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【737 時の牢獄 ②】

「まさか・・・生きてまたウィッカー兄さんに会えるなんて・・・あたしの事、覚えてる?」


スージー・・・その名前を聞いて、俺の胸がドクンと高鳴った。


スージーが俺を分かったように、俺も彼女がスージーだと分かった。

赤ん坊の時から一緒に暮らしたんだ。忘れるわけがない。


あれからもう80年は経っている。

俺が知っているのは8歳頃までのスージーだが、

人懐っこい茶色の瞳や、ふわふわとした金色の髪も、俺は知っている。


物心がついてきた頃には、よくチコリと一緒になって俺に悪戯をしてきたものだった。


これだけの時間が経っているのに、顔を見たら昨日の事のように思い出せる。



「忘れるわけ・・・ないだろ・・・スージー、生きててくれたんだな・・・良かった」


目頭が熱くなったのはいつ以来だろうか・・・・・

記憶の蓋が開き、師匠の孤児院で一緒に過ごしたあの日々が、次々と浮かんで来る。


「ウ・・・ウィッカー、兄さん・・・・・う、うぅぅ・・・あぁぁぁぁ・・・・」


「スージー・・・さっきお孫さんから色々聞いたよ。この教会はみんなのために建てたんだってね。自分だって大変だったろうに・・・立派だよスージー、頑張ったね」


俺はスージーも頭を抱きしめると、泣き止むまで頭を撫でた。


あんなに小さかったのに・・・・・こんなに立派な大人になってたんだな。


赤ん坊だったスージーにミルクをあげた事。

泣き止まないスージーを抱っこしてあやした事。

初めて立った時、孤児院のみんなで大騒ぎした事。


その全てが懐かしい・・・・・



「兄さん・・・話したい事が、沢山あるんだ・・・今日は泊まっていけるだろ?」


「・・・いいのか?」


俺は少し離れて立つ、スージーの孫に目を向けた。

まだ二十歳くらいだろう。紺色の修道服を着ている。

ベールをから出ている前髪はふわりとした印象で、茶色の瞳もスージーによく似ている。


スージーにとって俺は兄でも、この小さな村で、俺のような突然来た得体の知れない男を、年頃の娘のいる家に泊めるのは印象がよくないだろう。


「あ、あの、私なら大丈夫ですよ。その、まだこの状況が理解できませんが・・・おばあちゃんのお兄さんなんですか?」


「・・・ああ、血縁関係ではないが、俺はスージーの兄で間違いない」


「そうなんですね・・・さっきおばあちゃんが呼んでましたけど、あなたがウィッカーさんだったんですね・・・おばあちゃん、昔話しをする時によくお名前を口にしてました」



「・・・そうか。スージーから聞いているのなら問題ないか」


「え?」


「いや、なんでもない。そう、俺がウィッカーだ・・・・・スージーの、孫か・・・」



時間はこんなにも流れているんだな。



スージーを見て感じたのは、確かな年齢の積み重ねだった。

俺の手を握るスージーの手は、生きてきた歳の分だけシワが刻まれている。

そしてこの手で子供を育て、教会を建て、この地で確かに生きてきたという証が感じられた。



それに対して俺はなんだ?



この老人の姿は偽りだ。

俺の本当の姿は26歳の時から変わっていない。


この80年で俺は青魔法を極め、変身魔法を使えるようになった。


歳をとらずいつまでも若い姿のままだった俺は、一か所に留まる事ができなかった。

それはそうだろう。4~5年くらいならごまかせる。だが10年は無理だ。


仮面でもつけようかと考えた事もあるが、それこそ怪しいと言っているようなものだ。

顔を隠すようにフードを目深に被って行動するようにはしていたが、顔が見えないとかえって好奇心を刺激するらしい。


レイラの事があり、俺は人と極力関わらないですむようにしてきた。

住む家もできるだけ人目につかない場所を探し、ひっそりと暮らすようにしていたが、食料や衣類を買う時には、嫌でも人のいるところへ行くしかない。

そして見慣れない男が来ると、人は興味を持つのだろう。どこにでも好奇心旺盛な人間はいるものだ。

人間とは本当に面倒だと思った。なぜほうっておいてくれないのだろう。



あそこの男、なんだか変じゃないか?

