表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
738/1565

【738 時の牢獄 ③】

自分の人生を振り返ってみると、俺が人生の岐路に立った時は、俺を支えてくれる存在があった。



メアリーとティナを失い、自暴自棄になっていた俺を救ってくれたのはレイラだった。


最後の瞬間までレイラは俺を想ってくれた。

レイラの温かさが、俺に人の心を取り戻させてくれた。


レイラと出会えていなければ、俺は闇に呑まれていただろう。

人の嫌な面も沢山見てきたが、それでも人間に絶望していないのは、レイラの温もりがあったからだ。




そしてスージーは、俺に生きるという事を教えてくれた。

俺はあの日から戦う事だけを考えて生きてきた。自分にはそれしか残されていないと思っていた。


そんな俺とは違い、スージーの生き方は輝いていた。

幼い身で故郷を失い、沢山の傷を心に負っただろう。


けれど希望を失わず強く生きた。


教会を建て、故郷のみんなの冥福を祈り続けた。

新しい命を育み、立派に育てた。


スージーは誰からも慕われるおばあちゃんになった。

スージーは自分の生きた足跡で、俺に道を示してくれた。


スージーに再会できた事は、俺の人生の大きな分岐点になった。





スージーと再会した日の夜、俺とスージーは長い、とても長い話しをした。


最初に俺は、スージーの疑問に答えなければならなかった。


まず、なぜ俺が生きているかだ。


スージーは90歳だ。

108歳の俺が生きているはずがないとまでは言えないが、年齢と見た目があまりにも釣り合っていなかった。


ある理由で俺は歳をとらなくなったのだが、これは口外してはならない。

口外すれば止まっている俺の時が動き出してしまうからだ。


それでは俺の目的を遂げる事ができない。

黒渦を消し去り、王子の魂を開放するには、どれだけの時がかかるか分からない。

目的を達するまではこのままでいるしかないんだ。



代償として俺は自分という存在を差し出した。

存在とは、俺がウィッカー・バリオスであるという事を告げてはならない。


ウィッカー・バリオスとしての人生を捨て、ただ一人、時の牢獄に囚われた男として生きる。


ウィッカー・バリオスとして掴めた未来を諦め、ただ一人、目的のために無限の時を歩く。


それが俺の差し出した代償だった。




ただこれは、偶然から知りえた事だが、いくつか抜け道があった。


まず、相手から俺の正体に気付いた場合。


これはレイラが最後の瞬間に、俺をウィッカーと呼んだ事で分かった。

俺はレイラに、バリオスとしか告げていなかった。

一緒に生活をする中で、俺がウィッカーであると気づいたのだろう。

だが俺が自分から話さないので、何か理由があると察し、気づかないふりをしていてくれたのだと思う。


そしてレイラにウィッカーと呼ばれても、時が動き出さなかった。


だがこれは、レイラが息を引き取る瞬間だった事が理由なのかもしれない。

特殊な状況下だった事が、俺の時を動かすに至らなかった可能性を無視はできない。

だから核心を持つには少し足りない。



もう一つは、すでに俺を知っている人だ。


あの日より以前から俺を知っている人とは、変わりない会話をしても問題がなかった。

だからスージーとは、何も隠す事なく話しをする事ができた。


正直、これではかなり制約が緩いと、最初は思った。


だが結局は時間の問題なのだ。


俺の時間が動かないうえに、俺が正体を明かせないのであれば、いずれ俺を知る人間はいなくなる。

永遠の時の中では、数十年程度はほんの一瞬に過ぎないのだ。


相手から俺を知るという事も、それは同じ時代を生きたからこそ知りえる事だ。

80年も経って、俺がウィッカーだと察する事ができる人間などいるわけがない。

そもそも生きていると思え無いほど時間も経っている。


スージーが俺に気付き、その孫に俺を紹介できたのは、奇跡と言っていいくらいの話しなのだ。



そう、そして俺を知るスージーから、俺を紹介されたスージーの孫のミーナとも、秘密を無くして話す事ができた。


これには驚いたが、この抜け道のおかげで、俺は200年の時が経っても、ごく限られた人間とだけだが、ウィッカーのままで繋がりを持ち続ける事ができた。




そして名前だが、大陸一の黒魔法使いという称号のおかげで、ウィッカーという名前は知れ渡っていた。

だが、バリオスという姓から、ウィッカーという名前を結びつける人はほとんどいない。


だから俺は誰かに名前を名乗る時は、バリオスという姓だけを告げるようになった。



偽名を名乗った方が簡単なのは言うまでもないが、俺は偽名を使う事にすさまじい抵抗があった。


偽名を考えた事はある。

だが、いざ実行しようとすると声が出なくなるのだ。


俺の名前を呼ぶメアリーの声が思い出されて、どうしても偽名を使う事ができない。

偽名を使ってしまうと、もうメアリーの声が思い出せなくなってしまうような、そんな不安から俺はどうしても偽名を使う事はできなかった。


不便だし、不信感を持たれてしまう事も分かってはいる。

だが、そうする事しかできなかった。



スージーは俺の話しを黙って最後まで聞いてくれた。



しかし、あの戦争の最後に俺の身に起きた事・・・俺が青魔法と白魔法を使えるようになった理由を話すと、両手で顔を覆って涙を流し続けた。




「う、うぅ・・・兄さん、そんな、そんなに重い物を背負って、今まで・・・一人で・・・うぅぅ・・・ぐすっ・・・」


俺は向かいのイスに座るスージの隣に腰を下ろすと、スージーが泣き止むまでその背中を撫でた。


痩せていて小さな背中だった。

こんな小さな体で今日まで頑張ってきたんだな・・・・・


幼い頃は手がかかってしかたないと思っていた。

俺がスージーの面倒を見ていたのに、本当に・・・俺が誇りに思うくらい立派になった。


「・・・いいんだ・・・俺の事はもういい・・・俺がやるしかないんだ・・・さぁ、そろそろスージー達の話しも聞かせてくれ。俺が救えた命がどう生きたのか・・・幸せであったのなら、それが俺の支えになるから」



「・・・うん、兄さん・・・あのね・・・・・」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 時に小説とは映画や漫画などの映像作品を越える描写を感じさせるものですが、 多々ある「なろう」作品の中で、そういう小説は数えるほども無いように思います。 今後この作品に触れた「なろう」作家さ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