドアが開いた。


「おはウィ~ッス!」

「あ、ジャレットさん、おはようございます」


「よう、アラタ。体は大丈夫か?」

「ミゼルさん。おはようございます。もう大丈夫ですよ」


ジャレットさんと、ミゼルさんの二人が一緒に出勤してきた。

以前、仕事上がりは真っすぐ帰らず、よく飲みに行くと話していた事を思い出した。


昨日は、仕事上がりに二人でクリスさんの宿屋に飲みに行って、そのまま泊まってきたんだろう。



「あ~眠い、はよ~っス!」

「おはよリカルド。目開けてるか?」


「おはよう。今日も涼しいわね」

「シルヴィアさん。おはようございます」


「おはよう」

「あれ?ユーリ早くね?まだ9時前だぞ」


ジャレットさんと、ミゼルさんが事務所に入ると、すぐにリカルドとシルヴィアさん、ユーリも出勤してきた。

ユーリは俺がつっこむと脛を蹴って返してきた。こういうところは相変わらずだ。


「今日はエルが来る日だから」

ユーリはそれだけ言うと、マグカップに砂糖たっぷりのコーヒーを入れ、カチュアの隣に座った。


「おはようユーリ。エルちゃん、今日来るんだ?」

「うん・・・昨日そう言ってた。邪魔になってない?」

「そんな事ないよ。私もエルちゃん好きだし、良い子だよね」

「それなら良かった」


エルとは、以前ディーロ兄弟が襲撃して来た時に、ユーリが助けた女の子だ。

その時からユーリを慕い、よく店に遊びに来るようになったらしい。


エルは7歳で白魔法を使える。ユーリが言うには年齢の割には高い魔力を持っているそうだ。


普通は店員以外、事務所やカウンターには入れないのだが、レイチェルは副店長の権限で許可を出した。エルが手伝いをするからという事らしい。


最初はユーリの仕事を興味津々と見ているだけだったが、最近はユーリが魔道具を作っていると、次に使う物を用意したり、手が離せない時に買い取りに呼ばれたりすると、代わりに行って、少し待っててと言伝もしてくれるそうだ。


ミゼルさんは、店員でもない小さな子が、無償で手伝っている状況はまずいと思ったようで、レイチェルと話し合いをしたようだ。

エルの事は基本的にはお客さん扱いだし、だいたい2~3時間で帰るので、賃金の代わりに食事の提供という事で、折り合いが付いたそうだ。



エルのご両親とはユーリが話したようだ。

仕事の邪魔になっていないか?面倒をかける上に食事まで、と恐縮していたそうだが、ユーリが、エルは気が利く事。来てくれると自分達も嬉しい。そういう気持ちを伝え、エルが来れる日に来る事になったらしい。

あの無口なユーリが説得するとは、と思ったが、それだけエルを気に入っているという事だろう。


レイチェルも、10歳になったら正式に雇ってもいいと言っている。

そのうち白魔法コーナーは女子三人になるかもしれない。



「おはよう」

「お、ジーン。おはよう。これで全員揃ったな」


「おっはよー!」



ジーンが事務所に入り、全員揃ったなと思ったら、更にその後に元気の良い挨拶が続いた。事務所に入って来たのは、初めてみる女性だった。


髪は明るめのベージュ色で、肩の下くらいまであり無造作に下ろしている。背は170cmくらいはあるだろうか、女性では長身の方だろう。

やや切れ長の目が、気の強さを表しているようにも見える。


カーキ色のマウンテンパーカーに、白のクルーネックのTシャツ、黒のチノパンツと、どこかボーイッシュな服装だ。

首から下げているシルバーネックレスのトップには、小さな青い石が付いていた。



「あれ?新顔じゃん?あー、分かった!あんたがサカキアラタ!」



ケイト・サランディは、やや目深にかぶっていた黒の鍔付きのキャップを少し持ち上げ、歯を見せて笑った。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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