いつまでも若い。

まるで老けていない。


どこに住んでも、ある程度長くなってくると、そんな噂がたって住み辛くなる。

外出の時に後を付けられたり、俺が若返りの薬を持っていると思い込んだ、チンピラ連中に絡まれた事もあった。


できるだけ人と関わりたくなかった俺は、その度にその土地を離れ、各地を転々とした。

そして一か所に留まるのは2~3年、長くても5年と決めた。


割り切ると気が楽になった。

どうせ出て行くと決めているのだから、周りになんと思われようと気にならなくなり、俺は人付き合いは一切せずに魔法の研究に明け暮れた。


そして60歳を過ぎた頃、俺は変身魔法を習得した。

黒魔法使いの俺が本来使えるはずはない青魔法だ。

だが俺が一人で戦い続けるためには、青も白も、そして体術も限界まで、いや限界を超えて鍛える必要がある。


変身魔法を覚えた俺は、ずっと考えていたある一つの事を実行した。


それは、もし俺が普通に歳をとっていたらどうなっていたかだ。

俺は変身魔法で、自分の歳相応の姿をイメージして変身した。


これはかなり苦労した。

本来変身魔法とは、目に見える存在に変身するものだからだ。

目に見えないものに想像で変身するのは非常に難しかった。


だが自分の顔を鏡で見ながら、少しづつシワを増やして段階的に変身を重ねていくと、時間はかかったが思いの他うまくできた。



若い姿と違って、老人だと俺に関心を持つ人は驚く程少なくなった。

容姿の変化が分かりやすい青年期と違い、高齢になれば5年10年ではそう変わらないという事なのだろう。

歩き方や話し方も変えようと思えば変えれなくはなかったが、わざわざ腰を曲げて歩くのはそれはそれで面倒だし、必要が無ければ誰とも会話をする気がなかったので、そこは素のままでいる事にした。


そして俺は実年齢が80歳を過ぎたあたりで、一番面倒にならなかったこの姿のまま、生きていく事を決めた。




「兄さん、そんな顔してどうしたんだい?」


「いや・・・スージーの頑張りに比べて、俺は何をしてるんだろうなと思ってね・・・俺は何もできなかった・・・」



俺は逃げて来ただけだ・・・・・

魔法を研究し、体を鍛え続けてきた。

けれど変身魔法を覚えたのは、煩わしさから逃げるためだった。


スージーのように、仲間を、家族を考えて何かをしただろうか?

80年という時間でスージーは教会を建て、後を継ぐ子孫を育て、自分が生きた証を残した。


だが俺には何がある?


何もかも諦めたように話す俺を見て、スージは立ち上がり俺の肩を強く掴んだ。



「・・・なに言ってんのさ?兄さんが・・・兄さん達があの時命懸けで戦ったから、あたしもチコリも生きてここに来る事ができたんだよ!キャロル姉ちゃんも、トロワ兄ちゃんもずっと感謝してた!みんなの事を考えなかった日は一日だってなかったよ!だからそんな事言わないでよ!」



「スージー・・・・・」


でも・・・でも俺は、俺がもっと強かったら・・・・・


「キャロル姉ちゃんもトロワ兄ちゃんも、20年前に亡くなった。チコリも三年前に・・・・・ブレンダンおじいちゃんの孤児院の生き残りは・・・あたしで最後だよ。今日ウィッカー兄さんに会えてよかった・・・・・ずっと、ずっと気になってたんだから・・・」


チコリ・・・キャロル・・・トロワ・・・・・


「・・・そうか、キャロル、トロワ・・・あの二人がお前達を護ったんだな・・・」


スージーは顔をしわくちゃにして涙しながら、にこりと俺に笑って見せた。



「ずっと言いたかったんだ。兄さん・・・ありがとう。兄さん達のおかげで、あたし達は今日まで生きてこれたよ・・・・・辛い事も悲しい事も沢山あったけど、あたし達は幸せな人生を送れたよ・・・・・兄さんの妹になれて・・・・・本当に幸せだったよ」



ウィッカー兄さんがくれた幸せなんだよ



「スージー・・・・・」



俺にも残せたものがあったんだな

スージー、チコリ、キャロル、トロワ・・・弟と妹達の命を救う事はできた


頬を伝う雫に胸が締め付けられる

もう涙は枯れ果てたと思っていたが、俺にもこんな感情が残っていたんだな



救えた命もあった



あの日から80年・・・俺は初めて生きて延びてよかったと思えた



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― 新着の感想 ―
[一言] 孤児院の子たちが天寿を全う出来たようで安心しました。 ウィッカーさんは、その昔、観た米国映画「ハイランダー」の悲哀を感じさせますね。
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